11 濡れちゃったじゃねーか
「拓斗、早くいれてくれ」
「ちょっと待てって」
「焦らすなよ。ここ、もうこんなに濡れてるんだぞ」
「強引にヤって大丈夫か? 壊れちまうんじゃ……」
なんでこんなに細いンだ。簡単に折れちまいそうじゃねェか。
それに、力任せにヤっても上手くいかず、中折れしてしまいそうな不安もある。
「そんなやわじゃねーよ。遠慮すんなって」
「そうは言ってもよ。くそっ、どうヤれば。こうか?」
「違う違う。そうじゃないって。お前、下手くそだなー」
「ぐっ!」
「ちょっと代われ」
「利一がシてくれンのか?」
「ほら。こんな風に、ぎゅっ、ぎゅってしてやれば」
利一がガチガチの棒を右手で包み、付着した液体を塗り込むようにして、上下にピストンさせた。外装が少しずつめくれ上がり、中身が露出していく。
「お、おぉ、このままイケそうな気が……」
「かったいなー。わっ、手に垂れてきた」
「続きは任せろ。なんとなくヤり方はわかった。ここを、こうやって、こうだな」
「いぎっ!?」
「え、大丈夫か!?」
「バカヤロ、あんま激しく動くなよな。今の、ちょっと痛かったぞ」
「もしかして、破れたか?」
「わかんない。まだ半分もいってないだろ? とにかく、最後までさしてくれ」
「すまねェ。次はそっとヤる」
「初めてなんだから、優しく扱ってくれよ」
「ああ、今度こそ」
初めてか。光栄なことだ。
それをキズモノにするってことは、相応の責任を負う覚悟がいるな。
「わかってると思うけど、中はやめろよ?」
「善処する」
「善処って、お前な……。まあいいや。さっさとやれ」
「えっと、ここで合ってるンだよな?」
「そう。そのまま奥まで、ぐっと突き出すように」
「う……。ぐっ……。ど、どうだ?」
「ん、いい感じ。なんとか、全部入ってるぞ」
「くっ、狭いな……」
「お前がでかいんだよ。大丈夫。あとはゆっくりで」
「おう。ふっ、ふっ、くっ」
「いいぞ、その調子だ。いける。いけるぞ」
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ! ふっ! ふっ!」
「いけ! いっちゃえ!」
「利一、一緒にイクぞ! すっぽ抜けないよう、お前も握ってくれ!」
「わかった! ラストスパートだ!」
「ふっ! ふっ! ふっ! ふっ! ふっ! ――うっ!!」
ドビュッ!!
「う……おぉ……おぅぅふぅ~ぃ。は~……一気に飛び出したな」
「うえぇ。おま、顔にかかったじゃないか」
「悪ィ。言われたとおり、中にだけは飛ばすまいと思って」
「ぺっ、ぺっ。口にまで入ったぞ」
「悪かったってば。ちゃんとできたんだから、許してくれ」
やり遂げた達成感を味わいつつ、俺は額に浮かんだ汗を拭った。
利一もブツクサ言いながら、頬を伝う滴を上着の襟ぐりで拭いている。
そんな俺たちの様子を眺めていたメロリナさんが、呆れたように言った。
「お前さんら、さっきからなんの話をしとりゃすか?」
「なんのって、この傘がえらい固くて開きにくかったんスよ。新品のはずなのに」
向こうの世界の傘と、なーんか仕組みが違うンだよなァ。
破れてはいねェけど、力づくで開けちまったし、どっか壊れてるかもしれない。
「メロリナさん、馬車の中に水しぶき飛ばなかったっスか?」
「たくと坊が外に出したから大丈夫じゃ。白い液体は飛んできとらん」
白い液体ってなんだ? 雨水なんだから液体は透明だろ。
「まあでも、半開きの状態で二人入るのは狭すぎたな」
「拓斗が無駄にでかいせいで、肩のとこ濡れまくったじゃねーか」
「それは仕方ありんせん。男が挿したら、女は濡れるものじゃからの」
俺たちとメロリナさんで、違う話をしているように聞こえるのは気のせいか。
雨中を徒歩で移動する予定はなかったので、傘はこれ一本しか用意していない。
雨合羽なら俺がさっきまで着てたけど、一人が傘で、一人が雨合羽を着るより、一本の傘を利一と一緒に差す方が……まあ、な? うん、エリムには内緒だ。
「ほいでは、わちきはシコシコ隊長の奢りで一杯ヤっておるとするかの。お前さんらも、用が済んだら来んさいや」
言い残し、メロリナさんが馬車奥に引っ込んでしまった。馬の先導もシコルゼにやらせるつもりらしい。
「アラガキ、くれぐれも問題は起こしてくれるなよ」
「起こさねェって。事が済んだらさっさと帰るから、心配すンな」
「それと、僕の名前はシコルゼだ!」
「俺に言うなよ」
念を押したシコルゼが渋々手綱を引き、大通りを逸れた道へ入って行った。
馬車が建物の影に消えていくのを見送り、俺たちも自分の役割を確認する。
「利一、選考用の石鹸は持ったよな?」
「おう。ちゃんとここに入ってる」
利一が、肩にかけている鞄を、バシッと叩いた。
物が物なので問題ねェと思うが、少しでも選考時の評価を良くするため、木箱に詰めて見栄えを整えたそれは、お歳暮のようにも見えるだろう。
俺が傘を持ち、大通りを右に寄って歩き出した。
「利一と二人きりになるのは久しぶりだな」
「だなー。ちょっと前まで、拓斗以外の誰かと外を歩くことなんてなかったのに。それを考えると、オレもずいぶん社交的になってきたよな」
期待していたリアクションがなかったので、「かもな」と適当に頷いた。
わざと〝二人きり〟という、男女間でしか使わないような言葉を出してみたにもかかわらず、利一は気に留めすらしていない。
逆に、口にした俺の方が、そわそわと落ち着かない気持ちになってきた。
隣を歩いているのは、見た目が変わったとはいえ、十年来の親友だ。女になってから一緒に過ごした数日なんて、男だった頃の百分の一にも満たない。
なのに、俺の記憶にある男の利一は刻々と薄れ、女の利一に上書きされていく。
転生してから今日までの密度が高すぎるせいで、利一とラーメン食ってたのが、遠い昔のことのように思えてくる。
……会話が途切れてしまった。
利一を探して王都中を駆け回っていた時に目ぼしい建物は見て覚えているので、品評会の受け付け場所も目処がついている。ここから十五分もかからない。
王都に着いてから、やや小降りになった感じもするが、傘を打つ雨音はまだまだうるさいくらいだ。おかげで、沈黙が苦ということはないけれど。
何か話したい。
それも、ただの会話じゃなく、今しかできないような。
俺の宙ぶらりんな気持ちを、しっかりと形にできるような。
「……なあ、利一」
「なんだ?」
二人きり、なんて曖昧な言葉じゃダメだ。
「これってさ、相合傘じゃん?」
「あー、まあ、そうだな」
「他人からすっと、俺たち、どんな風に見えると思う?」
兄妹? 親子? 似ても似つかない外見から、それはありえねェ。
だったら、答えは一つしかない。
「野郎二人が並んで歩いてるーって、キモがられるかもな」
こいつ……。
自分の男装が完璧だと疑いすらしていやがらねェ。
サラシで自慢の乳を潰している点を除いたら、ボーイッシュ仕立てで可愛さ増し増しだろうが。自分が可愛いってことは知っているくせに、なんでそういう発想になるンだよ。
…………。
相手が俺だから、か。
これがエリムだったら、肩が触れただけでも何かしらの反応をするだろう。
物理的にも、気持ち的にも、利一の目線は前と大きく変わっているはずなのに。
俺に対してだけ、何も変わっていない。
俺だけが、利一の中で止まったままだ。
俺といる時だけ、利一の心は男に戻る。
誰よりも気を許せる特別な存在という意味では喜ばしいことのはずなのに。
――不満。
そう感じている自分がいる。
「拓斗ってさ、前と身長そんなに変わってない?」
「ああ、ほとんど同じだな」
「だよなあ……」
「それがどうかしたか?」
「こうして並ぶと、自分が縮んだんだなって思い知らされるから」
部分的にはめちゃくちゃ膨らんだけどな。
喉まで上がっていた台詞を、俺はぎりぎりのところで飲み込んだ。
「利一は、全く面影がなくなっちまったな」
「力こぶも消えちゃったし」
そんなもん、最初からなかっただろ。
という台詞も、かろうじて我慢する。
違う。そんな話をしたいんじゃない。
もうちょっとだけ、踏み込んでも大丈夫だろうか。
「……利一」
「ん?」
「俺の好みのタイプって、覚えてるか?」
「拓斗の好み? ああ、あれか。何度も聞かされたし、そりゃ覚えてるさ」
「言ってみてくれ」
「えーと、美人系より可愛い系が好きで、天然ブロンドの巨乳がいいんだっけ?」
「金髪はともかく、巨乳は外せねェな」
「あと、ちょっとヌケた性格だと親しみやすくていいとかも言ってたよな」
「言った」
「そこ以外、オレの特徴と当てはまるな」
「ヌケた性格も、当てはまっていなくはないと思うけどな」
「まー、そういう時期もあったかもな」
いやいや。ばりばり現在進行形だっての。
「なんにせよ、利一の見た目は、俺の好みにストライクなわけだ」
少し攻めすぎている気もするが、これで利一がどういう反応を示すか。
少なからず、俺を異性として意識してしまうかもしれない。
多少警戒されるのは仕方ない。甘んじて受け入れよう。
とにもかくにも、自分は女で、俺は男だと理解してもらわないと話にならない。
だってのに、利一は、
「はは、残念だったな。中身がオレで」
俺の中で、自分がそういう対象になりうる可能性を微塵も想像していない。どれだけ自分が俺の理想に近かろうと、自分だからという時点で圏外だと思っている。
手強い――なんてもンじゃねェ。取り付く島もない。
「…………まあ、順番が違うわな」
「なんのだ?」
利一にその気が全くないのは、最初からわかりきっていたことだ。
今重要なのは、利一の意識を変えることじゃなく、俺の気持ちの置き所。
俺は利一と、改めてちゃんとした男女の友達になりたいのか。
それとも、別の関係を望むのか。
「なんでもねェよ」
「変な奴」
利一は、俺と男の友達同士のつもりでいるだろう。今後もそれを望んでいる。
でも、それはできない。
そんな歪な関係は長く続かない。
だって、俺はもう、利一を女だとしか思えないんだから。
進んでいるようで、進んでいない><
次回こそ、事件を起こします。
2巻は12月28日発売予定ということらしいです。
リーチが男たちの股間のピストルから発射される白濁液で、ぐっちょぐちょの汁まみれになる書き下ろしも入っていますので、どうぞよろしくお願いいたします!