表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
184/193

10 お前とは口きかない

~前回のあらすじ~

くぱぁ


【設定変更】

品評会受付は本日までと変わりなしですが、

品評会本番は翌週ではなく「翌日」に変更させていただきます。

 王都【ラバントレル】は、都全体をぐるりと分厚い石壁で囲っている。

【ホールライン】も似たような感じだが、規模がまったく違う。こちらの外壁は、高さが軽く三〇メートル以上あり、しかも、若干ネズミ返しのような造りになっているため、翼を持つ種族でもない限り、これを乗り越えるのは不可能だろう。


 つっても、窮屈さは感じない。

 街道に従って進むと、上下に開閉する門がある。【ラバントレル】の正門だ。

 よほどのことがなければ昼夜を問わず、この正門は開かれたままになっている。駐在している騎士がしっかり睨みをきかせているため、基本的に出入りは自由なンだそうだ。


「――止まれ」


 馬車ごと門をくぐろうとしたところで、見知った顔の騎士が道を塞いできた。

 久しぶりの再会を喜ぶかというと、そうでもない。かと言って、ちゃんと白黒はつけているので、今さら遺恨を残したりもしていない。そんな微妙な相手だ。


「そのふてぶてしい顔。アラガキか?」

「よ。ご無沙汰」


 ――シコルゼ・スモルコック。

 ちょっぴり名前がハッスルしている、王都騎士団第二部隊の隊長だ。


「騎士団を裏切った君が、王都へなんの用だ?」

「別に裏切ったわけじゃねェし。ただのお遣いだよ」


 国営に関わることだし、ただの、ではないか。


「ふん、できれば二度と会いたくなかったよ。他にも誰か乗っているのかい?」


 言いながら、シコルゼが馬車の中を覗き込んだ。

 シコルゼが、ぎょっと目を剥く。腰に帯びた剣にも手をかけそうになっている。


「貴様は、メロリナ・メルオーレ!?」

「ん、なんじゃ?」


 二十年ほど昔に、王都騎士団を半壊させたことがあるという彼女を、騎士たちは過剰に恐れている。当時の事件に直接関わりのないシコルゼも例外じゃない。


「あー、この年になると、物忘れが激しゅうていかん。誰じゃったかいの?」


 一応シコルゼに気を遣っているのか、御者台に座る俺に耳打ちで尋ねてきた。

 街に騎士団が攻めてきた時に、ギリコさんや俺と戦った騎士であること。

 ザインにデコピン一発でやられていたことなどを伝える。


「ほむ。言われてみれば、いたような気がせんでもないのう。どうにも、ち●こが小さそうな輩は印象に残らんくてな」


 そこはせめて、器の小さそうな、くらいにしとこうぜ。


「何をぶつぶつ喋っている?」

「いや、こっちの話だ」

「……やはり、何かよからぬことを考えているだろう。荷を(あらた)めさせてもらうぞ。その後、騎士団本部へも同行してもらおう」


 あーもー、めんどくせ。

 そんなことしてる暇ないンだっての。

 と、ここでシコルゼが、馬車の中に、もう一人いることに気がついた。

 酔い止め対策として、絶賛くぱり中だった利一もまた、シコルゼに気づく。


「何をしているんだ?」

「へ? わ、うわっ!」


 第三者に恥ずかしすぎるポーズを見られてしまい、利一はM字に開いていた足を慌てて閉じ、ぺたんと女の子座りになって膝を押さえつけた。


「え!? なんで、え!? もう着いたのか!?」

「今、何か隠さなかったか?」

「か、隠してにゃひ」


 どうでもイイけど、俺はM字開脚より、そのポーズの方が好きだな。萌える。


「君は、もしかして……リーチ姫か?」

「姫って言うにゃ」


 隠れる場所がないので、赤面しながらの照れ隠しも噛み噛みだ。

 しばらく見つめ合った後、不意にシコルゼが、ハッとして利一から目を背けた。


「……すまない。気が回らなかった」

「や、別に……」


 姫呼びに対する謝罪だと思ったンだろう。利一が、ホッと表情を和らげた。

 でもこれ、そうじゃないね。


「見なかったことにするから……その…………構わず続けてくれ……」

「――――違ッッ!!」


 違う、違う、と利一が叫ぶ。だけど、これは面倒を回避するチャンスだ。

 すかさず、メロリナさんとアイコンタクトを交わす。


「あーあ。シコルゼ、最低だな」

「ほんに、でりかしぃのない男じゃ」

「なんだと!?」


 すまん、シコルゼ。

 利一に対しては紳士な対応だったと思うが、面倒臭いことを言うお前が悪い。


「ウチの姫様のプライベートを覗いておいて、この上、まだ拘束するってのか?」

「小国とはいえ、一国の姫を辱めたのじゃから、事が明るみに出れば、お前さんの首一つでは到底足りんわなあ。これ以上は、戦争を覚悟してもらわんとの」

「せ、戦争!? そんなつもりは!」

「わかってるって。俺たちだって、後ろめたいことなんざ何もねェんだよ。荷物を調べたきゃ調べてくれていいし、お互い、あんま大げさにするのはやめようや」


 今回の目的は、品評会に出す石鹸の受付と、利一に王都を見せてやることだが、俺個人としては、後者を大事にしてやりてェ。騒ぎになるのは困るンだよ。


「そうは言うが、たくと坊よ。他の騎士たちが、こやつと同じように絡んでこないとは限らんぞい?」

「大丈夫っスよ。このシコルゼは騎士団の部隊長ですから、そのあたりの手回しは任せましょう。やってくれるよな?」

「何故、僕がそんなことをしなければならないんだ!?」

「オイオイ、譲歩してやってるのはこっちなんだぜ? 戦争する? しちゃう? レベル36のチートモンスターが暴れちゃうぜ? 魔王よりヤバいぜ?」

「おお、りぃちや、泣いておるのか? 可哀想に」


 馬車の奥で膝を抱え出した利一が「死にたぃ……」と弱々しく呟いた。

 これでもかとシコルゼの焦燥感を駆り立て、さらに、メロリナさんが利一の背をこれ見よがしに擦ってやり、罪悪感を煽りまくる。


「くっ、君たちが王都に来たことは、アーガス騎士長にも報告するからな」

「へいへい、そうしてくれ」


 ホント、めんどくせー奴だ。


「……お遣いと言っていたが、どこへ向かうつもりなんだ?」

「品評会の受付会場だ。この大通り沿いにあるって聞いてるぜ」

「品評会? エントリーするのか?」

「そのつもりだ。受付が今日までらしいから、さっさと済ませてェんだよ」


 ふむ、と頷いたシコルゼが、何かを考えるように下顎を撫でた。


「大通りを行くなら、馬車を降りて歩いてくれ」

「なんでそういう意地悪すンだよ。ち●この小せェ奴だな」

「意地悪で言っているんじゃない! 今日は馬車の通行を規制しているんだ!」

「理由は?」

「明日の品評会に際し、他国のお偉方が続々と【ラバントレル】に来訪されているからだ。部隊長である僕がここにいるのも迎賓(げいひん)のためだ」


 ああ、そういうことね。

 品評会は大陸中が注目していると聞いていたけど、各国の重鎮が直々に足を運ぶほどなのか。シコルゼがピリピリしてンのも無理ねェな。


「どれくらい滞在する予定だ? 日が暮れるまでに王都を出るのなら、ここで馬車を預かってやっても構わない。もし選考を通るようであれば、明日の品評会に出席する権利を得ることになるが」

「そこまで付き合わなくてイイって言われてる。品物を登録したら、さっさと帰るつもりだ。天気次第だけど」

「そうかい。あと、これは命令ではなく、頼みごとになるのだけれど……」


 歯切れの悪いシコルゼが、馬車奥にいるメロリナさんに恐る恐る視線を向けた。


「メロリナ・メルオーレ、騎士団への通達が済むまで、少しの間、外を出歩かずに大人しくしていてもらえないだろうか。先程は思わず突っぱねてしまったが、今は些細なトラブルも起こすわけにはいかないんだ。貴殿を知る騎士と出くわしたら、間違いなく騒ぎになってしまう」

「ふぅむ。わちきはもう、特別保護指定をもらっておるんじゃがのー」

「申し訳ない。人の意識は、そう簡単には変えられない……」


 そういうもンかと、あっさり納得できるのは、俺が差別を受ける立場にないからだろう。利一だったら、また違ったことを思うはずだ。


「やれやれ、仕方ないの。この近くで酒が飲めるところはあるかや?」

「それならば、そこの路地を少し行った先に【さきっちょ】という宿酒場がある。馬車もそこに駐めておける。無理を聞いてもらうんだ。酒代くらいは僕がもとう」

「カカ。なかなか気前がいいの。礼に少し剥いちゃろうか?」

「け、結構だ」


 一瞬、シコルゼが顔を綻ばせそうになっていたのを、俺は見逃さなかった。

 そうか。お前、やっぱり余ってるンだな。

 それはともかく、メロリナさんの分まで、俺がしっかり利一を護衛しねェとな。


「利一、俺たちだけで受付会場に行くぞ。……利一?」


 呼びかけても、利一は膝を抱えたままこちらを見ようともしない。

 こりゃ、相当スねてるな。


「利用したのは悪かったよ。あの場は、あれが一番確実だと思ったンだ」

「…………もう帰りたぃ」

「き、気にすンなって。別に恥ずかしがるようなことじゃねェし。誰でもヤってることじゃねェか。えーと、女でもおかしいことじゃねェんだぞ?」

「オレはヤったことない」

「そ、そうだよな。振りだったもン――……え? 今まで一回もか?」

「ヤるわけないだろ。見た目こんなでも、中身は男なんだぞ」


 マジか。いや、逆じゃね?

 中身が男だからこそ、女体に興味を持つンじゃん?

 女の快感は男の比じゃないとかいうし。本当かどうか、普通気になるじゃん?

 健全な十代の男子なら、鏡の前で観察するし、検証だってするじゃん?


「お前さ、やっぱり脳も女性化してるンじゃ――」


 あ。


「…………拓斗」

「な、なんだ?」

「お前とはもう口きかない」

「ちょ待ッ! 土下座でもなんでもするから、それだけは!」


 利一に、今のは失言だった。

 この後、絶交を解いてもらうまで、結局一時間近くも足止めを食ってしまった。

なかなか話が進まず、申し訳ありません。

ここからいろいろと事件を起こしていきたいと思います!


コミカライズの第一話が公開されました!!

http://webaction.jp/Mcomics/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ