08 ケジメつけなきゃな★
お久しぶりです!
またまた一月ぶりの更新で申し訳ありません。:゜(。ノω\。)゜・。
~あらすじ~
腕相撲勝負が終わり、リーチ、拓斗、メロリナの三人が
石鹸を品評会(の事前審査)に出すため王都へ行きます。
今日は朝から生憎の天気だった。
普通なら、馬車の運行を見合わせるほど雨風が強いけれど、品評会の受け付けと事前審査は本日十七時まで。王都行きを後日にズラすことはできない。
「やっぱり心配だわ。今からでも遅くないから、他の人に代わってもらわない?」
【オーパブ】の前で、オレ、拓斗、メロリナさんの三人を見送るスミレナさんが、眉をハの字にして言った。
「大丈夫ですよ。見てのとおり、変装もばっちりですし」
(イラスト:パリユリ様)
王都【ラバントレル】は【ホールライン】ほど他種族に寛容ではないという。
〝他種族〟なんて言い方自体、人間本位なので好きになれないけど、サキュバスのオレも今ではそこに含まれるため、普段以上に正体を隠さなければならない。
全く実感が湧かないが、今では一国のトップという肩書きが付いて回るオレだ。風貌が王都に伝わっていないとも限らない。余計なトラブルを避けるためにも隠密行動を徹底するべきだろう。
そこで、満を持しての男装である。
胸はサラシで潰し、ケープを羽織って無理やり膨らみを隠した。
髪はまとめてキャップに押し込み、下もスカートではなく半ズボンを着用。
全体的に黄土色で統一しており、かの名探偵ファッションを彷彿とさせる。
これならば、初見でオレが女だと見破れる者はいまい。
「自分でも、なかなかイイ感じだと思っています」
「そうね。可愛い女の子が、ちょっとボーイッシュな感じに着こなしてみました。みたいでとても似合っているわ。というか、何を着てもリーチちゃんは可愛いわ。ううん、何も着ていなくても可愛いわ」
見解の相違ってやつか。
ボーイッシュって、どう見てもボーイそのものでしょうに。
スミレナさんは身内みたいなものだし、客観的に判断できないのも無理はない。参考にはならないな。
「タクトさん、ボクがいないからって、リーチさんに手を出さないでくださいね」
「だ、出さねェよ」
こっちはこっちで、なんの心配をしているのやら。
エリムが言うようなことは、拓斗に限ってありえないから。
それよりも、
「わかっていると思うけど、メロさんは、タクト君に手を出しちゃダメよ?」
「つまみ食い程度もダメかや? 先っぽくらいよかろ?」
うん。
こっちの方がよっぽど心配だ。
サキュバスの風評にも関わることだし、オレが言っておくべきだろう。
「メロリナさんのライフスタイルに、あまり口出ししたくはないですけど、オレの周りの奴にちょっかいかけるのはやめてくださいね。こじれるんで」
「そうカリカリしんさんな。カリをちぃとカリカリしようと思うただけじゃし」
「メロリナさん!」
「カカ、冗談じゃ。お前さんの縄張りを荒らすようなことはせんよ」
縄張りとか言わないで。そういうんじゃないから。
「エリムも、変なこと言うなよな」
「す、すみません。ですが、リーチさんは隙が多いですから」
「あのな。つくなら、もうちょっと説得力のある噓をつけよ」
「国の総意です」
国!?
「好きな女性が、他の男性と出かけるんです。……不安にもなります」
「ま、また、好きとか、そういうこと」
こいつ、海で告ってから、ぐいぐい来やがるな。
あの時は死にかけ状態での告白だったから、エリムは仕切り直したいと言った。
なのにあれ以降、付き合ってくださいとか、具体的なことは言われていない。
こっちから切り出すわけにもいかず、振るに振れないというか。
焦らし作戦か? 策士なのか?
あー、うー……顔が熱い。
「オイ、お前こそ油断ならないじゃねェか」
まともに顔を上げられでいると、オレに代わって拓斗がエリムを窘めた。
いいぞ。もっと言ってやれ。
「ボクはリーチさんに気持ちを伝えました。その上で、真っ当にアプローチをしているつもりです。タクトさんに何か不都合がありますか?」
「……そりゃ、俺だって」
「俺だって、なんですか?」
本当、なんなんですか?
拓斗がこの件に、どう関係があるんだ? とばっちりだろ。やめてやれよ。
渋い顔で考え込んでいた拓斗が、しばらくして重い口を開いた。
「俺は、利一の友達だ」
「それが?」
「お前よりずっと前からだ。今さら付き合い方にどうこう言われる筋合いはねェ」
もっともな意見だ。
と、思ったのに、エリムは即座に反論する。
「今さらというのは違います。今だから言うんです」
「どういうことだ?」
「ボクは、つい先日まで、リーチさんは前世も女性なんだと勘違いしていました。だから、タクトさんのことを話すリーチさんを見ていると、二人は友達以上の……恋人みたいな関係だったのかなって。最初からボクの出る幕なんかないのかなって思ったりもしていました」
オレと拓斗が前世で恋人?
ないわ。エゲつない想像させんなよ。
「でも、そうじゃなかった。二人は本当に、ただの友達でした」
ただの、ではないぞ。親友だ。ここ重要な。
「情けない話ですが、このままタクトさんには参戦してほしくないという気持ちも強いです。でも、それはボクにとっても、タクトさんにとってもフェアじゃない」
どうにも、エリムは想像力が豊かすぎて、暴走している気がする。
ほら、拓斗も呆れて言葉を返せずにいるじゃないか。
「今のリーチさんは、どこからどう見ても女性です」
いやいや、もっとよく見ろよ。かつてないほどに男だろうが。
「男女の友情なんてありえないと言う人もいますけど、ボクはちゃんと成立すると思います。でもタクトさんの場合は、嫌われたくないから、避けられたくないからリーチさんの性別を無視しているだけです」
「……耳が痛ェな」
「女性なのに男として扱おうなんて間違っています。たとえ、リーチさんがそれを望んでいるのだとしても、絶対にどこかで破綻します。そんな関係を、ボクは友達だなんて認めません」
ああもう、言わせておけば。
「エリム、お前な――」
「利一、ちょっと黙っててくれ」
オレ? なんでさ。
拓斗はオレに目もくれず、真っ直ぐにエリムと視線を交わした。
「俺自身、このままでイイとは思ってねェ。どうすりゃイイのか、最近そればっか考えてる。お前からしたら、ふらふらしてるように見えるンだろうけど」
「……葛藤されていることは伝わってきます」
拓斗が葛藤? 何に?
まさか、女になったオレとは友達を続けられないとか……そういう?
「お前の言ったことも全部踏まえて、近いうちに必ずケジメをつける。それまで、もう少しだけ時間をくれ」
「こちらこそ、急かすようなことを言ってしまいました」
ここで、二人がくすりと笑い合った。
「強敵が誕生するかもしれねェぜ?」
「そんなの、タクトさんと出会う前から覚悟していましたよ」
…………なんなの?
これ、結局どういう話になってんの?
オレのことで話し合っているはずなのに、完全に蚊帳の外じゃん。
釈然としない気持ちを残し、ザブチンさんから借りてきた、一頭立ての四輪箱型馬車に乗り込んだ。
雨ざらしになってしまう御者は拓斗が買って出てくれた。
王都騎士団でお世話になっていた時、簡単な馬術講習を受けていたんだとか。
んー。
むー。
やっぱりすっきりしない。
毛布を敷いた座席から身を乗り出し、オレは御者台と繋がる小窓に顔を寄せた。
「なあ、拓斗」
雨ガッパを着て手綱の感触を確かめている拓斗の耳元に、小声で話しかけた。
「さっきの話なんだけど」
「ど、どうかしたのか? まさか、何か気づいたことでも……」
そんなはずはない。
そんなはずはないと思いつつも、その可能性を捨てきれない。
「変なこと訊くけど、気を悪くしないでくれな」
「お、おう」
オレの推測を拓斗が肯定してしまったら。
……怖い。
でも、確かめないままでいる方が、もっと怖い。
オレの緊張が伝わっているのか、拓斗も表情を強張らせている。
ドクッ、ドクッ、と大きく跳ねる心臓を押さえつけながら、それを問う。
「エリムって、実は拓斗のことが好きなんじゃね?」
「……………………は?」
本当にそうなら、拓斗が気づいていないはずがない。
ズバリ当てられることは予想していなかったのか、拓斗から表情が消えた。
「……どうしてそうなった?」
「だって、エリムの奴、オレのことを好きだとか言っておきながら、なんか拓斗がオレと一緒に出かけるのを嫌がってる風じゃん」
「それは事実だな」
「だろ。オレに告ったのも、多分だけど、本命は拓斗だってことを隠すためのカムフラージュなんだよ。オレと拓斗が前世では普通の友達同士だったって知っているくせに、今になって焦るのは、オレが形だけでも女になっちまったからだ」
この世界でも、同性の恋愛は異端とされている。
だけど、言ってくれたら。友達なんだから、相談に乗ってやるのに。
それに……。
「拓斗も、エリムに気持ちが傾いてるんじゃないのか?」
「ねェェェェェよ!! お前の思考回路はどうなってンだ!?」
「隠さなくてもいいんだぞ。さっき、ケジメをつけるから時間をくれって言ってたじゃんか。それ、カリィさんとのことだろ?」
「いや、違――」
「カリィさんと付き合ってるのに、エリムを好きになってしまったことに罪悪感があるんだろ? だけど、カリィさんなら納得して、きっと祝福してくれる。そんな気がするんだ」
「……目に浮かぶな」
今回の王都行き。
王都の地理に明るく、騎士としても頼もしいカリィさんに同行してもらうことは当然考えに上がったけど、彼女は女性でありながら、騎士団の一隊長を任っている有名人だ。そんな彼女と行動を共にしていたら逆に目立ってしまうため、候補から外れてもらった。まあ、その点は、フレアさんにも言えることだったんだけど。
「帰ったら、落ち着いて話し合おうぜ。オレが取り持ってやるから」
「待て待て。まず、利一の言ったことだが、かなりの部分で誤解がある」
「だったら、それを教えてくれよ。友達だろ。相談に乗らせろよ」
「友達だからこそ、できねェ相談もあるンだよ」
「友達だからこそ?」
……あ。
オレ、拓斗、エリム、この三人の友人関係の中で二人がくっついてしまったら、あぶれた一人とは、少なからず一緒にいる時間は減ってしまう。
あぶれるのは、もちろんオレだ。
拓斗たちは、そのことに気を遣っているのか。
馬鹿だな。
寂しい気持ちはあるけど、オレが友達の幸せを一番に願わないわけがないだろ。
「拓斗たちのタイミングでいいから、話してくれよな」
「そのつもりだ。ケジメをつけるってのは、利一の誤解を解くことも含んでる」
誤解か。
拓斗とエリムの気持ち。
拓斗とカリィさんが付き合っていること。
オレが考えているこれらのどこかに誤解があるんだろうか。
そういや、エリムが言ってた〝拓斗の参戦〟ってなんのことだろうな。
まさか、拓斗までオレのことを――なんてのは、一番ありえないか。
「利一、一つ尋ねるけど」
頭の中であれこれ整理していると、拓斗が前を向いたまま言った。
「利一は男同士の恋愛って、アリだと思うのか?」
エリムとのことを言っているのか。
だったら、オレは否定しない。
友達がどんな恋愛観を持っていても、理解する努力を惜しむつもりはない。
だから、力強く答えてやる。
「アリだ!」
すると、フードで顔が隠れている拓斗の後ろ姿が、わずかに微笑んだ気がした。
「その言葉だけ、今はありがたく受け取っておくぜ」
声を弾ませた拓斗が手綱を取り、馬車は雨の中を王都に向けて走り出した。
2巻作業&コミカライズ作業、滞りなく進んでおります。
2巻ではWEBにも掲載していない書き下ろしが加わる予定なので、どうか期待してやってください。
リーチがシコシコしまくる男たちに囲まれ、ぐっちょぐちょの白濁まみれにされる。そんな番外編になると思います!(※酷すぎてボツにされなければ)
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