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06 最悪の相手

一ヶ月も開いてしまい、本当に申し訳ありません!!

とにかく申し訳ありません!!


前回までの流れ、忘れられているかも……(泣)

リーチが王都に行くことになり、その護衛選抜を腕相撲で行っているところです。

一戦目 ミノコVSロドリコ ――引き分け

二戦目 魔王ザインVSメロリナ ――メロリナ勝利

そして今回から三戦目の拓斗VSフレアの勝負が始まります。

「タクト選手、フレア選手、前へ!」


 腕相撲勝負のトリとなる三戦目。

 審判を務めるスミレナ店長に名前を呼ばれ、俺は手形が残るほど強く頬を打って気持ちを奮い勃たせた。(※誤字ではない)

 リングとなるテーブルに進む途中、戦いを終えたメロリナさんと擦れ違った。


「メロリナさん、すげェな。マジでザインに勝っちまうなんて」

「まあなんとかの。お前さんも頑張りなんし」

「おうよ。つっても、強化してなきゃ勝負にもならねェだろうけど……」


 対戦相手のフレア・ユニセックス。

 外見から推測できるパワーだけなら、挑戦者の中でもダントツのトップだ。

 身長は2メートルを超し、体重なんて150キロあっても不思議じゃない。

 だけど肥満なんかじゃなく、テカテカと光沢すら浮かぶ筋肉の鎧から察するに、おそらく体脂肪は5パーセント未満と見ていいだろう。

 利一はおろか、俺ですら羨む――……という感覚を、遥か彼方に置いてけぼりにしてしまうガチムチマッスル。普段何食って、どんな生活してンだ?


「わちきはあの者を知らんが、一つだけ言えることがありんす」

「アドバイスをくれンのか。ありがてェ」

「勃起した者が全て童貞を捨てられるとは限らん。じゃが、童貞を捨てた者は皆、すべからく勃起しておる」

「…………だろうな」


 つまり?


「戦いに臨もうとしている時に勃起できるのは強者の証よ。心が弱ければ、普通は縮み上がっておる。どんな武器や能力も使う者次第。鳥に飛ぶな。魚に泳ぐなとは言わんじゃろ? 本来備わっていた能力ではないからと言って、引け目なぞ持たんでいい。転生で得た能力込みで、それはお前さんの強さじゃ」


 俺を見上げるように言って、ぺちん、と紅葉みたいな小さな手に尻を叩かれた。

 悠々とギャラリーに溶けていく勝者を見つめながら、俺はただただ感心した。


「ちっこいのに、でっかい背中だぜ」


 てんで敵わねェ。さすが、三世紀も生きただけのことはあるよな。

 ライフスタイルはともかく、精神面では学ばされることばかりだ。


 ミノコとロドリコのオッサンは、勝者ナシの引き分け。

 そしてザインとメロリナさんは、メロリナさんの勝利。

 利一の護衛役を選抜するこの勝負。

 ここで勝てば、野郎共から一歩リードできるってわけだ。


 リードっつーか、その……なんだ。

 男たちを利一に近づけさせないって目的なら、果たす前に果たされたわけだが、利一を外に出すのが心配なのは変わりねェ。本人は余計なお世話だって言うだろうけど、やっぱ目の届く所にいてもらわねェと、こっちが不安になっちまう。


「……なんつって。これは言い訳か」


 俺は利一をどう思っているのか。利一とどうなりたいのか。

 このもやもやした気持ちに決着をつけるためにも、とにかく動くしかねェ。

 まずは、この勝負に勝つところからだ。


 ボディービルダーも裸足で逃げ出す肉体を持つフレアに視線を戻すと、顔の前で両手を組み、何やら祈りを捧げていた。勝利祈願でもしていやがるのか?


「よォ、そりゃなんのつもりだ?」

「愛しいタクトさんの手を合法的に握れる機会に巡り合えた奇跡に感謝を」


 ゾゾ、と背筋に悪寒が走った。その台詞にじゃない。

 目だ。

 二つの握り拳を陰にしても、フレアの目はしっかりと俺を捉えている。

 瞬きすら惜しむかのように、じっと。獲物を狩ろうとする獣の眼光というより、ご馳走を前にした美食家のそれと言った方が正確かもしれない。

 怯まず睨み返してやるが、フレアは全く臆さない。それどころか、視線を交わすことを喜んでいるのか、口の両端が吊り上がり、不気味な三日月形を作った。


 したくもない確信がある。

 フレアは先の二戦を、まるで見ていなかった。対戦の組み合わせが決まった瞬間からずっと、今に至るまでずっと、俺だけを見つめていた。


「んふ。タクトさん、できる限り時間をかけて愛し合いましょう」

「断るぜ。ソッコーで決めさせてもらう」


 転生者としての俺の特性に、脱衣強化と勃起強化がある。

 脱げば脱ぐほど強くなる。

 勃てば勃つほど強くなる。

 脱衣強化だけでも最大でレベル26まで上げることができるけど、今回はこれを使用するつもりはない。野郎ばかりならイイが、ギャラリーの中には女性もいる。今さら? と思われようと、好き好んで変態を晒したくはない。

 そのため、俺はこの勝負に勃起強化のみで挑むつもりだ。


 勃起しながら戦うのも変態くさいが、男ならわかるだろう。

 勃起を隠すことは、そう難しくない。

 ちんこを垂直に立てて、ズボンの腰周りで挟むなどして固定すればイイのだ。

 それができれば傍目には平常時と変わらない。今もそうしている。

 テントを張って、勃っているのがモロバレな描写を漫画等では多々見られるが、あれはただの見せたがりだ。もっとも俺のDXサイズだと、上着を脱げばタートル部分が丸ごとコンニチハをしてしまうがな。

 強化の度合いとしては、勃起強化の方が、脱衣強化より若干上。MAX膨張で、レベルは27まで上げることができる。カリィの尻揉み効果で事前に強化済みだ。


「カリィ、参考までに教えてくれ。フレアのレベルはいくつだ?」

「24だ。負傷者の救助など支援に回ることが多く、前線に出ることは少ないが、実力はシコルゼ部隊長と並び、レベル26の騎士長に次ぐ。人望なども考慮して、シコルゼ部隊長ではなく、フレアを第二部隊の隊長に推す声もあったほどだ」

「そうか。まあ、フレアなら驚きはしねェよ」


 それにおそらく、パワーだけならアーガス騎士長と同等か、それ以上だろう。

 そして腕相撲においては、パワーこそが全てにおいて優先される。

 けど、いくら相手が常人離れした体格と膂力(りょりょく)の持ち主だとしても、生身の人間を相手に、強化された俺が勝てない道理はない。


 ――両者、配置に。


 審判の指示に従い、俺とフレアはテーブルに肘をついた。

 眼前に現れた剛腕に、思わず息を呑んでしまう。

 パネェな。寸前まであった強気が崩れそうだ。


「あら。タクトさんともあろう人が、まさか怖気(おじけ)づいたわけじゃないわよネ?」

「まさか。でも正直、お前になら、利一の護衛を任せてもイイとは思ったぜ」

「任せてくれてイイのヨ? アタシもお姫ちゃんとお出かけしてみたいし」

「それは、この勝負で俺が負けるってことだろ? だったら、できねェ相談だ」


 利一が見ているのに、負けるわけにはいかねェな。

 あいつの前でだけは、理想の男でありたいンだよ。


「悪ィが、諦めてくれ」

「ああん……イイ。その男らしい顔、ステキ。思わず濡れちゃいそうだワ」

「……何が?」

「気持ち的にヨ。でも、それでこそアタシがホ(ら)れた(い)男ネ」


 ドバチッ!!

 と、指くらいなら挟み潰してしまえそうな豪快なウインクが飛んできた。

 やばい。萎え始めた。


「む、タクト、レベルが27から26に下がってしまったぞ!?」

「くっ、心理戦はもう始まっているってことか!」


 なんのこと? みたいな、とぼけた(つら)しやがって。食えない奴だ。

 このままでは、相対しているだけで勃起強化が解けてしまう。

 仕方ない。勝負開始の前にリロードしておくか。


「カリィ、尻のおかわりを一つ注文する」

「喜んで。なんて言うとでも思ったのか? 私は別に、お前の味方ではないぞ」


 冷たく言い放ち、カリィが俺から離ようとする。


「まあ待て。それなら代価を払おう。後でエリムとの抱擁(ハグ)を見せてやる」

「何、本当か!? あ、いや……」

「熱烈な抱擁(ハグ)だぞ。たっぷり三十秒は約束しよう」

「む、ぐぐ……………それなら……いや、それでも……ダメだ」

「頬にキスまでなら可能だ」

「――――ッ!?」


 …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。


「…………ダ、ダメだ! 私はそこまで尻の軽い女ではない!」

「断るにしたって、長考しすぎだろ」

「だがしかし! そこまで私の協力が必要だと懇願するのなら無下にもできん」


 チラ、チラ、と何かを訴えかけるような視線に嫌な予感がする。


「エリム君と、唇と唇のキスをするというのなら、手を打ってやらんこともない」

「やっぱりか」

「シチュエーションとしては、タクトがエリム君に壁ドンし、さらに顎クイをして口を塞ぐように無理やり奪うのが望ましいが、首筋からじわじわせり上がっていくパターンも捨てがたい。できれば両方。加えてキスの前後に言ってもらいたい台詞があってだな。これはタクトを俺様キャラにするか否かで違ってくるので応相談といきたいところなのだが、いかがだろうか?」

「お前のことは、これから腐尻(ふけつ)女と呼んでやる」


 交渉決裂。カリィが、「だったら自分でなんとかしろ」と言って、手の届かない所まで離れてしまった。

 兵站(へいたん)は断たれてしまったが、まだ俺とフレアにはレベル差がある。

 相手のパワーが本当にアーガス騎士長以上だというなら苦戦は必至だが、勝機がなくなったわけじゃない。


「悪いが時間はかけられねェ。出だしから本気でいかせてもらうぜ」

「受けて立つワ。アタシの肢体からだで、出汁(だし)(から)になるまで存分にイってちょうだい」


 やめろ! これ以上レベルを下げられると勝負にならない!


「審判、早く開始の合図を!」


 促し、俺は巨木のように鎮座したフレアの右手を、同じく右手で掴み取った。


「あん。乱暴ネ。でも好き。ちゅ」


 投げキスに眉間を撃ち抜かれ、レベルが25に下がった。


「アラガキ・タクト VS フレア・ユニセックス――はじめッ!」

「オラアアアッ!!」

「ああん♪」


 宣言どおり、スタート直後のフルパワー。

 ――を、フレアはうっとりと紅潮しただけで堪えやがった。

 堪える? 違う。頬の赤みは力みによるものですらない。


「愛する人の方から向かってきてくれる。アタシは今、幸せを噛みしめているワ」

「くっ、ぐぐ……余裕ぶっこきやがって……」

「んふ、本当にタクトさんが本気の強化で向かってきていたら、おそらくアタシは瞬殺されていたでしょうけど、侮ったわネ」


 レベルは25と24でも、パワーはフレアが上。

 腕相撲という限られたルールの中では、スピードなんてなんの役にも立たない。


「さあ、ここからじわじわと、ゆっくり、ゆっくり押し倒していきましょうネ」

「ち、くしょうめ!」


 誤算だ。アーガス騎士長以上なら苦戦は必至?

 ザケんな。苦戦どころか、力比べにすらなってねェ。

 こうなったら手段を選んでいる場合じゃない。


「タクトさん、やだ、何を!?」


 俺は空いた左手で上着の胸襟を鷲掴み、力任せに引き千切った。

 脱衣強化――上半身のみ解禁!!

 一瞬ニーハオしてしまったお亀さんは、宙に舞い散る上着の切れ端に観客たちの意識が移っている隙を突き、左手で覆い隠す。


 ステータス確認。

 勃起強化(※半勃ち)に上半身の脱衣が加わり、レベルが25→27に上昇。


「これで逆て――…………んな、に!?」


 動かない。

 このレベルのパワーをもってしても、フレアの腕はビクともしない。


「……冗談キツいぜ」

「んふふ、思惑が外れたようネ」

「おま……本当に、これでレベル24なのかよ……」


 ありえない事態への疑問は、カリィの言葉によって明らかにされた。


「タクト、フレアのレベルが24→26に上がっているぞ!」

「ど、どういうことだ……!? 実力を隠していたってのか!?」

「そんな難しい話じゃないワ。愛する男が目の前で脱ぎだしたのよ? そんなのを見せられたら、女なら誰だってパワーアップするに決まっているじゃない」

「決まってねェよ! それもう特能の域だろ! あと男だろ!」

「いやん。タクトさんにツッコまれちゃった。激しくツッコまれちゃった」


 オレが脱衣強化したら、フレアも強化してしまう。

 そして時間の経過と共に、勃起強化は弱まっていく。


 誤算も誤算。大誤算だ。

 フレア・ユニセックス。

 まさか、ここまで相性最悪の相手だったとは。


明日(15日)あたり、書影や諸々の情報を公開できるのではないかと思います。

限られた作業時間での改稿でしたが、やれるだけのことは全部やりました!

今月末の発売日を、どうかよろしくお願いいたします。

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