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25 新たなるクエスト

 晴れて冒険者となった翌日の午前中。

 オレは拓斗を連れて、再び冒険者ギルドに足を運んでいた。

 外装内装共に新装開店の整備が終わっており、職員さんたちも、白のブラウスに黒のパンツとジャケット、そしてあずき色のエプロンを腰に装着している。


「スカートじゃないだけでも、こっちの制服の方がメイド服より断然羨ましいな」

「俺はメイド服、わりと好きだぞ?」

「着たいのか?」

「なわけねェだろ」


 拓斗のメイド服姿を想像し、あまりの似合わなさっぷりに吹き出しそうになっていると、五、六人いる職員さんの中で、一際目立つ巨漢がオレたちに気づいた。

 壁にかけられた掲示板にはクエスト案内っぽいチラシも何枚か貼られているが、そちらには目も暮れず、手を振ってくれているフレアさんのもとへ急行した。


「こんにちは! よろしくお願いします!」

「こんにちは。お姫ちゃん、今日も元気ネ」


 柔和な雰囲気とは対照的に、隆起したたくましい筋肉。カウンターの向こうではイスに座っているだろうに、それでもオレより頭の位置が高い。

 こんなんなれますように、と思わず手を合わせて拝んでしまう。


「昨日は報酬の卵、ちゃんと持って帰れた?」

「え? あー、余裕でしたよ」

「よく言うぜ。結きょ――ぐっ!?」


 何か言いかけた拓斗の脇腹に、偶然オレの肘が刺さった。


「カリィさんはいないんですか?」

「カリーシャ隊長なら――とと、ここではカリィちゃんね。カリィちゃんなら依頼集めを兼ねて、町の巡回に出ているワ」


 そっか、残念だな。拓斗が。


「早速クエストをお探しかしら?」

「もちろんです!」

「うふ、いい返事ネ。昨日のうちに、お姫ちゃんたちが受けられそうなクエストをいくつか見繕っておいたけど、どういうものが希望なのかしら?」

「とりあえず、報酬が一億リコくらいのクエストありますか?」

「と、とりあえずって……」

「酒場の仕事もありますから、できれば、その日のうちに終わりそうなもので」

「やだ、本気で言ってる目だワ」


 少し欲張りすぎたかな。フレアさんが困ったような表情をしている。


「悪ィ。もう知ってると思うが、アホなンだ」

「アホとはなんだ! オレだって、ちょっとばかし無茶な希望を出してるってことくらいわかってる」

「いや、ちょっとどころの話じゃねェから」

「けど、その無茶を引っくり返すくらいでないと……」


 オレには後が無い。おっぱいプリン製作の期限まで、あと五日しかない。

 スミレナさんとザブチンさんは言った。小さな国だし、五億リコくらいあれば、国を運営する下地を最低限整えることができるかもねーと。

 つまり、単純計算で今日から五日間、一日一億リコ稼げばいいわけだ。


「ごめんなさい。億単位のクエストなんて、大規模遠征で数ヶ月がかりのものでもない限り、そうそう無いワ」

「……ですか」

「町の人たちからの依頼なら、たくさん集まってきてるわヨ? 今日のところは、その中から選んでおかない?」


 オレは首を縦に振ることができなかった。

 最終目的は、この町を国として栄えさせることだから、国民が依頼を出し、その国民から報酬を得てもあまり意味がない。金策に加え、国の宣伝ができ、さらには他国と有益な繋がりを持てるようなものがベスト。なんだけど、そこまでいくと、さすがにオレも無理かなって思う。


「うぅぅ、嫌だ嫌だ、おっぱいプリンは嫌だ」

「あんま思いつめンなよ。別に死ぬわけでもねェんだし」


 などと軽く言いやがる拓斗を、じろりと睨みつけた。


「お前、なんか昨日から急におっぱいプリンの肩を持つようになってないか?」

「そ、そんなことねェぞ? そこまで気に病むことかなって思っただけで」

「それにしちゃ、やけに焦ってるじゃないか」

「ぐっ」

「図星か。思ったとおりだ」


 拓斗はいい奴だけど、聖人ってわけじゃない。俗っぽさで言うならオレ以上だ。

 それは知ってた。だからショックを受けたりはしない。


「ち、違うンだ。俺は別に、お前の胸の感触が忘れられないとかじゃなく――」

「オレの目は誤魔化せないぞ。さては、他に金策が浮かばないから、もうおっぱいプリンでいいやとか思ってるんだろ?」

「あー、うん、それそれ」


 それそれ、じゃねーよ。たく、他人事だと思いやがって。


「お前だって、ちんこ型チョコとか作られたくないだろ?」

「まあ。つーか、ンなもん作って誰が買うンだよ」

「アタシが買うワ。一本おいくらかしら?」

「いるじゃんか」

「購買層が特殊過ぎンだろが!」

「お一人様何本までかしら?」

「上限って必要?」

「何本買う気だよ!? 必要も何も製造予定はねェよ!」


 拓斗が声を荒げて不満を訴えかけた。

 これでわかったろ? おっぱいプリンもそれくらい嫌だってことだよ。


「残念だワ。騎士長に素敵なお土産ができると思ったのに」

「え、どゆことどゆこと? あの騎士長さん、拓斗のことが好きなんですか?」

「うふふ、ある意味惚れ込んでいると言ってもいいわネ」

「へえ。拓斗って、男にもモテるんだ」

「お前ら、好き勝手なこと言ってンじゃねェよ! そんな話してると!」

「――騒がしいな。なんの話をしているんだ?」

「ほらみろ、召喚しちまったじゃねェか!」


 カリィさんが巡回から戻って来た。

 まだ少しぎこちないが、やぁ、と小さく手を上げ、友人らしい挨拶を交わす。

 拓斗はと言うと、せっかく想い人が現れたというのに、「なんでもねェ!」を連呼して、カリィさんを会話から締め出そうとしている。


「カリィちゃん、お疲れ様。何か変わったことはあった?」

「ただいま。この町はいたって平和だが、浜辺付近の村から【クラーゲン】による実害が出ている話を何度か耳にした。早急に大本を処理してほしいそうだ」

「ああ、クラーゲン関連の依頼なら来ているわネ。クエストを探しに来た腕利きの冒険者に、それとなく勧めていくしかないかしら」


 カリィさんとフレアさんが、二人して渋面を作った。

 なんだなんだ。何やら厄介で難易度の高いクエストの香りがするぞ。


「カリィさん、それってどういうクエストなんですか?」

「興味があるのか?」

「そりゃ、オレたちもクエストを探しに来ていますから。無理を承知で言うなら、一日で大金が手に入り、他の国にも名声が轟く。そんなクエストが希望です」

「はは。正直だな。残念だが、そんな夢みたいなクエストは――」


 そこまで言って、カリィさんが言葉を中断させた。


「……あると言えば、ある。だがやはり、無いと言えば無い」

「どういう意味ですか?」

「実現不可能だからだ」

「それだけ難しいクエストだってことですか?」

「順を追って話そう。今まさに話に出たクラーゲンだが、知っているか?」


 オレと拓斗は揃って首を横に振った。


「海水に棲息する害獣だ。この町の北西に広がる【ココガエーノン海】に開けた【アーンイー湾】。そこに大量発生する」


 ひとまずツッコミはナシで、話の続きを催促する。


「個体差はあるが、一匹一匹は大したサイズじゃない。せいぜいが50cmといったところだろう。ぶよぶよとした軟体生物で、自我も無く、通常であれば海に漂っているだけだ」

「それがどうして害獣なんです?」

「先程も言ったように大量発生する。それこそ湾を埋め尽くすほどだ。飽和状態になれば増殖速度はガクンと落ちるが、それでも溢れた個体は陸に打ち上げられてしまう。すぐに息絶えることもあれば、しばらく陸を這い回る個体もある。近隣の村で被害が出ているということは、既に飽和状態なのだろう」

「被害って、具体的にはどんな?」

「こいつは危険を感知するか、もしくは乾燥すると、肌に自分の体液を滲ませる。厄介なのは、その体液は時間が経つと有毒性を持つようになるのだ。そのせいで、こいつが通った後の草木は全て枯れてしまう。畑にでも入られたら一大事だ」


 なるほど。確かに害獣だ。


「クラーゲンに関するクエストは二種類ある。一つは、陸に打ち上げられた個体の処理だ。こちらは危険も少ないため、リーチのレベルでも受注できる」


 てことは、もう一つの方は、オレのレベルじゃ受けられない難易度ってことか。

 カリィさんが、オレの隣に立つ拓斗に視線をやった。


「もう一つのクエスト受注条件はレベル23以上。何故なら戦闘ありきだからだ」

「23か。その程度なら全裸になるまでもねェな」

「そうでもないぞ。レベル23で受注はできるが、10人以上でパーティーを組むことが推奨されているんだ。理由は、クラーゲンを生み出す母体――レベル25の【マザークラーゲン】を討伐することがクエストの達成条件だからだ」

「チッ、全裸にならねェと厳しそうだな」


 場合によっては勃起も必要か。と、拓斗がシリアスな顔で言った。


「だが、私はタクト以上の適任はいないと考えている」

「レベルの高さ以外にもワケがありそうだな。聞こうじゃねェか」

「クラーゲンの体液は時間が経つと有毒性を持つと言ったが、実は時間が経たなくても厄介な代物であることには違いないんだ。生体に影響は無いにもかかわらず、その性質のせいで、並み居る冒険者たちがクエスト攻略に乗り出せずにいる」


 ごくり。とオレは息を呑み、カリィさんの言葉を待った。

 その性質とは、いったい――。


「身に着けている物を溶かされてしまうのだ!!」


 カリィさんが顔を青ざめさせて言った。

 身に着けているものって、服とか鎧とか?

 それってつまり、裸に剥かれるってこと?

 かろうじて、拓斗が「……なんで?」と質問をしぼりだした。


「知らん。排出した時点では体液が魔力を帯びており、そういう仕様になっているそうだが、時間が経つと魔法が解け、本来あるべき性質を持つようになる」

「じゃあ、俺が適任ってのは……」

「脱げば脱ぐほど強くなる貴様なら、むしろ好都合。全裸にされることなど怖くもなんともないだろう? 相手はモンスターだ。存分に見せつけてやれ」

「よし、カリィ、お前も同伴しろ。決定だ」

「何故私が!?」

「頭おかしいクエスト勧めてンじゃねェよ! せめておっ勃てる役に立て!」

「貴様、それは最低な発言だぞ!」


 ぎゃあぎゃあと拓斗とカリィさんが言い争いになり、話が進まなくなったので、オレはフレアさんに話の続きを求めることにした。

すみません、クエストの説明くらいは終わりたかったのに……(泣)

第26話は12月8日 12時頃更新予定でよろしくお願いします。


一度だけ、この場を借りて宣伝を。

下ネタ短編企画に参加し、『少年は生きることを前向きに諦めました』という短編を投稿しました。

1600文字と非常に短いので、よろしければ読みにいってやってください。

心の綺麗な人は、最後まで下ネタだと気づかないかも。

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