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21 尻を見込んで頼みがある

~前回のあらすじ~

・クエストの依頼人が変態でした。

「えー、まずはヒナが暴れないよう、このように片手にすっぽり収まるようにして持ち、両足の付け根を結ぶラインを指で優しくいじくり回してやります」


 老齢なモヒカンじじいによる雌雄判別法のレクチャーが始まった。


「ここ、性感帯です。シャブシャブ鳥のヒナに性的刺激を与えてやると、成熟して発情した時と同じような鳴き声を出します。その声の違いで雄と雌を見極めます」


 くりくり、くりくり、とヒナの股間がしわしわの人差し指で弄られる。

 すると、「ボク、何されちゃうの?」みたいにつぶらな瞳を向けていたヒナが、


「シャ……シャ……シャブレヤアアアアアアアアアア!!」

「はい、今みたいにテンションの高い雄叫びを発するのが雄です」


 雄と判別されたヒナを、モヒじじいが右手側の囲いの中に入れた。


「次、これはどうでしょう。雌かな。見た目じゃさっぱりわかりませんね」


 面倒臭そうに言ってから、さっきと同じようにヒナを持ち上げて指を当てる。

 くりくり、くりくり。


「シャ……シャブラセ……テ……」

「こんな感じで切なそうに鳴くのが雌です。説明終了。あとはよろしゅう」


 雌ヒナを、今度は左手側の囲いに入れたモヒじじいは、完全にやる気をなくしてケージから外に出た。そうして、だるそうに壁にもたれかかってしまう。

 普段からこんな感じのものぐさなのか、セクハラができなくなったからなのか。どっちにしろ、ろくでもないじじいだな。


「それじゃ、早速始めましょうかしら。千羽のうち、よりたくさん判別できた人の勝ちってことでいいわネ。ちゃんと鳴かせてから囲いに入れるのヨ?」


 フレアが「スタート!」の掛け声と共に手を打ち鳴らし、勝負は開始された。

 我先にと、イエティ(仮)、岩男、カメレオン男がケージの中に入って行く。

 一拍遅れて利一も「行ってくる!」と勇み、そこへ加わった。

 審判を買って出たフレアは利一たちと一緒に、ケージの中でヒナたちに囲まれている。俺はカリィと並び、ケージの外から利一を応援する。


「タクト、この勝負、どう見る?」

「実質、カメレオン男と利一の一騎打ちじゃねェかと思う」


 カメレオン男の手は人間と少し形状は違うが、器用にヒナを抱え、指で性感帯を探っている。しかし、イエティ(仮)は指が太すぎて、思うようにポイントを押さえられないようだ。岩男も同じく手がでかいけど、こっちは可哀想に、力の加減がわからないのか、ヒナを掴むことすらままならない。


「わかってると思うけど、ヒナを潰したりしたら、その時点で失格だからネ」


 審判に念を押され、イエティ(仮)と岩男の脱落は確定したかに思えた。

 だが、事はそう簡単にはいかないらしい。


「ぐむむむ、全然鳴いてくれないでゴザル!」


 語尾が〝ゴザル〟だと判明したカメレオン男が、苛立ちを露わにして叫んだ。

 触ることはできても、肝心のヒナを鳴かせることができない。

 それは利一も同様だった。

 いや、シャブシャブと普通の鳴き声は絶えず聞こえているンだが、あの特徴的な鳴き声を引き出せないのだ。モヒじじいは簡単そうにやっていたけど、思った以上に繊細な力加減とポイントを押さえる精度を要求されるらしい。


 ふと、こういう細かい作業はエリムが向いていそうだなと思った。

 俺と利一が冒険者になると言うと、あいつは自分もと言い出していた。

 だけど、あいつは学生で、将来の夢もある。ちゃんとした理由もないなら冒険者との兼業を認めるわけにはいかないということで、店長に却下されていた。

 俺と利一の距離が近くなると思って焦ったンだろう。気持ちはわかるけどな。


「ご老人、何か助言をいただけないでゴザルか!?」


 カメレオン男が、ケージの外にいるモヒじじいにアドバイスを求めた。

 聞こえていないのか、モヒじじいは目を開けたまま寝ているンじゃないかと思うくらい、反応もなく呆けている。


「じいさん、呼ばれてンぞ?」

「男の愛撫とか死ぬほど興味ありまへん」


 こいつ、終わってンな。


「うぅー、お願いだから鳴いてくれよー」

「そこまでお願いされたらしゃーないな。お嬢ちゃん、ちょっとこっち来んさい」


 利一は別にヘルプコールを出したわけじゃないと思うンだが、打って変わって、モヒじじいの態度は良心的だ。けど、笑顔で手招きするその様子は、「お嬢ちゃん、お菓子あげるからこっちにおいで」と言っているようにしか見えない。

 あとな、お嬢ちゃんとか言ってるけど、こいつ一応この国のお姫様だから。

 利一は地面にヒナを置き、素直にケージから外に出て来た。


「コツを教えてくれるんですか?」

「うんうん。よっこいしょ」


 腰を据えてじっくり教えるつもりなのか、モヒじじいがその場に座り込み、

 M字開脚をした。


「とりあえず、儂をヒナだと思ってくりくりしてみよか」

「……はい?」

「はい? じゃないやろ。実際やってもらわな、どこが悪いのかわからへんやろ。ほらほら、早くぅ。いけずせんとぉ」


 奇行に固まる利一に構わず、スタンバイOKなモヒじじいは息を荒げていく。


「お嬢ちゃん、迷てる場合か!? 勝負してるんやろ!? 負けてもいいんか!?」

「それは、困るけど……」

「ほなはよして! 儂かて辛いんや! 恥ずかしいんや!」

「う、うぅ……」


 モヒじじいの剣幕に押され、急かされるままに利一が膝をついてしまう。

 そして嫌々に股間へと手を伸ばし、白魚のような指が、そっとつなぎに触れた。


「こ、こんな感じ?」

「ばぶばぶ。それじゃダメでちゅ」

「でちゅ?」

「ヒナは赤ちゃんでちゅ。だからボクちんも赤ちゃんになりきるのでちゅ」


 実際に〝でちゅ〟とか言ってる赤ん坊なんて見たことねェよ。


「お嬢ちゃん、名前は?」

「リーチです」

「リーチママは赤ちゃんに対する慈しみの心が足りていないのでちゅ。人差し指でなぞるように。円を描くように。時に優しく。時にもっと優しくでちゅ。尻の穴と袋の間なんかもオススメでちゅ」

「い、慈しみって言われても……こう?」

「違うでちゅ! そこは太ももでちゅ! たどたどしい指使いに若干の興奮は覚えまちゅが、それじゃ時間の無駄でちゅ! だから違う! そこは鼠蹊部そけいぶでちゅ! もしかして、わざと外してまちゅか? ちょっとちょっと勘弁してほしいでちゅ。こっちは恥を忍んで体を張っていまちゅのに。あれでちゅか? モヒカンじじいの言うことなんて聞いてられないとか思ってまちゅか? 仕方ないやろが! 真ん中からしか生えてこーへんのじゃ!」


 清々しいまでの逆ギレだ。


「は~あ、なんだかなーやで。もうええ。わかりました。儂が悪ぅございました。お嬢ちゃんに、この教え方は向いてへんかったってことやね。ええよええよ。別の方法教えたる。たく、これじゃ、なんのためにギルドに依頼したんかわからんわ」


 あまりにも自分勝手な言い草だが、利一も、見ている俺もホッとした。


「攻守交代や。今度はお嬢ちゃんがそこに座って股を開きなさい」


 わきわきと。モヒじいさんの指、その一本一本が別の生き物のように蠢いた。


「じょ、冗談ですよね?」

「本気も本気。超本気。ほれほれ、らさんとはよう。恥ずかしいのはわかるで。儂も恥ずかしかった。でも頑張った。じゃからな、今度はお嬢ちゃんの番な。その綺麗なあんよ、かぱーってしよか。なんも心配いらん。風俗で鍛えた儂の指テクで天国拝ませたるさかいに――なばっはッ!?」


 反射的に、俺とカリィがモヒカン頭をど突いていた。

 モヒじじいは尻を突き上げる体勢で地面に崩れ、そのまま気を失った。

 相手が依頼人だとか、老人だとかいう気遣いは無かった。


「ご家族の苦労が窺えるな……」

「まったくだ」


 カリィとしみじみ呟く。これに異を唱える声はどこからも上がらなかった。

 唯一のアドバイザーが役に立たないどころか邪魔にしかならないとわかった今、自分たちの力で打開策を見つけなければならない。


「利一、気を悪くしないでほしいンだけど」

「何?」

「雄ヒナだけ、サキュバスの力で引き寄せるとかできねェのか?」


 利一はサキュバスの性質を忌み嫌っている。

 男の精を喰らって生きていくくらいなら死んだ方がマシだと言い切るほどに。


「あー、無理。オレ、魅了って使えないから」


 幸い、これについては特に気分を害した風もなく答えてくれた。

 ここでいう魅了とは能力的なものであり、利一自身に備わった性格や外見に起因するものではない。つまり、利一はサキュバスの力を使わず、あれだけの野郎共を虜にしているわけだ。金髪巨乳美少女マジパねェ。


 利一が魅了を使えない原因は、男を異性だと認識していないから。男に性を感じていないからだと、ロリサキュバス――メロリナ・メルオーレは推測したそうだ。

 利一は、自分を男として扱ってほしいとは言っても、自分は男だと言い張ったりはしない。女になったことを、頭ではちゃんと理解しているからだ。

 俺は利一の耳元に顔を近づけ、ヒソヒソと声をすぼめた。


「なァ、利一、女になった今でも、同じ女であるカリィの裸を見たいと思うか?」

「は、はああ!? おま、いきなり何言ってんだ!?」

「ちょっとした確認だ。答えてくれ」


 不特定多数の裸ではなく、友人で、しかもすぐそこにいる女性を例に出したことによって、利一の顔が真っ赤に茹ってしまった。イイ反応するわァ。


「……み……見たく……ないとは、言わない」


 否定もしないが、堂々と肯定もできない。実にムッツリらしい模範的な回答だ。

 つまり、利一は今現在も、男ではなく女を異性だと思っている。

 でなけりゃ、ストリップ劇場に連れて行けとか言わねェだろうしな。


「性欲自体が消えちまったわけじゃねェんだな?」

「まあ、そうだけど。さっきからなんの質問だ?」


 てことは、もしかして。


「二人でこそこそと、なんの話をしているんだ?」


 疎外感を感じたのか、カリィが話に入ってきた。そんな彼女にも質問を投げる。


「カリィ、自分の中で、一番の長所だと思えるものはなンだ?」

「唐突だな。ふむ、長所か。長所など自ら口にするものではないが、一つ挙げろと言うなら、そうだな。表面上にとらわれず、物事の本質を見抜く洞察力だろうか」

「違う。尻だ」

「喧嘩なら買うぞ?」

「その尻を見込んで、カリィに頼みがある」

「何故そこを見込むのか……。立場上、一人に肩入れすることはできないぞ?」

「直接ヒナの鑑定を手伝ってくれと言っているわけじゃない。利一と、あることを試してもらいたい」


 カリィだけでなく、利一もまた首を傾げた。

 上手くいく保証なんて無い。だが、やってみる価値はある。

 自分にそう言い聞かせ、俺は思いついた作戦を発表する。


「今から二人で【尻相撲】をしてもらいたい」

なかなか終わらない(汗)

尻相撲……『競女!!!!!!!!』を観て勉強してきます。


第22話は11月29日 12時更新予定でよろしくお願いします。

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