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20 失礼極まりねェな

~前回のあらすじ~

・シャブシャブ鳥のヒナの雌雄鑑定クエストが始まります。

「定員一名のクエストだけど、辞退してくれる人はいないかしら?」


 ヒナの雌雄鑑定競争。それなら利一に危険は無いし、腕っぷしも必要無い。

 当の利一はもっとファンタジー色の強いクエストを期待していたのか、若干唇を尖らせているものの、文句を口にはしない。


「待て、教えるイワ」


 代わりに、フレアに物言いをつけたのは、イエティ(仮)と並んで力自慢であることが窺える岩男だった。ファン○スティック・フォーにこういう奴いたな。

 それよか語尾が……。


「仮にここで辞退したとするイワ。だがこの先も、冒険者登録をするために、結局こういうくだらないクエストをやらされるイワか?」

「依頼人だってちゃんといるクエストをくだらないだなんて、酷いこと言うわネ。一度だけ聞き流してあげるけど、もう言っちゃダメヨ?」

「御託はいいから教えるイワ」

「んー、可能性は高いわネ。でも仕方ないじゃない。ルーキーに危険なクエストは任せらんないわヨ」


 困ったようにフレアが言うと、岩男は自分の拳と拳をゴチッ! とぶつけて硬い音を響かせた。乱暴な威圧だ。


「自分は人間の冒険者と共に、幾度もクエストをこなしてきたイワ!」

「それって戦闘系のクエストかしら?」

「そうイワ! そこいらの冒険者よりも腕が立つイワ! 自分が目指す冒険者は、凶悪な魔物を狩る賞金稼ぎだイワ! こんなことをしても意味がないイワ!」

「ああそう。でもネ、そんなことは関係ないの」

「関係ないとはなんだイワ! ええい、オカマ野郎では話にならな――イワッ!?」


 でかいスイカくらいある岩男の頭を、これまた馬鹿でかいフレアの手が押さえつけるようにして鷲掴みにした。肉厚な腕の筋肉がさらに膨張する。


「黙れ」


 それはさっきまでの野太くもあり、甲高くもあった声ではなく、どんな荒くれ者でも小便ちびって震え上がるような超重低音ボイスだった。


「このクエストはな、ギルド職員や依頼人と、必要最低限のコミュニケーションが取れるかどうかも見ているんだ。わかるか? つまり、今のお前のように、希望に沿わないからといって、イチャもんをつけるような輩を振るい落とすためのテストでもあるわけだ。わかるか?」


 ピキキッ、と岩男の頭に小さなヒビが入った。どんな握力だよ……。

 岩男はフレアのプレッシャーで完全に萎縮し、抵抗はおろか、身動き一つ取れないでいる。オレンジ色の唇をパクパクとさせるばかりで言葉を失ってしまった。


「質問だ。お前は人格に問題アリなクソ虫か? それとも人の話をちゃんと聞けるクソ虫か? 前者なら今すぐお帰りいただくか、このままシバき倒して性根を入れ替えさせてやる。よく考えて答えろ」

「ひ、人の話をちゃんと聞けるクソ虫ですイワ!」

「やっとこ冒険者の資格をもらえると思って気が逸るのはわかるが、お前らがそうやって難癖をつけることで、同じように冒険者になろうとギルドにやってくる保護指定外種族の連中まで迷惑を(こうむ)るんだ。言っている意味はわかるな? わかったら言葉の最初に『ちゅきちゅきフレアたん』、最後に『♡』をつけて返事しろ」

「ちゅきちゅきフレアたん、口答えして申し訳ありませんでしたイワッ♡」


 オカマ強ェ……。それ以上に怖ェ……。

 岩男だけでなく、イエティ(仮)やカメレオン男たちまで背筋を伸ばして敬礼の姿勢を取った。利一は俺の袖を摘まんでくいくい引っ張り、「ハー○マン軍曹だ」と興奮気味に言ってくる。その仕草やめて。可愛いから。


「うふ、わかってくれて嬉しいワ」


 フレアが岩男から手を離し、また元のオネエ口調に戻った。

 クエストを辞退する者はナシ。

 利一、岩男、イエティ(仮)、カメレオン男の四人で競わなければならない。


 依頼人のいる養畜場はギルドの裏手にあるそうなので、善は急げと移動する。

 異例の事態なので、フレアとカリィも試験官として同行することになった。


「気になったンだけどさ」


 移動の道すがら、ふと思ったことをカリィに尋ねる。


「このクエストだけど、なんで受注定員が一人だけなンだ? 別に複数でもイイんじゃねェの? その方が早く終わるし、こっちにも都合がイイだろ」

「そういうわけにもいかない。人を雇うということは、そこに報酬を用意しなければならない。人数が増えれば、それだけ依頼人の負担は増える。今回も二人以上は雇えないと先方から言われている」

「けど、これは試験みたいなもンだし、別に報酬が目的じゃねェだろ?」

「たとえ危険が伴わないと思われるクエストだとしても、万一にも彼らが任務中に負傷してしまった場合の労災保険、彼らがミスを犯した場合の損害賠償など、まだ正式な冒険者ではないとはいえ、ギルドが負担しなければならないものもある」


 そういうことか。人数が増えれば、それだけ不測の事態も多くなる。危ない橋は渡らねェ方がイイわな。


「でも、保証付きってのはありがてェな」

「だからと言って、適当な仕事をされても困る。状況にもよるが、全額負担ということは滅多にない。それに当然、冒険者からの積み立てがあっての保証だ。年間の更新料であったり、達成ノルマであったりな」


 なるほど、と頷いてから、俺は隣を歩く利一に視線を落とした。


「だってよ。ノルマとかあるなら、利一は無理して冒険者にならなくてイイんじゃねェか? クエストなら俺が受けるし、それを利一が手伝えば問題無いだろ」


 利一は不満がるかもしれないが、怪我するような所へは絶対連れて行かねェし、仮に賠償請求されるようなことがあっても俺のミスってことにしとけばイイ。


「ノルマ? バカだなー。そんなの普通にクエストをこなしてりゃ、勝手にクリアできるだろ。オレを誰だと思ってんだ? 百年に一人の逸材だぞ」


 何ソレ、初耳。百年に一人のアホとか?

 こいつ、もう一級の冒険者になったつもりでいやがるな。どっからそんな自信が湧いて来るンだ。よく見張ってねェと、調子乗って無茶をしかねないな。


「拓斗は登録も終わったんだよな?」

「ああ、俺だけ先に悪いな。これがギルド証だ」

「見して」


 渡してやると、利一はしげしげと眺めてから、こつこつと叩いたり、曲げようとしたりして耐久性を確かめた。


「結構分厚いんだな。曲がんないや」

「曲げンな」

「薄いよりは安全か」

「そうだぞ。薄すぎると、破れたりして危険だからな」

「紙じゃないんだから、さすがに破れはしないだろ」

「まあ、そうだな」


 欲しかったのは、そういうツッコミじゃねェんだ。

 男友達として扱ってくれっつー利一の気持ちを尊重してボケてみたが、セクハラしてる感じがヤベェわ。もうやめとこ。


「登録はどうやったんだ? オレ、まだこっちの世界の字は書けないんだけど」

「心臓に近い場所にしばらく挟めば本人登録できるンだってよ。俺は脇に挟ンだ」

「なんか臭そうだな。返す」

「失礼極まりねェな」


 ギルド証を突っ返され、俺は大事にズボンのポケットにしまった。

 表通りをぐるりと回り、目的の養畜場が見えてきた。

 近づくにつれて、漂ってくる家畜のニオイが強くなっていく。


 フレアの先導で畜舎に入って行くと、シャブシャブ鳥が柵を挟んで平飼いされているのが目に入った。何千羽いるのか、ちょっと数え切れないほどいる。

 その分ニオイもキツい。

 これに比べたら、俺の脇臭なんて高原の澄んだ空気にも等しいだろ。

 言ってやるまでもなく、利一は鼻を抑えてニオイに辟易していた。サキュバスになって少し鼻がよくなったとか言っていたから、俺よりも辛いンだろう。

 掃除は行き届いているみたいなのにな。ニオイがこびりついて取れねェのか。


 食材になっていないシャブシャブ鳥は初めて見たけど、茶色い鶏と見た目がよく似ている。トサカが無い代わりに、頭にはモヒカンのように逆立った羽毛が生えてるのが特徴か。ここにいるのが雄か雌かはわからないが、心なしか目つきも鋭く、「いつだって気合い十分だぜ」と言っているように見える。


「あ、いたいた。こんにちはー。アタシたち、ギルドの者なんですがー」


 前を歩いていたフレアが誰かを見つけて手を上げた。

 軽く背伸びをしてフレアの体の向こうに目を凝らすと、シャブシャブ鳥と同じく頭をモヒカンにしたじいさんが、ケージの一つを見つめて立ち呆けていた。


「おあ~……おいでくださったか~……」


 八十歳は超えていそうだな。腰は曲がり、全身が小刻みにぷるぷる震えている。風が吹けば飛んで行きそうなくらいヒョロく、今にもぽっくり逝きそうだ。

 そしてやっぱ臭う。服と体にニオイが染みついちまってるンだな。

 顔に出てしまっていたのか、カリィに「おい」と肘で小突かれ、注意された。


「そんな顔をするな。マシトリアの樹液は安くない。日用品で節約するとすれば、まずはそこからになる。湯浴みでは使わない家庭も少なくはない」

「そうなのか」


 マシトリアの樹液ってェと、洗い物とかにも使ってる万能洗剤のことか。

【オーパブ】は飲食店だから従業員も清潔にしてなきゃいけねェけど、今日からは控えめに使うか。利一が臭そうとか言うから、今の話を聞いてなきゃ、危うく遠慮無しの無制限で使いまくるところだったぜ。脇重点で。


 モヒカンじいさんの正面にあるケージから、何やら騒がしい声が聞こえてくる。

 中を確認した瞬間、利一とカリィがケージに向かって駆け出した。


「うわあ、うわあ、めっちゃいる! かっわいいい!」

「シャブシャブ鳥のヒナだ。はは、本当にシャブシャブと鳴くんだな」


 小動物を見てキャッキャする女子二人。うんうん、実にイイですな。

 俺だけじゃなく、岩男たちも、その光景にほっこりしている。


 ちなみに、シャブシャブ鳥のヒナは、まんまヒヨコだった。色も黄色だ。

 目の前のヒナたちが、雄雌交ざってしまった千羽ということだろう。


「はて~……これはまた~……大勢で~?」

「実はかくかくしかじかでして、予定どおり、報酬は一人分で大丈夫ですわヨ」

「あぁ~……はいはい~……わかりました~……」


 耳が遠いのか、若干大きめの声でモヒカンじいさんにフレアが事情を説明した。


「ふんふん。えーと、こちらゲンシュー・ムネワキさん。ご家族でここを経営されているそうなんだけど、他の人は仕事で忙しいみたいだから、この方がクエストに立ち会ってくれるそうヨ」

「どうぞ~……よろしくお頼みしま――……はぅあっ!?」


 ゲンシューさんが、挨拶の途中で足をもつれさせた。

 近くにいた利一とカリィが咄嗟に支えてやり、事なきを得る。


「むほほ。すみませんな~……このとおり、体もガタがきておりましてな~……」


 気のせいか? ゲンシューさんがでれっと鼻を伸ばし、利一の胸元を覗き込んでいるように見える。いや、絶対見てンだろ。


「――あっ!! おじいちゃん、またやってる!!」


 お孫さんだろうか。現れたのは三十代くらいの女性だった。


「アンタたち、ギルドから来てくれた人よね? そのおじいちゃん、ボケた振りをしてセクハラしてくるから、若い娘さんは絶対に近づいちゃダメだよ」


 とだけ言って、女性はさっさと他の仕事へと消えて行った。


 利一とカリィが、無言でモヒじじいから離れた。

 ついでにフレアも離れて俺の後ろに隠れた。お前は大丈夫だろ。


 なんとも言えない気まずい空気が流れる中、おもむろにゲンシューさんが、くの字に曲がっていた腰をピンと伸ばして咳払いをした。


「えー、それではこれより、シャブシャブ鳥のヒナの雄と雌を見分ける方法を説明します。一度しか説明しないので、しっかり見ているように」


 そうして、はきはきとした声で何事も無かったかのように言った。

つなぎ回っぽくなってしまいました(汗)

「マシトリア・リキウ」……仏語で「女子高生」という意味です。


第21話は11月26日 12時更新予定でよろしくお願いします。

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