賢者の定義
前回のあらすじ。
賢者様が分裂した。
以上。
いや、分裂したという表現は正しくないか?賢者様のすぐ横に賢者様と全く同じ姿形をした人間が現れたのだ。
隣のティアを横目で見ると目を見開き口をあんぐり開けている。恐らくおれも同じ顔してるんだろうなぁ。
流石異世界何でもありだな。
「ではショーの方はお願いしますね」
「あらあら。私もそっちが良かったのですが、まあいいでしょう。承りました」
うふふと笑うとこちらを向いて、
「では行きましょうか」
「「いやいやいや」」
ティアとハモった。
「まあ色々聞きたい事もあるかとは思いますが、それは先程の疑問と同時に解消出来るものなので一先ず私の家に行きましょうか」
「なんか私、お預け喰らった犬の気分よ・・・」
犬に変化したティアが串焼きの前でお預け喰らってるイメージが・・・。
「プッ・・・くくく」
「タクミ!?」
思わず吹き出してしまった。
ティアに怒られながら賢者様についていくと5分くらいで立派なレンガ造りと思しき家が見えてきた。
「立派な家ですねえ」
「うふふ。私一人には大きすぎます。さあどうぞ中へ」
通されたリビング?は何とも落ち着いた雰囲気だった。暖炉の暖かな光が心地いい。
「さて、何から聞きたいですか?」
テーブルに対面で腰を下ろした所で賢者様が口を開いた。
「あ、もう聞いても大丈夫なんですか」
聞きたい事は山程ある。主に魔法関連。
「ええ、ゆっくり腰も落ち着けましたしね。私からもお話したい事があるのですけれど、そちらの方は少し長話になりそうですからね」
じゃあ遠慮なく。
「盗賊に使った魔法、あれはどういったものですか?」
文字書いて飛ばしたやつと、盗賊を消したやつ。
後者は大体当たりがつくけど。
「あの時は二つの魔法を使いました。最初に使ったのは【言伝魔法】といって、魔力で書いた文字を任意の人にのみ見せる事が出来る魔法です。もう一つは【転移魔法】で、自分周囲の物体を自分の入った事のある、又は完全にイメージの出来る場所に瞬間的に移動させる魔法です」
やっぱり転移魔法だったか。
「盗賊はどこへ飛ばしたんです?」
「うふふ。私は王都の冒険者ギルド長と少し縁が有りましてね、彼の元へ状況説明と共に後始末を丸投げしました」
丸投げって・・・。
「なるほど、どうしたものかと思っていたのであの時は助かりました。ありがとうございます」
「いえいえ、礼には及びませんよ。私の大切なお客様を守ってくれたのですから。本当にありがとうございました」
俺からしてみれば初めて人間の敵を相手にしたとはいえ、あっさりと労せずして捕らえる事が出来たのでそんなに感謝されると何ともむず痒いな。
「では最後にもう一つだけ。さっき賢者様が分裂したアレはどういったものですか?」
2人に増えたアレ。
神様の所でスキルを選んでた時にはそれっぽいの無かった気がするんだよなー。あったら絶対選んでた。
「うふふ。あの魔法は私のオリジナル魔法なんですよ」
「オリジナル魔法!?」
今まで黙って俺と賢者様のやり取りを見ていたティアが急に大声をあげた。
やっぱりオリジナルの魔法を作れるのってすごいのね。
「当たり前じゃない!魔法っていうのは誰かから習ったり祝福を受けたりっていうのが一般的で・・・そりゃ何年か努力を重ねれば既存の魔法は独力で習得出来るけど・・・全く新しい魔法を創り上げるなんて聞いた事もないわよ!」
「ほー!賢者様凄いんですねえ」
どうやら新しい魔法を1から創り上げるのはとんでもなく凄い事らしい。
地球でいうと最初にテレビを考えた人位すごいのだろうか。いかん、例えがテレビしか出てこない。
「賢者ですから」
ニッコリと柔らかに微笑む。
その答えはどうなんだろうか・・・。
「さて、もう質問も無いようですし、そろそろ私からのお話にでも移りましょうか。少し長くなるのでお茶でも淹れてきますね」
そう言ってキッチンがあるであろう場所へ歩いていった。
「はー賢者様凄いわね。もう圧倒されっぱなしよ」
「そうだな、まさか自分で魔法を作れるとはな」
「本当に凄すぎよ。過去の大魔導士と言わしめた人物でもオリジナルの魔法を作れるなんてどの文献にも載ってないわよ」
「やっぱりそうなのか・・・。あんな凄い人に魔法の先生になってくれなんて頼んだ所で引き受けてくれるのかなぁ」
「喜んでお引き受けしますよ」
いつの間にか自身の周りにティーカップを3つ漂わせた賢者様が戻ってきていた。
それも魔法か。
「ああどうもすいません。・・・ていうか引き受けてくれるって本当ですか?」
目の前にフワフワとやってきたカップを受け取る。
一口頂く。レモンティーのようなスッキリとした飲み口でとても美味しい・・・!
「うふふ。その話もこれからお話する話に関係があります。では順を追ってお伝えしましょうかね」
ティアも謎茶を頂たようだ。すぐ隣から感動したような少し興奮したような声が聞こえる。
「まず、私は自分で魔法を創造できます。創った魔法は様々ですが、その中の一つに未来を視る事が出来るものがあります。実はこの魔法は失敗作で、意図的に視る事は叶わず、ふとした時に突然未来の状景が見えるのですが、一週間程前でしょうか?その時も突然視えたのですけど、その内容がとても看過出来ないもので。
今までのどの未来視よりも長時間見えていました。幾つもの光景が流れていきました。荒野での争いごとの最中、崩壊した都市や歓喜に沸く王都など。その時私は感覚的に理解したのです。崩壊した都市はこのまま無為に時間を過ごし、荒野での争いごとを迎えた時の未来。歓喜に沸く王都の光景はそれを退けた先の未来なのだと。そしてその明るい王都での中心にはタクミさんとティアさんの姿もありました。
それで確信しました。この未来の別れ道の鍵はタクミさん、ティアさん、貴方達二人なのだと」
「・・・・・・」
ちょっといきなり話が大きくなり過ぎて理解が追い付きません。
隣を見るとティアも今の話を上手く消化出来てないのか固まっている。
「うふふ。まあいきなりこんな重たい話をされても頭が追いつかないですよね。まあ件の事件までは1年近く時間がありますし?ゆっくり消化していきましょう。勿論魔法と剣術の修行をしながら、ね?」
賢者なのに剣術も使えるのか・・・。
「・・・もうなんでもありですね・・・」
俺が力なくそう言うと。
「賢者ですから!」
・・・なるほどなぁ。
ここから物語が大きく動いていく予定です。
タクミとティアに待ち受ける運命や如何に!?