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お互いの夢

 村では亡くなった人の鎮魂も込めて、ゴブリン退治の宴が開かれた。

 この時とばかりに解放された蔵から出される食料や酒で、皆盛り上がる。


 俺たちの村では、亡くなった人を天に送る意味も込めて、大いに盛り上がるのが風習だ。


 ふだんは無口なお父ちゃんも、ここぞとばかりに下手くそな剣の舞いを披露ひろうしている。


 暮れなずむ夕日を見ながら、皆の輪から少し抜け出していると、


「英雄がこんな所に居ても良いの?」


 ティルンが話しかけて来た。俺は、


「英雄なんかじゃないよ、一番ひどい時にいなかったし。昔から……自分の事ばかりで嫌んなる、周りが全然見えてないんだ」


 今回初めて気付いた気持ちを、素直に伝えた。数値だの、能力だのばかり気にかけて、一番そばにいる家族の事を、何も考えていなかった。村人にしてもそう、自分にあまり関わりのない人は、名前すら覚えていない。


 つまりこの世界に転生してから、ろくに生きてこなかった。どこかフィルターを通して、冷たい目で見、人に触れずに生きてきたんだ。幼馴染の死を前に、ショックを受けたのはそうした部分に気付いたせいかも知れない。


「へぇ、そんな事考えたりするんだ。あなた意外としっかりしてるのね」


 夕日に照らされたティルンの瞳が輝く。ふんわりと照らされる頬は自ら光っている様に神々しく見えた。

 ボ〜ッと見ほれていると、顔を赤く染めたティルンが、


「何見てるのよ、とにかく今回はお疲れ様、今夜は早く寝なさい。三日後にまた村まで送ってよね」


 と言うと、村長達の方へと戻って行った。村人達は一晩のんで歌って、泣いて、今回の痛みを分かち合う。

 そして明日からまた、地道にコツコツと普段の生活を取り戻していくのだ。


 そんな頼もしい同胞達をながめると、自宅に戻った。

 今日は流石に疲れた、魔法使いと戦うという緊迫感は、相当精神力をけずった。


 お母ちゃんや兄弟も祭りに参加して家にいない。いつもの干し草に一人寝転がると、 暗がりに引きずられるように、すぐに眠りに落ちた。


 翌朝、またもや日の出前に起きると、もう大丈夫だろうと思い、力の木の実を取りに行く。森はいつもの様子を取り戻していて、昨日までの物騒な気配はみじんも無かった。


 まあ俺は結局、ゴブリン襲来の気配は感じられなかったんだが、村人の見張りも立っているから、まず安心だろう。


 今度村長の狩りについて行って、そこらへんの極意を教えてもらいたいものだ。


 そんな事を考えながら、三日間毎朝通って少しずつ実を取ったが、木は輝きを減らす事なく、19個の実を食べることができた。


 変わった点といえば、


 力:744

 速さ:49

 HP:91


 頑健(神):Level:8(933/1280)


 装備

 牛殺しのメイス


 各パラメーターは順調に伸びている。そしてお気付きだろうか? 牛殺しが棍棒からメイスとなっている。


 これは今回の騒動の功労者という事で、村の皆から何かを贈ると言われた時に、


「じゃあこの棍棒を強化してくれませんか?」


 とお願いしたのだ。それを受けた鍛冶屋のおっちゃんは、鉄の筒を加工して棍棒の先にハマるようにすると、その周りに三角の板を四枚取り付けてくれた。


 おっちゃんが言うには、岩をぶっ叩いても、曲がる事はあっても折れたりしにくい、柔らかめの鉄らしい。喜び勇んで振り回すと、おっちゃんにえらく叱られた。


「棍棒の時とは殺傷能力が段違いに上がっているから、むやみに振り回すな!」


 と念を押される。確かに、今までは単に棒を持つ子供だったが、これからは武器を持っているという自覚がいりそうだ。


「ほんじゃ〜、大魔女様によろしく。ティルンさん、本当にありがとうございました。これから何かお困りの事があったら、ワシらにも遠慮なくおっしゃって下さい。村のもの総出でかけつけますべ。カミーノ、道中失礼のないよう、しっかり送り届けるんだぞ。お礼の品も失くすなや」


 俺たちは村長に見送られて、高地村へと旅立った。土産の品とは、村の特産品である芋や獣肉、毛皮など。背負い袋にこれでもかと詰められた品を、俺一人で担いでいる。


「あんた本当にこき使われてるわね。まあ村があの状態じゃ仕方ないけど。使われるだけじゃなくて、何かやりたい事とか無いの?」


 行きと違って、帰りのティルンは口が軽い。今回も探知魔法は使っている。つまりは少しうちとけたという事だろうか? だとうれしいなぁ。


「俺は冒険者になりたい」


 最近できた夢ともつかぬ、ボンヤリした目標を言ってみる。今までは生きて行く事だけで精一杯だったからな。


「で? 冒険者になって何をしたいの?」


 とさらにつっこまれて、言葉につまった。何がしたい? 冒険? どこを? 全てがふんわりと決まっていない。だって世界の事を何も知らないから。


「ハァ〜、やっぱり何も無いわけね。世間知らずの子供はこれだから……」


 少し得意気なティルンに、


「じゃあティルンの夢は何なのさ?」


 と聞くと、


「そ、そんな事、言う必要ないでしょ?」


 と拒否された。


「え? 人に聞いといて、自分のは言わないの? 分かった、ティルンも大した夢がないんでしょ?」


 俺がからかい半分に聞くと、ムキになったティルンが、


「そんな事ない! 私の夢はねぇ、私の夢は……これよっ!」


 胸元からネックレスを取り出した。その先端には、銀色の指輪がつり下げられている。


「指輪が夢?」


 アホヅラでたずねる俺に、


「指輪の片割れの持ち主、私のお父様を探すのが夢なのよ。お母様は高地村でなくなったわ。これが遺品。これと対になった指輪を持っているはずなのよ」


 と言うと、指輪をギュッと握りしめた。なんだか複雑な事情がありそうだ。だけどこんな話を軽薄に聞きだすのは、なんだかためらわれる。


 俺が無言で歩いていると、


「なに黙ってるのよ? 気を使われると、余計に気になるじゃない」


 と抗議を受けた。じゃあ遠慮無く。


「その片割れって……どうやって分かるのさ?」


 と言うと、指輪の表面を見せて、


「ここに浮き彫りになった◯が有るでしょ? もうひとつにも◯があって、指輪を重ねると∞の形になるのよ。だからピッタリはまる指輪を持っているのがお父様って訳」


 さらに◯の横には、複雑なもようが彫り込まれており、もうひとつと合わせる事で、文字ができあがるらしい。


「じゃあ父ちゃんを探し出して、一緒に住むのが夢?」


 と聞くと、


「それも有るけど、それだけじゃないわ。そうね、またいつか教えてあげてもいいわよ」


 そこで話は終わり、とばかりにニッと笑った。俺もこれ以上追及する事なく、それなりに色々と話しながら高地村まで辿り着く。


 村ではこの間見なかった、他の村人も総出で待ち構えていて、皆が口々に、


「ティルンちゃん、おめでとう!」


「これで本格的な魔女の道に進めるな」


 などと祝福の声をかける。ここでは俺の存在など眼中になさそうだった。

 黙って大魔女様の建物まで行くと、弟さんが扉を開けて招き入れてくれる。


「おぉ、ティルンやぁ、無事帰ってきたかぁ。お疲れさんじゃぁのぅ」


 大魔女様はティルンを抱きかかえると、背中をさすりながら喜んだ。ティルンも顔を真っ赤にして、嬉しそうに抱きついている。


 俺はかついできた荷物を下ろすと、弟さんに、


「これは村からのお礼の品です。ここに置いておいて良いですか?」


 とたずねた。弟さんは、


「おぉ、おぉ、こんなにぃ、すまんがぁ、村の倉庫までぇ、運んでくれまいかのぅ? わしゃぁ腰が悪くなってもうてぇ、こんなに運べんでのぉ」


 と頼まれて、倉庫まで持って行く事になった。ご神木の根元、複雑にからまりあった根に、広大なスペースの倉庫がある。そこに持ってきたものを置くと、自然とあるものに目が行った。


 魔力の実が箱に詰められて、山積みになっている。


 俺が目をくぎづけにしていると、


「そいつはぁ、ご神木様のぉ、養分とするためのぉ、大切な種じゃぁ。お前さんは実の力を取り込めるんじゃったのぉ。どれ、これくらいなら分けてやろう。持って行くがぁえぇよぉ」


 フォッフォッフォッと笑いながら、片手につかんだ魔力の実を分けてくれた。その数四個。

 そうか、食べられない実にも使い道があるのか……もし要らなかったらもっと貰いたいところだけど、これで我慢しよう。


 手の中の実を見つめると、未練をたちきるように袋に入れた。


 戻ってから、


「じゃあ僕はこれで帰ります」


 と言うと、さっきまで親しくなりかけていたティルンは、


「えっ、もう帰るの?」


 と少し残念そうにしてくれたが、日がくれるまでには帰りたい。そう告げると、


「それじゃあのぉ。今回はぁご苦労じゃったねぇ。そぅそぅ、一つ宿題をあげるよぉ」


 と言うと、大魔女様は俺のひたいを指でついた。

 モニョモニョと呪文を唱えると、そこがジンワリと暖かくなってくる。


「いいかいぃ? これから毎日ぃ、ここの温もりを感じてぇ、生活するんじゃぁ。最初のぉ内はぁ、護符を握ればぁ、助けにぃなるでなぁ。そして何かぁ変化があったらぁ、またおいでぇよぉ。分けられる実ぃも用意しとくでなぁ」


「それは魔力開眼の儀式? まさかカミーノに魔法の才能があるってこと?」


 ティルンが興奮したようにしゃべるので、俺も興奮して、


「本当ですかっ?」


 と聞くが、大魔女様は笑って首をふって、


「宿題じゃぁ、宿題」


 と繰り返すのみ。とうとう明確な答えをくれることはなかった。


 俺は帰り道もひたすらひたいの温もりを感じながら帰った。これでもしかして魔法が使える? ティルンの火の玉なんてかっこよかったな、でもゴブリン・シャーマンの緑石があるから、風魔法なんかも使えると良いなぁ。などと妄想が膨らむ。


 こうして村に帰った俺は、さんざん期待して毎日を送ったが、一向に魔法が使えるようにはならなかった。

 平和な村には、それ以降めぼしい事件も無く、一年……二年……三年、と月日は流れる。


 そうしてごくたまに現れるモンスターなどを倒しながら、村長のもとで狩りの指導を受けて、もちろん枯れない程度に力の実を採取した俺は、みるみる成長すると、村一番の体格を持つ青年へと成長をとげた。




 ***第一章〜完〜***

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