エピローグ
〝この街も育ったな、そろそろ俺なしでも大丈夫だろう〟
真っ赤な杖をついた男が、街を一望できる山の頂から、城壁都市にまで発展した街を見下ろす。
交易ににぎわう街道は、はるか南方都市まで真っ直ぐに伸び、かつて他教徒から〝惨劇の大地〟と呼ばれた荒地の、名残りすらなかった。
男の口元には少しのシワが刻まれているが、髪も眉も黒々としており、ガッシリとした体型は若さを保っている。
〝そうでちゅね、この世界に聖火教も広まりまちたち、機を逃ちゅと旅立てなくなりまちゅ〟
男以外には誰もいない。だが確かに何者かが男に返事を返した。もっともそれは声に出された会話ではなかったが。
〝理想郷カミーノ〟
溶岩壁に囲まれた都市は、その外縁部にも住居を増やし、二重三重のスラム街を形成している。
肥沃な土地に実る豊富な作物と、ヒヒイロカネと呼ばれる特殊な鉱石、そして美しい湖に恵まれた景観から、聖火教の聖地であるこの地を訪れる者も多い。
カミーノと彼の妻達によって開拓されたこの都市は、現在七人の超越者によって成り立っている。
内政を一手に引き受けるウールル、彼女は聖火教エルフ支部長としても活躍していた。
それを支える諜報部隊を率いるのは、妹のウールナと、女忍者のサエ。
エナは将軍となって、軍を編成し、外敵から街を守り、時に遠征にもおもむく。
ホワイティーは冒険者ギルド・カミーノ支部長となり、周辺に点在する迷宮、その担当大臣であるマオリンとガッチリタッグを組んで、莫大な迷宮特需をもたらしている。
ホーリィは聖火教会の司教として、布教活動にまい進しており、世界各地に信者を増やし続けていた。
そしてアヤカは、聖火教の最終兵器として、街中で日がな一日あやとりをしてニコニコと過ごしている。
カミーノをのぞけば、彼女は二番目に人気のある聖(巨)人とされている。信者たちと平気であやとりに興じるフランクさと、時に不穏分子が現れた時の〝異教徒くっつくん〟による容赦ない制裁。聖悪併せ持つ多腕鬼神として、恐れ崇められていた。
そして一番人気なのは、なんと言っても〝獄火の聖女〟ティルンである。草創期より外交、内政を一手に引き受け、迷える信者達を導いてきた。獄火の魔導書を片手に皆を先導する姿は、今も人々の脳裏に焼き付いている。
だがその彼女も、もうこの街にはいない……
「そろそろお時間です、よろしいでしょうか?」
うやうやしく語りかけるオレンジ髪の魔人にうなずくと、
〝お前と二人連れの旅は初めてか〟
と自らの頭を撫でた。話しかけられた分身ともいえる存在〝火神(幼体)〟は、
〝二人、ではないかもでちゅ〟
と言う。その時、目の前を黒い影が横切った。
〝ディアだめだ、この旅は俺でしか耐えられない、魔界への旅だぞ〟
と言うが、
〝私は魔界の狼、ダイアー・ウルフの女。この旅にはうってつけよ。それにこれは皆の総意〟
と口角を上げると振り向いた。それにつられて後ろを見ると、アヤカの転移魔法で送られてきた仲間達、そしてその子供達が手を振っている。
一番小さなウールナの娘ウーリルが、
「パァパ〜」
と手を振る。思わずほころぶ顔を、グッとこらえて火力の杖を握ると、
〝行ってくる、後はよろしくたのむぞ〟
と皆に念話を送って、
「よろしく頼む」
とハーボウレラリラを見た。
「ではこの契約板に血を一滴垂らして下さい」
薄い石板を取り出したハーボウレラリラがうやうやしく差し出すのに、ガリッと指先を噛んで血を垂らす。
すると、契約板が光を放ち、俺を包んでいく。その中にスルリと入り込むディアの背中を撫でると、
〝輪廻の指輪にさらわれた、俺の嫁を取り戻す〟
と決意を念じながら、異世界へと転移した。
「行ってらっしゃ〜い」
「お帰りをお待ちしておりまする」
「新しい嫁は一桁までね〜」
という声を残してーー
「さてと、ではみなさまごきげんよう。あ〜忙しい忙しい」
と火花を散らすハーボウレラリラは、チラリと石板に目を落とす。そこには、旅立つカミーノのステータスが記載されていた。
亜神Level:7
力:1248560(2497120)
速さ:178657
器用:258658
知力:56820
魅力:206832
魔力:856427(1712854)
HP:2685700
MP:356980
保有スキル
頑健(絆)
聖火力(神):Level:MAX
生命の炎(神):Level:8(540/1280)
棍棒術:Level:MAX
投擲:Level:MAX
格闘技:Level:MAX
気闘術:Level:MAX
気砲術:Level:MAX
熱量吸収:level:MAX
聖火魔法:Level:MAX
愛火魔法:Level:7(287/640)
装備
火力の杖
紫雲糸のストール
救世主の服
「あ〜あ、カミーノさん、あいかわらず知力だけは一桁低いんですね〜」
ふふっと笑うハーボウレラリラの、髪の毛から飛び散る火花が、形を変えると、
「お前もサッサと来るでちゅ、新ちい信者を少ちでも集めないと」
赤子の手となって、光の中に引きずりこんだ。
***THE END***
これにて完結。沢山の感想、ブクマ、ポイント、PV、そして何よりレビューをありがとうございました。いたらぬ点も多々ございましたが、貴重なご意見を消化して、次作に活かせたらと思います。大変お見苦しい展開等を、読んでくださった全ての方に感謝しつつ、お別れしたいと思います。重ね言葉になりますが、ありがとうございました。