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イフリートと絆

 アヤカを加えた俺たちパーティーは、ほぼ無敵状態で、手当たり次第に迷宮を攻略しまくった。


 俺たちの腕前もさることながら、難攻不落と言われた迷宮でも、ここぞという時に運が向いたり、どうしても攻略出来ないパズルのような迷路の地図を、地上で手に入れたりと、出来すぎなくらいに事が進んでいく。


 おかげで最高位の白色ランクまで昇りつめた俺たち〝聖火団〟は、迷宮都市で知らぬもののいないパーティーとなっていた。


 その収益金はものすごい額に跳ね上がり、パーティーで管理しきれないお金は、冒険者ギルドに一括管理してもらっている。


 だが俺の取り分だけは、前と同じくある事業につぎ込み続けた。それは迷宮都市に来る時、村で助けたヒルト導師を代表とする、救済団体きゅうさいだんたいの設立、そして俺の能力をオルファンさんの紹介する貴族や大商人だけでなく、一般人にも広く利用してもらう仕組み作りだった。


 あまりおおっぴらにやると、他の宗教団体から圧力がかかるため、水面下で動いてもらっている。かなりのお金をつぎ込んだから、より多くの人を救うきっかけ作りができているようだ。


 休日に配食が始まると、教会の前に列ができるほどである。それを見た既存きぞんの宗教団体や、それにつながる権力者がどう思うか……俺にそこまでの考えはなかったが。







 *****







「君がカミーノ君かね? オルファン殿から話は聞いているよ。娘の件は助かった、本当にありがとう」


 渋い声で話しかけて来るのは、迷宮都市にほど近い、交易都市カザンの領主アルナト三世。迷宮都市からの産品を販売するルートを作り上げた、やり手の地方領主だ。


 立派なお屋敷の謁見の間にひざまずいた俺は、頭を下げてかしこまっている。


「娘の恩人をかしこまらせる訳にはいかない、顔を上げてこちらに来てくれたまえ」


 アルナト三世が言うように、俺はオルファンさんの依頼で彼の娘の治療を行った。病の原因は最近猛威をふるっている病魔、世間では死の数日前から顔色が真白になる事から、白病はくびょうと呼ばれ、対抗策のない死病として、恐れられている。


 アルナト三世の娘、10にも満たない少女の顔も、完全に色素をなくして真っ白になり、呼吸も浅く、死の一歩手前という状態だった。だが頑健(波)で治療をほどこすと、一命をとりとめて、今では歩けるほどに回復している。


 たいそう喜んだアルナト三世は、三日間も感謝のうたげを開き、足止めをくらった仲間達がそろそろ迷宮都市に戻りたいと言い出したころあいに、呼び出しがかかったのだ。


「実は折り入って頼みたい事がある」


 というアルナト三世の話を聞くと、どうやらラブリーフ教団が、俺の事をマークしているらしいとの情報をくれた。チッ! あいつらまたちょっかいを出してくる気か? 迷宮都市では大っぴらに手出しできないから、この地にいる間に、何かを仕掛けてくるつもりかも知れない。


 その上で、


「ここに定住してくれるならば、それなりの地位と共に、あなたとお仲間達を保護しよう」


 と提案してくれた。


「だが断れば、街の外に待機している軍勢に引き渡す事になる」


 と言う。なるほど、この三日の宴会は、俺たちを足留めするためのものだった訳か……


 俺の顔を見て少し笑みを浮かべるアルナト三世、いやジジイを無視すると、クルリときびすを返して謁見の間を出ようとした。


「まて、このまま帰すと思うか? 皆の者であえ!」


 という声を聞いて、ワラワラと部下の兵士達が謁見の間を埋め尽くす。だが俺の側には気闘術の壁が出来ていて、触れる事はおろか、近寄る事もできない。


「もし、娘さんを助けた事を恩と思うなら」


 立ち止まり、振り向きもせずに、


「俺たちを放っておいて欲しい。これはお願いではなく、忠告です」


 と声を上げると、力の杖をトンとついた。かん高い音と共に、分厚い大理石でできた床が、その一撃だけでヒビ割れると、取り囲む兵士達が一歩ひるむ。


 それをかき分けるように扉に進むと、その先には兵士達をなぎ倒して駆けつけた仲間達がいた。そのまま町外れまで逃げるが、門の側は衛兵が詰めており、出られそうにない。


「街の外に軍隊が駐屯ちゅうとんしています」


 いつの間にか近くに居たサエの報告に、ウールルもうなずく。


「かなりの数の兵士ね、精霊の気配から魔法使い達もかなりの数配属されているのが分かるわ」


 なるほど、前回の一件から、俺たちに対抗するために魔法使いを雇い入れたか?


 かなり用意周到な感じがするが、ここは一点突破しかないか? と思っていると、


「〝扉〟のあやとり魔法で迷宮都市に戻れるよ?」


 アヤカがあっけらかんと告げた。あやとり魔法の中に、瞬間移動があるらしく、万箱迷宮外に出てからは使えるようになったという。


「まじか? なんて便利な魔法があるんだ! 早速やってくれ。全員送れるのか?」


 という質問に、


「あっ! 私のあやとりで送るから、私は行けないわね」


 とまたもやあっけらかんと告げた。ええっ! こんな所に仲間を置いては行けないだろう。いくら巨人で絶大な魔力を持っていても、軍隊を相手には……アヤカなら何とかしそうだが……でも何があるか分からない。相手には魔法使いも居るし、俺たちに一度攻略された経験もある。


 俺が悩んでいると、


「ティルンと私が力を合わせたら、炎の大精霊(イフリート)を実体化できると思います。別名力の精霊とも呼ばれるイフリートならば、アヤカさんの魔力あやとりを、一時的に支える事ができるかも知れません」


 とウールルが提案してくれた。方法があるなら、それにかけたい。とお願いすると、


「簡単に言うけど、二人で魔法を使うのは、神経使うんだからね。それに時間もかかるわ、どうするのよ?」


 とほおをふくらます。俺はニヤリと笑うと、


「それくらいの時間は俺たちに任せろ。な? ディア」


 側に座り込む狼型のディアを撫でると、首を上げて目を細める。それにホワイティー、マオリン、サエ、ウールナの敏捷性に富んだメンバーがうなずいた。


 ちょうど俺たちの気配に気づいた衛兵達が、集まり始めてきた。エナに後衛組の近辺護衛を任せると、迫り来る兵士達の前に出る。


 なるべく罪のない兵士達は傷つけたくない。それはメンバー皆も同じらしく、わき出る気配にはトゲが無い。俺は気闘術の力を弱める代わりに、範囲を広くすると、狭い路地から兵士達を押し出した。


 その上を軽装の拙攻兵が飛び越えてくる。だが立体殺法ならばホワイティー姉妹(本物の姉妹じゃないけど)にはかなわない。


 よこあいからとび蹴りをくらって、撃墜げきついされた兵士は、俺の気闘術に跳ね返されて飛んでいった。


 あれ? 地面に倒れこんで動かないけど、大丈夫かな? たぶん大丈夫だよね?


 その間にも、後ろからやって来た弓兵隊がこちらを狙って矢をつがえる。たぶんこれくらいの威力なら大丈夫か? と思って、気闘術の出力を上げていると、後ろからいきなり数本の矢が放たれて、兵士達の弓のげんを狙撃していった。


 全く気配を感じさせなかったウールナが、こちらを見てニコリとほほ笑む。その横にいたサエは、ガラガラと押し出されて来た機械式のいしゆみに向かって駆け出すと、操作しようとした兵士達の影を、闇魔法で地面にぬいつけていった。


「こんなもんでどうかにゃ?」


 街の壁を蹴って戻って来たホワイティーの声に、ティルンとウールルの方を見ると、ウールルの描いた魔法陣に向かってティルンが魔力を行使していた。


 周囲も赤く染めるほどの紅蓮ぐれんの炎が天に伸びる。その魔力は、離れて立つ俺をも圧迫するほど強力だった。


 側でそれをみているアヤカが巨大化した10本の手を叩いて喜んでいる。


「炎の大精霊イフリートよ、私の呼びかけに応えて、姿を現せ」


 ウールルの呼びかけにティルンの魔力が乗って、魔法陣の上に炎の柱がふきあがる。白色に色を変えた極太の火柱は、魔法陣の範囲を超えて広がり続けた。


「おかしい! 上位精霊のイフリートとはいえ、これほどの魔力を発揮するなんて異常だわ」


 ウールルの声がいつに無く真剣である。冷静な彼女をここまで焦らせるとは、大変な事態なのかもしれない。


「やめることはできないの?」


 隣で魔力を出し続けるティルンが聞くが、ウールルは首をふって、


「ここでやめたら、不完全な炎の魔力が爆発してしまう可能性があるわ。こうなったら召喚を完成させるしかないの」


 溢れ出る魔力に圧倒されながらも、懸命に魔法陣を維持すると、ティルンを鼓舞するように、力いっぱい励ました。


 ティルンは自身の魔力が吸い込まれ続けるのを感じたのだろう、その勢いに恐ろしくなって顔がひきつっている。だが縮こまる心が折れそうになった時、全身を金色の光が包むと、暖かい力がわきあがってきた。


 頑健(包)と(波)をダブルがけしてティルンを保護していると、それ以外の力も湧き上がってきた。何だろう? と思って光るステータスに気を向けると、頑健(絆)という文字が出現している。しかもそこには数値が記されていなかった。


 これは何だ? と思いながらも、湧き出る力をティルンに注ぎながら、


「頑張れ!」


 とエールを送る。


『そんな顔で応援されたら、底力をだすしかないじゃないの』


 ティルンは心の中で文句の様な感謝を述べると、尽きる寸前の魔力を振り絞った。


 今までに無い特別な力が、ティルンの中に湧き上がってくる。それをきっかけにご神木の加護が発動ーー次の瞬間、燦然さんぜんと輝く火柱が巨大な人型になると、超高温の人物像となって空中に現れた。


 触れるだけで溶けてしまいそうなそれが、手を伸ばしてくると、


 〝お主がカミーノか〟


 と俺を指差して強力な思念を発してきた。他のメンバーは、あまりにも高い魔出力に、雑音としか聞こえず、耳を保護してうずくまっている。


「俺がカミーノだ」


 何故大精霊に名前を知られているかは分からないが、胸を張って答える。すると熱線を放つほどジロジロと観察されたあげく、


 〝お主をわが神殿に招待する、困った時はボルガ山の火口まで来い。そこにお前達の住処すみかを用意してやる〟


 え? 面倒見てくれるの? なんで精霊が? と思っていると、


 〝わが名は始祖の精霊、精霊の長にして、この世界を作り上げし、創造神の一部〟


 と名乗りをあげた。うむ、かなりすごい方なのね? 聞いたこと無いけど。とにかく困ったらボルガ山に行く! 場所知らんけど! これだけは覚えた。


 〝用件はそれだけだ。それではわが配下のイフリートを置いていく〟


 というとしぼんでいった。あとには比べものにならないほど火力の落ちた、それでも炎の上位精霊であるイフリートがたたずんでいる。


「何あれ? とんでもないものがでたわね」


 と興奮するティルンに、


「あれは精霊を超えた神の領域の存在……しかも始祖と呼ばれる古の力の神……伝説の中でもめったに聞かないこの世界の力の源、あれでもその分身体ってところね」


 呆然としたウールルが言葉を添えた。やっぱり凄い奴なんだ。だが今は、皆の脱出が先である。


「アヤカ!」


 と声をかけると、


「はいよ!」


 と扉のあやとりを完成させたアヤカが答える。それを目の前のイフリートにうまいこと渡すと、魔法を発動させた。


「さあこの枠をくぐって! 迷宮都市の入り口までとぶわよ」


 小さく変化したアヤカが、一番乗りで飛び込むと、ある面を境に、消滅してしまった。俺も遅れじと飛び込む。その後を次々とメンバーが飛び込み、カザンの街をあとにした。


 その後すぐに駆けつけた衛兵隊がイフリートを取り囲むが、


「ふむ、面白そうな奴らだ。早くわが元に来い」


 とつぶやいたイフリートは火柱となって消えてしまった。


 後に残された衛兵達は、ポカンと口を開けて、この事をどう領主に伝えようか? と呆然と考えるしかなかったという。

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