再び、迷宮探索後の混浴風呂は……
万箱迷宮を攻略した時点で、俺のレベルは20近く上がっていた。
勇者:Level:75
力:16120
速さ:2015
器用:2350
知力:1587
魅力:1092
魔力:3857
HP:18357/32502
MP:201/29570
保有スキル
頑健(神):Level:MAX
頑健(波):Level:MAX
頑健(包):Level:9(57/2560)
棍棒術:Level:MAX
投擲:Level:MAX
格闘技:Level:MAX
気闘術:Level:6(124/320)
装備
力の杖
ミスリル銀線のボーラ
紫雲糸のストール
魔力糸の頑強な服
主な持ち物
魔法の袋(黒鋼塊×10、ミスリル・ダガー×10、爆魔石×10、水筒×10、水筒×10、携行食×10、携行食×10、携行食×10、MP回復薬×10、連絡石)
金袋(24金、10銀)
アヤカ……どれだけの経験値をくれたのかは分からないが、ケタ違いなのは間違いないな。
それにしても普通はレベルが上がるほど、次のレベルに上がり辛いはずだと思うが、ホイホイレベルアップしていくのは、この世界の特徴だろうか? それとも勇者補正というやつなのだろうか? 仲間のステータスが見えたら、そこらへんの考察もしやすいんだが、見えないものはしょうがない。
万箱迷宮を出た後、皆の記憶はあいまいで、肝心な部分は思い出せないようだった。ただもの凄く苦戦したのと、アヤカが仲間になった事、そしてその能力だけは記憶があるらしい。
魔人の記憶操作能力の凄さに、少し恐ろしくなる。こんな感じでこの世界の人間が操作されているとすれば、魔人=悪魔とする宗教もあながち間違いではないのかも知れないな。
俺はと言えば、全ての記憶が残っている。これも頑健(神)の効果だろうか? ハー某の事も、その事情もハッキリと覚えていた。
もちろんこの事は皆に伝えるつもりは無い。べつだんその事で得るものもなさそうだし、俺が覚えているという事を隠し玉にしておいた方が、今後何かがあった時に有利かもしれないからだ。
ドロドロに疲れ切った俺たちは、どうにか館にたどり着くと、風呂にも入らず、とりあえず寝込んだ。昼に帰って、次に起きたのは次の日の昼。
そこで給仕達にご飯を作ってもらって、腹一杯食べて飲んだ。それはもう飢餓状態の子供の様に手当たり次第、食料庫が空になるまで食べつくし、なおも買ってきてもらった食材を全てたいらげた。
満腹になると、今度は体の汚れが我慢できなくなる。ちょうど沸かしてくれた風呂に移動すると、皆で洗いっこをした。
アヤカも初めての割には、楽しそうに風呂に入っている。10本ある腕をフルに使って、全員分の背中を流したりと、ちょっと前まで敵だったとは考えられないくらいにはしゃいでいた。
うむうむ、オリエンタル美女、油断するとたまに多腕化、もしくは巨大化という欠点はあるものの、良いんじゃないでしょうか?
俺がアヤカを見てウムウムとうなずいていると、
「ちょっとあなた見すぎよ! エッチ」
後ろから声がかかる。振り向くと、恥ずかしそうにタオルを体に巻きつけたティルンが、
「な、なによ! 今度はこっち見る気?」
と顔を赤く染めて口をとがらせた。なんだろう? とても良い。初々しい幼なじみというのも良いものだ。またもウムウムとうなずきながら、
「肩口のヤケドもすっかり分からなくなったな」
と言うと、
「うるさい! 見ないでよ」
と振り向いて、湯船に走ってしまった。ウムウム、ツルンと小さなお尻も可愛いもんだ。まあ年上にこんな事を思うのもなんだけどね。
すっかり平和なお湯を楽しんだ俺は、リラックスしながら全員を頑健(波)マッサージした。
だがティルンはさっさと体を拭くと、脱衣所にいってしまう。
何だろう? ホーリィさんとかの方が好みのタイプなのに、こんな少女然とした幼なじみの方が気になるなんて、今までに無い感覚だった。
全員の疲れをもみほぐすと、今度はホーリィさんの癒しの魔法に加えて、皆で俺を囲んでのマッサージ返しが待っていた。
あゝ、やっぱり前言撤回、ホーリィさんの柔らかさ最高。見上げる双丘のボリュームが、俺を熱くさせる。
アヤカが手を10本出して揉みほぐしてくれる。中々うまいじゃないか、サエは絶妙なもみ力で太ももをグイグイと、あゝ気持ち良い……と思っていたら、内ももに来た手が、付け根辺りを刺激しだした。
うおお! 違う意味で気持ちよくなるぞ!
「やめて」
と身もだえると、皆の目がキランと光った。えっ! やだ、O・SO・WA・RE・RU! 次の瞬間、人化したディアが、嬉しそうに胸元に飛びつくと、俺の先端をペロンと舐めた。
「ぎゃっ!」
とうつ伏せになると、ホワイティーだろう、軟毛の有るシッポが、俺のお尻をサワリとなでる。なんという心得かっ! 同時攻撃で足裏、肘裏、膝裏、そしてうなじと、急所ばかりを4箇所攻めする他のメンバー。
わあ〜っ、とジタバタする俺の脇腹に、ドサクサにまぎれて蹴りつける奴がいた。
「いつっ!」
と言う声に振り向くと、涙目のティルンと目が合う。
「なんて硬さなのよ、この岩男!」
悔しそうに捨てぜりふをはいて、走り去ってしまった。
え? なに何? 蹴られてけなされるとか、どういう事? と頭の中が混乱していると、
「あ〜あ、ティルンちゃん頑張ってたのに、カミーノ様ったら、いけずね」
ウールルが少し面白がってる風につぶやく。
「普段は絶対に一緒に入らないのに、今回は特別だったにゃん。それをまったく……男はダメだにゃあ」
四肢をついて大きく伸びをした、その姿はまさしく女豹。と、そんな事はどうでも良い。
ジャレ始めたのはお前達だろうが! という言葉を飲み込んで慌てて立ち上がった俺は、寝台から降りると、ティルンを追って走り出した。
「カミーノ様、頑張るでござる」
エナの声に振り向くと、サエが左を指差していた。そうか、向こうに行ったんだな? と追いかけると、廊下の隅に歩み去ろうとしているティルンが見えた。
「まってくれ!」
と声をかけても、止まってくれず、そのまま角を曲がってしまった。
「ティルンまって!」
と角を曲がると、そこには壁に身を預けるティルンが、うつむいて立っていた。
「どうしたんだ? 何かあった?」
とたずねるが、首をふって何も言ってくれない。俺も何と言って良いか分からずに、黙っていると、
「私だけ……何か違う」
とポツリとこぼした。
「違うって何の事? 皆と仲良くやってるじゃないか」
少し近寄って顔をのぞきこむと、うつむくティルンの頬を、涙が伝っている。それを見た瞬間、ドキリと心臓の鼓動が上がった。それまで頑健(神)に守られてきた精神が、唐突にむき出しになったように、胸が苦しい。
「私は皆と違って可愛いくもないし、ホーリィさんのように魅力的でもない。別にそれは良いの。だけどカミーノ、あなたは他の娘ばかりと、その……」
「セックス?」
「ばっ! ばか! そんな事ストレートに言う奴なんて信じられないわ。本当にバカ!」
俺の胸をドンドン叩くティルンの腕をそっと受け止めた。湯上りの手は赤くはれている、まるで壊れ物のように大事な大事な手。
抵抗を止めた手が、胸の前で重なる。そして俺を見上げたティルンは、
「分からない、でも気持ちがザワザワするのよ。私にはやらなくちゃいけない事があるのに! こんな事でまごついている訳にはいかないのに。なんで? どうしてあなたなはそんななの?」
またもやドンと叩こうとしたので、その体ごと抱きしめると、
「ううっ」
と声をもらして本格的に泣き出してしまった。しばらくそのままにして、頭をなでてやると、落ち着いたのか、心臓の鼓動も鎮まってきた。
「ごめん、ティルンのやる事ってお父さんを探す事だよね? ちゃんとホワイティーやオルファンさんを通じて、探してもらってるんだけど、足跡すら中々見つからないんだ」
と言うと、言葉の端々にうなずく。
「それと俺って奴は、こういう状況では何の制限もなく女を抱いてしまう。本当にごめん、ティルンの事も気になっていたんだけど、つい目の前の快楽に負けてしまうんだ。でも相手も求めてくるし、つい……ね」
俺の言葉を黙って聞いていたティルンが、
「それにしても手を出しすぎじゃない? それに私の事は一度も誘わなかったくせに」
と言うので、
「俺から求めた事は一度も無い。良くないかも知れないけど、全てなりゆきなんだ。決してティルンに魅力が無い訳じゃない、それは分かるだろ?」
きゃしゃな背中をゆっくりとさすってやる、幼い子をあやす様に。少しむず痒がりながらも、リラックスしたティルンは見上げてきた。まつ毛に涙が一雫、潤んだ瞳の下には、潤った唇が真っ赤に染まっている。
今まで感じたことのない熱い気持ちがこみ上げてくる。性欲もあるのかも知れないが、それだけでは片付けられない、もっと深い情動。
〝絆〟
という言葉が浮かんで、それを消していった。この気持ちに名前を付けるなんて、何の意味もない。
呼吸の温度が肌に伝わるほど近づくと、そっと口づけを交わす。それを支える腕にティルンの微かな震えが伝わってくる。
そのまま粘膜一枚を触れ合わせた二人は、時が止まったように、感情を交換しあった。
***第三章〜完〜***