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アヤカの呪い

 手元のあやとりが完成する前に、


「凄い魔力が練りこまれています! 私達の魔法などとは比べものになりません」


 ウールルが精霊魔法を準備しながらも、恐れおののく様に声を上げる。


 ティルンが熱線を発射するが、狙いが乱れて巨女を射抜けなかった。


「手元の魔力が高すぎて狙えない! あれが発動したら、私達瞬殺よ」


 焦るティルンの前に出たウールナとサエが飛び道具を放つが、緑の球体に吸い込まれてしまった。どうやらあれは精神だけでなく、物質も吸着させるらしい。


 俺たち前衛組は、ディアを先頭に巨女に迫る。飛び込んで噛みつこうとするディアに、


「ちょっと、邪魔しないで!」


 と片手に発生させた炎で焼きはらうと、その威力に吹っ飛んだディアは、壁ぎわまで転がって、


「ギャンッ」


 と鳴いた。すかさずホーリィの癒しの光がディアを包むのを横目に、大きく踏み込んだ俺が、突きを放つ。


 それを新たに作り出した緑の球体で受けた巨女は、


「もうっ! あとちょっとだったのに!」


 と苛立ちの声を上げると、


「これで大人しくしてなさい!」


 とそのあやとりを解いて、五つの魔法を発動させた。


 雷、炎、土、風、水の魔法が、渦を描いて放たれる。俺は気闘術を全身と力の杖にまとわせると同時に、仲間の頑健(包)を最強度に上げた。MPがガンガン減っていくが、気にしている余裕は無い。


 身の回りで魔法が炸裂するのを、気闘術に輝く紫雲糸や頑健の服が打ち消していく。それでも空中で弾ける魔法に押し返されると、地面に足を思い切り突き込んで、何とかこらえた。


 だが踏ん張りのきかない仲間は、全員吹き飛ばされて地面に投げ出されている。こうなったら何とかできるのは俺一人! 突っ込んだ足を引き抜くと、気闘術で弾ける様にダッシュする。そこへ、


「もうっ! あんたしつこいよ」


 と組み上げられるあやとり、その手は目で追えないほど速く、星型のあやとりを作り上げた。


「消えなさい! お星様っ!」


 中心部から信じられない程大量の土砂が噴出すると、避ける間も無く辺り一面を覆いながら迫ってくる。俺は力の杖を地面に突き立てると、気闘術を全開にして立ち尽くした。吹き飛ばされていたメンバーも、俺の後ろに集まると、頑健(包)の光を一つにして耐える。


 その間、一番ダメージのひどいホーリィさんは、けなげにもパーティーメンバー全員に回復魔法をかけ続けてくれた。


 巨大な岩が、瀑流にのって飛んでくる。力の杖は以前の様に突き刺した地面に根を張ると、太い幹となって俺たちを守った。


 何とか耐え切った俺が幹から顔を出すと、ふくざつなあやとりを組み上げた巨女が、


「ここをこうして、こうすると……できたっ!」


 と喜びの声を上げる。十本の腕全てを使った魔力のあやとりは、複雑に絡み合って星型の先端と、そこから伸びるいつくもの線を表現していた。


「やっとできたわ! シューティング・スター!」


 嬉々として声を上げると、あやとりがものすごい魔光を放つ。再びくる魔法の直撃に備えて、力の幹に気闘術を全開で流し込んだ俺は、仲間たちと一丸となって、幹にしがみついた。


 次の瞬間、部屋の中が真っ白に輝くと、轟音と共に何かが地面に炸裂する。それは一発ではなく、ランダムにいくつもの炸裂がおこった。

 力の幹の横を通り過ぎるそれは、小型隕石の落下! 斜めに降り注ぐ火の玉が地面に弾けると、爆発を起こして、本来は傷つく事のない迷宮をえぐる。

 こんなのをまともに受けたらどうなるか! と冷や汗が出たところで、力の幹に衝撃が走った。


 しっかりと根を張る幹が一瞬浮くほどの威力に、捕まっていた皆が弾き飛ばされる。俺は幹に捕まると、全力で押し返した。次々と炸裂する隕石とその破片に、幹を持つ手もダメージを受ける。


 俺は皆を包む頑健の力を振り絞ると、金色の光が力の幹と反応して、全体を膜の様に覆った。

 この力によって、破裂した隕石からのダメージを避けると同時に、地面と繋がる根っこが幹を立て直す。


 その間に、ウールルが準備していた精霊魔法を唱えた。それはティルンの熱線に沿って集約されると、カーブを描いて迫り来る最後の隕石に照射される。


 ティルンの放つ火球に、ウールルの乗せた雷の魔力が宿る。それは熱線を進むごとに大きくなる合体魔法。


 今までよりも巨大な隕石とぶつかると、魔力の火花を散らして爆散した。


 あまりの轟音に耳が聞こえなくなる。


 〝ヒーーン〟


 という耳鳴りの支配する中で、幹の横から巨女を見ると、驚いた顔でこちらを見ていた。うん? 物凄いオーラの輝きが魔力消費によって少しだけ薄まって見える。それはとても美しい緑色のオーラだったが、一か所だけ影が見えている。


 そこに取り憑いているのは……呪いの黒オーラか? あれほどの魔法使いなのに、誰かの奴隷となっているのだろうか?


 と思っていると、


「****!」


 何を言っているかはわからないが、手を叩いて喜んでいる。さらに十本の手に魔力糸を発生させると、先ほどのように物凄い勢いで編み込んでいった。


 やばい! あれをもう一度喰らう余力は無いぞ。


 そう思ったのはメンバーも同じで、すかさずホワイティーとマオリンの猫人コンビが突っ込んでいく。


 魔爪で迷宮の壁を削りながらの立体殺法は、しかし再度力を増した緑の光球、巨女がくっつくんと呼んでいた魔法によって、軌道を変えられてしまう。


 頑健(包)を強めるも、どうしても光球に引き寄せられてしまう。それは物理的にも、精神的にも、近くの者を引き寄せる力を増していた。


 唯一対抗できる俺は、一つの考えを持って回りこむように移動している。


 巨女が、


「あれっ? ここをこうだったよね? あれ?」


 とあやとりに苦戦しているのを横目に、少し近づいた俺は、


「ヘカトンケイルさん、あなた呪われてますね?」


 と大声でたずねた。難解あやとりに苦戦していた巨女は、面倒臭そうに首を振って相手にしてくれない。

 だが俺がしつこく呪われていることを説明すると、


「そうなのかな?」


 と初めて反応を返してくれた。


「そうです、あなたは多分呪われています。何か身に覚えはありませんか?」


 とたずねると、沢山ある腕を休めて、内一本を顎に当てると、


「う〜ん、そう言えば私この部屋から出られないわね。ここに転生してから、ずっとこの部屋、いやんなっちゃうわ」


 お手上げポーズで肩をすくめた。え!? 転生?


「まさか! 転生って生まれ変わり?」


「うん、死んだと思ったらここに居て、こんな腕になってたのよ」


 と沢山ある腕をジャラジャラと回す、そして聞き捨てならない事を言った。


「あ〜あ、もう帰れないのかな〜、お家。ハニーズのタルトが食べたいよお」


 ハニーズって、前世のファミレスじゃないか。スイーツに力を入れていて、女子高生とかに人気だったと記憶している。行ったこと無いけど。


「えっ? に、日本人?」


 と言うと、


「ええっ? 何で彩佳が日本人の可愛いJKだってわかるの?」


 大きな目を見開いて驚いた。何か付け足されてるな。それに目鼻立ちのクッキリした巨人が見開くと、なんだか怖い。

 そんな事を考えていると思われないように、必死に自分の事を話した。


 仲間達はくっつくんに吸い付けられながら、話し込む俺たちをキョトンとながめている。


「へ〜、神野さんって言うんだ。今世のカミーノって名前は本当に偶然?」


 話し相手に飢えていたのだろう、アヤカの話は尽きなかったが、今はまだやる事がある。


「で、さっきの話なんだけど、君は呪われているみたいだ」


 と言うと、ショボンと肩を落として、


「そう……確かにここからはどうしても出られないの。何度も試してみたんだけど、何故か無理なのよ」


 と言った。この子の魔法にも耐えうる呪いとなると、相当強力なものに違いない。


「ダメ元で試させてくれないかな? 俺は呪いを解くのが専門の勇者だ」


 と胸を張るとコクリと頷いて、


「カー君がそう言うのなら、私もがんばってみる」


 なんだかいきなり親しげな呼び名になったな、まあこの際良いか。俺は一つ頷くと、力の杖を向け、頑健(波)を放射した。


 次の瞬間、


「あがああっ!」


 突然多腕で頭をおさえたアヤカがしゃがみこんだ。俺は巻き込まれないように一歩さがると、のたうちまわって苦しむアヤカを見る。


 腕の合間から見える頭には、黒い血管の様な模様がにじみ出て、体全体に浮き上がってきた。これにともない獣の様な叫び声をあげ出す。


「どうしたにゃ?」


 くっつくんが消滅して、自由を取り戻したホワイティー達が近づいて来る。目の前で暴れまくるアヤカからは、真っ黒なオーラが燃え上がる様に湧き出していた。


「どういう状態か分かるか?」


 と聞くと、


「これは……呪いが思考を乗っ取ろうとしています。ある条件下で発動する呪術トラップだと思います」


 ウールルが教えてくれた。だとしたら……俺との会話で、迷宮のしばりを解こうとした事が原因か?


「皆気を付けろ! これから呪いを解いてみるが、どうなるか分からん」


 と皆に言って、少し下がらせてから、頑健(波)を放射した。まるで黒い炎を消すために消火作業をする消防隊員みたいだ。


 力の杖によって圧縮された金色の光が、苦しむアヤカに放たれる。とっさに手を出したアヤカの全身は、完全に黒くそまっていた。真っ赤に燃える眼が、吸い込まれそうなほど浮き上がって見える。


 アヤカの手からは、黒いモヤのような魔力が吹き出し、頑健(波)を一瞬受け止めたが、更に魔力を上げると、かき消す事ができた。だが素早く身を伏せたアヤカは、多腕をクモの様に地面に付けると、魔法の煙幕をはって身を隠してしまう。


 とっさに頑健(波)で煙幕をはらうと、眼前には飛びかからん勢いのアヤカが迫る。杖をこじって打ちすえようとすると、多腕で急ブレーキ、そして余った腕から炎を放ってきた。


 その腕にウールナの矢が突き立つ。精霊石のやじりには、ウールルの魔力がこめられているらしく、アヤカの腕に電流が走って、一瞬動きが止まった。


 そこへホワイティー、マオリン、エナ、ディアが同時に飛びかかる。ホワイティーの魔爪がアヤカの体を引き裂こうとした時、アヤカの腕から黒いモヤが発生すると、全員に向かって槍の様に伸びた。


 俺はとっさに頑健(包)の威力を上げると、黒の槍を弾き返した。だが同時に包まれた皆も弾き飛ばされてしまう。


 その間をみて頑健(波)を照射すると、黒い盾を作って受けたアヤカは、残る腕に電流をまとわせ、突き立つ矢を握り、表情一つ変えずに引っこ抜いた。


「大きいのいくわよ!」


 ティルンの声と共に、熱線がアヤカを狙う。黒の盾の高魔力のせいで狙いがそれるため、頑健(波)を向けて牽制けんせいすると、ちょうど胸のあたりがむき出しになった。


 そこに焦点を当てた熱線を、ウールルの精霊魔法を含んだ火球がなぞって炸裂さくれつした!


 爆風と轟音に部屋が振動する。圧迫された空気が熱くヒフを焼く中、飛び散る電流を避けながら、頑健(波)を照射してようすを見る。すると煙の向こうにうごめくものが見えた。と思った瞬間に、真っ黒なかたまりが飛び出してくる。


 エナの刀がその動きをとらえる。煙を上げながらも伸ばしたアヤカの手と打ち合うと、火花が散った。黒の刃が手刀に発生している。

 その影から姿を現したサエが、爆魔石を数個投げつけて、多腕を弾き飛ばす。隙をついてふところに飛び込むと、腰だめに構えた影縫いを突きこんだ。


 黒の盾に阻まれるも、土魔法を発動させて、地面と挟み込み、影縫いをゆっくりとめり込ませる。すると、影縫いの効果が現れ、アヤカの全身を影のベールが包み込んだ。


「早く照射を!」


 ディアも腕に噛み付いて抑え込みにかかる。各腕からは魔法が乱れ飛ぶが、ホーリィの治癒魔法と、頑健(包)の効果で、皆がなんとか押さえ込んでくれた。


 俺が力の杖を向けると、アヤカの体がブルリと震える。頑健(波)で洗い流す様に黒のオーラをはらっていくと、その中に黒いかたまりが現れた。


 核をさらした呪いは、爆発的な魔力でアヤカを操る。各腕からは様々な属性の魔法が放射されて、抑えていたメンバーは吹き飛ばされてしまった。


 頑健(波)の照射は最強度になって光り輝いているが、核から生み出される黒の盾が何重にも重なり、焼き払っても次々と層を重ねてくる。


 その間にも十の腕には、それぞれに黒の槍が生み出され、各属性の魔力をまとっていった。


 俺は頑健(波)を照射しながらも、突進をかます。それを飲み込むように盾でガードしながら、アヤカがおおいかぶさってきた。力いっぱい踏み込むが尽きることの無い魔力によって、完全に抑え込まれてしまう。


 〝ここしかない〟


 俺は心の中で〝ハーボウレラリラ!〟と唱えた。

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