迷宮探索後の混浴風呂は最高
初心者用の簡易迷宮で、このメンバーなら当然の結果だが、後日の本格的迷宮攻略に向けての下準備としても、大成功といえるだろう。
現れたモンスターはゴブリンやコボルトといった、言わずと知れた雑魚モンスター達。しかも迷宮ではモンスターの体は、死ぬとあとかたも残らず消え去るから、収入はゼロだった。
「こんなんで迷宮に潜る意味あるの?」
と問う俺に、
「迷宮での収入は出現する宝箱と、モンスターを倒した時に、たまにドロップするアイテムだマオ。次からは収益の出る迷宮に潜るから、よろしくだマオ」
マオリンが教えてくれた。なるほど〜、だからこんなに街中に買取店が多いのか。次から儲かる迷宮に潜るって事は、厳しくなってくるんだろうな。
などと、どこか他人事のように考えながら、オルファンさんの用意してくれた、一軒家に辿り着いた。
迷宮がひしめく街の外からすぐに通えるように、外縁部にあるオルファンさんの持ち家を一軒丸々貸し与えてくれている。
さらに使用人も八名が順番にお世話してくれる。俺たちはただ住まわせてもらって、食べて、寝るだけ。至れり尽くせりな待遇に、お金でも払いたいところだが、
「いえ、お金などいりません。それよりカミーノ様の治療を必要としていますので、私がお願いした時には、是非ともお力をお借し下さい」
と言われている。もちろん、ここまでされたら治療なんていくらでもやらせていただくつもりですよ。
門番の二人にあいさつをして建物に入ると、すぐに居間でゴロゴロする。皆はそれほどでもなさそうだが、慣れない俺やホーリィさんは、気疲れがひどい。
のんびりくつろぐ俺に、
「カミーノ様、お風呂はいかがいたしますか?」
と女給さんが聞いてくる。そう、この家にはお風呂があるのだ! なんと素晴らしい! 元日本人にとってお湯につかるという文化は当たり前の習慣だったが、この世界では極一部の金持ちの道楽。
しかも都市部にある公衆浴場などは湯気を楽しむサウナのようなものらしいが、この家には湯船まであるのだ!
「もちろん入ります!」
とテンションを上げる俺に続いて、
「ご主人様が入るなら、せっしゃもご相伴いたそう」
とエナが言い、そうなるとサエも黙ってコクリとうなずく。隣ではディアが「ワンッ!」と元気に吠えて、ウールルも、
「お風呂なんて珍しいですわね、ウールナも後学のために入っておく?」
と言って、結局皆で入る事になった。一人乗り気ではないティルンを見ると、
「何よ? 私は後から入るから、遠慮なく皆とちちくりあって来なさい」
とそっぽを向かれた。別にちちくりあう訳ではないよ? 強情を張らずに皆で入れば良いのに……お湯ももったいないよ? と思って声をかけようとしたら、荷物をもって、さっさと部屋にひきあげてしまった。
なんだろう? 幼馴染の彼女との距離ができつつあって何となく寂しい。今度話し合う必要があるな。だが今は……
「カミーノ、早く〜」
と言う声に誘われるまま、皆でお風呂に。洗いっこしたり、マッサージしたりされたりしながら、キャッキャウフフな時間を過ごした。
右を向いても左を向いても全裸の美女に美少女。それぞれに違うタイプが揃っていて、眼福眼福! そこにディアがトコトコとやって来て、ドプンと風呂にダイブしてきた。
うむ、狼型のお前も可愛いよ。さすがにこの形態のお前とどうこうは考えられないけどな? と思っていると、全身に赤い紋様を光らせて、女性型に変形していく。
あれ? 今夜は満月だったか? と思っていると、
「ディア、変身、できる」
と喋った!
「ディア! お前しゃべれるのか?」
と驚く俺の腕の中に潜り込んできたディアは、嬉しそうに舌をだすと、ペロンとなめてくる。それを見たエナが、
「ディア殿だけズルい」
と俺にくっついてきた。もちろんそれに続いてサエも来ると、
「お風呂というものも気持ちの良いものですねぇ」
とおっとりした口調でホーリィさんが入ってくる。おお! 隠しているつもりの手から乳があふれてますよ。
「私はお湯はかんべんにゃん」
と言うホワイティーは、目の前で伸びをすると、丸くなって寝てしまった。浴室の床もあたたまる仕組みになっていて、居心地がよさそうだ。柔らかそうな体を包む、白い柔毛がフワリと床にたれた。
あゝ、死ぬならこの瞬間に頼みます。輪廻の女神様ありがとう(二度目)
大満足のまま、湯当たりしそうなほど風呂を楽しんだ。
ディアは途中で狼型に戻ってしまった。まだ短時間しか自力で変身出来ないのだろう。
人目をはばかるような事はしてませんよ? 単に体を洗って、リラックスしただけ。裸の付き合いで、パーティーの結束も深まったってものだ。
後から浴室に向かうティルンには冷たい目線を送られたが……なんだよ? そんな風にされると、かえって気になっちゃうじゃないか。
居間は心地よく暖められ、バスローブ一枚の俺は、大きなソファーに座り込むと、眠くなってきた。これで酒でもあればな〜、と思っていると、
「疲れをとるカクテルでございます」
とグラスを差し出してきたのは、この館の給仕長のマリオさん、白髪の渋いおじ様だ。笑いジワも深い目の奥は、鋭い光をたたえており、かなりのやり手ではないか? とにらんでいる。
「ありがとう」
と言って一口飲むと、なるほどうまい、それに少しアルコール度数が高いのだろう。俺以外の人間ならば体を温めてリラックス効果があるのかもしれない。
まあすべての薬効すらはねかえす、頑健(神)MAXの前では、意味無いが。
リラックスしているところへ、冒険者ギルドから戻ってきたマオリンがやって来た。彼女は両手に抱えきれないほどの資料を持っている。
「今後潜る予定の迷宮の資料を片っ端から持ってきたマオ。一部屋用意してもらって、そこを会議部屋にしたいマオ」
という言葉に、マリオさんが素早く反応し、
「それでしたら一階の応接間横の部屋が空いてございます」
と教えてくれた。さっそく資料類を運び込むと、壁やテーブルに所狭しと貼り付けていく。
それを後ろに立ったマオリンが、
「ではホワ姉、いいマオか?」
と言うと、ホワイティーのうなずきをまって、一枚の図面をテーブルに広げた。
「これが明日から攻略する〝千箱〟の迷宮マオ」
と言うと、テーブルをバンッと叩いた。気合い入ってるな〜、と周りを見回すと、皆の目も真剣な光を宿している。これは茶化していられない、と俺も真剣に内容を確認した。
〝千箱〟
それは名前の通り、宝箱が良く出現する事で知られる迷宮だった。それと同時に手強いモンスターや本格的な罠でも知られており、千箱の中層以上に潜れたら一人前と呼ばれるほどである。
二つ目の迷宮でいきなりそこに潜るのは、普通の冒険者だったら止められる、無謀な挑戦だったが、バランス良く2チームを組める聖火団ならば、いけるのではないか? というのが、ギルドの受付嬢とマオの判断だった。もちろん何度もトライ&エラーを繰り返しながら攻略するつもりらしい。
「そのための準備として、サエちゃんにはスカウト技術の特訓を受けてもらうマオ。あとウールナちゃんには、その目を活かしたトラップを見破るための特訓を受けてもらうマオ」
と言うと、一週間後に千箱攻略に向かう事にした。その間も、時間を見つけては初心者用ダンジョンで、チームワークの再確認や、考えられる事態への対処法などを学んで過ごす。
「さすがサエちゃん、もうどこにだしても恥ずかしく無い、立派なスカウトだマオ」
と言うマオリンのお墨付きをもらうほど、みるみる技術を習得していったサエは、少し嬉しそうに俺の後ろに身を隠す。その頭をエナに撫でてもらっていた。
「さて、準備は整ったにゃん、皆、気合を入れて〝千箱〟攻略だにゃん!」
と言う迷宮担当リーダーのホワイティーに、
「おおーっ!」
と皆が声をそろえる。皆の結束も強くなってきた、本格的な迷宮、楽しみだ〜!
そんな俺は、ちょくちょくオルファンさんから治療の依頼を受けていた。頑健(波)はレベルMAXになっているから、成長しようがないが、素のレベルは上がっているし、種シリーズで各種パラメーターも上がっている。
勇者:Level:41
力:9214
速さ:1536
器用:1472
知力:1047
魅力:824
魔力:3020
HP:17403
MP:21470
保有スキル
頑健(神):Level:MAX
頑健(波):Level:MAX
頑健(包):Level:3(6/40)
棍棒術:Level:9(214/2560)
投擲(石・棒・ボーラ・ナイフ):Level:9(305/2560)
格闘技:Level:9(105/2560)
装備
力の杖
鋼線のボーラ
魔力糸の頑強な服
聖別の実の護符
主な持ち物
魔法の袋(黒鋼塊×10.黒鋼塊×10、水筒×10、水筒×10、携行食×10、携行食×10、携行食×10、鋼のナイフ×10、超高級魔石千金分×10、連絡石)
金袋(50金10銀)
お金はもっともらっているけど、会計をティルンに任せたから、これだけしか持っていない。
欲しいものも無いし、食べる物に困らなければそれで良いと、全てを彼女に一任している。
しかし雑魚ばかりを相手にしているせいか、戦闘系のスキルが伸び悩んでいるな、何とか今後の迷宮で上げていきたいところだ。レベルMAXになった時の効果が楽しみだからね。
頑健(包)は少しづつ育ってきている。これがどんな効果をもたらすかは……もう少し先のお楽しみにとっておこう。