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初心者迷宮探索

 迷宮都市、そこは冒険者達が自治区を作る、冒険者の、冒険者による、冒険者のための都市だった。


 自治会議と称する、ギルドから選ばれた冒険者が作る議会が全てを運営し、各有力冒険者達が、持ち回りで実行管理を任されている。


 当然そこには沢山の利権がからんでいたが、今は底辺冒険者に過ぎない俺たちにとっては関係の無い事だ。


「にゃ〜! 久しぶりのダンガンは、相変わらずゴチャゴチャとしてて居心地が良いにゃあ」


 馬車から降りて、背伸びをするのかホワイティー。彼女はここの古株で、自治会員だったという。その流れで冒険者ギルド長に任命されたのだが、勝手に辞めて良かったのだろうか? ちなみにダンガンとは、この迷宮都市の名前であり、創始者にして伝説の冒険者である英雄ダンガンからとったらしい。


 ホワイティーが言う通り、通りには人ごみがあふれ、今まで住んでいた街とは比べられない活気に満ちている。


 さっそく冒険者ギルドに向かった俺たちは、ホワイティーに教えられて、個別対応のカウンターに向かった。


 そこには……憧れの美人受付嬢が待ち受けていた! 感動、本当にいたんですね、伝説上の生き物かと思っていた令嬢は、清楚な雰囲気のお姉さまだった。


「いらっしゃいませ、お待ちしていましたホワイティー様、そちらがカミーノ様ですね? よろしくお願い致します」


 声が美人だよ、艶めく長髪は薄い水色だが、白い柔肌にとっても良く似合っている。薄ピンクの口元に見惚れていると、後ろからティルンに蹴られた。


「なにボーッと見てんのよ! 失礼じゃない。田舎者!」


 自分も田舎者なのを棚に上げて良く言う! と思って振り向くと、後ろに控えていた全員の冷眼が突き刺さった。

 はい……大人しくします。


 そんな俺たちをクスクスと微笑しながら見ていた受付嬢は、


「失礼しました。ホワイティー様のご要望は即日手配いたします。本日はご挨拶という事ですので、特に依頼をお願いする事はありませんが、いつでもいらして下さいね? お待ちしております」


 と丁寧に頭を下げられると、後ろ髪を引かれながらギルドを後にした。今日中にもう一箇所、どうしても寄らないといけない場所がある。


 その道中、


「ギルドでは私達が来るのを承知していたみたいだけど、ホワイティーさんが手配していたんですか?」


 とティルンが聞くと、クスッと笑ったホワイティーが、


「そりゃそうにゃ。いまだに私はギルド職員だしにゃ。ギルド長をすんなり交代したのも、私一人の考えじゃない事くらいは承知にゃろ?」


 と聞いた。なになに? 俺の知らないところで何の話をしているのかな? と耳を大きくしていると、


「それは分かっていたけど、こんなに堂々と宣言されちゃ、張り合いがないわね。つまりあなたが付いてくるのは、ギルド全体の意思って事ね?」


 と言うと、


「当たり前にゃん、もっとも個人的な興味も大きいにゃん」


 と笑って俺を見た。うん、何というか、色々裏があるんだね? でも利用できるものは、しっかり利用させてもらうし、フィフティー・フィフティーじゃないの?


 と思っていると、ティルンもそう思っているのだろう、黙って歩き出した。


 もう一箇所の用事、それは助け出した三人を送り届ける事だった。


 この街にラブリーフ教団はなかったが、小さな宗派の教会がある。冒険者がかかった呪いを解く事を主たる活動とするそこに、三人は引き取られていった。


 別れ際、


「このご恩は一生忘れません」


 と言う司祭に、


「大した事してませんから、それに肝心な時に間に合わなくて、逆にすみませんでした」


 と言うと、


「なんて心がけの清いお方……ホーリィの言う事は本当だった」


 などと拝まれてしまい、逃げるように立ち去った。この時、ハッキリとした受け答えをしなかった事が後の大事になるとは……この時の俺は知る由もなかった。






 *****





「ホワイティー様のご要望の方を控え室にお呼びしています」


 今日もお美しい受付嬢、個室には彼女の良い香りが充満している。もっと近くで嗅ぎたいと、自然に近づく俺を、ティルンの肘がグイッと押した。


「おっ、おう、移動するんだよな」


 と取りつくろう俺を無視した一行がゾロゾロと別室に向かう。なんだろう? 俺の扱いが段々ひどくなってないか? ねえ、みんな何か言ってよ。


 後ろからついて行くと、別室に入ったホワイティーが嬉しそうな声をあげた。


 見ると、小さな部屋の中で、茶色の猫人族と抱き合っている。


「久しぶりだにゃ! 元気だったかにゃん?」


 一回り小さな猫人族を抱きしめたホワイティーが、頭をこねくり回すのを、


「やめるんだマオ! あい変わらずホワ姉は乱暴だマオ!」


 言葉こそ嫌そうだが、顔は笑っている。取り残された俺たちは、それをしばらく見守っていた。


「みんな待ってるマオ、ホワ姉、いいから紹介するマオ」


 という茶柄の猫人族を、


「そうだったにゃん、皆には初めてだにゃん、こいつはマオリン、私の妹分にして、冒険者時代の専属迷宮案内人だにゃん」


 と紹介した。


 迷宮案内人ーー先に聞いていた説明だと、迷宮には少なくとも一人の案内人を連れて行くとの事らしい。

 マオリンは迷宮都市でも一番大きなの案内人組織に所属する、腕ききの案内人で、今回その手配を冒険者ギルドにお願いしていたという。


 マオリンと呼ばれた猫人族は、ぺこりと頭をさげると、


「これから私が迷宮探索をコーディネートしていくマオ。よろしくお願いするマオ」


 と丁寧にあいさつした。中々しっかりした女の子である。それにしても俺の周りには女子しか集まらないな、何かの呪いか? 嬉しい事は嬉しいのだが、なんだかここまでくると怖くなってくるな……


 そんな俺の思いは関係なく、受付嬢も交えて、今後の打ち合わせに入った。


 こうなるとまるで受付嬢がマネージャーで、ホワイティーが迷宮攻略リーダー、普段のリーダーはティルンで、俺は……金魚のフン? いや、ここは唯一の男として威厳を示さなくては! と思って、


「俺は隊を二つに分けるのは反対だ、何があっても、一つにまとまっていたら、不測の事態にも対応できるだろ?」


 と口を挟むと、


「にゃにゃ? この人数なら先行部隊と後続部隊に分けるのは常識だにゃん、素人はすこし黙るにゃん」


 と一蹴された。これには俺の奴隷であるエナやサエも黙って無い……と思ったら、うんうんと首を縦に振っている。え? 常識なの? と思って、俺と同じく何も知らないであろうホーリィさんを見ると、申し訳なさそうに目線を外された……


 それから発言権を無くした俺を置いて、作戦会議は続く。

 結果、第一部隊にホワイティー、俺、ティルン、ウールナ。第二部隊にウールル、エナ、サエ、ホーリィ、ディアという編成になり、第二部隊のリーダーをウールルとする事になった。


 マオリンは全ての場面で先頭に立つ代わりに、基本戦闘には参加しないという。


 なんだろう? 迷宮って皆一緒にワイワイ攻略するものじゃないの? と思ったが、どうやら違うらしい。二組に分かれて、順ぐりに進んでいくのが一番効率が良いという。


 これは魔法の袋という食料貯蔵を楽にするアイテムありきのやり方だが、ほとんどの深く潜るパーティーが採用しているらしい。


 これは思ったよりも大変な事になってきたぞ。色々知らない事だらけだ。俺は再度気を引き締めると、基本的なことからホワイティーに教えてもらい、二日後には実際の迷宮に潜る事になった。




 第一部隊は、マオリン、ホワイティー、俺、ティルン、ウールナの順番で探索を進める。戦闘になればマオリンが即座に退避、ホワイティーと俺が前衛に回り、ティルンが後衛から魔法、その隙間をウールナがカバーするといったあんばいだ。


 試しに潜った初心者用の迷宮ダンジョンには、大したモンスターも現れず、各自の動きなどを確認しながら、サクサクと進んでいった。


 ホワイティーの武器は、猫族ならではのしなやかな身体能力を生かした武術。さらに黒手甲、黒具足に仕込まれた魔具から伸びる魔爪まそうで、現れるモンスターを紙切れのように引き裂く威力をほこる。


「この階層は攻略したにゃん、カミーノ連絡石を3回打つにゃん」


 と言われて、袋から取り出した石を砕かないように3回打つ。これは近い層にいる仲間石と共鳴する仕組みの石で、迷宮探索の必需品だった。


 2回打ち鳴らすと危険(応援求む)、3回だと安全(進め)、4回だと危険(脱出せよ)と取り決めてある。

 もっと細かい決め事を作るパーティーもいるらしいが、最低限これだけでも事は足りるらしい。


 これは後続部隊からも送れるが、物音が響くため、2回の危険信号も、よっぽどの事が無いと鳴らさない事にしている。その代わり、ごく小さな音で1回鳴らすと、後続のパーティーが来た事を表すサインとしていた。


 しばらく待つと、第二部隊がやって来た。途中にある罠には、全てマオリンとホワイティーがマーキングをしている。何の障害も無く降りてきた彼女達から荷物を受け取ると、今度は第二部隊が休む間も無く次の階層を攻略していく。


 マオリンと女忍者のサエが先行し、女侍のエナとディアで、ウールルとホーリィを挟んで進む。

 元々故郷で迷宮探索の経験があるらしく、すぐにサエはマオリンと良いコンビネーションを見せだした。


 逆に戦闘ど素人のホーリィは、経験豊富なウールルに張り付きながらおっかなびっくり移動していく。だが気持ちは強いらしく、泣き言一つ吐かずに頑張っていた。


「大丈夫? ホーリィさん顔が青いけど」


 合流した俺が聞くと、潤んだ瞳で見上げたホーリィさんは、


「大丈夫です、戦闘は全て任せっきりですから。私みたいな素人をまぜることで皆さんにご迷惑をおかけしているのが、心苦しい限りです」


 長いまつげを伏せて言った。


「そんな事ないにゃ、ホーリィさんほどの回復魔法の使い手がパーティーにいると、生存確率が跳ね上がるにゃん」


 ホワイティーの言葉に、


「そうそう、あまり気を使いすぎると、もたないですよ」


 と言いながら、頑健(波)を微弱に出しつつマッサージをしてあげる。


「ふうぅ〜」


 とまるで温泉にでもつかっているかのような吐息を出したホーリィさん。その顔色が見る見る良くなってくる。頑健(波)もMAXになってから、治癒効果も格段に上がったようだ。


 俺は調子に乗って、豊満な体を揉みまくりながら、表面は真面目なフリを続けた。


 うむむ、やはりホーリィさんがパーティーの中で一番の巨乳だなぁ。そしてこのお尻。未成年メンバーには無い大人の色香がたまらん。


「カミーノ、次はこっちを頼むにゃん」


 と言う声に振り向くと、隣にはホワイティーが横たわっていた。それにつられて他のメンバーも続々と列を作っている。


「え? 迷宮ダンジョンの中なんですけど? モンスターとか現れたら大変ですから」


 と言っても、


「大丈夫にゃん、交代で見張りをたてているから、こころおきなく揉むにゃん」


 ととりあわなかった。まあ、そこまで言うなら、皆さんお疲れでしょうし揉みますよ? というか、俺も満足させていただきますけど、大丈夫ですよね?


 皆を揉み終わる頃には、頑健(波)の効果だろう、メンバー全員、気力体力の充実したツヤツヤとした顔になっていた。


「さて、この調子でチャッチャと攻略して行くにゃん、あと2階層でこの迷宮は攻略になるにゃ、気を引き締めて行くにゃん」


 毛ヅヤの増したホワイティーの言葉を受けたホーリィさんが、


「頑張っていきましょう!」


 と拳を振り上げた。弾む胸を見て、


『うむ!』


 と俺のテンションも上がり、その勢いで突き進んだ俺たちは、あっさりと初心者迷宮を攻略する事ができた。

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