巨乳神官の旅立ち
オルファンさんは完全に白、という事で一応の決着を付けた俺たちは、馬車に送られて家路についた。といっても宿だけどね?
案の定最初はゴタゴタしたけど、パーティーにとってスカウトの存在は欠かせないから、結局はティルン達も納得した。というか、女同士なかなか仲良くやっているらしい。
前衛を任せられるエナの存在も大きい。これで前衛は俺、エナ、ディア。後衛はティルン、ウールル。そして遊撃手としてウールナとサエ。中々の充実ぶりではないか? 俺以外全員女性というのも良い。実に良いよ。
オルファンさんはお詫びがわりに、様々な仕事を回してくれた。そしてなんと……俺個人への治癒依頼の報酬の一部として、各種ステータスアップの種を手配してくれる事になった! これは大きい。
都市部に本拠地を持つ大商人が本気になった時、不用品とされる種シリーズなど、あっという間に集まる。
俺は大量の種と馬鹿にならないお金とを引き換えに、オルファンさんの知り合いから、大物商人、果ては地方貴族の令嬢までを治癒する事になった。
もちろん評判は上々、ある時など、気を良くした地方貴族とオルファンさんは、破格の取引を成立させたとか。
オルファンさんには体良く使われている感じだが、WINーWINの関係でいられる内は、利用されて利用すれば良いだろう。おおざっぱな考えだけど。
だが、そうなると面白くない人間も出てくる。オルファンさんの商売敵や、令嬢を治癒された貴族の利害関係にあった者達。そして……
「カミーノさん、もうここには来ない方が良いと思います」
神妙そうな顔で言ってきたのは、以前から通っていた治癒院のシスター。
「ホーリィさんどうしました?」
と聞くと、困ったような表情で、
「我らラブリーフ教団においては、本来所属する司祭やシスターが施術にあたる決まりなんです。それを私の修行不足からカミーノさんに頼っていましたが……本部からの通達で、本来の姿とはかけ離れているため、即刻やめるように厳命されました」
消え入りそうな声でそう告げた。うつむいて胸で手を組む、押し潰れた巨乳が横に溢れて、修道衣の上からけしからん盛り上がりができている。
なるほど、俺の治療が、本来の治療機関であるこの教会の活動にとって、目障りになったと? 治療の代わりに受け取るお布施などを、収入としてきた教会にとって、商人に使われて目覚ましい治療活動をする俺は、目ざわりなのね?
どうせならホーリィさんを使って取り込みにかかればホイホイついていくのにな〜、一治療一揉み……ゲフンゲフン……いや、そんな事はせんよ、街の皆のために善をなそうとしてきた無償治療だし! ホントに。
「分かりました、ホーリィさん、今までお世話になりました。私で力になれる事があったら、いつでもおっしゃって下さいね?」
と頭をさげる俺を、ジッと耐えて見守っていたホーリィさんは、感極まって、
「ごめんなさい! 私の力不足で! でもカミーノさんには異端審問にかけようって動きもあるんです。こんなに庶民のために良くして下さった方に、なんという……」
涙を流しながら抱きついてきた。おお神よ! ホーリィさんの信じる神よ、グッジョブ! この顔面を暖かく包む柔肉こそが正義、そっと腰に手を回すと、むせび泣くホーリィさんが唇を額に付けてきた。
素晴らしきボン・キュッ・ボンを顔面と両手でひとしきり堪能した俺は、ホクホク顔で別れを告げた。
だって明日にはこの街を離れるんだもん! テヘッ。
俺たちはオルファンさんのすすめで、迷宮都市と呼ばれる大都市に移り住む事に決めていた。そこはオル商会の本拠地でもあり、彼には何か考えている事があるらしい。
俺たちは俺たちで、この街周辺の討伐依頼は全て果たしてしまった感があり、物足りなさを感じていたところだ。
多くの治療と種シリーズでレベルを上げた俺は、
勇者:Level:35
力:8526
速さ:1072
器用:1006
知力:527
魅力:325
魔力:2450
HP:10065/10065
MP:10325/10325
保有スキル
頑健(神):Level:MAX
頑健(波):Level:9(1050/2560)
棍棒術:Level:9(108/2560)
投擲(石・棒・ボーラ・ナイフ):Level:9(235/2560)
格闘技:Level:9(67/2560)
装備
力の杖
鋼線のボーラ
魔力糸の丈夫な服
聖別の実の護符
主な持ち物
魔法の袋(黒鋼塊×10.黒鋼塊×10、水筒×10、水筒×10、携行食×10、携行食×10、鋼のナイフ×10、超高級魔石千金分×10)
金袋(125金、12銀)
今までのチマチマレベルを上げていたのが何なんだ? ってくらいにパワーアップしていた。
格闘技のレベルが上がったのは、ディアやエナ、サエとの3対1のハンディ戦を、毎夜の如く繰り広げているせいだろう。最近ではウールルもゲスト参戦してくる。流石は大人の魅力、俺も時に負けそうになるくらいの夜のスター選手だ。
オルファンさんの用意してくれた最高級馬車は、膨れ上がった俺たち黄色ランク冒険者パーティー〝聖火団〟(ティルン命名、自分の能力押しすぎでしょ? でも逆らいません、怖いもの)のメンバー七名を乗せても、かなりの余裕があった。
内装のラグジュアリー感、ハンパないっす。さらには乗務員さんも訓練された最高級のおもてなし。乗り込んだ途端にひざ掛けをひかれた。俺のボロ着、そんなに寒そう? 大魔女様の弟からもらった服は、俺の魔力を吸い続けて、かってに〝頑強な〟服にパワーアップしているし、性能ならばどんな服にも負けない自信がある。今では俺が強く引っ張っても、そうそう破れそうにない。
「さて、皆乗り込んだにゃ? では出発進行だにゃん!」
え? この声は誰かって? それがなんとこの街のギルド長、ホワイティーさん。俺たちが迷宮都市に行くって言った途端に、
「おもろそうだにゃん、ちょっとまつにゃ?」
とギルド会議を開いて、ギルド長のポストを他職員に譲渡、一冒険者になってついて来てしまった。その早業たるや、置いていかれる職員達も、いまだにポカンと口を開けているほどである。
「ギルド長なんて元々向いてなかったにゃん、田舎町なんて大した刺激もないし、お前についていく方がおもろそうだにゃん」
と満面の笑みを浮かべている。おいおい、そんなんで良いの? 冒険者ギルドって、一応権威のある組織だと思っていたけど。
まあ本人が良いというなら……良いか? かなりの戦力になるのは間違いなさそうだし。
これで8名、増えすぎじゃない? と思っていたら、
「お待ちくださいませ!」
と巨乳、いやホーリィさんが走ってきた。
「どうしました?」
と聞くと、
「わたくし、教会を辞めて来ました」
と思いつめた顔で宣言した。え? 辞めちゃったの? ポカンと見ていると、
「本来の博愛精神とはほど遠い、しがらみや利権にしばられた教会はおかしいと思います! それに比べて無欲なカミーノ様……私は、あなたを信奉します!」
と巨なるものを二つに割りながら、手を固く結んで迫ってくる。
え? 信奉って、俺を崇める的な? いやいやいや、こんな中身エロオヤジなんか拝んじゃだめだっての! 別に利があったから治療していただけだしね? こんな俺について来て、大きな組織を辞めちゃったら、ホーリィさん人生棒にふるよ?
俺がアタフタしていると、
「お願い致します!」
と抱きつかれた。いやいや、そんな事言われても、オッパイ、俺なんか中身ただのニートだし、オッパイ、ホーリィさんにはもっと、オッパイ、ふさわしい、オッパイ、オッパイ……オッパイ!
「ふぁい、ほほしふほねふぁいしふぁふ(よろしくおねがいします)」
頼りない良心の牙城は、オッパイという平和の使者によって無血開城された。オッパイは正義、オッパイは世界を救う。
この際オッパイ教の教祖になれば良いのに、とホーリィさんに言おうとして、睨みつけてくるティルンと目があった。その瞳に燃える炎……いや、俺はオッパイが小さいのもまた、良いものだと思うよ? と暖かい目で見ていると、
「なにやってんのよ? とっとと行くわよ!」
ギッ! と睨まれた後で目線を切られた。はい、調子に乗りました。反省してます。
シュンと縮こまる俺を含めて、九名にまで膨れ上がった〝聖火団〟は、街の皆に見送られながら、一路迷宮都市に向けてひた走った。
途中右に揺れちゃあホーリィさんの乳クッション、左に揺れちゃあウールルさんの太ももクッションに挟まれ、お向かいのティルンに睨まれて、ウールル達が微笑む。
あゝ神様、死ぬならこのタイミングでお願いします……俺の祈りが天に届いたのか、突然馬車の小窓が開くと、
「襲撃者です! このままスピードを上げて突っ切りますので、しっかりつかまっていて下さい」
という声。鎧戸を少し開くと、地平線まで埋め尽くすような、盗賊というより軍隊といった数の騎馬隊がこちらに爆走してきた。
そのいでたち、雰囲気は、どう見ても友好的な者のそれではない。
「ああ、あれはラブリーフ教団の異端審問団! とうとうカミーノ様を捕まえに来てしまったのですね」
ホーリィさんが涙を溜めてこちらを見る。え? おれそんな指名手配みたいな事になってるの? ただ治療しただけなのに?
説明を求めてホーリィさんを見るが、ポロポロと泣き崩れるだけで、何も分からない。
「ちょっとホーリィさん、あれ殺っちゃって良いの?」
ティルンが物騒な事をおっしゃる。でもラブリーフ教団ってかなり大きな組織でしょ?
「あれはラブリーフ教団のなかでも異端者とされる黒犬原理主義団。異教徒は無抵抗でもなぶり殺され、抵抗しても蹂躙されると言われています」
おいおい! なんだそのヒャッハーな連中は。この世界の宗教怖っ! ていうか魔女裁判とかしてそうだな、と思っていると、
「黒犬ですって! 私の叔母を死に追いやった連中じゃないの! あいつらがそう……ブッ殺す!」
ティルンが興奮している。やっぱりしていたのね? 魔女裁判。そしてご親族が犠牲になった、と?
「ティルンさん、ここは私にお任せを」
俺の隣で大人しく鎮座していた太もも、もといウールルが、ねじくれた木の杖を取り出すと、後部窓を開けて熱心に呪文を唱えだした。すると見る見る雲が集まり、サンサンと照りつけていた太陽が隠れる。そして雨が降り出すと、
ゴロゴロピカッ!
雷が黒犬団の真ん中に落ちた。地面に広がって、周囲の人馬も巻き添えを喰らう。
そこに連続して、
ピカッ! ピカッ!
と閃光が走ると、轟音と共に落雷が襲う。
怯んだ黒犬団が逃げようとする先々へと熱線を放つティルン。まるでテレビゲームを見ているみたいに、次々とやられていく男達。
最後には一塊になったところへ、火球を放ったティルンは、大爆発と共にウールルとハイタッチを交わした。
登場、即……黒犬団……全滅?
恐ろしいものを見た俺は、この人達を絶対に敵に回さないようにしようと心に決めて、そっと後部窓を閉めた。
左に座るウールルと目が合う。ニコッと笑って、
「お役に立てましたでしょうか?」
とおっしゃる絶世の美女におれは、引きつった声で、
「結構なお点前で」
と返すのが精一杯だった。