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野営の襲撃

 俺はこの日のために買い込んだ荷物を馬車に積み込むと、他の使用人達の手伝いをして過ごした。


 大型の荷馬車が3台、それぞれに幌を張って買い込んだ荷物を満載にしている。

 馬に引かせるのは基本的に荷物と御者だけ。他の人間は、徒歩でついていく事になっていた。


 森を抜けると言っても、その範囲は広く、隣町まで馬車で3日の旅の内、2日間は丸々森の中を通る事になる。


 俺たちは昼間さんざん歩いた後、持ち回りで夜番をする事になっていた。そして2日目の晩、俺とウールル、そして異国の曲刀使いと、くノ一風の女従者が夜番となり、かがり火にあたりながら、周囲を警戒していた時、


「ウールルさん、体の方は万全ですか?」


 復帰したばかりで、長旅をしいられるウールルを気づかうと、


「カミーノ様、ウールルで結構でございますよ。カミーノ様のワザが素晴らしくて、あれからすぐに元に、いえ、元よりもさらに丈夫になった気がします」


 と言って、キラキラと光る目でこちらを見てくる。なんだろう? 様づけといい、やっぱりむず痒い感じがするなぁ。


「じゃあ僕の事もカミーノって呼んでよ、様なんてガラじゃないし。ウールナにも言っといて」


「いえ、それでは余りにも失礼にあたります。あなた様はわたくしの命の恩人、ウールナもたいそうお慕い申しております」


 俺の両手を掴んで、顔を上気させながら言う。ウールナと違って、成熟した美女の放つ色香に、つい引き込まれていると、


「見張り中だ、つつしめ」


 抑え気味の声にたしなめられた。確かに、これじゃただの休憩とかわらないな。俺は即あやまると、周囲を見回して、警戒に当たる。


 異国の武者は寡黙かもくで、人柄がよく分からない。そのオーラも押さえ込んでいるような雰囲気で、なんとなく距離感ができてしまう。


 その時、護衛メンバーである戦士達が、簡易に組んだ天幕てんまくからゾロゾロと出てきた。まだ交代時間ではないはずだが?


 その後ろにはハーヴェイさんも居て、こちらに向かって手を上げた。


 すると隣にいたはずのくノ一が焚き火に何かを投げ入れる。一瞬にしてひろがる煙が、野営地全てを覆いつくした。


「何をする!」


 抗議する俺の横で、咳き込んだウールルがドサリと倒れた。少し晴れてきた視界には、俺の仲間を羽交い締めにするハーヴェイ達の姿があった。


「ほう、流石は回復魔法の能力者、飲み水に仕込んだ麻痺毒と、この麻痺煙幕に抵抗できるとは、素晴らしい能力ですね」


 マスクで顔を覆ったハーヴェイの足元には、ティルンとウールナが!


「犬には逃げられましたが、まあ問題ないでしょう? さて、これが見えますね? 大人しくしないと、この子達がどうなるか、お分かりか?」


 その手には長剣が握られ、ティルンの首にその切っ先が触れそうになっている。もう一人の戦士はウールナに、そして俺の側で倒れるウールルも引きずられていった。


 くそっ! 油断していた。まさか依頼主が罠にはめてくるとは。


「何故だ? 何が目的だ」


 俺の言葉に、


「喋って良いのは私だけですよ! 良いですね?」


 張り詰めた声がかえってくる。言葉に詰まった俺を見て、満足そうな笑みを見せたハーヴェイは、


「その手にもった杖と、腰元の袋を地面に置きなさい」


 と命令してきた。俺はしぶしぶ力の杖を地面に刺し、腰に結わえた袋を外すと、ゆっくり地面に置く。


「そう、素直が一番ですよ」


 あごをしゃくると、戦士の内一人が杖を回収に来た。地面から突き立つそれを握ると、持ち上げようとする。が、根っこが生えたように抜けない杖。何度も力を振り絞るが、とうとう力の杖は抜けなかった。


「何をした!?」


 ハーヴェイに聞かれても、俺にもよく分からない。ただ単に重さだとしたら、鉄塊くらいのものだから、大男には持ち上げる事はできそうだし。

 俺が肩をすくめて、分からないとジェスチャーを送ると、


「ふざけるな! この女達がどうなっても良いのか?!」


 と怒鳴りちらされた。


「え? どの女?」


 俺のすっとんきょうな声に、怒りを抑えきれなくなった男が、


「ふざけるな!」


 と剣を振るおうとするが、その切っ先には地面しか無かった。後ろの部下達も、同様に人質を無くした事に気付いて、右往左往している。


 俺の後ろに回り込んだディアは、既に全身に赤い紋様を浮かび上がらせている。


「ワンッ」


 と吠えるその足元には、瞬時に回収したティルン、ウールル、ウールナが、一塊になって横たわっていた。


「ディア、よくやったぞ! そのまま三人を保護しといてくれ」


 という俺の声に、嬉しそうに返事を返す。さて、こいつらをどうしてくれようか。

 多勢に無勢と余裕の構えを見せる敵に対して、俺は地面から生える力の杖に手をかけた。


 とたんに辺りを照らす金色の光が放たれる。本当に根っこが生えていたのか。地面を伝う根の感触が杖に収まる。

 その間、湧き上がる力をグッと溜め込んでいた俺は、根が回収されると同時に、爆発的にダッシュした。


 ハーヴェイは己の武器を構えて、


「相手は一人だ! 落ち着いて包囲しろ!」


 と叫んだが、本気で動いた俺をとらえきれないのだろう、あらぬ方向に剣を向けている。


 その側面に迫った時、殺気を覚えて身を屈めると、居合切りを放った切っ先が丸めた背中をかすった。


 あの侍か!


 カウンターに、足を狙って放った突きが、独特な足運びでかわされると、間髪を入れずに飛び込んできたくノ一風の女の直刀が、杖を持つ手を狙ってくる。


 手首をひねって直刀をはじこうとすると、身軽に転身した女は鉄棒を数本投げてきた。ちょうど顔の辺りに拡散して放たれるそれを、無理やり体をひねって避けると、そこに殺到してきた戦士達が、一斉に武器を振り下ろす。


 だが、


「ぬるいっ!」


 怒りMAXな俺の全身が金色に光ると、その余波だけで一瞬男共が圧迫される。さらに手近な男三人を巻き込んだ俺の杖は、高速で腹部を打ち飛ばすと、交通事故にあったかのように吹き飛んで行った。


 残りの戦士達には黒鋼の塊を崩してから投げつける。ちょうど六つのブロックに分かれるように、切れ込みを入れた塊は、広い散弾となって男達を貫くと、抵抗する事も許さずに地に吹き飛ばした。


 だが、そんな高速弾でも侍風とくノ一風はとらえきれない。呆然と立ち尽くすハーヴェイの横で、油断なく身構えていた。


「やるな! エナ、サエ、力を分けるぞ」


 と言うと、ハーヴェイは己の胸元をはだけた。止める間もなく己の剣を深々と突き立てると、そこに彫り込まれた魔法陣から黒いオーラが溢れ出す。あれは……呪いか?


「まて!」


 ハーヴェイのもとに急ぐが間に合わない。魔法陣からのオーラが二人に乗りうつると、途端に苦しみだした。


「ウガアアァァッ!」


 頭を抱えて転がるエナとサエ。そのオーラにもどす黒いものが混ざり込んでいく。


「何をした?」


 と問う俺に、無言のままニヤリと笑みを返したハーヴェイは、棒立ちのまま仰向けに倒れた。


 それに見入っている暇はない。黒いオーラを放つ二人が、もの凄い勢いで左右に散る。


 傍から放たれる棒手裏剣、絶妙な速度差で放たれる複数本のそれは、とても避けにくい。

 なんとか避けて、体勢の崩れた俺を切り裂かんと放たれたエナの居合切りは、見切れないほど速く、俺の胸を切り裂いた。


 飛び散る血に、初めて焦りを覚える。この世界に来て、戦闘で死を感じたのは初めてだった。


 すぐさま頑健(神)MAXの力が精神にまで及び、不安は薄まる。さらに切り裂かれた傷を塞ぎにかかった。


 二の太刀を振るおうとするエナに対して、瞬時にボーラを放つと、再度棒手裏剣を放とうとするサエに対して突進する。


 足元に絡み付こうとするボーラを打ち落とそうとしたエナは、その紐に仕込まれた鋼線にはばまれ、足に絡みつかれる。


 バランスを崩したエナを見て、焦ったサエは、咄嗟に棒手裏剣を放つが、乱れたそれは避けるまでもない。

 張り詰めた上腕筋でそれを弾きかえすと、そのままタックルを食らわせて地面に倒した。


 抵抗するサエの首に腕を絡めると、後ろを取った俺は強引に立ち上がる。きっちり首にきまった三角絞めは、サエの独力ではもうどうしようもない。


「動くな! 女がどうなっても知らんぞ!」


 今度は俺が脅す番だが、


「サエ! くっ、殺すつもりか? 殺すつもりか〜っ!」


 女の声? 逆上したエナが切り掛かってきた。絡みつくボーラに足を痛めたはずだが、その足取りは血を流しながらも力強い。


 その間にも、首をがっちりとホールドしたサエの、体に巣食う黒いオーラを探る。杖を握る手で頑健(波)を放射すると、のたうち回った黒いオーラは、じきに消滅した。


 腕の中で力を失ったサエを放すと、糸の切れた操り人形のように崩れおちる。


 それを見てますます逆上したエナは、振り上げた曲刀で斬りかかってきた。口かられ出る黒いオーラが尾を引き、血走った目はギラギラと光っている。


 見えないほどの打ち込みを、力の杖で大きく受ける。だがするりと力をいなされた俺は、一瞬にして胴体を薙ぎ切られた。


 魔力糸の服が易々と斬り裂かれる。だが遠間なのと、頑健な外皮のおかげで、大怪我は避けられた。あれを深くもらっては、さすがの俺もやばい。


 狂ったように打ちかかってくるエナを、杖術でなんとかいなす。力勝負にさえ持ち込めれば、なんとでもなるのだが、不思議な足運びと、鋭い斬撃に逆に押し込まれそうになる。


 斬りさげた刀の刃を返して、伸び上がるように体当たりしてくる。避けるのは難しいと判断した俺は、斬られる覚悟で前に出た。

 力の杖は先端を光らせ、頑健(波)の力を溜め込んでいる。


「ケアアァァッ!」


 気合いを放ったエナの刃で、踏み出した足を斬られつつも、ギリギリ力の杖で防ぐと、頑健(波)の光をその身に押し付ける。


 エナの中にあった黒のオーラがのたうち回った。だが力の杖で強化された頑健(波)の力は、みるみるオーラを弱めさせると、最期は煙となって空中に消えた。


「さてと、どうするか?」


 オーラを見る限り、エナもサエも無害そうな綺麗な緑色をしている。これまでの経験から、黒いオーラに操られていたと推測するのが妥当か? 二人とも気絶して地面に横たわっている。


 一方、仰向けに倒れたハーヴェイは……こりゃ完全に絶命してるな。白目をむき呼吸も無し、心臓も……完全に停止している。


 この人かなり大物じゃ無かったっけ? これはやばい事になった?


 俺は馬車に戻ると、倒れている仲間を貨車に寝かせ、エナとサエはロープでグルグル巻きにすると、そちらも積み込み、ディアに監視を任せた。


 ハーヴェイは……しょうがない、御者台に一緒に載せるか。俺は手早く絶命した戦士達の金品をあさると、奪った衣服に包んだハーヴェイを隣に置いて、 馬車を走らせた。

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