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18/42

ラッキー

 その声を聞いたウールナが、


「ウーフェス兄さん」


 喜びに笑みを浮かべながら前に出た。すると道の端からスラリと背の高い青年が現れる。弓を構える男の耳を見ると、やはりとがっていた。


「お前のメッセージを受け取ったが、細かい地点まで割り出せなかった。さっき急にウールルの魔力を感じられるようになって駆けつけたーー」


 と肩に乗せたハトのような鳥を見せた。どうやらあれで救援を呼んでいたらしいな。


「仲間と一緒にな」


 と言うと、一斉に気配が現れる。それはちょうど俺たちを囲むように、半円を描いていた。全員が弓を構えて、そのやじりを俺たちに向けている。


 この数にして全員が高レベルの隠匿使いとは、エルフ恐るべし!


「待ってお兄様、この方達は私たちを助けてくれたの」


 ウールナが必死に訴えるが、


「ばかな、魔狼ダイアー・ウルフを連れた者が、我々を助けるだと? 何の冗談だ?」


 と取り合ってくれない。


「え? ディアってそんな悪者なの?」


 とすっとんきょうな声を上げた俺を睨みつけると、


「ダイアー・ウルフに名前を付けて連れ回すなど、悪魔級の魔人と相場がきまっている」


 と言い放つ。周囲からは今にも矢が放たれそうな気配がして、自然と身がかたくなった。それを聞いたウールルが、


「ウーフェス、やめなさい。この方は本当に私たちの恩人なのです」


 と俺の前に立ってかばってくれた。まあ本当にそうだし、お仲間を助けたのに命を狙われるとか、割に合わなすぎなんだけど。


「う、ウールル姉さんがそう言うなら……皆とりあえず矢をはずせ」


 と言うと、皆矢をおさめ、周囲の緊張感が薄れた。どうやらウールルの言うことには逆らえないらしい。

 よかった、俺はともかくティルン達をかばいきる自信がなかったので、ホッと胸をなでおろす。


 そのティルンは、エルフ語でウーフェスと呼ばれたウールナのお兄さんと話し出した。


 くそ、またカヤの外だ。ヒマな俺は、ディアにこびりついたゴブリンの血をとる作業に集中する。

 結構しつこい汚れだな、と思ったらディアの模様で、非難がましい目の彼女に謝ったりしていると、


「話はすんだわよ、どうにか誤解が解けたわ。さすが私、でしょ?」


 本当にさすがティルン姉様。コミュニケーション・スキルが高くて助かります。

 尊敬のまなざしを向ける俺に、


「失礼しました、姉と妹が大変お世話になりました。このお返しをしたいのですが、あいにく持ち合わせもありません。後日改めてお礼の品をお待ちしたいと思うのですが、よろしいですか?」


 ガラリと態度を改めたウーフェスが、腰を低くして聞いてきた。うむ、苦しゅうない。だが別に何かの見返りを求めているわけでもないし、いつどこに出かけているか分からない俺たちがお礼を受けるのも一苦労だろう。


「別にいらない」


 と伝えると、余計に恐縮されてしまい、そうはいかない、ウールルを里に送り届けてから、帰る足でお礼を持ってくるという。

 え? ウールルちゃん里に帰ってしまうの? そっちの方がショックなんですけど……まあ弱っている事は変わりないから、無理はできないか? その代わりウールナを置いていくという。これでどこに移動しても伝書鳥でんしょどりで所在確認できるので、問題ないと言われた。


 おお、じゃあしばらくはウールナと行動を共にするわけか。彼女もかなりの美少女だから、それはそれで嬉しくもある。


 ニッコリ笑って「よろしく」と言おうとすると、


「よろしくね!」


 とティルンに先を越されてしまった。二人で仲良く握手なんかしてる。そこに上から手を重ねると、


「俺もよろしく」


 と言葉をかぶせる、そこにディアも手を乗せてきた。おお! お前もか。笑う俺たちを見て目を丸くしたウーフェス達が、


「ダイアー・ウルフがここまで人間に慣れるとは、彼はすごい大物に違いない。これは長老様に伝えないと……」


 などとザワついている。いや、ディアちゃんいい娘だからね? なんならうちの女子の中では一番素直で良い子だよ?


 急ぐという彼らは、そのままエルフの里に戻るという。姉を不安そうに見送るウールナに、


「一緒に帰っても良いよ」


 と伝えると、


「大丈夫です。元気になったら迎えが来ますから。それまでよろしくお願いします」


 と姉妹そろって頭を下げられた。うむ、美少女に丁寧にお願いされて、断る男もいまい。


「こちらこそよろしく」


 と言うと、ウールルに後ろ髪をひかれながらも、村へと急いだ。





 *****






 俺たちの姿をみとめると、喜んで村に歓迎してくれた自警団のリーダーが、


「おお! ずいぶんたくさんやっつけて来てくれたべや」


 俺の並べたゴブリンの耳を見て驚く。ついでにゴブリンの親玉であるツタの事も伝えたが、


「あんたらの事は信用したいが、ツタがゴブリンを呼ぶなんて聞いたことがないべ?」


 仲間内で「んだんだ、ねーべや、なあ」などと話し合っている。まあそうだろうな、大木の戦闘痕せんとうあとを見れば少しは違うだろうが、まあいい。


 依頼は達成しているから、ゴブリンの被害が今後ないと伝えられただけで良しとしよう。


 その晩は村人達の好意でごちそうしてもらい、異郷の晩餐ばんさんを楽しむ。今後ゴブリンの脅威にさらされないだけでも、この人達の役に立ったと思うと、気分が良い。


 出された酒は全く効かなかったが、頑健MAXだから仕方ないな。少しすっぱい酒は、この村で取れるイモから作っているらしい。いわば芋焼酎いもじょうちゅうみたいなものか? 独特な香りだけはたんのうできた。


「あんた〜、よく平気らわね〜。この酒けっこうきくわ〜」


 赤ら顔のティルンがからんできた。こいつ酒グセ悪いな、まだ陽気な方だからマシか?

 その後、宗教上の理由で飲まなかったウールナとめんどうを見ながら、翌朝二日酔いに苦しむティルンを連れて街に戻った。


 ギルドに村人のリーダーが書いてくれた証書と、ゴブリンの耳を提出して、お金を受け取る。合計1金と12銀にもなった。1金=10万円位の感覚だから、11万2千円ってところか? 数日で稼いだ中では、ダントツに良い稼ぎだ。流石は討伐とうばつ依頼、このうま味なら、これからは採取依頼は中々受けられなくなるだろうな。


 いつもの宿に行くと、人数が増えたので二部屋借りる事にした。もちろんティルンとウールナが一部屋、もう一部屋は俺とディア。ベッドで寝られるのは嬉しいが、ティルン達と別部屋か……今までせっかく一緒だったのに残念だ。何がってほど何がある訳でもないが、とにかく残念だ。


 そうして枕を濡らしつつ、ディアを抱いて布団に包まる。まあこれも悪くないな、フンワリと日に干されたシーツの匂いに癒されながら、旅の疲れからかぐっすりと寝た俺は、翌朝驚く事になる。


「えっ? あんただれ?」


 翌朝、日が出る前に起きた俺が抱きしめていたもの、それは全裸の女の子だった。

 その小さからぬ胸に顔を埋めていた俺は、柔らかな感触に気分良く目覚める。


 顔を上げると、その目の前には黒髪の美少女が嬉しそうな瞳でベロを出していた。


 〝ベロン〟


 少女が俺の顔をなめる。えっ? 何? とまどう俺にかまわず、ベロベロと顔をなめまわす少女。腰に回した手の感触、密着した下半身から、彼女が裸であることを知り、動揺とともに下半身に血が集まる。


 おお! 流石は頑健MAXボディー、膨張率もMAXだぜ! という朝から脂っこい感想は置いといて……どうしよう? この感じ、この娘さんは……


「ディア?」


 と言うと、娘のおしりで何かがパタパタと動いた。うん、シッポだね。


「ワンッ」


 と言う声は、狼の姿の時よりも、少し人間よりの声帯からでた可愛らしい声だった。でも人間型になっても喋る事は出来ないんだね? しかし驚いた、こんなに……立派な娘さんに成長するとは。何というか見る目が変わってしまう。


 オーラ視の薄明かりの中、彼女のあられもない姿をたんのうするように見てしまう。仕方あるまい、こちらも健康なお年頃の男なのだ。そんな俺の邪心を知ってか知らずか、四つん這いになって背伸びをした彼女は、元の狼型に戻ってしまった。


 夜だけの姿なのか? 聞いてみても、


「クゥン?」


 と首をかしげて見上げるばかり。よく分からんが、とにかく〝ラッキー!〟がぜん次の夜が楽しみになってしまった。

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