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VSハングド・ツリー

 三人で顔を突き合わせて作戦を立てる。俺の真正面からという案に、


「あなたはそれでいきなさい。私はそのスキに何とかツタを解析して、お姉さんを助け出す作戦を練るわ」


 ティルンも太鼓判を押してくれた。名前を教えてくれたエルフ少女改めウールナは後方支援を受けもつ。彼女が得意とするのは弓矢の他に、精霊魔法という自然現象に働きかける能力があるらしい。


 本来はもっと詳しい説明があるらしいが、とっさに俺に理解させるのは難しいとの事。それくらい分かる自信があるんだけどなぁ。まあいいや。


 その精霊魔法の中でも、土を操るのが得意らしい。俺たちをまいた時も、その能力を使って隠遁いんとんしたという。


 ディアは俺のサポート、ただしハングド・ツリーには毒を持つものがいるため、むやみに噛み付かないように注意はしておいた。


 そうと決まれば……GO! ダッシュする俺とディア、目の前の地面がボコボコとうごめくと、信じられない数のゴブリンが湧き出てきた。これは……さしずめボスを守る親衛隊しんえいたいってところか?


 ひときわ大きなデカブツが、所狭しと並んで突進してくる。その後ろでは、思い思いに派手な飾りをつけたゴブリンシャーマン達が、けたたましい呪文の詠唱を始めた。


 俺は力の杖を横に構えると、デカブツ二匹にぶつかって押し込む。杖をお腹にめり込ませながら、後ろのデカブツまで巻き込むと、ステップ・バックして、前二匹の頭を横なぎに吹き飛ばした。


 その体が倒れるより速く、つめかけてくるデカブツのスネを刈る。横並び二匹を一気に痛打されたデカブツは、一匹はスネから下を失い、もう一匹は骨を露出させてひっくり返った。


 だが他のゴブリンのようにギャアギャア騒ぐ訳でもなく、こいつらは暗い表情で黙々と襲いかかってくる。


 ディアは首すじにとびかかると、正確に太い血管を噛み貫いて、すぐに離脱するという作戦を繰り返していたが、そこにゴブリンシャーマンの発した火の玉が襲いかかった。


「あぶない!」


 と叫んだ時には、空中で逃げ場のないディアの体に命中する。


 瞬時に燃え広がる炎。その中でディアの全身が赤く発光すると、全身に紋様が浮かび上がる。その瞬間、見る間に大きくなった体が、炎を弾き飛ばした。


「ウォオオーーン」


 着地したディアが吠えると、周囲を圧倒した。まるで以前キメラだった時の魔力を込めた吠え声のようだ。それは自身に効いたのか、赤い紋様がより強い光を放つと、次の瞬間、ダッシュしたディアの姿は、ハッキリ目で追えないほど速かった。


 ゴブリンシャーマン達が、次の呪文を詠唱していると、目の前を赤黒い光が通り過ぎる。次の瞬間には首から上を無くしたシャーマンが、ドサリと地に倒れた。


 ディアは横並びのゴブリンシャーマンを、次々と牙にかけていく。俺も負けじとデカブツ共をなぎ倒した。輝きを放つ力の杖が当たるたびに、ちぎれ飛んでいく巨体。後から後から湧いてでるが、ものの数にならないとばかりに突き進んでいった。


 すると、ひときわ濃いオーラが地面に集まり、どす黒い闇がそこにまとわりつく。


「あぶない、どいて!」


 と言うティルンの声に反応して体をズラすと、ティルンの居る後方から熱線が放射された。ボコボコと沸き立つ地面を貫く熱線が、その下に出現しようとする者の命を絶つ。


 だがエルフ(姉)が巻き込まれる事をおそれて、以前に見せた火球を放つ事は出来ないようだ。そうこうする内に、地面から真っ黒な体に、頭から三本角を生やしたゴブリンが六体現れた。


 練りこまれた魔力が高すぎたのか? ツタに捕らえられたエルフ(姉)ことウールルが身もだえするように震えるのがわかった。これは……


「お願いします、それを倒されては、お姉ちゃんが」


 妹のウールナの言葉を聞かなくても分かる。これほどの魔力を込めて召喚されたモンスター、倒すと弱る姉……こいつらを倒したらヘタをすると命が危ないかも知れない。


 そうこうする内に、六匹の黒ゴブリン達が動き出した。それは召喚直後とは思えない速さ、そして絡みつくような連携れんけいを予感させる動きである。


 俺はとっさに、


「ディア、殺してはダメだ!」


 と言うと、ディアが理解したかどうかを確認するヒマもなく、その集団に向かって走った。あれを後ろにやってはいけない。もしもティルン達が直接対峙ちょくせつたいじしたら、簡単にやられてしまう可能性もあるからな。


 俺の突進を避けた黒ゴブリン達は、すれ違い様に爪を立てて引っ掻いてくる。一本一本がナイフのようなそれは、避けきれなかった俺の腕を切り裂いた。


 初めて敵にキズつけられた! そのショックに傷口を見ると、皮一枚切れた所は、すぐに癒えていく。うん、問題ないな。


 俺は二匹の足元を狙って杖をはらう。避けようとしたところで力の杖が反応すると、金色の光が膨張ぼうちょうして、黒ゴブリンをとらえた。


 パワーアップした力が黒ゴブリンの足から下を吹き飛ばす。やばいやりすぎたか? だがもう遅い。近くでは大きくなったディアが、体当たりで黒ゴブリンを弾き飛ばす。

 だんご状になったそいつらの足をなぎ倒そうとしたところで、地面から紫の触手が伸びてきた。


 素早く避けるディアとは反対に、攻撃態勢に入っていた俺はまともに触手に襲われる。

 それは事前にウールナから姉を襲われた状況を聞いていた俺は、それが毒の触手だと分かっていた。


 ティルンによると〝ポイズン・タッチ〟という魔法も絡んだ能力らしい。


 うまくスキをついたつもりだろうが……頑健(神)MAXな俺には恐る事もない! というか、この瞬間を待っていた!

 逆に触手をつかんだ俺は、強引に引っ張ると、その触手をたどっていく。抵抗する触手が千切れそうになるが、力をおさえてどんどんたどっていくと、大木の根元に辿り着いた。


 ボコボコと地面を揺らす根っこ、まだモンスターを召喚するつもりか? と思ったが、現れたのは大量の根っこだった。


 全ての根の先が紫に染まっている。それが一気に襲いかかってきた。


 横っとびに避ける俺と、入れ替わるように放たれる火球。ものすごい熱が根を焼き払うと、触手を畳んで縮こまるツタ。


 思い切って力の杖を地面に突き立て、火を上げる大木に飛びつくと、その表皮に指を食い込ませて、掴みながら登る。そこに攻撃しようとしてきた触手を掴むと、大木から一気に剥がしていった。

 その先には、ウールルの囚われている籠状かごじょうのかたまりがある。


 周囲には、きみの悪い触手が紫の液体をたらして、威嚇いかくするように集まっていた。


「だから効かないんだよ!」


 触手の攻撃を無視して、かたまりに取り付くと、大木から引き剥がしにかかる。ビッチリとこびり付くそれを、全身を使って強引に剥がしていると、その隙間から狂ったように触手が襲ってきた。


 腕と言わず足と言わず、全身に絡まる触手にかまわず引きはがすと、かたまりと共に地面に落ちる。そのままガムシャラにツタをかき分けると、その中心部にエルフの少女が現れた。


 真っ白な肌に、紫の血脈が浮かび上がっている。その素肌から伸びていた触手が体の中にニュルンと隠れた。


 オーラには、全身を侵食する紫のオーラが見える。ウールルのオーラは風前のともしび、小さく消えそうな緑のオーラがほんのすこしだけ見えた。


 ひたいに集中すると、すかさず手のひらから光が溢れる。地面に突き立てた力の杖を抜くと、力を増した頑健な(波)で、紫のオーラをはらっていった。


 苦しみのたうちながらウールルの体内で暴れるオーラは、小さくなるとウールルの下半身から素早く逃げだす。

 それを捕まえた俺の手の中で、さらに小さくなったそれは、最後は煙となって消えた。


 さらにウールルの全身を隈なく浄化する。やつれてはいるが、頑健(波)のいやしによって、ウールルの顔に血の気が戻ってきた。


 ふっと目を開いたウールルに、飛びついたウールナが分からない言葉で何事かを必死に呼びかける。

 それを聞いたウールルは、妹を弱々しく抱きしめると、耳元でハッキリと返事を返した。


「どうやら無事なようね」


 やってきたティルンが言うには、ウールナに〝心配ない大丈夫〟という事を伝えているらしい。


 後ろではディアが残った黒ゴブリンを一手に引き受けている。それを聞いた俺が現場に駆けつけながら、


「ディア! やっつけて構わないぞ!」


 と叫ぶと、


「オウーーン」


 という返事の後、ぶっそうな物音が森に響いた。しばらくして返り血をあびた彼女がやって来る。その姿は凄惨せいさんながらも美しく、一回り大きくなった全身から赤い紋様が消えても、大型犬を超える体は縮むことはなかった。


「全員やっつけたのか? お前……すごいな!」


 腰元まで高くなった胴をなでると、鼻づらをこすりつけてくる。血まみれになりながらも撫でてほめていると、


「ありがとうございました」


 とやって来たウールナがおじぎをしてきた。


「お姉さんは多分大丈夫だと思うが、もう少し一緒に様子を見た方が良いだろうな。俺たちは村に行くが、お前達はどうする?」


 と聞くと、一緒についてくると言う。俺はゴブリン達の耳をかたっぱしから回収すると、未だに歩けないウールルを抱えて、元来た道をたどって帰った。


「すみません」


 弱々しくあやまるウールル、幼いウールナと違って弱ってはいるものの、大人の色香がすばらしい。鼻の下を伸ばしながら帰る間にも、頑健(波)を発動し続けたため、少しすると自分で歩けるほどに回復していた。


 ちぇっ、残念だな、もう少し抱いていたかったのに。だが、回復を喜んで抱き合う姉妹を見ていると、そんな邪念じゃねんをもつ自分が情けなくなる。


 さて、目の端に光るステータスを確認するか、ゴブリン達はいざ知らず、ツタのモンスターはかなりの大物だったしな。



 勇者:Level:16


 力:2901(4338)

 速さ:372

 器用:142

 知力:82

 魅力:90

 魔力:436(654)

 HP:1136/1178

 MP:420/594


 保有スキル

 頑健(神):Level:MAX

 頑健(波):Level:6(62/320)

 棍棒術:Level:6(44/320)

 投擲(石・棒・ボーラ・ナイフ):Level:7(232/640)

 格闘技:Level:4(12/80)


 装備

 力の杖

 石のボーラ

 魔力糸の服

 聖別の実の護符


 主な持ち物

 魔法の袋(鉛塊×8、水筒、携行食×7、鋼のナイフ、山刀)

 金袋(27銀13銅)



 2レベルも上がっていた。しかも頑健(波)を沢山使った影響だろうか? 各パラメータの伸びが良い気がする。

 見る見る自然治癒するHPを見ていると、ディアがうなり声をあげはじめた。え? まだ何かいるの? 周囲を見回すと、チラチラと見えるオーラはウールルのものと同じ色をしている。


 立ち止まった俺の目の前の地面に、矢が一本突き立つと、


「人間! そこで止まれ。その姉妹から離れろ!」


 よく通る声が警告を発した。

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