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スラトの森のウールナ

 それから俺たちはディアの能力を駆使して、採取依頼を次々とこなしていった。

 途中でゴブリンやコボルトなどのモンスターに襲われたりもしたが、難なくやっつけて、いいこずかい稼ぎもさせてもらった。


 だが採取系の依頼は、街から離れるほど報酬ほうしゅうが高く、日帰りの依頼ばかりを受ける俺たちはいつも宿代カツカツの生活をよぎなくされた。


「私はともかく、こいつはキツイみたいなんです」


 受付のお兄さんに相談するティルンに、


「ではそろそろ討伐とうばつ系の依頼を受けますかね? ちょうど依頼数も二ケタになりますし」


 と数件の依頼書を見せてくれる。


「これがゴブリンの討伐依頼ね、どれどれ」


 ティルンが文字の読めない俺にも分かるように声に出して読んでくれる。なんだかんだと面倒見の良い娘だ。


 それによると、森に出没するゴブリンの数が増えて来たため、近くの村から特別報酬とくべつほうしゅうが出されるらしい。

 そのかわり、村への報告義務ほうこくぎむがあるという。


 もう一つは、岩場に住み着いたコボルトの討伐、おおよそ4〜5匹がいるらしいが、情報が少ないのでそれ以上は行ってみないと分からないらしい。


「初めてですから、ズルがしこく統率とうそつのとれたコボルトを相手にするよりも、ゴブリン相手の方がおすすめですかね? ただし女性は気を付けないと、ゴブリンに狙われる危険性があります」


 どんな種族とも混血児こんけつじを作れるゴブリンは、あらゆる種族のメスを狙って、集団で襲いかかる。それは人間にも同じ事で、それゆえに余計に憎まれるモンスターだった。


「それは知ってます。ではゴブリンの討伐を受けましょう」


 ティルンが依頼を受けた。早く俺も文字が読めるようになって、自ら依頼を受けられるようになりたい。帰ったらティルンに文字を教えてもらおう。


「あと以前に報告してもらった、弓矢使いの件ですが」


「ああ、最初に依頼を受けた時のやつね」


「最近被害が数件あがってまして、気を付けて下さいね。森の中心部に集中しているようです。たぶん単独のしわざだと思うのですが、逃げ足が速くて正体がつかめないんです」


 と注意を受けた。あの後他にも襲われた奴がいるんだ、気を付けないと足元をすくわれるかも知れない。


 支度をととのえた俺たちは、さっそく森の近くの村へと出発した。


 片道5時間強、歩き通した頃には、昼をとうにすぎている。


 街道は整備され、森を横に見ながらも平和そのものだった。こんなのどかな所にモンスターが現れるとは、この世界はやっぱり不安定で、恐ろしいところである。


 目指す村は、木を組んだ柵で囲われ、見張りの村人達が、持ちなれないようすの槍をかついでたむろしていた。


 近づく俺たちに、


「おめ〜さんたち、何のようだべ?」


 と聞いてくる。ひときわおおがらな男がリーダーだろうか? 俺が、


「ゴブリン退治に来た冒険者です。ここがスラト村で良いですか?」


 ときくと、


「おお! お前さん達、やつらを退治しに来てくれたんかい? お兄さん中々いいがたいしてるなや、よう来たよう来た。ねえちゃんも、はよ入りな」


 と喜んで受け入れてくれる。他の村人も警戒心をといて、どうぞどうぞと迎え入れてくれた。


 話を聞くと、今朝も村のすぐそばでゴブリンの集団が現れたという。ギルドの受付から単体で出たと聞いていた俺たちがたずねると、


「今まではそうだったんさ。でもここ数日凄い数になってきて、とうとう村の近くまでゾロゾロ出てくるようになったんだべ」


 リーダーらしき男がツバをとばしながら力説した。他の冒険者も何組かやって来たが、中々討伐が進まないらしい。その理由を聞くと、


「森ん中に弓使いがおって、コチョコチョとジャマしてくるんだ」


 との事。確かにディアやティルンの警戒をくぐり抜けた強者が相手では、じっくり腰をすえて探索などできまい。


「じゃあ、私達がゴブリン退治に行って、そいつもやっつけてあげる。そしたら特別報酬とくべつほうしゅうに、さらに特別報酬を出してくれる?」


 とティルンが提案すると、リーダーが、


「おお! 俺のいちぞんだが、細かいことは任されてっぺ、出す出す、ドーンと報酬出してやるべ」


 と胸を叩いた。話は決まり、ディアを先頭に森に分け入る。村からの道はわりと整備されていて、土むき出しの道も、踏みかためられていて進みやすかった。


 そして30分ほど進んだ時、ディアの耳がピクピクとうごくと、小さい声でうなりだす。俺たちが草むらに身を隠すと、5匹固まって歩くゴブリンが道の向こうからやって来た。


 それぞれに棍棒や錆びたナタ、動物の角などで武装している。


 俺は石のボーラを取り出すと、指先でクイッと回して投げつけた。指だけとはいえ、剛力で放たれたボーラは先頭のゴブリンに絡みつき、その勢いで後ろの2匹を巻き込んで吹き飛ぶ。


 その隙にかけよったディアが、側面から襲撃をかけると、そくざに制圧されたゴブリン達は、まとめて絶命した。


 その耳を回収しながら、周囲への警戒もおこたらない。いつ弓矢使いが狙ってくるとも限らないから、余計な神経を使うはめになった。


 死体を道の脇に放り投げると、さらに奥へと進む。ゴブリン達はその間、本当によく出没した。

 集団で襲いかかってくるのを、力の杖で打ちすえ、放り投げ、無双状態である。


 後から後から湧き出るように現れるゴブリンにヘキエキしていると、森の中でひときわ目立つ大木にたどり着いた。それを見たティルンが険しい顔つきになる。


 その時、ディアが「ワンッ」と吠えると、一目散に走り出す。俺が止めても言うことを聞かずに、すぐに見えなくなってしまった。


「ディア! 戻ってこい、ディア!」


 大声で探しながら歩くと、奥の方から、


「キャッ!」


 という声と、ディアの吠え声が聞こえてきた。追いついた俺たちが見たのは、ディアに踏みつけられる少女と、地面に散らばる弓矢だった。


 得意そうな顔で俺を見上げたディアが、嬉しそうに、


「オウ〜〜」


 と吠える。俺は想定外の事態に面食らいながらも、


「よしよし、その娘が襲撃者なのか?」


 と聞いた。ディアは理解したのか、矢を一本くわえると、俺の足元に放り投げる。それを見ると、木の矢に石のやじり。まさしく以前に見た物と同じ矢だった。


「この娘が?」


 ティルンも少し困惑気味に近づいてくる。ディアに押さえつけられた少女は、苦しみながらもこちらを睨みつけてきた。


 大きな緑の瞳に、同じく薄緑色の髪の毛。そこからのぞく耳は長くとがっていて……


「この子、エルフね」


 ティルンがつぶやいた。やはり居るんですね、エルフ。よく見ると透き通るような肌の美少女だった。押さえつけられて見上げる顔は、耳まで真っ赤になっている。


 さらに近づいたティルンが、分からない言語で話しかけると、少女もゴニョゴニョと返事をした。どうやらエルフ独自の言語らしい。


 全く分からない俺は、一人かやの外で待っていると、


「どうやら落ち着いたようね、ディアをどかしてみて」


 とティルンに言われた。


「ピュイッ」


 と合図を送ると、その雰囲気を察したディアが少女を解放する。一息ついて身についた落ち葉などを払った少女は、地面に落ちた弓矢を回収した。


 一瞬気を張ったが、やり合うつもりは無いらしく、おとなしくしている。どうやらティルンとの話し合いが上手くいったらしいな。ティルンのコミュニケーション能力、正直うらやましい。


 おとなしくなった少女は、


「すみませんでした」


 と謝ったあとおじぎをしてきた。なんだ、話せるんじゃないか。


「どうして襲ったりしたんだ?」


 まだ睨みつけるディアを怖がる少女との間に入って聞くと、


「それは……」


 と口ごもる。そばに立つティルンが、


「お姉さんが関係しているみたい。ここでは何だから、少し見通しの利く場所に移りましょう」


 と提案してきた。少女の案内で坂を登ると、先ほどの大木が見える位置に腰をおろす。


「あれです」


 と指差す少女の先には、大木に絡み合う太いツタが見えた。幹の真ん中辺りが太くカゴ状にふくらんでいる。


「あそこにお姉さんが居るのね」


 と言うティルンに、コクリとうなずく少女。詳しく話を聞くと、森の異常を調べに来た彼女達がゴブリンを撃退している時、不意打ちのようにツタに襲われたという。


「ハングド・ツリーね、あそこまで育ったのは初めて見るわ」


 と言うティルンに、


「そうです、しかも下調べの時は休眠状態で、何をしても反応がなかったのに……姉は完全に取り込まれてしまって、魔力を吸収されています。その魔力で召喚され続けているのが、ゴブリン達で」


 と言う間にも、地面からボコボコとゴブリン達が湧き出して来た。


「そいつらを倒すと、魔力元になっているお姉さんも早く弱ってしまうらしいのよ。だから冒険者達が近づかないように邪魔をしていたって訳。もっともジワジワと魔力を吸われ続けたら、同じ事なんだけどね」


 見守るうちに、別のゴブリン達が動物の死体を抱えて大木の根にやって来た。それをばらまくと、地面がうごめき、ツタの根が吸収していく。


「里に連絡を入れたのですが、まだ返信が無くて、遠いし、私一人じゃあれをどうにも出来ないし、それに疲労が溜まって魔法も使えなくなって……」


 涙をにじませるエルフ娘に、グッとこない男はおとこではない! 俺は細い肩を優しく掴むと、


「大丈夫、お姉さんは私がたすけるわ!」


 ドン! と胸を叩いたティルンに言葉をうばわれてしまった……いいところなのに……くっ。


「俺もな!」


 と苦しまぎれに宣言すると、目を真っ赤にした少女がコクリとうなずいた。

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