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初依頼

「ここら辺が教わった場所ね。どうやらここからは獣道を行く事になりそうだわ」


 ティルンが森を見てため息をつく。それもしかたがない、目の前にはうっそうと茂るヤブが、道とも言えないような獣道をふさいでいた。


 俺はディアの首をなでると、


「さっき覚えた臭いを探せるか?」


 と尋ねる。それを聞いたディアは、


「ワンッ!」


 とほえると、シッポをふって走り出した。途中で止まると〝ついてこい〟と言わんばかりに振り向いて「ハッハッ」と興奮した息を吐き出す。


 探知魔法を発動するティルンをまって、ディアを先頭に、俺、ティルンの順番で森の中に入っていった。


「さすがに街のすぐ近くは取り尽くされてないみたいね」


 近くの沢についたティルンが、あたりを見回しながらつぶやく。


「じゃないと冒険者に依頼を出さないだろうね、もう少し奥に行ってみようか」


 俺たちが移動を始めた時、ディアが、


「グルルルゥゥ」


 と低い声でうなりだした。


「どうしたの?」


「何かいるのか?」


 危険を察知した俺たちも構える。そこに矢が飛んできた。風上から放たれた矢は勢いがついて、とっさに前に出た俺を直撃した。


 だが、筋肉を硬くしめた上体にはやじりが通らずに、はじき返す。見ると、それほど重くない木製の矢には、石のやじりが付いていた。


「なにするんじゃ!」


 思い切り怒鳴ると、奥の方からガサッという音が聞こえてきた。隣にいたティルンも、


「ビックリした! おどかさないでよ!」


 と驚いた顔で抗議してきたから、相当な威力の怒鳴り声だったらしい。


「ピュイッ」


 と口笛を鳴らすと、ヤブの中に駆け込むディア、相手が単体ならば組み付き、複数なら逃げるように仕込んである。


 その後を追って行くと、途中でディアが困った様に地面を嗅いでクルクルと回っていた。俺がつくと、申し訳なさそうに見上げて、見失ったことをわびてくる。


「よしよし、お前が追えないとは、どんな奴だろう? とにかくよくやった、また依頼を続けよう」


「こんな所で痕跡こんせきを消すなんて不自然ね。しかも私の探知魔法に引っかからなかった。これでも相当修行したのよ? 隠匿いんとく使い……しかも相当な腕前ね。飛び道具ももっているし、用心していきましょう」


 ティルンの言う通りだとしたら、相当やっかいなのに目を付けられた事になる。だが、後を追えない以上、ここにいてもしかたがない。


 俺は一言、


「次やったら殺す!」


 とウップンを大声で晴らしてから、森の奥地へと歩き出した。すこし幼稚かも知れないが、気持ちの整理と、もしかしたら聞いてるかも知れない敵に対する威嚇いかくとして。


「あんたって本当に単純ね」


 ふたたび探知魔法に集中するティルンに言われるまでもなく、自分でもそう思う。だが、頑健の効果か、少しリフレッシュすると、すぐに気分が良くなるんだから、しょうがない。


 俺たちは細心の注意をはらって奥へ奥へとわけいった。


「おっ! ここにいっぱい生えてるぞ! この芽がなってるのが赤根グミじゃない?」


 一つつまむと小指の先ほどの芽が、ポロリと取れた。

 それを見たティルンが、


「そうそう、こんなのだったわね。ディア偉い! 他にもある?」


 と聞くと、得意気なディアは、シッポを振りながら次々と案内してくれた。

 お前やるじゃないか! その後、ブルーグラスの群生地も見つけて、少し残しつつ大量に採取できた。


「この分なら、なんとか一泊の宿代くらいは確保できそうね」


 束ねたブルーグラスと、袋に詰めた赤根グミの芽を見たティルンが、満足そうに言う。そういえば一泊いくらくらいなんだろうか? これから大事になるお金の問題に思いをはせながら、帰路についた。


 さっきの脅しが効いたのか? 矢を放ってきた奴は、その後現れなかった。だがなんだかむずかゆいような気配を感じる。

 ディアも時々振り返ったり、鼻を上げて周囲を気にしたりしていたから、近場にいたのかも知れない。


 だが、その日は無事に帰る事ができた。なんだろう? ティルンと話し合って、この事を冒険者ギルドに問い合わせてみる事にした。


「そうですか、最近あの森で矢を放つようなモンスターの出没などは報告されていませんが、今後のために詳しく教えて下さい」


 依頼品を渡した職員が、その鑑定を済ませて、4銀を持ってきてくれると、目撃した状況を詳しく聞いてきた。

 ありのまま伝えると、


「今後の参考にさせていただきます」


 とていねいな対応。ここの職員がていねいなのか? 冒険者ギルドという組織がそうなのかは知らないが、中々教育が行き届いているらしい。これで受付がお姉ちゃんなら最高なんだが……


 いらん事を考えていると、


「ほら、あなた魔力の緑石を買い取ってもらうんでしょ? 私への借金忘れてない?」


 とティルンにせっつかれた。そうだそうだと思い出し、カウンターのお兄さんに緑石を見せると、


「ほう、いわゆる魔石の一種ですね。これだけ大きかったら良い金額になるかも知れません。よかったら、うちの鑑定士に見せてもよろしいですか?」


 と聞いてきた。もちろん、とお願いすると、少し時間がかかったが、20銀で買い取るという。価値の分からない俺は、ティルンを見ると、


「まあ妥当なところかしらね? もう少し高くても良いと思うけど」


 と掛け合ってくれる。だが鑑定士は、


「ここの所にヒビが見えます、分かりますか? これがなければ50〜60銀にはなるのですが、耐久性に欠けますから、これ以上は出せませんね」


 と言う。嘘は……ついてないよね? 彼のオーラにはみじんの乱れも見られなかった。これで嘘をついていたら、相当な強者なんじゃないか? まあ嘘をついた時にどう見えるかは、それほど分かる訳ではないが。


 ティルンに借りた金を返すと、手元の金は残りわずか。その金額を見たティルンは、


「さっき受付に安宿の情報を聞いておいたから、さっさと行くわよ」


 と先に立って歩き出した。おお、頼りになるぅ、さすがアネゴ! と心の中で拍手を送りながら、街を歩く。


 この世界に来てから初めて街らしき場所に来た。もちろん前世の街並みとは比べものにならないが、それでも中々の都市を作っている。


 道の端にはむき出しながら排水溝が据え付けられ、多少でこぼこながら石だたみが敷きつめられている。そこにはちゃんと馬車用のミゾがほられていた。


 その中の一軒に入る、少し街はずれに出る小さなカンバン。そこには可愛らしいベッドの絵が描かれていた。


「いらっしゃい」


 受付に座るおっさんが声をかけてくる。中年太りのにこやかな、それでいて目の奥は鋭いオヤジは、


「パンチョの宿へようこそ。お嬢さん達、初めてかい?」


 と俺たちを値踏みする。ティルンが受け答えする話を聞いていると、一泊1銀半で夕食付きらしい。


 中々良い値段がするなぁ、と寂しい懐を探っていると、パンチョという名前であろうおやじが、


「ほれ、前払いだよ、1銀半」


 と手を出してきた。金と引き換えに渡される鍵は一つ。おお! という事は……


「え? 一部屋?」


 ティルンが抗議の声を上げると、


「そりゃそうさ、うちは一部屋3銀だよ。ここら辺じゃ良心的で通ってるんだ。いやならよそへ行きな」


 とぶっきらぼうに言われた。だが、オーラの見える俺には、とても澄んだ魂の持ち主のように見える。

 それに同室なんて願ったりですよ。もしや同じベッドなんて事も……などと思っていると、


「しょうがないわね、ベッドは私が使うからよろしく」


 と先手を打たれた。うむ、まあ良いか。頑健な俺はなんなら外で寝ても全然平気だから。


「そのワンころはフンなんかしないだろうな? 吠えるようなら入室禁止だよ」


 と言われるが、目が優しい。どうやらイヌ好きなオヤジらしい。そこを見抜いた俺は、


「彼女は、ディアはかしこい娘だから大丈夫ですよ」


 と言うと、


「ふうん、ディア……ちゃんか」


 とつぶやいていた。やはり俺の目に狂いはない、頑健(神)MAXの効果は中々使えるな。


 夕食時、宿にある小さな食堂に行くと、四人がけのテーブルは三つとも満員だった。中々はやっているらしい宿の飯は、さすがにそこそこ美味い。


 大満足で部屋に帰ったその晩、フカフカのベッドに寝るティルンを横目に、床の上で眠りについた。


 久しぶりの屋根付きのねどこ、それだけでもありがたい。ティルンが体を拭く時などは追い出されたが、悔しくなんかない、断じてないぞ……いや、少しは悲しい……いやかなり悔しいが。


 横で丸くなるディアが俺のほほを舐めて、なぐさめてくれる。いつの間にか涙がつたっていたらしい。

 塗りたくられた唾液だえきが臭うが、その心が嬉しくて、すり寄ってくる体を抱きしめた。


 俺にはお前がいるよな、い奴愛い奴、とスリスリしながら眠りにつく。そんな俺をクンクン嗅いだディアも、嬉しそうに包まると、なかよく並んで眠った。



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