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第六声「反則なんて無い」

更新遅くなって申し訳ありません。


 訓練の結果を言おう。…………散々だった。

 組手はもちろんのこと相手は防具を無しの武器なし、こっちは武器ありの防具ありで、全く刃が立たなかった。


「本当に何かやってたのか? 変な癖のある型がついてるぞ」


 なんて剣道をやっていたことを疑われる始末。何年もブランクが有るとはいえ、ここまで言われるとはさすがに思わなかった。

 この後はみっちり基礎からやり直しになった。

 長い刀身の刀剣故に、普通の近接武器に比べて遠くから攻撃でき、そのくせ槍の懐にもはいっていける便利な武器だからか、やることも多くてへとへとになってしまった。

 ああ、でもそれのお陰で癖のついた剣道の型はなくなってくれたのが良かったことか。

 そして、一連の前半訓練が終わる頃には御飯の時間になり、今はご飯を終えて戻ってきたところだ。


「よし、もう一回やってみるか」


「え?」


 元気よく切り出したアストに俺は一瞬何を言われたのか気づかなかった。


「え? って、もう一回お前武器ありでやろうぜって言ってるんだ」


「ええー、でもそれだと結果は同じに……」


 先程散々痛めつけられたところだ。正直勘弁願いたいのだが。


「今度は頭を使えって。型のある攻撃をするから読まれるんだ。

 本番の戦いに反則なんて無いんだから、型は基本て言うだけで、実戦ではそんなもの関係なくなっちまう。

 もっと崩して、姑息な感じでいいんだよ。そうしたら変わるからさ」


 なんだろう。異様に押してくるな。

 フォニアに助けを求めるように視線を送ってみるが、ニコニコ笑顔で反応なし、大丈夫ということだろうか?

 少々不安なんだがな……仕方ない。


「うん」


 俺はしぶしぶ頷いた。





「よーしっじゃあさっきと同じで俺がとっ捕まえて身動きできなくするか、響也が俺に一撃入れるかで決着だ」


 アスタの説明を聞き、それに頷きながら防具をつける。

 武器は鞘を紐で固定して抜けないようにしてある。これならあたっても切れないからだ。


「じゃあ、私が開始合図しますね」


 フォニアはそう言って場外で手を合わせる。その拍手の音が合図だ。

 目をつぶり集中する。そして、武器は昼に使った中断の構えではなく、脇構えと呼ばれる右足を後ろに下げ、剣先を後ろに下げた構えをとった。

 まぁ、本物の脇構えに比べれば今回は少し剣を前に出してある。理由は、そのほうが振りやすいからだ。

 ゆっくりと、目を開け、目前のアスタを見据える。


「はじめ!」


 フォニアの合図と同時に動いた。


      ****

 

 目前で一足飛びに目前に迫った響也は午前中とは全くの別人だった。集中し、助言の通りの型を無視した行動をとった彼はどこか相手を狩る獣のように見えて、驚きで俺は目を見開いていた。

 響也の剣が足を払う。

 後ろに飛び、足を薙ぐ剣を躱した。そのまま迎撃しようと足に力を込めて、その場から飛び退いた。

 先ほどまで動体があった場所を剣が貫いている。両腕で持った剣が途中で止まることを利用してそのまま右手だけに持ち替えて突きを放ったらしい。

 突いた体制の響也はがら空きだ。俺は足に力を込めて一気にその懐へと入って行く。

 次の瞬間、顔面の真横に剣が迫っていた。

 慌てて足を崩して地面へ付いて横薙ぎを避けた。

 返す刀で追撃が来る。そう予測して後ろへ飛びのく。

 飛び退いた直後に地面に剣が思い切りたたきつけられ砂埃が舞い上がっていた。

 距離を取り、息をつく。砂埃が待っている間は迂闊にはこないはずだ。

 あの変わり様はなんだ? 怒ったり、肝が座ったりした瞬間、異常に強くなる奴がいるが、あれはそういう奴と同じようなものに見える。ルール無視だと強くなる? 型がないと強くなる? どちらにせよおっかないことに変わりはない。体力がないことはわかってるし、長期戦にしてバテてもらおう。

 砂埃が次第に晴れ、うっすら響也の影が見えた。構え直しているであろう響也の姿を想像し、その攻撃を予測する。

 次の瞬間、頭上からの攻撃が現れた。



    ****


「あづっ!!」


 上段の構えから振り下ろした剣が中で何かにかすった感覚がする。しっかり当てることを一撃とするのか、かすったのも一撃なのかわからないため、そのまま動きを止める。

 砂が完全に晴れた時、擦れた額に赤い跡を作ったアストが驚きの目で俺を見ていた。


「さっきのは一撃でいい?」


 一応聞いてみると、アストは大きく頷いた。


「いいよ、あのままならもう一度攻撃されても避けられない。

 それより、俺にはお前の変わり様に驚いたぞ」


「いや……ルールが無いから出来たことだよ」


 脇構えはリーチを悟らせないための構えだ。剣道の中では竹刀に規格が決められているためにリーチを偽ることなんかできないし、有効の判定も厳しいために使われるのは皆無に等しい。

 判定なんて無く、何処に当てても有効打であり、且つ前方からくる敵を迎撃しやすい横薙ぎ動作のしやすい脇構えは、今回の勝ち負け判定からして、丸腰の相手に対して勝って当たり前なんて言われたって俺は言い返せない。

 

「いやいや、それでも勝ったことに変わりはないさ」


 アストは赤くなった額をこすりながら笑ってそう言った。

 軽快なオッサンの笑い顔はどこか清々しくて、なんだか反則勝ちしたような気分だったのを忘れさせてくれた。


「ありがとう。それで、この後はどうするんだ?」


「ああ、今度は武器を持ってる相手とになるな」


「またしごかれそうだね」


「おう、頑張れ」


 にっこり笑うアストに俺は苦笑した。



    ****



「お兄さんやーるぅ」


 ひと通りの仕事を終えてワノンダレンに帰ってきた私はメジテと一緒に訓練中だというお兄さんの様子を魔法を使って遠くから見ていた。


「やっぱり、範囲があるのは有利よねぇ」


 メジテがいつものゆっくり口調でそう言った。


「だよね。しかもあんなに手を変え品を変えたくさんの方向からやられちゃ困っちゃうよ」


「でも、ラトちゃんでも武器ありなら勝てるでしょう?」


「そりゃあね」


 場数が違いますよ場数が。私は胸を張って鼻を鳴らした。

 メジテはそんな私を見て楽しそうに笑い。その後「そういえば」なんて言って切り出した。


「でも、型がなくなった後の変わり様はなんだったのかしら?」


「本当本当、お兄さんが怖いお兄さんになってたね」


 あれなら、早めに私達の仕事も手伝えるようになるかもしれない。

 まぁ、お兄さん格好いいし、期待しちゃおうかな。


「ラト、なんだか顔が緩んでるわよ?」


「んー? 僕はいつも緩んでるでしょ」


「……それもそうね。あっ、続きをやるみたいよ」


 今度は両方武器ありみたいだね。

 これは……アストの勝利が見えるね。お兄さん、ご愁傷様だよ。


「結果は見えてるし、私は晩御飯作ってくるよ」


「そう。じゃあ、わたしはもうちょっとだけ」


「じゃーねー」


 目地手に手を降って、私は厨房へかけていく。

 その途中、私は不思議なものを拾った。


「なにこれ、家族へ? 手紙かな?」


感想等もらえると作者が目を見開いて喜びます。


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