第三声「初めまして」
「それじゃあ、皆さんに挨拶と、生活用品の買い物に行きましょう」
よろしくお言い合った後、フォニアはそう言って扉を開けた。
笑顔がとても眩しい……元気なこと言うのは魅力的なものだ。
「案内頼むよ、ガイドさん」
「お任せください!」
元気にそういったフォニアにまたも手を引かれて部屋を出た。
先ほど部屋まで来た道を戻り、最初のカウンターの部屋に戻ってきた。入った矢先に視線が刺さる。それも周囲全体から。
フォニアに引かれて歩いていた足が緊張で止まる。周囲を見渡し確認すると、全てが全て興味の目で俺を見ているのが分かる。
皆は見ては来る者の動かない。フォニアの一喝が効いているのだろう。
と、おそう思った矢先、さきほどフォニアに撃墜されたネコ耳男が俺の前に出てきた。
「さっきはすまんかったな兄ちゃん、自己紹介タイムか?」
「えっと、そのはずだけど……」
フォニアを見ると、彼女は大きく頷いた。
それを見た周囲の奴らは、目を光らせてたままわらわらと集まってくる。でも、先程よりは詰め寄り方がマシなのでよしとしよう。
「俺はアスト、ここでは剣を使ってるんだ。一応前衛武器は全部つかえるんだがな」
筋骨隆々で外見は三十そこらのオッサン……の割にダンディだ。外見のせいでネコ耳が余計にインパクトになっている。すぐ覚えられそうだ。
アストがそういった次は彼の前に尖った耳の黒髪の女性が押されるようにでてきた。返事をする間もないな本当に。
目の前の女性は長い髪がサラサラしているのが分かる、顔も美人だ。
「私はメジテ、魔法使いをやってるの。よろしくね」
おとなしそうな人だ。服装もゆったりした修道服みたいだ。全体で見るとおっとりお姉さんといったところだろう。他に見るところといえば……ゆったりした服なのにその二つの山は飛び出てて凄いなってことくらいかな。
そんな彼女の後は服が引っ張られた。下を見るとメジテの股の間から小さい子が上半身だけを出して俺の服を引っ張っていた。特徴的なのはその頭に角が生えている。
「お兄さんが次の人だよね。私、ラトっていうんだ。アストとメジテの間みたいな役割だよ」
外見からしておそらくフォニアと同じ十四、五歳だろう。アストは剣だからおそらく前衛、メジテは魔法使いだから後衛とすると、間というのは遊撃ってことだろうか? 日本でなら「そんな小さい子になんて」事させるんだ!」と騒ぐ奴らがいそうな歳だ。これも世界の違いだろう。
はてさて、彼女の次は……と言いたいところだがいかんせん数が多い。これは骨が折れそうな予感だ。
****
「全員終わりましたか?」
『はーい!』
フォニアの問に玄関の全員が声を合わせて答えた。自己紹介タイムが始まってすでに三十分は経過している、十人からは数えていないのでどれだけ人がいたのやら。
一番時間がかかったのは孤児院として機能しているというこの家に引き取られた子たちだった。二十人以上板であろう彼等は年齢幅は小学生以下から高校生くらいまでさまざまで、そのうち数人がかなり個性的だったのを覚えている。……まぁ詳しい話は今度だ。
後一人だけ残っているから。
「じゃあ、最期は私ですね」
フォニアが俺の方に輝く笑顔を向けてくる。一応数えればこれで朝から三回目だ。まぁ、何度やってもいいだろう。人との自己紹介は楽しいものだと俺は思っている。
「私はフォニア、言霊師であるあなたのガイドさんです。武器は短剣、魔法はそれなり、どうか末永くよろしくお願いいたします」
「うん、よろしく」
末永くねぇ、結婚でもするような挨拶を女慣れしていないこんな男にしないで欲しい。一瞬心臓がはねたじゃないか主にときめきのせいで。
長い金髪に女の子らしい小さい背丈、そしてかなりの美少女。そして明るく元気で清楚な女の子……完璧じゃないか。こんないい子をガイドにつけた俺はかなりの勝ち組だ。ヤバイ、考えたらニヤけそうだ。
と、そんな煩悩にニヤけるのを我慢している暇はない、俺自身の紹介がまだだ。さっきから聞く限りこの世界はカタカナの名前が主流で、俺の通名を考える可能性もあるかもしれないが、それでも本名は名乗っておくべきだろう。
「さ、今度は響也さんが」
催促も入ったことだしね。
「えっと、轟 響也っていうんだ。よろしく」
『よろしく!』
また皆の声が重なった。それから見るに、ここの皆は仲が良いのだろう。俺も速く溶け込めるようにしたい。
挨拶が終わった後は主に俺の向こうの世界での生活について質問攻めにされてしまう。
「響也の世界には電気の魔法で動く『車』っていう馬車が有るんだってな?」
これはアストからの質問だ。電気ということはモーターで動くということか。
「電気……まぁ最近はね、でも普通はガソリンで動くんだよ」
「ガソリンってなんだ? カタカナ文字はよくわからんぞ」
そうなのか、通じると思っていたがそうでもないらしい。
ガソリンを端的にわかりやすく言うならなんだろう。
「そうだ、燃える水かな? 黒色の液体で燃えるもの」
「ああ、それなら分かるぞ、南の大陸ではそれがよく取れるらしい」
この世界にも原油はあるのか、なら石炭もあるんだろうな。
「その燃える水をお酒みたいに蒸留したものだよ」
『へぇー』
皆の声がなたしても重なる。……なんだか楽しい。
「そっちの学校では文字や計算だけじゃなく『科学』というものを学ぶのよね?」
これはメジテからの質問。おそらく理科のことだろう、俺はそれなりな方だ。
「一応ね。魔法のない俺の世界では科学が魔法の変わりかな」
『へぇー』
うん、楽しい。もっと色々答えよう。
「建物に灰色の石をよく使うって聞いたんだけど?」
「それはセメントっていうやつのことだね。水と混ぜて乾かすと硬くなるから、それを使って家の土台なんかに使ったりするんだ」
「鉄の玉を高速で打ち出す武器があるって聞いたんだが?」
「銃のことか。まぁ音とおんなじかそれ以上の速さがあるね」
「蛇口っていうのをひねるだけで水が出てくるって聞いたんだけど?」
「出てくるね、そのまま飲んでも体に影響はない」
「寿命が長いっていうのは本当?」
「大体八十歳くらいかな」
「長いわね~。それはそれとして、お金が紙できてるって本当かしら?」
「本当だよ。まぁそれは金額の大きい物だけで、金属で出来た硬貨もあるよ」
「じゃあじゃあ……」
「ああ、それはね……」
「それなら……」
「それは……」
とまぁついつい調子に乗って答えていると、終わったころには外は太陽が少し傾いていて、フォニアと慌てて買い物に行くことになった。かなり腹が減っているのだがそこは事情があるのだろう。たぶん、治安とかそこら辺だ。
「ごめんなさい、この世界は夜は響也さんの世界のように平和ではないので」
予想通り治安の問題だったらしい。まぁそれならしかたがないだろう。
「夜に油断しているとミンチになっちゃいますから」
えっ、そこまでは予想してなかったよ。身ぐるみではこの世界は許されないらしい。
「事情があるなら仕方ないさ、速く行こう」
「はい」
フォニアに先導されて街を進む。
目の前には商店街だ。
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