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第二声 「エステユアンへようこそ」

 フォニアと名乗った少女に腕を引かれ草原を進んでいく。

 さて、会話がないのも気まずいだろうし、こちらは疑問が山積みだ。道中で聞いてくれると言っていたし、今聞くことに決めた。

 呼び方は……ちゃん付けでいいだろう。


「フォニアちゃん」


「フォニアでいいですよ。

 それで、なんですか? なんでも聞いてくでさい」


 彼女は笑顔で俺に答えた。なんだか恥ずかしい。女の子にこんな笑顔で対応されたの初めてな気がするぞ。かなり、眩しいな。

 ああ、見とれている場合じゃない。質問が山積みなのだ。


「ああ、うん。フォニアがガイドさんなんだよね?」


「そうですよ。響也さんがこの世界で暮らすのに不便がないように、私が案内とかご飯の用意とかをさせていただきます。そうですね……そば付きさんだと考えてください」


 こんなに可愛いそば付きさんに恵まれるとは俺もずいぶんな幸運に恵まれたようだ。

 じゃあ、次だ。この世界のこと。


「この世界って主にどんな世界かな?」


「そうですね……詳しく話すと長くなるので、詳しくはその時その時で説明しますが、基本的には四つの大陸と、五つの島で形成された世界です。

 東西南北に大陸は配置されていて、島は世界の東西南北の端っこと大陸の中央に存在します。

 響也さんの世界との主な違いは、科学が発展していないことと魔法が無いことですね」


 なるほど、高層ビルが立ち並んでて、パソコンやテレビの有る世界ではないということか。

あれ? そういえば一つ疑問が出てきた。


「フォニアはどうして俺の世界のことを知ってるんだ?」


「それはですね、私が先代の言霊師さんの日記を読んだりしたからですよ」


「あの、石版を作った人の日記をか。なるほどねぇ」


 よく考えれば、答えは聞くまでもなかったか。石版だったのは外に置いておくからで、誰かが管理するなら書物でもいいわけだ。ん、でもまてよ? それって日本語で書かれてるんだよな?


「この世界って言葉とか文字はどうなってるの?」


 当然に出てきた質問。フォニアは仕舞ったと口に手を当てると、そのことをお話しないといけないんでした。と言いながら説明を始めた。


「私は一応日本語喋ってますけど、この世界に日本語は一応存在しないんです」


「え? じゃあなんで日本語を?」


「先代さんの日記に色々仕込まれてまして、それで学びました。

 基本的に、私のような例外を除きこの世界では日本語は通じません」


 他の物語のように異世界でも何故か言葉が通じるなんてことはないようだ。でも、ならばどうやって俺は

他の人と意思疎通すればいいんだろうか?


「ふうむ」


「あっ大丈夫ですよ。言霊の力で何とかできますから」


 思案する俺の顔を読んだのかフォニアはそう言って笑顔だ。


「具体的には?」


「言霊で『翻訳』といえばいいんです。翻訳を止めるときは『翻訳解除』です」


「もしかして……それも?」


「はい、先代さんの日記にありました」


 先代の言霊師という人はずいぶんと世話焼きだったのだろう。今のところかなり助けてもらっている。異世界にありそうな最初の生活苦もこれなら緩和されるかもしれない。


「本当、先代には感謝だね」


「有能だったと聞いていますから。っと……あそこが目的地ですね」


 そう言ってフォニアが指さしたのは青白く光る魔法陣。日本語で『転移』なんて書かれている。


「日本語の魔法陣とはまた珍しいもの見たなぁ」


「この世界で日本語は魔法の文字ですから。私も喋るだけなら出来るのですが、書くのは日記にも仕込まれていませんでした」


「ということは、俺はあらゆる魔法陣を書ける唯一の人間てこと?」


「その通りです。自分でその魔法陣は使えないのが残念なんですけどね」


 やはは、と苦笑しながらフォニアは魔法陣に触れる。すると、転移の魔法陣がくるくると回転をはじめ、やがて青い光の輪が俺達を囲むと、目の前が白くなって浮遊感に襲われた。

 空中をフワフワと浮かぶような不思議な感覚の中、魔法陣を見た感想を俺はのんきに考えていた。日本人にかなり優遇されているなこの世界、と。まぁ、そこら辺はお約束……出会ってくれて嬉しいところだ。そうじゃないと生きるか死ぬかになるしね。

 白い視界は暫くの間浮遊感を届け、しばらくすると青くなって浮遊感も消えていった。そして、今度は青が晴れると……街があった。


「言霊師さん。東の果ての町『エステユアン』へようこそ!」


 引いていた手を放したフォニアは俺の前で両手を広げてそう言った。

 白い町……ヨーロッパの方の町を思わせるような白い石造りの街がそこにあった。


    ****


 「私達の拠点へ生きますよ~」とフォニアは言った。またしても手を引かれての行動になったが、文句はない。

 海外旅行などしたことがなかったから石造りの町はすごく珍しくみえる。

 今俺達が通っている道は町の中央道なのだろう。建物の先にテントが立っていて、商店が並べられていたり、看板が掲げられていたりといろいろだ。

 先程、東の果ての街なんて言っていたが、その割に人は多くらしく通行人で賑わっている。


「ずいぶんと人が多いね」


「移動は魔法があれば時間が掛かりませんから」


「なるほど」


 移動費もかからない故に色んな所に観光し放題なのだろう。魔法とは便利だ。


「でも、言霊も、魔法も一長一短ありそうだよねぇ」


「どうかしました?」


「いいや、なにも」


 俺の答えに納得したのかフォニアは街の説明を始めてくれる。


「あれが武器屋さんです。さきほど響也さんが出していたような普通の鉄剣から、魔法鋼という魔法の力がかかった金属で出来た特殊武器なんかが置いてあります」


 少々遠目に覗いて見ると、なるほどさっき出したような剣の他に、少し青く光る盾や、先だけが赤く光っている槍が置いてある。金属によって色や効果が違うのだろう。


「あっちは薬屋さん。この街は武器の加工で発展した街なので、主に猛獣用の麻酔薬なんかも売っています」


 街によって特色が有るのは当然か。武器を使うなら的にも使うんだろうし、そういう人も入るということか。


「あそこは市役所です。住民登録なんかは後でしに行きましょう」


「住民登録か、そういうところもしっかりしてるんだね」


「そうです。と言いたいですが、響也さんの世界に比べると形だけといった感じです」


 それでも作っているだけ凄いと思うのだがなぁ。

 街を進んで進んでしていると、目の前に大きな建物が。おおきな盾に交差させた剣と槍というなにやら物騒な看板が大きく掲げられていていて、その上には『言霊師の家』なんて書かれてある。……あの日本語の意味は知っているのだろうか? まぁ、そのまま……俺の家なのだろう。


「どうぞ、入ってください響也さん」


 フォニアは笑顔で俺を建物へ招き入れた。おずおずと入ると、そこには人、人、人、いや人じゃないのもいる。耳が生えたり、角が生えたり……何だこりゃ。

 俺が入ると全員がこっちを向いてピタリと止まる。


「や、やぁ」


 沈黙の雰囲気に押されて一言発してみるが反応はない。え、何かしちゃった?

 マズいことでもしたのかとフォニアを見てみると、彼女はニコニコ笑顔だ。

 固まる彼等と、俺の目が合う。欠片の目がキラリと輝いた気がした、次の瞬間。


『言霊師だあああああ!!』


 そんな一斉の叫びとともに部屋は歓声に包まれた。

 何が起きたのかわからず口が開く、なんか、いろいろ楽しそうな家のようだ。


感想等もらえると作者が輝きます。


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