08 スキンシップ
ヴィロサ嬢との面談を終え、次はヴェルナの部屋へと案内される。
今日の予定はとりあえず終わりで、本格的に何かをするのは明日以降にしようということになったからだ。
そうして案内されたヴェルナの部屋は……すごく独特な部屋だった。
ドクロのアクセサリーとか置いてあるやばい趣味の部屋って感じだ。
ヴェルナの見た目と比べるとすごく違和感のある部屋である。
だが俺はむしろ納得した。
だって凶暴だもん、ヴェルナちゃん。
そんなわけで、部屋に案内された俺は明日からの予定をヴェルナと話し合う。
「なんだかよく分からないままここまで来ちまったが、結局俺は明日から何をすればいいんだ?」
「……そうですね。とりあえずこの城に住んでもらって、人と関わりたいキノ娘と会ったりお話してもらおうと思っているのですよ。でも城にいないキノ娘も多いですし……変態さんの引っ越し祝いに、挨拶回りもいいかも知れないのです」
とりとめのない調子でヴェルナは今後の方針を語った。
正直言うと、ヴェルナ達も俺にさせることを具体的に考えていたわけじゃなかったようだ。
俺が呼ばれた理由は、人との接し方をキノ娘が学ぶためのサンプルとなること。
だから普通に人間ぽくしてればそれでいいってことなのだろうが。
でもそれ以外何もしないってのは何か嫌だな。
それじゃあ本当にキノ娘に寄生して生きてるみたいだ。
実際そういう感じの契約で俺はこの世界に呼ばれたのだろうが。
だがまあ、その辺についてはおいおい考えればいいだろう。
挨拶回りって言うのは良さそうだしな。
まずはこの世界についてもっと知ることが大切だ。
とりあえず明日からは各地のキノ娘を訪ねて回るということで話はまとまった。
その後はヴェルナと雑談などをして過ごす。
ここで俺は気にかかっていたことをヴェルナに聞いた。
「そういえば、ヴィロサ嬢がタケリタケって言った時お前ふきだしてたよな。ありゃなんでだ?」
「そりゃタケリタケって言や形がもろチン――」
帽子が何か言おうとしたがヴェルナに止められた。
座った状態から帽子を上下に揺さぶったようだ。
揺さぶりをかけることでヴェルナは上の口がしゃべるのを見事に阻止していた。
「……危ない所だったのですよ」
何が危なかったのかは謎だが。
ヴェルナの様子を見るにタケリタケについては触れない方がいいのかとも思ったが、しばらくしてヴェルナは下の口でちゃんと説明を始めてくれた。
「……そうですね。タケリタケについて語るには……私達が元々いた世界について語る必要があるのです。でも簡単に言うと、タケリタケは私達……アマニタ一族の天敵みたいなものなのですよ。……幼いキノ娘に寄生するという恐ろしい能力の持ち主で、私達は長年タケリタケとの戦いに苦労をしていました。アマニタ一族が多くこの世界へと来ているのには、そのタケリタケの脅威から逃れる為だという側面もあるのです」
キノコの娘達がこの世界へ来た理由にはそんなことがあったのか。
ただし側面もあるって言い方からして、主因は別にあるのかも知れないが。
「ちなみに……変態さんの新しい名前もモロにそこから来てるのですよ」
「それってつまり、俺自身がヴェルナ達の天敵になりうるって言うことか?」
「私はそうは思わないのですが。私達の毒が効かないという点では、変態さんもある意味天敵とは言えるかも知れないのです。ただヴィロサ姉様が……どういう意図で変態さんにこの名前をつけたのかは分からないですが。ヴィロサ姉様はたまによく分からないことをしたりもするので」
ということだ。
「でもヒポミケス・ヒアリヌスという名前は、私も変態さんにぴったりだと思いますよ……すごく色んな意味で」
よく分からんが、新しい名前はヴェルナにも好評のようだ。
ハイカラな感じで俺も気に入ったしな。
それに名前元のタケリタケと言うのも雄々しい感じでかっこいい。
漢字で書けば猛り茸か。
猛る茸。
正に俺にふさわしい名前と言えるだろう。
俺のキノコが猛り茸! とか一瞬思いついてしまったが。
だが本物のタケリタケさんに失礼だろうと思い俺は口には出さなかった。
そうしてヴェルナとの雑談も一段落し、色々あったので今日はもう眠ろうという話になる。
俺の部屋はまだ用意されてなかったようで、今日はこの部屋で寝ろとのこと。
これはあれだな。
男は床で寝ろってパターンだなと俺は思ったのだが。
ヴェルナのベッドを使っていいと言われてしまった。
「……私は鬼ではないのですよ。私達の都合で読んだ変態さんを床に寝かせるような失礼なことはしないのです」
とのこと。
ありがたい申し出ではあったので素直にベッドに入らせてもらう。
ヴェルナのベッドはほのかにキノコの香りがした。
キノコの娘とは言え、普段少女が使うベッドに入ると言うのはすごく緊張する。
だが……俺をベッドで寝かせてヴェルナはどうするつもりなのか。
「……私は別に寝なくても平気なので。一日くらい寝なくても死んだりすることはないのです」
とか言っていた。
だがよく観察すると、ヴェルナの顔は眠たそうにも見える。
話しから察するに生態として眠らないわけでもないようだしな。
俺だけベッドで寝るのも気が引け俺はヴェルナに声をかけた。
「我慢しないでヴェルナも一緒に寝たらどうなんだ。ほら、こっち空いてるぞ」
俺は掛布団を上げてヴェルナを誘ってみた。
……やってから思ったがかなり変態的な行動だったかも知れない。
今ヴェルナに変態と言われたらさすがに反論することができない。
そう思っていたのだが、俺が掛布団を上げているとヴェルナは無言で中へと入ってきてしまった。
想・定・外・だ。
だが今更冗談だったと言うことも出来ず、俺はヴェルナの隣で固まってしまう。
ちなみにヴェルナは拘束衣みたいなコートを被ったままだったが、俺にはそんな細かいことを気にする余裕もなかった。
そうして俺がガチガチに固まっているとヴェルナが話しかけてきた。
「……私はこういうの……生まれて初めてなのですよ」
俺は緊張がさらに高まるのを感じたが、ヴェルナの言葉には特に性的な意味などはなかった。
「……キノ娘には毒のない娘もいるけれど、私は猛毒を持っているのです。キノ娘同士ならある程度毒に耐性はありますが、それでもくっついたりすると互いにダメージを受けてしまうのですよ」
俺が見る限りでは、キノコの娘同士は普通に接しているように思えた。
だからキノ娘同士では毒が無効なのかと思っていたがそうではなかったようだ。
一応、直接体が接したりしなければさほど問題はないらしい。
だが接触するのは駄目なので、キノコの娘同士でもスキンシップを取ったりすることはほとんどないとのこと。
つまり一つのベッドで誰かと一緒に寝るようなこと自体が、ヴェルナには初めての体験だったのだ。
「だからこういうのは……すごく新鮮なのですよ」
そういうヴェルナの姿は、なんというかもう……滅茶苦茶可愛かった。
ヴェルナは恥ずかしがりながらも、嬉しそうに俺に体をくっつけてくる。
ヴェルナが普段の調子なら『そんな風にくっついてもいいのか? 俺は変態さんなんだろう?』とか言っていたかも知れない。
だが……本当に小さな女の子みたく俺にくっついてくるヴェルナに対して、俺がそんないじわるを言うようなことはなかった。
そうして俺は、ヴェルナの可愛い姿を見つつ眠りへと落ちていく。