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05 アマニタ・ヴィロサ (毒鶴茸の少女)

「……変態さん。起きて下さい変態さん。……ここはもうクサビラ界なのですよ」


 ヴェルナに左手でゆすられ俺は目を覚ます。


 周りを見渡すと、そこは洋風な感じのする古城の中だった。

 いかにもファンタジーな石造りの部屋だ。


 その部屋の中央にある、いかにもな魔方陣の中に俺はいた。


「ここは魔王城の中なのです。その中の……何かを召喚してたっぽい場所を改造したのがこの部屋なのですよ」


 ヴェルナが俺に声をかける。

 どうやら俺は、ちゃんとヴェルナの世界に来られたようだ。



「まずは変態さんをヴィロサ姉様に会わせるのです。……失礼のないようにお願いするのです」


 そうして俺はヴェルナの後に続いて召喚部屋を後にする。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 部屋の外も、古風な西洋風の建物だった。

 ただしヴェルナが言うような魔王城なんて感じはせず、由緒正しき古城といった感じの城だった。


 その城の中を歩きつつ、俺はヴェルナから説明を受ける。


 ヴェルナの姉の名はアマニタ・ヴィロサ。

 なんでもこの城を統括しているキノ娘だそうだ。


 というよりキノコの娘全体のリーダー的な存在らしい。


「……ヴィロサ姉様は死の天使の異名を持つ猛毒キノコの娘でもあるのです。……逆らってはいけません。まあ姉様は人間出来てるので隙を見せたらやられるなんてことはないですが――」

「股間のキノコとか見せたら殺られるからな。せいぜい気をつけろよ、ヒヒッ」


 だそうだ。

 ちなみに後半部分は帽子の方がしゃべった言葉だ。


 というかヴェルナは俺が誰彼構わずキノコを見せると思っているのか。

 俺をどれだけ変態だと思っているのかと。



 そんなことを考えてる内に俺達は目的の場所へと到着した。


「では入りますよ。ちゃんとして下さいね」


 いかにも先に魔王がいそうな大きな扉を開けて中へと入る。


 中の内装もいかにもそれっぽい感じで、広い部屋の奥には王様が座るような豪華な椅子が置いてある。


 ただしそこには誰も座っておらず、代わりに部屋の奥にある吹き抜け窓の前に一人の女性が立っていた。


「姉様。……帰って来たのです」


「あらもう? 思ったより早かったわね」


 そう言って窓際に立つ女性がこちらへと振り返る。


挿絵(By みてみん)


 彼女がアマニタ・ヴィロサのようだ。


 色調はヴェルナと同じで全体的に白い。

 ミドルヘアの髪の毛から服まで全体が白で統一されていた。

 ただし瞳からは怪しげな赤い光を放っておりその点もヴェルナと同様だった。


 服装は露出が少し多めのシックなドレスだ。

 頭には大きなつばのある帽子をかぶり、そして……背中から小さな羽が生えていた。


 天使の羽みたいなのをつけてる辺りヴィロサ嬢も中二病なのかと一瞬思ったが、ヴィロサ嬢の羽はガチで体から生えてるからな。

 外見はほとんど人間と同じに見えるがやはり人間ではないのが見て取れた。


 ちなみに身長はヴェルナよりもだいぶ高く、大人の女性といった感じだ。

 ただし表情は柔らかく、全体としては茶目っけのあるお嬢様といった印象だった。



 そうして俺が彼女を見ている間、ヴィロサ嬢も俺を観察していたようだ。


「ふぅん……。あなたが毒に耐性のある人間なのね。こうやって城の中を歩けているだけでもそれは確かなのだけど。思ったより普通なのね。でも悪くないわ。健康そうだし、顔立ちも整っているしね」


 どうやら、ヴィロサ嬢からの第一印象は悪くなかったようだ。


 自分で言うのもなんだが、今の俺は自分から見てもかなりイケてると思うしな。

 最初鏡見た時「誰だこのイケメン」って思ったくらいなのだから。


「……変態さんが調子に乗っているのです」


 ヴェルナが不満気な声を出していたが俺は華麗にスルーした。



「とりあえず第一印象としては合格ね。ヴェルナから説明は受けたと思うけど、貴方にはこれから人の代表例として、人間と関わりを持ちたいキノ娘達の練習相手になってもらうわ。でも……一応私からも確認しておこうかしら。貴方はそれをきちんと納得して、今ここにいるのよね」


「もちろんです。実は俺、ヴェルナちゃんに会う前に生まれ変わっていたみたいで、元の世界に居場所がない状況になっていました。だからこれは……俺にとってもいいお話だと思っています」


 そう答えると、ヴィロサ嬢は満足げに頷いていた。

 ……俺の話にはだいぶツッコミどころがあったと思うのだが。


 俺が生まれ変わっていた云々については、ヴィロサ嬢もヴェルナ並みの勢いでスルーするつもりのようだ。



「ともかく、こうしてあなたが来てくれて良かったわ。これでしばらく大きな仕事はなくなるわね。やっとで私も転生出来そうで嬉しいわ」


「転生……子実体を更新するのですか。確かにヴィロサ姉様の今の体、もう八年くらいは使ってますからね。生まれ変わるにはいい時期かも知れないのです」


「そうでしょう。本当はもう少し前に転生しておきかったのだけど、つい先延ばしにしちゃってたのよね。でも結果としては良かったかしら。こうして転生前に毒耐性を持つ人と会えたのだから」


 なんてことない世間話でもするかのように、二人は理解できない会話を繰り広げていた。


 俺が理解してないことを察したのか、少ししてヴィロサ嬢が話しかけてくる。


「なんだか驚いているようだけどどうかしたのかしら? あなたも転生したばかりなのよね? ……って、あれ? 人間って転生するような生き物だったっけ?」


「あっ……」


 なんだか二人が急に驚いた顔をしている。

 何がなんだかさっぱりだ。


 しばらく考えたそぶりを見せた後、ヴィロサ嬢が説明を加えてくれた。


「私達キノ娘の生態については……まだ聞いてないのよねその様子だと。せっかくだから、まずはそこから説明しておきましょうか」


 そう言うと、ヴィロサ嬢は少し顔を引きしめた上で話を続ける。


「今あなたの前にいる私達の体だけど、実はこれ……私達の本体ではないの。子実体しじつたいと言って、植物で言えば花や実にあたる部分になるかしら」


「本体はキノコらしく……ちゃんと菌糸体きんしたいがあるのですよ。菌糸体の場所は秘密ですが、この世界の地面の中に……広範囲に渡って分布しているのです」


「そういうことなの。だからこの体は……この世界の人達と関わるために作った仮の姿とでも言えばいいかしら。でも子実体はあくまで一時的なものだから、あまり長くはもたないの。普通のキノコと比べればすごく持つ方ではあるのだけれど、寿命はもって十年くらいかしらね。だからその期限が切れる前に、子実体を更新しながら私達は暮らしているの」


 この話は結構衝撃だった。


 ヴェルナ達キノコの娘は、百年前にこの世界にやって来たと言っていた。

 そしてヴェルナ達の話しぶりから察するに、それから百年近くヴェルナ達は同じ個体としてこの世界に存在してるんだろうとは思っていた。


 俺は単純に寿命が長いだけだと思っていたのだが。


 だが彼女達、人とはかなり違った生態を持つらしい。

 人間状の体は仮の物で、定期的に交換を繰り返しつつ生きてきたようだ。

 そして本体は菌糸体とか言うやつらしい。



 うろ覚えだが、確かにキノコはそんな生き物だった気もする。

 普段目にするキノコ部分は本体ではなく、地中にある糸みたいなのが本体だとかなんとか。


 彼女達キノコの娘も、その辺はしっかりキノコだったというわけだ。



 そうして俺が驚いていると、ヴィロサ嬢が真剣な眼差しで尋ねてきた。


「私達はそういう生き物だから、生まれ変わるというのはごく日常的なことだったの。もちろん子実体についての話だけどね。だからあなたが生まれ変わったと聞いても気にはならなかったのだけど……人間としてはおかしいわよね?」


 どうやらヴェルナとヴィロサ嬢は、ここに来て俺の異常性に気が付いたようだ。

 そして次はヴェルナまで、表情の読めない顔で俺へと尋ねてくる。



「……変態さんは、本当に人間の変態さんなのですか?」


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