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24 酔いどれ

「きららちゃんいつも踏んづけちゃってごめんねぇ」


「ううん。私もあせっちゃってたから。お酒飲んだままお姉ちゃんのとこ行ってまた私が毒で倒れちゃったりしたら、お姉ちゃんのトラウマを余計に増やしちゃってたかも知れないし」


 あみちゃんから謝罪を受けつつきららちゃんが戻ってくる。


 そしてヴィロサ嬢達も加えて席へとついた。

 ちなみにヴィロサ嬢は俺の右隣に座り、他の娘は向かい側へと座っている。


「それにしても、あのBL本とやらは良い本じゃったの。なんというかこう、読むだけで心がポカポカしてくるのー」


 どうやらかほりさんはBL本を最後まで読み切ったようだ。

 見た所性格が変わったようには見えないし、やはりかほりさんはBL本ごときにやられるキノ娘ではなかったようだ。


 俺はその事実を確認し、次はヴィロサ嬢の様子を見る。


「あの本は確かに凄かったわ。そう……言うなればまさに男の戦い。二人の男が互いのキノコとキノコをぶつけ合い、激しいバトルの末に二人に真の友情が芽生えるという美しき戦いの物語だったわ。まさに大興奮の一冊ね」


 ……BL本の中で一体どんなバトルが繰り広げられていたと言うのだろうか。

 何か想像出来そうな気もしたが、むしろ想像したくなかったので俺は考えるのをやめた。


 とにかく二人も大丈夫そうだったので、改めて俺達は宴会を続ける。



 ヴィロサ嬢はすごい勢いで酒を飲み、あっという間にべろべろになっていた。


「ちょっとヒアリヌス。あなたはちゃんと飲んでるの~? 全然酔ってるように見えないんですけどぉ~」


 ヴィロサ嬢は普段と打って変わり、すごくうざいキノ娘と化していた。


 唯一の救いとしては、月夜嬢が俺の膝の上で既にダウンしていることだろうか。

 そのため両側から酔っ払いの波状攻撃を受ける事態は避けられたのだが、一人だけでも酔ったヴィロサ嬢は凄かった。


 酔って俺の腕にまとわりつくヴィロサ嬢もこれはこれで可愛かったが。

 特に今のヴィロサ嬢は見た目が中学生になってるのでそういう意味でも可愛い。


「月夜は月夜で沈むの早すぎるし。ちょっと月夜、起きなさーい」


 そんなことを言いつつヴィロサ嬢は月夜嬢をぺちぺち叩こうとしていた。

 もちろんこれは俺が止めたが。


「何で止めるのよ。ちょっと叩いたくらいじゃ月夜は死んだりしないって。私の毒で喝入れて叩き起こしてやるのよー」


「やめて下さい」


 ヴィロサ嬢はなんか月夜嬢と似たこと言ってる気もするが、実行に移そうとする分こっちの方がたちが悪い。

 俺が止めたので月夜嬢を叩くのはあきらめたようだが、ヴィロサ嬢は代わりに俺の肩を延々とぺちぺち叩いてくる。


 俺には毒が効かないから俺を叩く分にはいいんだけどな。

 むしろぺちぺちしてくるヴィロサ嬢もなんだか可愛かったし。


「でもあれだな。もしかしたら幼菌だからかも知れないけど、ヴィロサさんでも酔ったら性格変わるもんなんだな」


 何の気なしに俺がそう言うと、ヴィロサ嬢はふてくされた顔で返してきた。


「私は性格変わってなんかないわよ~。むしろこっちが素だもの。普段は頭いい振りしてるだけなんだからね。でも頭いい振りするのもつ~か~れ~る~のぉ~」


 そんなことを言いつつ、ヴィロサ嬢はさらに勢いを増して俺の右肩をぽかぽかと叩いてくる。


 ……頭のいい振りが出来る時点で頭が悪いなんてことはないと思うが。

 だがいくらヴィロサ嬢とは言え、キノ娘達全員をまとめ上げたりするのは実は大変なのかも知れない。


 せめてお酒を飲んだ時くらいは、少しくらい馬鹿な真似させててもいいかと俺は思った。



 そうしてその後もヴィロサ嬢はフリーダムに暴れまくっていたのだが、しばらくするとさすがにヴィロサ嬢も疲れたのか、仰向けになって畳の上へと倒れる。


「月夜が使ってるせいでヒアリヌス枕に出来ないしー。もういいもん。私はこのまま寝ちゃうんだからねー」


 そんなことを言ってヴィロサ嬢は本当に眠り始めてしまう。


 なんというか……酔ったヴィロサ嬢は嵐のように暴れて、嵐のように去っていったという感じだった。



 そしてヴィロサ嬢と入れ替わりに寝ていた月夜嬢が目を覚ます。


「うーん。あ、ヒアリヌスさんおはよう~」


 おはようと言うような時間では全然なかったが。

 月夜嬢はお酒も全く抜けていないようだった。


「そういえば私まだ温泉入ってない」


 なんの脈絡もなくそんなことを言ってくる。


 さすがは酔っ払いというかなんというか。

 だが月夜嬢、酔ってふらふらのまま温泉に入るつもりのようだ。


 なんだか危なそうな感じがするな。

 月夜嬢には毒があるから他の娘が付き添うわけにもいかないし。


 ここはやはり、俺が月夜嬢に付き添って二人で温泉に入る必要があるだろう。


 俺は紳士的なスマイルを全開にして月夜嬢に話しかけた。


「それじゃあ私が、温泉までお送りしますよお嬢様」


「ホントに? じゃあお言葉に甘えちゃおっかな~。えへへ。ヒアリヌスさんすっごい紳士~」


 ふっ、伊達に前世で紳士と名乗っていたわけじゃないからな。


 しかし月夜嬢ったらまじチョロイン。

 まあ単純に酔ってるだけという面も大きいだろうが。


 だが俺は、月夜嬢が酔う前にも一緒に温泉に入ろうとは言っているのだよ。

 あの時にちゃんと断らなかったお嬢さんの方が悪いのさ。


 そんなよこしまな考えを巡らしている俺を、月夜嬢は真っ赤な顔でボーっと眺めてきていた。


「えへへー」


 俺の視線に気付くと満面の笑みを返してくる。

 ……月夜嬢マジで可愛いな。



「じゃあ俺と月夜も先に失礼するな。月夜一人じゃ危なそうなんで一緒に温泉入ってくる」


 そう言って俺は月夜嬢を支えつつ立ち上がった。


 どう考えても俺が一緒の方が月夜嬢には危険そうなのだが、主に性的な意味で。

 だがこの辺りをつっこんで来るキノコの娘はこの場には一人もいなかった。


「そうえば月夜とも一緒に温泉入ると言っておったの。じゃあ月夜の世話はヒアリヌスに任せるぞー。あと温泉は掛け流しになっとるから、月夜が入った後のお湯の処理とかは気にせんでも良いからのー」


 そんなかほりさんの言葉を背に受けつつ、俺と月夜嬢は大部屋を後にする。


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