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06 岸之上 紫蜘(蜘蛛茸の少女)

 大蜘蛛の森を山の方角へと突き進む。


 森には蜘蛛以外の魔物もいたが、メインはやはり大蜘蛛だった。

 この森では大蜘蛛が生態系の頂点となっているのだろう。


「だとしても少しおかしいわね」


 ヴィロサ嬢がいぶかしんでいた。


「いくらなんでも蜘蛛多すぎだよね。何か人為的な物を感じる」


「そう言えば……蜘蛛と言えば最近紫蜘(しくも)の――」


 一夜さんが何か言いかけた時、俺の視界に信じられない物が映った。

 俺はその場所へと向かって走り出す。


「ヒアリヌスっ! 急にどうしたの? 止まりなさーい!」


 後ろからヴィロサ嬢達の声が聞こえるが俺は無視して走り続けた。


 なぜなら――

 視界の端に、一瞬女性の姿が見えたからだ。


 村人は大蜘蛛の森に人間は近づかないと言っていた。

 だから俺の単なる見間違いなのかも知れない。

 だがこんな魔物だらけの森に女性がいればそれは危険極まりない。


 俺は女性の姿が見えた場所へと全力で走って行った。



 そしてその場で、俺は二体の魔物と遭遇する。


 一体は大きな虎のような魔物だ。

 この森で見た中で一番強そうな魔物。

 大蜘蛛よりあきらかに強力な魔物がそこにはいた。


 そしてもう一体は……上半身が女性で下半身が蜘蛛みたいな魔物だった。

 俺が人間と勘違いしたのはどうやらこの魔物だったらしい。


 蜘蛛女の髪色は薄い紫色で、くせ毛なのか縮れた感じになっている。

 というよりモコモコしてると言えばいいか。

 前髪は中央で分けてあり紫色の光る髪留めで留めていた。


 瞳や眉毛も紫色で眉毛は太眉になっている。

 全体的にモコモコした印象のある少女だ。

 顔つきは大人しそうで少しおどおどしているようにも見える。


 そして服装がすごく和風だった。

 白を基調とした和服に紫色の帯を締めている。


挿絵(By みてみん)


 だがやはり、彼女を特徴付けるのは蜘蛛のような下半身だろう。

 そしてその下半身も、この森にいる他の蜘蛛とはかなり違っていた。


 まず全体が白い毛皮のようなもので覆われている。

 すごいモフモフだ。

 脚が八本生えているから蜘蛛ではあるのだろうが、質感は白いクマのぬいぐるみとでも言えばいいのか、とにかくモコモコだった。


 モフりたい。


 一瞬変な考えが頭をよぎるが俺は動物大好きなケモナーではなかった。

 だがもしケモナーであれば我を忘れて飛びついたかも知れないほどにモフモフした下半身を持つ魔物娘だった。


 その魔物娘と虎型の魔物が今まさに戦いを始めようとしている。


 俺は一瞬魔物娘を助けるべきか迷った。

 だが俺はケモナーではない。

 魔物同士の戦いならその推移を見守るべきと俺は判断する。


 そして戦いが始まり、一瞬でその決着はついた。


 蜘蛛娘が手から糸を飛ばして虎型の魔物をぐるぐる巻きにしてしまったのだ。

 一瞬にして、虎型魔物は蜘蛛娘の下半身のような白いモコモコへと変わっていた。


 この蜘蛛娘……強い。

 他の大蜘蛛とはあきらかに戦闘能力が違っていた。


 もしかすると彼女が、この森にいる蜘蛛達の親玉か何かなのかも知れない。

 その蜘蛛娘が俺の方へと体を向ける。


 俺はとっさに毒鶴刀を持って身構えた。

 だが……少女の顔を見て俺は刀を下ろす。


 恐ろしい戦闘能力を持つ少女ではあるが、蜘蛛娘の顔はどう見ても悪人には見えなかった。

 その瞳は優しげで、俺を見てむしろ戸惑っているようにも見える。


 いくら強力な魔物でも、こんな優しげな顔をした少女を斬ることなど俺にはとうてい無理だった。

 俺は刀を地面に刺して蜘蛛娘へと話しかけた。


「お嬢さん。俺の言葉……人間の言葉分かるかな? 君はもしかしてこの森の蜘蛛達の親玉なのか? だとしたら蜘蛛を斬りまくった俺は殺されても文句は言えないかも知れない。でも俺は君とは戦いたくないと思っているんだ。むしろ君の下半身に体をうずめて思い切りモフりたいくらい――」


 と、俺が話を始めたところでヴィロサ嬢達が追いついてくる。

 だが彼女達は速度を緩めず俺と蜘蛛娘の間に割り込んだ。


 そして――俺から蜘蛛娘を守る形で俺と対峙する。


「ヒアリヌスが紫蜘しくもを斬る前に追いつけて良かったわ」


「私はヒアリヌスさんがそんなことするとは思わないけど、別の意味で危なかったよね」


紫蜘しくもの下半身に何かをうずめたいとか言っていた気がしますが……私の聞き間違いですよね? いえ、聞き間違いであってほしいと思います」


 そう言って三人は俺の前へと立ち塞がってきていた。


 全く状況の掴めない俺は三人へと質問する。

 その質問には一夜さんが答えてくれた。


「彼女は岸之上きしのがみ 紫蜘しくも。れっきとしたキノ娘です。そしてすごく恥ずかしがり屋な娘でもあります。彼女に対するセクハラ及びそれに準ずる行為は、ヒアリヌスさんと言えども見過ごすことはできません」


 強い口調で一夜さんに釘をさされてしまう。


 この岸之上 紫蜘がキノコの娘だというのは正直驚きだった。

 今まで見たキノ娘の中で一番人間離れしている。


 だが同時に、彼女がキノ娘で良かったと俺は思った。

 魔物なら最悪戦う必要があったかも知れないが、キノ娘なら話が通じるはずだからな。


 ただセクハラ云々についてはショックだったが。

 俺がいつセクハラ行為をしたというのか。


 ヴェルナのせいで『俺=変態』というありもしない誤解が、キノ娘中に広まっている気がしてならない。


 だがいずれにせよ、紫蜘ちゃんが敵でなくて本当に良かった。



 森の中に紫蜘ちゃんの住む家があると言うことなので、俺達はそこまで案内してもらうことにする。


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