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03 黒肥地 一夜(一夜茸の少女)

 東の国へと行くメンバーも決まり、朝食時の会合はこれでお開きとなった。

 明日東の国からの使者がくればそのまま出発するとのこと。


 そのため俺は店の再建を手伝ってくれている人たちにそのことを話した。

 笹子ちゃんなどは寂しがっていたが、頑張ってねと言ってくれた。


 俺が東から戻るのに一月近くかかる予定なので、店の再建は急がなくてもいいと伝えておく。


 それに食中毒の御三家が来る前に起きた魔物の襲撃もある。

 だから村の再建の方を優先してくれということで話はまとまった。


 そもそもキノコ店自体特に急いでいるわけでもなかったしな。

 挨拶回りのことまで考えれば、今後西の国や南の国へと旅立つ可能性もある。

 そういう意味でも村の再建を優先させるのは当然の話だ。


 まあそんなわけで、キノコ店は放置ということで話はまとまった。

 みんなが店の再建をしてくれてる中俺が東に行くのも気が引けていたからな。


 キノコ店の開店はより遅れることにはなるが、これで気兼ねなく東の国へと旅立てる。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 その後は城に戻って、旅の予定などをヴィロサ嬢や月夜嬢と話しておいた。

 そういうもろもろを終えた上で、残りの時間はヴェルナとすごす。


 明日からまた離れ離れということもあってか、普段よりヴェルナがくっついてくる気がする。


 俺は足を組んだ姿勢で座り、その上にヴェルナを座らせてみたりしていた。

 触りやすい位置に帽子が来たので帽子の奴もさすってやったりしてみる。


 ……帽子に触覚とかあるのかがまず謎だったが。

 でも帽子の口が嬉しそうに動いている気がしたのでやって間違いではなかったようだ。


「……でも結局、変態さんとはしばらくお別れなのですね」


 ヴェルナはちょっと拗ねてるみたいだ。


 昨日の戦いが終わった後は、これからはヴェルナもキノコ店予定地に来るんだぞみたいに言ってしまっていたからな。


 それがこんな急に離れることになるとは、ヴェルナは思ってなかったはずだ。

 俺だって昨日はこうなるなんて思ってもいなかったんだからな。


「……一カ月ヴィロサ姉様や月夜と旅するからって……二人に変なこととかしちゃ駄目なのですよ」


「分かってるって。俺はちゃんと時と場所をわきまえられる紳士だからな。相手が嫌がるようなことはしたりしないさ」


「……ならいいのですけど。でももし……月夜が変態さんに言い寄って来たりしたら、変態さんは月夜もこうやって抱っこしたりするのですか?」


 うーん……。

 なんとも答えずらい質問をしてくる。


 そもそも月夜嬢に抱っこをねだられるシチュエーションが想像できないのだが。

 なのでここは素直にそう伝えておく。


「俺が月夜嬢に何かするって展開はないんじゃないかな? 月夜嬢はしっかりしたレディーって感じがするし。むしろ抱っこするなら幼菌状態でちっちゃくなってるヴィロサ嬢の方が――」


 とか言ったらヴェルナに驚いた顔で振り向かれてしまう。


「……やっぱり変態さんは、真性のロリコンさんだったのですね。……でもちょっとだけ安心しました」


 などと言われてしまった。


 ヴェルナの中で完全にロリコン認定されてしまったようだ。

 俺はロリコンなどではないのだが。

 むしろファルのおっぱいさんとか大好き人間であるのだが。


 だがあえてヴェルナには言わない。

 なぜか安心したとかおかしなことを言っていたので。


 俺がロリコンで安心したとか、そこは逆に心配すべきところだろうと全力でツッコミは入れたかったが。


 まあそんな感じで、その日は夜までヴェルナをひざの上に座らせて過ごす。

 明日から一月離れると思うと俺も寂しく感じたので、その日はいつもより多目にヴェルナをぎゅっと抱きしめたりした。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 翌日、いつものように城での朝食を終えたところで、東の国からの使者がやってくる。


黒肥地くろひじ 一夜ひとよです。この度皆様を東の国へと案内するため参上しました。道中よろしくお願いします」


 そういって丁寧に挨拶してきた。


 一夜さんは、一言で言うなら純和風の美人さんだ。

 黒を基調とした和服に身を包み髪も綺麗な黒髪だ。

 黒髪のロングで前髪をぱっつんと切り揃えている。


 いわゆる黒髪ぱっつんというやつだ。

 そのためぱっと見だと日本人女性と区別がつかなさそうだが、彼女は身体的に大きな特徴を持っていた。


挿絵(By みてみん)


 まず服装。

 黒い和服に白い帯をしめた格好だが、袖先がまるで溶けたようになっている。

 髪の毛も毛先から溶け始めているようで、彼女の歩いた後には黒いインクがこぼれたような跡が出来ていた。


 体が溶けかかっているのだろうか?

 俺はつっこんでいいのか迷っていたが、俺が言う前にヴェルナが失礼なことを言っていた。


「……一夜さんが生きて歩いているのです。生きてる一夜さんを見るのはずいぶんと久しぶりなのですよ」


 まるで一夜さんがいつも死んでるみたいな口振りだ。

 だがまあなんというか……話を聞くと実際それに近い状態ではあるらしい。


「最近は子実体の寿命も延ばせてきてはいるんですけどね。他のキノコの娘よりは短いですが、一年くらいは子実体を維持できるようになったんですよ。もっとも、この子実体はもうすぐその一年になりますので液化が始まってしまってはいますが」


 とのことだ。


 キノコの娘は人間みたいな子実体を作るとんでもない能力を持っている。

 だが誰もが同じ強度の子実体を造れるわけではなく、キノ娘によって子実体の寿命は様々なのだ。


 中でもこの一夜さんは子実体の寿命が短いらしく、寿命が近づくとこうして肉体の液化が始まってしまうということだった。


 案内役としてかなり不安を感じたが。

 だが東の国に着くまでは余裕で持つとのことだったので深くは追及しなかった。



 こうして案内役の一夜さんを加え、俺達は四人で城を後にする。


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