19 エピローグ
事件の主犯であるウスタ、紅、月夜嬢はヴィロサ嬢達に城へと連行されていた。
地雷によって軽傷を受けていた俺も一緒に城へと同行する。
そして三人を事情聴取して事件の全容を聞き出した。
まあ聞き出したと言ってもそれほど大したものではなかったが。
キノコ食中毒の御三家である月夜嬢達は、三人ともキノ娘が人と仲良くすることに反対だったということだ。
というより、彼女らのいる西の国では反対するキノ娘の方が多いのだとか。
そのためこれまでにも問題が起きることは度々あったが、そこに毒の効かない人間が召喚されたという報せが入る。
この時点で西の国では手を打つことが決まったそうだ。
さらにヴィロサ嬢が転生期に入ったという情報も同時に入っていたため、ヴィロサ嬢の転生が終わるまでのひと月の間に俺をどうにかしようという話になった。
そうして三週間後に作戦が決行されたと言うわけだ。
ちなみに店が襲われる前に魔物の群れが出たのも彼女らの仕業だ。
ヴィロサ嬢が不在だと言う情報を魔物にあたえ、あることないこと吹き込んで村を襲わせたらしい。
結局計画は失敗し、俺はぴんぴんしているわけだがな。
ただしキノコ店予定地やふもとの村には被害も出た。
その代償はしっかり払ってもらうとヴィロサ嬢は言っていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
事件も一段落した所で、俺はヴェルナの部屋で休ませてもらう。
この世界に来た後一週間ほどは、俺はヴェルナの部屋で寝泊まりしていた。
だがその後二週間近くはキノコ店予定地で寝泊まりしている。
だからヴェルナの部屋でこうして休むのは久しぶりだった。
「……変態さんを部屋に上げるのは久しぶりなのです。……ちょっとだけ緊張するのですよ」
ヴェルナがらしくないことを言ってくる。
対する俺はリラックスしまくりだった。
風呂にも入らせてもらい今は腰にタオルを巻いているだけのスタイルだ。
「……変態さんはくつろぎすぎなのです」
「いいじゃねえか。またしばらくはこの部屋で寝起きさせてもらうわけなんだし」
「まあそうなのですが……」
俺が寝泊まりしていたキノコ店予定地は紅に爆破されて跡形もない。
直すのに最低一週間はかかるからな。
「一週間したら……また変態さんとはお別れですね」
「そんなことないだろ」
ヴェルナが馬鹿なことを言ってくるのでここはきちんと訂正しておく。
「店の再建が終わったら、改めてお前は店まで強制連行なんだからな。っていうかヒマなら店の再建にも付き合ってくれていいんだぜ」
「それは……」
ヴェルナは一瞬言い淀んだ。
だが。
「……うん、分かったのです」
ヴェルナは素直に返事をした。
「でもあれだな。キノ娘達も、みんなが人間と仲良くしたいわけじゃないんだな」
俺は今日の出来事を振り返って思う。
「キノ娘も人間も同じなのですよ。色んな子がいて、それぞれ色々な考え方を持っているのです」
そうヴェルナは答えた。
言われてみれば、至極当たり前のことだ。
「やっぱ俺自身も、もっとキノコの娘について知っていかなきゃいけないな。キノ娘達への挨拶回りも全部終わったわけじゃないし」
「……それなら私がお付き合いするのですよ」
「だな。じゃあ明日からも、よろしく頼むぜヴェルナ」
「……了解なのです」
キノコの娘も、みんなが人間と仲良くしたいわけじゃない。
きっと人間の方にも、キノ娘と親交を深めるのに反対の奴はいるはずだ。
これから先、店を開いた後にも色々問題は起こるだろう。
だが俺は、未来を悲観してはいなかった。
この世界には、やりがいのある目標と、支えてくれる仲間達がいる。
それだけで、俺は生きてる実感を心の底から感じられた。
この俺の――
ヒポミケス・ヒアリヌスとしての人生は、これからもまだ続いていく。