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14 シャロン・ウスタ(柿占地の少女)

 俺達はほどなくしてキノコ店予定地へと到着した。


 辺りはひどい有様だ。

 爆発物でも使ったかのように店は跡形もなく吹き飛ばされている。


 キノコの娘達が協力してくれたことにより集まった、販売用のキノコも無残に辺りに飛び散っていた。


 毒にやられた人間がいないことだけがせめてもの救いか。

 だが人間の犠牲者はいなかったが、二人のキノコの娘が店の近くに倒れている。


かおりちゃん! 千野ゆきのちゃん! 二人とも大丈夫?」


 笹子ちゃんが二人の元へと駆け寄った。

 笹子ちゃんはそのまま二人に触ろうとしたがファルがそれを止める。


「触るな! 普段なら大丈夫だが、今は笹子が触るのも危険だ」


「……変態さん。二人を……安全な場所まで避難させてほしいのです」


 その言葉を聞き、俺は二人を移動させた。

 遠巻きに様子を見ている人間がいたので二人を託す。


 そして俺が戻ると、ヴェルナ達の前に立つ一人のキノ娘の姿が目に入った。



 シャロン・ウスタ。

 見た目は可愛い少女で、少し笹子ちゃんに似ているかも知れない。

 柿の着ぐるみみたいなスカートを穿き、スカートと同じオレンジ色の髪も、全体的に柿っぽい感じになっている。


 本来の印象としては、笹子ちゃんを大人しくしたような感じと言えただろうか。


 だが今の彼女を見てそんな印象を抱く人間はいないだろう。


 なぜなら……その大人しそうな顔にはひびが入っており、中から漆黒の肌と真っ赤な目が覗いていたからだ。


挿絵(By みてみん)


 同じくひびの入った右腕からも漆黒の肌が覗いており、それらの部分から瘴気が辺りに立ち込めていた。



「ウスタりん! どうしてこんなことするの!」


 笹子ちゃんが抗議の声をあげる。

 シャロン・ウスタはその声に対して表情を変えずに答えた。


「それはこっちの台詞だよ笹子ちゃん。人間と仲良くするなんてどうしてそんなことするの? 人間みたいな下等生物と仲良くしても僕達の品位が落ちるだけだよ? 人間なんて大人しく僕らを崇めてさえいればいいのに」


 ウスタの声は笹子ちゃん同様に可愛らしい女の子の物だった。

 だがそれゆえに話す内容との違和感がすごい。


 俺は彼女の異様な雰囲気に驚いていた。

 だが彼女の言葉を聞き、驚きよりなどより怒りを燃やす少女がいた。


「……黙るのです」


 ヴェルナがつぶやいた。

 その言葉はいつものように小さなものだったが、強い意志のこもった響きを俺は感じた。


「……ウスタが人間をどう思っていようと……そんなことはどうでもいいのですよ。……だけど、みんなの邪魔はしないで欲しいのです」


 ヴェルナは、心から絞り出すように言葉を続ける。


「私は見てるだけだったけど、でも……だから良く分かるのです。みんな……本当に一生懸命に頑張っていたのです。人もキノ娘も協力しあって……みんなが仲良くなるために頑張っていたのです。だから私は、せめて皆の邪魔だけはしないように……遠くから眺めているだけだったのです」


 ヴェルナの目に涙が浮かんでいるのが見えた。


「……それなのに、こんなの……ひどすぎるのです。ウスタが人間を嫌うのは私にはどうでもいいのです。でも一生懸命に頑張るみんなを邪魔するのは……私が絶対に許さないのですよ」


 言い終えると同時に、ヴェルナはウスタに攻撃をしかけた。



 ヴェルナの帽子の口からあふれる煙が、素早くウスタへと襲い掛かる。

 だがウスタの手前一メートルほどで、ヴェルナの煙は瘴気の壁に阻まれていた。


「許さないとどうするの? ……アマニタ・ヴェルナ。猛毒御三家の一人として強い力は持ってるけれど、君の煙じゃ僕の《瘴気(ミアズマ)》には勝てないよ」


 そういうウスタの顔にはさらにひびが入り、中から真っ赤な口が顔を出す。

 その真っ赤な口が、人に恐怖を与える笑みを形作っていた。



 ヴェルナはさらに攻撃を続ける。

 だがその全てが、ウスタの瘴気を突破出来ない。

 ウスタの前方一メートル前後で、煙の攻撃は全て真っ黒な瘴気にかき消されていた。


「ヴェルナよりも、あのウスタって娘の方が強いのか?」


 俺はファルに尋ねる。

 だがその答えは否だった。


「そんなことはない。射程はヴェルナの方が遥かに上だし、防御性能でも、百メートル以内の敵を自動排除するヴェルナの煙の方が上だ。だけどヴェルナの煙は強さが一定なのに対して、ウスタの瘴気は中心部に近づくほど強くなる。だから奴の半径一メートル以内に限っては、ウスタの瘴気がヴェルナの煙を上回るんだ」


 話をまとめると、相性の問題だということだった。

 ヴェルナの煙が瘴気に対して分が悪いというだけの話。


「だったら、俺やファルが戦えばウスタに勝つことは出来るんだな?」


 尋ねるとファルは頷いた。


「ヒアリヌスなら奴の瘴気そのものが無効だし、あたしなら、ダメージ覚悟で突っ込めば攻撃力でウスタを圧倒出来る」


「じゃあ――」


「――駄目なのです」


 ヴェルナと相性が悪いだけなら、俺やファルが出ればいい。

 そう言おうとした所でヴェルナが俺達を止める。


「私が……戦いたいのです。私は邪魔しちゃ駄目だとばかり考えて……今まで、みんなのお手伝いもろくにやってなかったのです。だからせめて、皆の邪魔を排除するくらいは……私の手でやりたいのです」


 ヴェルナの意志は固かった。

 だが相性の悪い敵と戦わせるのは心配だ。


 だから俺はヴェルナを止めようと思う。

 だが止めようとする俺の方が逆にファルに止められてしまった。


「ヴェルナがああまで言うなら、任せてあげようじゃないか、な」


 ファルはこともなげにそう言った。


 俺はファルに非難の目を向ける。

 その俺の目をしっかり見つめた上で、ファルは説明を追加した。


「そう怖い顔で見るなって。ヒアリヌスがヴェルナを大事に思う気持ちはあたしにも十分伝わったからさ。でもねヒアリヌス。あたしは別に、ヴェルナがウスタに勝てないとは言ってないんだ。猛毒御三家に名を連ねるヴェルナは、煙が通じないだけで終わるような弱い娘じゃないんだよ」


 そう言うファルの目は、ヴェルナの勝利を信じて疑わないものだった。


 続いてヴェルナが口を開く。


「……ウスタは、本当に悪いことをしたのです。だから私は、ウスタを本気でお仕置きするのですよ。だからすごく久しぶりに、私は……封印を解除するのです」


 そう言うと、ヴェルナはコートの前面から出る左腕を中へと引っ込めた。

 その空いた隙間から、次は左手と右手、二つの手が顔を出す。

 そしてその二つの手を上手に使って、ヴェルナはコートのファスナーを押し広げた。



「……キャストオフ。私がこの姿で戦うのは、魔王を倒した時以来なのですよ」



 猛毒御三家の一人、アマニタ・ヴェルナ。


 彼女の真の力が、今再びこの世界に吹き荒れようとしていた。


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