表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/53

11 開店準備と魔物の襲来

 笹子ちゃんを心行くまで抱きしめた後、俺達は笹子ちゃんの家へと戻る。


 ちなみに笹子ちゃんは魔物の死体を担いでいた。

 普通に食べられるらしく、料理してごちそうしてくれるという事だ。



 家に戻った後は笹子ちゃんが風呂に入るのを待ち、終わった後は俺達も料理を手伝う。

 ちなみに俺にも返り血がついていたので俺も風呂に入らせてもらっている。


 笹子ちゃんは最初一緒に入ろうと言ってきていたのだが。


「……事件ですか? 変態さん次こそ事件を起こす気なのですか?」


 って感じで詰め寄ってくるヴェルナが怖かったのでお風呂は別々に入った。


「……笹子だけずるいのは駄目なのですよ。私はぎゅってしてもらってもないのです」


 とか言ってた気もするが。



 そんなこんなで料理も終わり、俺達は三人で食事を取る。


 その場で、俺は考えていたことを二人に語った。


「キノコの娘達は、人との接し方が分からず人を傷つけてしまった。だから今、俺をサンプルにして人との接し方をキノ娘達は学ぼうとしている。そうだな」


 まずは前提条件を確認する。


「そうですよ」


「うんうん。ヒアリヌスさん。笹子にいっぱい人間さんのこと教えて下さい!」


 二人とも元気よく答えた。

 俺はそのまま、笹子ちゃんと出会って俺が思ったことを二人に伝える。


「でもな……俺は、それだけじゃ足りないんだと思うんだ」


 そう言うと、笹子ちゃんは不思議そうな顔をした。

 ヴェルナに至っては、何が足りないのかと不満気な顔にさえ見える。


 二人の反応を見つつ俺は続けた。


「確かに人間について学ぶのはいいことだし、みんなはすごく偉いと思う。だから足りないのは、決してキノ娘の方じゃないんだ。そうじゃなくて俺が足りないと思うのは……人間の方の努力なんだよ」


 俺が言うと、ヴェルナの顔も不思議そうなものへと変わった。


「例えば笹子ちゃんは、人を傷つけないために警告を兼ねたアーマーを手足につけてるだろ? でもその意味を人間が知らなけりゃ、俺みたいに人の方から触ってしまうこともある。そういう風に、キノ娘の側だけの努力では限界があるんだよ。キノ娘が人間について知るのと同様に、人間の方も、キノ娘についてもっと知る必要があると俺は思うんだ」


 そう言うと二人の表情が驚きへと変わった。


「……なるほど。それは考えたこともなかったのです。……さすがは変態さんなのですよ。私達とは違う視点を持っているのです。やっぱり変態さんをここに連れてきて正解だったのですよ」


「うんうん。ヒアリヌスさんホントすごい! ヒアリヌスさんが居てくれたら、本当に他の人間さんともうまくやる方法がみつかりそうな気がするよ!」


 二人が俺の考えを褒めてくれた。

 ……ヴェルナの方はホントに褒めてるのか少し微妙な感じだったが。


 だが俺の考えは、俺がキノ娘でなく人間だからこそ出た考えだろう。

 むしろ人間側の努力が足りないなんて考え方は、キノ娘の側からは出るべきでもない。


 しかしその上で、人間側の努力もやはり必要なのものなのだ。


「だから俺は、人間のサンプルとしてキノ娘と接するだけじゃなく、人間の方にも、キノ娘との接し方を教えていけたらいいと考えている。具体的には……キノ娘と人間が住む場所の中間あたりに、キノコを売る店でも作れたらって感じかな。そこでキノコを売りつつ、キノコの娘との付き合い方についても伝えていければいいと思ってる。他にもっといい案があればまた変わるかも知れないが」


「ううんすごいよ! 笹子はすごくいい案だと思うよヒアリヌスさん!」


「私もなのです。……私は正直驚いているのですよ。変態さんにはサンプルにさえなってくれたらと思っていたので。……私達の為にそこまで考えてくれてるとは思ってもいなかったのです」


 二人とも俺の意見に快く賛同してくれた。


 もっともこの時点では考えだけで、具体的な手段などは何もなかったのだが。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 俺がクサビラ界へとやって来て、ヴェルナや笹子ちゃんと出会ってから三週間近くが経過した。


 キノコの娘達への挨拶回りもけっこうな数をこなしている。



 そして挨拶回りと並行して、店の設立準備も進んでいた。


 これにはたくさんのキノコの娘達が協力してくれている。

 キノ娘達は、ホントにいい子ばかりだと俺は感動していた。


 そしてキノコの娘だけでなく、この世界の人間からも、いくらか助けを得ることができている。


 この世界の人間だって、キノ娘を忌み嫌っているわけではないのだ。


 むしろ神様みたく敬っているというのが彼らの基本姿勢だろうか。

 その神様が人と関わりたいと言ってくれば、助力を惜しまない人は多かったのだ。


 それ以外にも、元々キノ娘と関わったり、関わりたいと思う人間もいた。


 笹子ちゃんの友達だという人間の女の子も店の準備を手伝ってくれている。

 危険がないよう俺が近くで見守るという条件付きで、その子と笹子ちゃんが遊ぶ機会も何度か設けてあげることが出来た。



 ちなみに店で売るキノコは、キノ娘達が体から生み出すことが出来るものだ。

 彼女達は人間のような子実体を持っているが、その体から地球で見るキノコのような普通の子実体を生み出すことも出来るのだ。


 もっとも、売りに出すのは毒のないキノコだけだが。


 そうして……後一週間ほどで店が開店できるという時に事件は起きた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「大変です! 魔物が……魔物の大群が村に押し寄せてきました」


 村人が助けを求めてくる。



 この世界では、小さな村には強力な魔物に対抗するすべはない。

 だから魔物が襲ってきた時は、キノコの娘らに助けを求めるのが常となっていた。


 その代わりにキノコの娘達は普段神様のように崇められ、お供え物などをもらって生活をしている。


 そして俺が生活拠点にもしているキノコ店予定地は、今やキノ娘と人とを結ぶ中継地点となっていた。


 そのためキノコの娘への頼み事も自然とここにやってくるわけだ。



 俺はすぐ笹子ちゃんに伝言を頼む。


「ヴェルナ達を呼んできてくれ。場所はいつもの所で」


「分かった! 笹子ダッシュで行って来る!」


 そうして笹子ちゃんは、人では出せない速度で城へと走って行った。


 ちなみにヴェルナは一度もキノコ店予定地には来たことがない。

 これはヴェルナの毒が強すぎるせいだ。


 笹子ちゃんの場合は具足で手足を覆えば、人と同じ空間にいることは出来る。

 だがヴェルナの場合は人と接近すること自体が危険だと言って、ここには来ていなかったのだ。


 だからヴェルナとは城で会うことが多いのだが、急ぎの際などの待ち合わせ場所も用意していたというわけだ。


 そうして俺も村人からくわしい話を聞いた後、待ち合わせ場所へと向かいヴェルナ達と合流する。




 待ち合わせ場所には三人のキノ娘が待っていた。


 その内二人はヴェルナと笹子ちゃん。

 そして……ヴェルナの二人目の姉、アマニタ・ファロイデスもやって来ていた。


「ヴィロサが転生期に入ったせいで城に缶詰めだったからね。魔物もいい時に出て来てくれたよ。……退屈しのぎには持ってこいだね」


「……ファル姉は私達三姉妹の中でも一番の武闘派。ファル姉がいる時に人里に来るなんて……愚かな魔物さん達なのですよ」


「笹子も頑張るよ! 悪い魔物さんは血の一滴も残さずに全部沸騰させちゃうんだから!」


 三人ともすこぶる頼もしかった。



 ちなみに魔物は百体以上いるそうだが、それをファルに伝えると「それだけ? せっかくあたしが出てきたのに?」とか言っていた。


 さすがは世界を七日で支配下におさめたキノコの娘達である。



 こうして俺は頼もしい三人のキノ娘と共に、魔物が出たという村へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ