01 毒キノコ食べる、ダメ、絶対!
俺の名前は佐藤 紳士、二十七歳。
名前の通りとっても紳士な無職のナイスガイだ。
ところで今、俺は人生の岐路に立っている。
岐路というか、もしかするとここで人生が終わるかも知れない。
俺は今にも餓死寸前だった。
ここ数日ろくに飯を食べていない。
部屋には所狭しと物が散乱しているのだが、食べられそうな物はもう手当たり次第に食べてしまった。
とにかく何か食べないと。
そう思って俺はなかばゴミ屋敷と化した部屋の中を探索する。
そしてキノコの一群を発見した。
つるつるとした美しい純白のキノコ達。
それが部屋の片隅に仲良く五本ばかり生えている。
このキノコちゃん達は天からの贈り物に違いないと俺は思った。
だが白い。
見た目は綺麗な純白のキノコだが、果たしてこれは食えるのだろうか?
キノコの知識に乏しい俺は数瞬の間思い悩む。
だがその時、俺はあることに気が付いた。
五本のキノコの内三本は無傷だが、二本に虫食い跡があったのだ。
つまり、俺の部屋に棲むお仲間の誰かが既に食した後ということ。
しかも食べた跡は二本にある。
少なくとも一本目をかじって二本目をかじるまでは生きていたということだ。
すなわち。
最低でも食べてすぐ死ぬということはない!
そうして俺は純白のキノコちゃん達を床から優しく拾い上げた。
ただし一本だけはその場に残す。
残しておけばそこからまた増えるかも知れないからな。
そうして俺は、可愛いキノコちゃん達を鍋でじっくりと茹で上げた。
その後冷蔵庫にわずかに残っていた醤油をかけて食す。
天の助けにより今日もなんとか生き延びることが出来たようだ。
そして疲れも溜まっていた俺はベッドで横になり――
――そのままこの世を去った。
【佐藤 紳士】 享年二十七歳(一人暮らし 無職)
【 死 因 】 白卵天狗茸(猛毒)の過剰摂取による中毒死。
ちなみにこれは後で知ったことなのだが、俺が食べたキノコちゃん(白卵天狗茸)達は、猛毒キノコ世界トップ3に入る強者だったということだ。
虫食い跡が有るから大丈夫かと思ったら全然そんなことはなかったぜ!
良い子のみんなは絶対に真似すんなよ、死ぬからな!
……てな感じで、普通なら俺も死ぬはずだったのだが。
なぜか俺は生きていた、ピンピンと。
いや、確か夜中に信じられないほどのひどい腹痛に襲われた気はする。
だがあまりの痛さに気を失ったらすっかり治ってしまったと言うわけだ。
今は体のどこにも痛みはないし、まるで生まれ変わったかのように全身すこぶる調子がいい。
というわけで、俺はベッドから普通に顔を上げたのだが……
顔を上げると、目の前に知らない少女が立っていた。
「……初めまして。私はアマニタ・ヴェルナ。クサビラ界のキノ……魔王です。強い力を感じてこの異世界までやって来ました。少し……お話を聞かせて頂いてもよろしいでしょうか」
やっぱり俺は、毒で頭がやられてしまったかも知れない。
そんなことを考えながら、俺は目の前の電波少女を眺めていた。