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千年

「ところでさ、『ろぼっと』って何?」


 千の柱の街「テルトクラン」、セインが言うとこのアンケセラ、へと繋がる道へと向かう途中で、二人の間に降りた重苦しい沈黙を払いのけるために、僕は努めて明るい声で訊いてみた。


「また、会話……してくれるんですか?」


 今度はおんぶしてもらってるからこっちからはセインの顔は見えないけど、なんだか声から嬉しさと戸惑いと悲しさとがごっちゃになったものがにじみ出てきてる気がした。


「当たり前だろ。気になった事ははっきりさせないと気が済まないんだ」

なんてのは嘘。本当はこいつにこれ以上悲しい顔をして欲しくなかったから。理由なんて分かんないけど、とにかくこいつには笑ってて欲しいと思った。

「……ありがとうございます」

「そんなんどうでも良いから早く教えろって」


 催促の意味を込めておでこをごつっと打ち付ける。

 決して、そう、決して照れ隠しなんかじゃない。

 ……ところで、なんでこいつの頭こんな固いの? 軽く打ちつけただけだったのに目じりに涙にじんだ。予想外に痛い。


「ロボットというのは、何と言いましょうか、生きていないのに生きているように見える物の事、というのが一番分かり易い説明でしょうか」


 いや、僕に聞くなよ。分かんないってのは本当なんだからさ。そんな風に恐る恐る尋ねられたって判断なんか出来る訳ないじゃんか。っていうのを声に出しはしなかったけど、代わりにゆさゆさと身体を揺らしてみた。


「生きてないのに生きてるってどういう事な訳? セインは死んでんの?」

「いえ、死んでいるのではなくて、生きていないんです。元から命が無いので死にようがないといったところでしょうか」

「ふーん?」


 なんだか丁寧に噛み砕いて説明してくれてるみたいだったけど、分かんないもんは分かんない訳で。詳しく説明されても、僕の頭の上に疑問符が浮かぶだけだった。


「んーっと、じゃあ質問変える。足元に変なのたくさん敷き詰められてっけどさ、これもさっきの窓辺にあったヤツとおんなじ、『はな』ってヤツなの?」


 森の外に出てから、ずっと一面に広がる色とりどりの「はな」(たぶん)の中を歩いてる訳なんだけど、丁度雰囲気も和らいできたとこだったから、無難に会話を続けられそうなもんに話題を変えてみる。


「えぇ、そうですね。ここら辺の花はほとんどフィヨルテの花ですね。全部ばらばらのタイミングで葉っぱが生え換わるので、掃除が大変なんですよ」


 ちょっと放っておくとすぐに足の踏み場が無くなってしまって、と苦笑いするそいつを尻目に、僕は周囲の「はな」に視線を向けた。

 なるほど、確かに良く見ると先っぽの白いのとか赤いのとかが皆おんなじ形してる。さっき近くで見た時に気付いたんだけど、先っぽの飾りって一つの塊じゃなくって、いくつかの色のついた葉っぱみたいなのがより合わさって出来てんだな。

 「ふぃよるてのはな」の色つき葉っぱは全部で五枚。それがまるで何かを包み込むように折り重なってるから、ぱっと見白とか赤とかの塊に見えるみたいだ。


「じゃあ、あの青いのは? あれは他のとちょっと形違うけど、あれも『ふぃよるてのはな』なの?」


 丁度目の前に姿を見せた、小さな青い葉っぱがたくさん寄り集まってる見るからにふわふわしてそうな「はな」を指差し、訊ねる。

 白いのと赤いのの他に周りには黄色いのや青いのもあったんだけど、青いのだけ先端の飾りの形が違ったのが気になったから。


「あれはサルミラという名前の花です。観賞用の花なんですけど、根っこは食用にもなるらしいですよ」

「えー、なんか不味そうだから食べたくないなー」

「見た目はあまり良くはないですけど、結構美味しいらしいですよー?」


 あとで食べてみます? とセインは聞いてきたけど、遠慮しといた。変なもん食べてお腹壊したくないし。つーか、青ってあんま身体に良くなさそうだし。


「そうですか。俺が作った料理を初めて人に食べてもらえるかと思ったんですけど」


 見るからに気落ちした様子で肩を落とすセインの様子を見て、次来た時にはこいつの手料理を食べてやろう、と密かに心に決める。


「ん? 初めてって事は今まで誰もここに来た事ないの?」

「はい、そうです。俺が料理を作り始めるようになってから誰かが訪ねてきたのは今日が初めてです」


 こんな広いとこ、調査隊が気付かないはずないと思うんだけどなー。……って、作り始めた時期が重要か、この場合。あと、ここに住み始めた時期。

 たぶんだけど、見た目あんま年取ってない感じだし、前回の調査隊が帰ってからここに住み始めたのかな。


「そうですねぇ、料理は作り始めてもう百年といったところでしょうか。俺はエネルギーを経口摂取するタイプではないので味見は出来ませんけど、本を見て勉強しましたからレパートリーは豊富ですよ」


 ふふん、と嬉しそうに胸を張るセイン。でも、僕の関心はこいつがどんな料理を作んのかってとこにはなかった。


「ひゃく……ねん? 料理作るようになってから?」

「はい、そうですよ?」


 いやいやいや、流石に嘘だろそれ。僕のじいちゃんもそろそろ七十歳でかなりの長生きだけど、それでも百歳なんて絶対無理。それに、見た目がおかしい。百歳超えてるっていうならもっとよぼよぼじゃないと。僕のじいちゃんは杖がないとまともに歩けないんだぞ? それなのに、こいつは今年で十五になる僕よりもちょっと年上にしか見えない。絶対におかしい。僕は騙されないからな。


「嘘ではありませんよ。俺の稼働年数は五百八十三年七カ月と十六日、製造されてからは千年以上経過しています。今は無理ですけど、服を脱げば固体番号もちゃんと確認出来るんですから」


 僕の発言の何かが癇に障ったんだろう、少し語気を荒くして力説してきた。

 でも、僕は騙されないからな。

 確かにセインの身体は冷たいけど、それはきっと他人より体温が低い体質とかそんなんで、調査隊が来た時には丁度出かけてたかなんかで遭遇しなかったんだ。もしくはまだここに住んでなかったか。


 どっちにしろ人間が百年も生きるなんて無理なんだから、セインの言ってる事は嘘に決まってる。と、半ば強引に理論づけて、こいつの言ってる事を都合よく解釈させてもらった。僕だって来年になれば大人の仲間入りするんだ。いつまでもそんな子供だましに騙されると思うなよ。

 でも、なんか引っ掛かってるんだよなぁ。なんだろ?


「その様子だと信じていませんね? まぁ、俺も無理に信じてもらおうとは思っていませんけどね。千年前ならいざ知らず、この時代に稼働しているロボットなんておそらく俺くらいなものでしょうから」


 首をかしげてる僕の様子を不審がってると判断したんだろう、ちょっと拗ねたように口を尖らせながらセインがぼやく。

 ふてくされたその表情をもっと良く見てみようと思ったんだけど、足を抱え込むみたいにがっちりと固定されちゃったので、残念ながら顔を覗きこむのは無理だった。

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