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天に張り弓

「んー、今のやり取りからしてー、お前が先って事で良いの?」


 二人のやり取りを黙って見ていたジェノスが、確認するようにセインに声をかけた。もはや部屋の中に残っている中でまともに動けるのはジェノスとセインの二人しかいない。


「えぇ、そうですよジェノス。ここから先は俺が相手をしてあげます」


 言いながらだらんと垂らした両手に、ジェノスから見えないように白銀の液体が溜まっていく。


「そいつは良いや。俺とまともに遊べそうなのなんて、もうこの世界にお前くらいしかいなさそうだからな」


 セインと対になるような薄紅色の瞳を期待に輝かせ、初めてジェノスが構えを取った。ようやく乾いたワインレッドの髪が風もないのに揺れる。


「すぐに終わりますけどね」


 対するセインはあくまで自然体のままだ。


「それはどうかなっ!」


 弾丸のように飛び込んできたジェノスの一撃を、セインは手の平に溜めておいた白銀の滴で受け止めた。水音が響くと同時に、糸状に広がった液体が二人の手を固く縫い止める。

 そしてそれは、瞬く間に薄く網の目のように伸びて、ジェノスの全身の動きを封じた。


「なぁっ!?」


 いつの間に、と驚愕に見開かれるジェノスの瞳に、セインの嘲笑が映る。


「何も考えずに力任せに飛び込んでくるところは何も変わっていませんね。おかげで楽が出来そうです」

「てめ、最初から狙ってやがったのか!」


 ジェノスの罵倒を受け流し、セインはもう片方の手に残された白銀の滴を球状に丸め、近くの壁に向けてかざす。次の瞬間球体から白銀の奔流が放たれ、綺麗に壁に円形の大穴を開けた。その穴の果てには雲一つない空が顔を覗かせていた。

 ジェノスと片腕をつなげた状態のまま、セインは自分が開けた穴を駆け抜け、勢い良く空中へと身を躍らせた。無論、銀鎖で固く繋がれたジェノスも一緒に。


「Ich sein hier. Kommen Sie.(俺はここにいますよ。さぁ、おいで)」

「てめぇ、ザイン! 心中する気か!?」


 吹き荒れる風に乗ってセインの呟いた言葉がジェノスの耳に届くと、ジェノスの表情に初めて焦りの色が浮かんだ。


「ふふ、そういえばリーオに俺の真名を教えてあげるの忘れてましたね」


 ジェノスの声が耳に届いたのかどうかは分からないが、セインの口元に先程までの嘲笑とは違う、温かな笑みが浮かんだ。


「さぁ、俺達に降り注ぎなさい、クレドゥクゥール」


 落ちながら見上げた雲一つない空のさらにその向こうから降って来た一筋の光の柱が、大気圏外に浮かぶ人工衛星から照射された一撃が、宙を舞うセインとジェノスの姿を一瞬で飲み込んだ。

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