告白
分かった? と、今日の夕飯はグラタンが食べたいんだけど良いかなってぐらいの気軽さで聞いてくる。その頃にはもう、遊ばれてた二人は床に倒れて動かなくなってた。
両手両足が絶対に曲がらない方向に折れ曲がってて、でっかいのの腹にはさっきまで使ってた即席の武器が深々と突き立てられてる。真っ白コートももう真っ白なんて言えないくらいにコートが赤く染まってて、ぐったりと全身から力が抜け落ちてる。
でも、かすかに痛みにあえぐうめき声が聞こえてくるから、まだ生きてるんだってのはかろうじて分かる。すぐにでも手当てしないと、それすら危うくなるんだろうけど。
「つーわけで、お次はお前らの番だけど、どっちが先が良い?」
返り血にまみれた笑顔でジェノスがにこにこと近寄ってくる。目の前で繰り広げられた惨劇によって刻み込まれた恐怖で、僕の身体は無意識のうちに震え始めてた。がちがちと歯の根が合わなくって、言葉もうまく口に出来ない。
「嫌だ」って言いたいのに、今の僕にはそれすら出来そうにもなかった。
「んー、希望が無いなら二人とも一緒にやっちゃうけど、それで良いの?」
僕達の答えを待ってんのか、腕組みをしたジェノスが催促するように首をかしげる。
「ねぇ、リーオ。一つ聞きたい事があるんですが、良いですか?」
静かな、怖いくらいに静かな声で僕の身体を抱き寄せたまんまのセインが語りかけてきた。
「い、いいい、良い、よ……」
凄く真剣なその声に、僕はなんとかそれだけ喉の奥から絞り出した。僕の位置からだとセインの顔は丁度頭の真上に来てて、今どんな顔をしてんのかなんて全く見えないんだけど、どうしてもこの声には応えなくちゃいけないって僕の心が告げてる。
「リーオは、俺の事……好きですか?」
どくん、と心臓が跳ねた。
「俺はリーオの事が好きです。一緒に過ごした時間は短かったですけど、胸を張ってそう言えます」
今まで止まってたんじゃないかってくらいに心臓が高鳴って、胸の奥からじんわりと身体が熱くなってく。
「先にこんな事言ってから訊くのは卑怯だと思いますけど、リーオは俺の事をどう思ってくれてますか?」
どくんどくんってうるさいくらいに心臓が暴れてる。体中にこびりついてた恐怖は、今では欠片も感じられなくて、代わりにあったかいものが全身を満たしてる。それが何なのかなんて、僕は聞く前から分かってた。
「ぼ、僕もそうだよ」
口に出そうとするだけで顔から火が出そうなくらいに胸がドキドキする。
「僕もセインの事が好き。ううん、大好き……!」
言っちゃった。今までずっと気付かないようにしてたその気持ちを、もう撤回も何も出来ない状況で言っちゃった。かーっと顔が熱くなって自然と下を向いちまう。
「ありがとう、ございます」
「こ、こっちこそ」
僕を抱き締める二本の腕にぎゅっと力がこもった。
でも、なんで今この状況でこんな話を?
本当は分かってるよ。お前がいきなりこんな事する理由くらい。ちゃんと分かってる。分かりたくなんてなかったけど、分かっちゃってるんだ。
「ねぇ、リーオ。こっちを向いて下さい」
優しく、怖いくらいに優しく名前を呼ばれる。向いちゃいけないって頭では分かってるのに、心が言う事を聞いてくれない。
上を向いた僕の唇に、そっと何かが触れた。
冷たいはずのそれは、でも触れたとこをじんじんと熱くしていく。
「貴方の事が好きでした。忘れないで下さいね。俺は……俺はいつでも貴方のそばにいます」
ぎゅっと握りしめられた手から、痛いくらいに熱が伝わってくる。痛いくらいに気持ちが伝わってくる。
「わ、忘れないよ、お前の事、お、お前を好きだった事……この温もりを、僕は忘れない」
声が震えそうになるのを必死で抑えて、なんとかそれだけ言い切った。それが、今の僕の嘘偽りない本心だった。
にっこりと微笑むその顔がどんどんにじんでく。記憶に刻みつけたいのに、溢れるこの思いがそれを許してくれない。
不意に身体が宙に浮いた。つーか、抱きかかえられてた。誰に?
「は、離せ! 僕はあいつのそばにいたいんだ!」
ようやく見慣れてきた真紅の髪を力任せに引っ張る。
『君ヲ安全ナ場所ニ。ソウ彼ニ頼マレタ』
自分自身立ってられないくらい辛いはずなのに、こいつは僕を決して放そうとはしない。そうしてる間にもどんどんセインから離れて行ってて、もう部屋の中の様子が良くうかがえないくらいに距離が開いちまってた。
角を曲がって、視界から完全にセインの姿が消えた直後、大きな爆発音が聞こえてきた。




