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月と太陽

『クッ、コレモ駄目トハ……!』


 声に焦りの色をにじませた真っ赤三つ編みがぐっと剣を引き抜こうとするけど、白銀色の水に絡め取られた剣はセインの腕に埋まった状態のまんま全く動かない。


「……質問があります」


 武器を捨てて離れようとした真っ赤三つ編みの手を、刀身から伸びてきたきらきら光る水の糸が素早く、そしてしっかりと捕まえた。


「貴方達の組織はあの戦艦を、どこで、どうやって、手に入れたんですか……!」


 さっきこいつらへの協力を拒否した時とおんなじくらいに冷たい声でセインが訊ねる。でも、なんだろ。こっちのはなんだか無理やり作ってる感じのする声だ。逸る気持ちを無理矢理押さえつけて、冷静を装ってるとかそんな感じの印象を受けた。


『残念ダガ、私ハ知ラナイ。……私ガ生マレタ時ニハ、組織ハ既ニ存在シテイタ』

「そう、ですか」

『役ニ立テナクテ悪カッタナ』


 真っ赤三つ編みの返答を聞いて顔を曇らせたセインだったけど、まさか謝られるなんて思ってなかったんだろ、目を見開いて相手の顔をまじまじと見つめてた。

 うん、僕もびっくりした。

 今までの他二人の態度から、「そんなもん教える訳ないだろ馬鹿め」とか「教えて欲しかったら我々に協力する事です」とか言ってくるもんだと思ってたから。


 あんまりにも驚いたからついつい拘束を緩めちゃったみたいで、真っ赤三つ編みは跳び退り、さっきとは打って変わって大きな声で叫んだ。今度はすぐ近くにいた僕達だけじゃなく、後ろにいる二人にもはっきり聞こえるようにはっきりと。


『ソノ答エヲ知リタイノナラ、力尽クデ聞キ出ス事ダ!』

「そうですか、分かりました。では、そうさせてもらいます!」


 調子を合せるようにセインも声を張り上げる。向こうにいる二人には特に反応ないから、ぶーんぶーんってうっさかった剣の回転音が良い具合に邪魔してくれたみたいだな。音が大きいってのはこういう時に役に立つんだなー、なんてちょっとしみじみしちゃったり。


 僕がそんな事考えてる間にセインと真っ赤三つ編みはまた殴り合いを再開したみたいで、ちょっとおんなじ人間だとは思えないような光景が繰り広げられてる……って、セインはロボットだとか言ってたっけ。まぁ、今はそんな細かい事どうでも良いけど。


 基本的に真っ赤三つ編みが物凄いスピードで殴りかかって蹴りかかって、それをセインが防御してく感じ。ずっとおんなじ場所にいて、腕とか足とかを使って上下左右から繰り出される攻撃を防いでるみたい。

 みたいっつーのは、早過ぎて僕には何が何だか分かんないから……って、あっ! 空中で一回転して踵落としした! しかも二段! 何あれ、すげー! 平然と受け止めるあいつも凄いけど。


 両足をセインの腕の上に乗せる形になった真っ赤三つ編みは、その体勢のまんま上半身を思いっきり反らして後ろに飛んだ。

 んで、さっきでっかい剣を取り出した柱にひっついて、中から今度は真っ黒に塗られた細長い棒みたいなもんを取り出した。棒は持ってる方から先端にかけてどんどん細くなってて、一番端には違う棒を横向きに突き刺したみたいなでっぱりがついてる。


「まずいっ!」


 真っ赤三つ編みが柱の上で少し腰を落として両手でその黒い棒を構えると、セインがいきなり僕を肩に担ぎあげて走り出した。


「わわっ! いきなり何すんだよっ?」


 思わず上げた抗議の声が、続いて聞こえてきた爆発音にかき消される。


 一回、二回、と連続で轟音が響き、その度に担ぎ上げられた状態から見える、セインにとっては背後になる地面が抉れる。

 もしかしてあの棒から弓みたいになんかが発射されてる? 撃ち出されたもんは早過ぎて僕の目には良く見えないけど、真っ赤三つ編みの方は一回音を響かせるごとに腰に巻いたポーチからなんかを取り出して棒ん中に入れてるみたいだから、たぶんそうなんだと思う。


 真っ赤三つ編みが棒を投げ捨てるまでに響いた音の回数は十二回。セインは柱を中心に円を描くように走ってたから、地面が抉れた跡もおんなじように縁を描いてる。間隔はまちまちだけど。


『コレモ駄目、カ。トナレバ残ルハ一ツ』


 その言葉に合わせるように柱の下辺りが開く。真っ赤三つ編みがそこから引っ張り出したのは、


「槍……?」


 たぶん柄と穂先の長さがおんなじくらいの、ちょっと見た事ない形した槍っぽいものだった。しかも二本。長さは真っ赤三つ編みよりも頭一個分くらい長い。


「リューヌにソレイユ……彼が愛用していた装備ですか……」


 その槍を見たセインが、苦々しげに端正な顔を歪める。


「それを使ってくるとなれば、さすがに俺も素手でお相手する訳にはいきませんね」


 だらんと垂れ下げた袖の下から、さっき剣を受け止める時に使った白銀色の水が伝い落ちてくる。指先まで流れてきたそれは、それ以上は下に流れる事なく何かを形取ってく。


「リーオは下がっていて下さい、危ないですから」

「あ、うん……」


 振り返る事なく告げたセインの手にあったのは、白銀に透き通る綺麗な細身の剣。刀身三フィルトちょいってとこのそれを左右の手に一本ずつ持ってる。


「これに勝ったら、貴方達の船の中を見させてもらいます。もちろん貴方達に協力するつもりはありませんが、答えを知りたければ力尽くで来いと言ったのは貴方達です。文句はありませんよね?」

『モチロンダ』

「ナッ、サー=ヌート! 勝手ナ事を言われては――」

『黙ッテイロ。コレハ私ト彼ノ問題ダ』


 それまで黙って成り行きを見守ってた真っ白コートだったけど、たぶんこの流れは予想外だったんだろ、甲高い声をきーきー言わせて慌てて口を挟んできた。あっさり斬り捨てられたけど。でっかいのの方は好きにしろって感じでそっぽを向いてる。

 まぁ、僕もおんなじかな。あいつが何にそんなにも執着してんのか分かんないから、気の済むまでやればって感じ。あいつが何か別のもの、「彼」だっけ? にこんなにも必死になってんのは、見ててあんまいい気分しないけど。


『デハ、行コウカ!』


 叫んで、柱の下からセインのとこへ一直線に突っ込んでくる。左手に持ったヤツを斜めに地面に突き立てると、それを避けるために後ろへ飛んだセインへ右手のヤツを突き出す。

 その一撃は物凄く鋭くって、あいつの身体に届くかと思ったと一瞬ヒヤッとしたけど、あいつが身体の前に立てた剣にぶつかって軌道が外側にずれた。


『マダダ……!』


 まるでいなされんのを予想してたみたいに、真っ赤三つ編みは足を使って急ブレーキをかけると、同時に左手の槍をぶん回してセインの剣を弾いた。

 さらに身体を半回転させて右手の槍を前に突き出すと、がこんって音を立てて穂先が真ん中から二つに割れた。


『食ラエ、「銀の月光(アルジェン)」!』


 二股に割れた根元が蒼白く輝いて、おんなじ色の光がセインめがけて放たれる。

 右手に持った剣を弾かれてる状態のあいつは、それでも慌てることなく左の剣を前に突き出して、真正面から蒼白の一撃を受け止めた。

 んで、驚いた事にバチバチと火花を放つ、いかにも危なげなそれをセインは平然と振り回して、真っ赤三つ編みめがけて蒼白の光を撃ち返した。


『オ、「金の陽光(オー)」!』


 ヤツの方も流石にそれは予想外だったみたいで、慌てて左手の槍を構えたけど金色に輝いた光が撃ち出されるよりも前に攻撃を食らっちまって、構えてた槍が吹き飛ばされた。


「はい、終わりです」


 大きくのけぞった真っ赤三つ編みが体勢を立て直す頃にはセインが目の前まで来てて、その首元に白銀の剣を突き付けてた。

 負けを認めたのか、真っ赤三つ編みは右手に持った槍を地面に落として両手を上げる。


『……参ッタ』


 何故だか分かんないけど、ずっと笑ってるみたいな表情してるそいつが初めて本当に笑ったように見えた。


「では、約束通り船の中を案内してもらいますね」


 にっこりと笑うと、手に持ってた剣がぐにゃんとまた液体の状態に戻って、袖の下を伝い上がって服の下へと消えてく。

 あれが「おりはるこん」ってヤツなんだろうかってちょっと疑問に思ったけど、今はそれより大事な事があっから訊くのは後にしとこう。


『分カッテイル。キット貴方ナラ彼ヲ目覚メサセラレル』

「えっ?」


 平坦な奥に微かに期待がにじんだ声に、セインがどういう事かって訊き返したけど、真っ赤三つ編みは『来レバ分カル』としか言わなかった。

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