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空中要塞

「え、何……アレ……?」

 岩壁で遮られてる視界の向こうからとてつもなくでかい何かがやってきた。突風が吹き荒れて、僕は反射的に腕で顔を覆う。見上げた空の半分くらいを覆ってるんじゃないかってくらいにでかい『それ』は、まぎれもなく宙に浮かんでいた。


「これはまた随分とお早い到着ですネ」


 日の光を受けて輝く白亜の巨躯。全体的に角ばってるように見えるのにどこか丸みを帯びた形状。悠々と空に浮かぶその姿は、僕の知ってるあるものと酷似してた。


「もしかして宇宙、船……?」


 嘘。でもあれって本の中だけのお話なんじゃなかったの?


「おや、良くご存じで。あれこそが我々『レヴェシオン』が旗艦『エペデスポワール』です」


 ぽつりと漏らした言葉に、真っ白コートが心底嬉しそうな声で答える。でも、それよりも僕の注意を引いたのは茫然とした表情のセインが耳元でぽつりと漏らした一言だった。


「そんな……。あれは、あの船はあの時敵の要塞と共に散ったはずなのに。あれがここにあるという事は、まさか彼はまだ……生きている……?」






 空中要塞。


 本の中で見た言葉がこれほどぴったりあてはまるものなんてそうそうないだろう。もしかすると、「それ」の荘厳さと力強さを兼ね備えた優美な姿を見た人がそんな言葉を考え出したのかも、なんて思っちゃうくらいに「それ」は圧倒的だった。

 ただそこに浮かんでるだけなのに、まるで大空を支配してるかのような存在感を放ってる。どうしてあんなにもでっかいものが平然と空を飛んでんのかなんて疑問がどうでも良くなってくるくらいに、その姿は僕の心を掴んで放さなかった。


「凄い……」


 それしか言葉が出てこない。初めて見る「それ」の迫力に僕はただただ圧倒されてて、でっかいのの高笑いが聞こえてくるまで馬鹿みたいにぼけーっと口を開けたまんま突っ立ってた。


「ははははは! さんざん手こずらせてくれたが、本隊が到着した以上それも終わりだな!」

「手こずっていたノは君だけだった気もしますけどネ」


 憎々しげに吐き捨てたでっかいのを真っ白コートが揶揄する。


「なんだと、貴様ぁ!」

「さっきだって君が余計ナ事をしナければ、我々は人質というカードを手ニした状態で本隊と合流する事が出来たノですよ。それを君が先走って状況をいたずらニ混乱させたんじゃナいですか」

「ぐぐぐ……」


 真っ白コートがイライラしてるように見えたのって実は計算だったんじゃ、なんて思っちゃうな。あの話聞いてると。まぁ、結局失敗してる訳だから、だからどうしたって感じだけど。


「さて、ここからは貴方ノ出番ですネ、サー=ヌート」

『分カッテイル』


 名前を呼ばれた真っ赤三つ編みが前に出てくると、その動きに合わせるように空に浮かぶ「それ」の下についてる細長い筒が回転してこっちを向いた。


 やばい! と直感的に僕が身体を強張らせた直後、鼓膜を震わせる轟音と再びの突風を伴って僕達の斜め前、つまり真っ赤三つ編み達の横辺りになんかが着弾した。衝撃で大量の土埃と花弁が宙に舞い上がる。


「うわっぷ……!」


 びっくりして声上げようとしたら口ん中に土まみれの花弁入ったぁ。うぇぇ、じゃりじゃりするぅ……。目ん中にも砂入ったし、もう最悪ー。

 俯いた状態で目をしばたかせてると、突風とまではいかないけどそれなりに強い風が吹いて、辺りに漂ってた土煙を吹き飛ばした。なんか風が吹く時に「ぷしゅー」って感じの音がしてたのが気になんだけど……?


 顔を上げた僕の視界に入って来たのは、真っ白コート達の横の地面にちょっと斜めに突き刺さった、これまた真っ白な巨大な筒。や、見えてる部分だけで余裕で十フィルト以上ありそうだし、筒っつーか柱に近いかも。さっきの音と土煙はこいつが突き刺さったせいか。

 って、あれ? 真っ赤三つ編みは? さっき一番前に出てきてたはずなのに、どこ行ったんだ?


 不思議に思って辺りを見回そうとした僕だったけど、その疑問はすぐに解消された。


「うぇ、何あれ!?」


 何故なら真っ赤三つ編みが一抱えもありそうなその柱に取り付いてて、ぱかっと垂直に開いた柱の上の方の部分から刀身だけで自分の背丈の二倍はありそうなでっかい剣を取り出してる様子が目に入ったから。


 真っ赤三つ編みは明らかに不釣り合いなその剣を軽々と一振りすると、僕達に、いやセインに飛びかかって来た。それから少し遅れて、僕はセインの名前を呼びながら服の裾を思いっきり引っ張ったけど、茫然と突っ立ってるセインの身体はびくともしなかった。

 不吉な音を立てて振り下ろされる剣がセインの身体に触れそうになった時、ぼくはその後に起きるだろう光景を見たくなくてぎゅっと両手を握りしめて目をつぶっちまった。しかし、次の瞬間に僕の耳に届いたのは、予想してたのとは全く違う、金属同士がぶつかった時特有の聞いてると頭が痛くなってくるような甲高い音だった。


 恐る恐る目を開いてみると、振り下ろされた両刃の剣を、顔の前で交差させた両腕でしかと受け止めてるセインの姿が見えた。着地した真っ赤三つ編みが力任せに押し込んでくるけど、それでも最初の状態からそれ以上刃がセインの身体にめり込む事はなかったみたいだった。


『流石ハ精神金属オリハルコン。並ノ合金デハ歯ガ立タナイ、カ』


 たぶん渾身の一撃だっただろうに、真っ赤三つ編みはまったく動揺した様子も見せずに淡々としてた。や、まぁ、元から表情変わんないヤツみたいだから、実は顔に出てないだけで内心すっごくびっくりしてんのかもしんないけど。


『ダガ、コレナラ……ドウカナッ?』


 大きく剣を振り上げると、刃が真ん中から二つに割れて、中から三角形っぽい形したちっちゃな刃がたくさん出てくる。と思ったら、次の瞬間には「うー」って地鳴りみたいな音を立ててそのちっちゃい刃が高速で回転し出した。

 見るからに凶悪そうな形状になったそれを、真っ赤三つ編みが顔の前で交差されたまんまのセインの両腕に叩きつける。今度は鋸で木を切ってる時みたいな、何かを削るがりがりって感じの音が響いて、腕の半分くらいまで刃がめり込んだ。


 その様子は見るからに痛そうで、僕は思わず目を背けちまった。でも、目の前で繰り広げられてる事だから耳にはいやでもセインの身体を削る音が響いて来て、耳を塞いで声の限りに叫びたくなる衝動に駆られる。

 奥歯を砕けそうなくらいに強く噛み締めると、ほんの少しだけ聞こえてくる音が弱まった気がした。


 ……いや、気のせいじゃない。本当に弱まって来てる。最初は耳元で熊でも唸ってんじゃないかってくらいの音量だったのに、今では途切れ途切れでたまに高く唸りを上げるように音が大きくなるくらいにまで勢いが落ちてた。

 見ればきらきら光る白銀色の水みたいなのが剣にべったりとまとわりついてて、そのせいで上手く刃を回転させらんないみたいだった。

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