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カーテン

『失ワレタ旧文明ヲ復興サセ、捻ジ曲ゲラレタ世界ヲアルベキ姿ニ戻サントスル歴史ノ修正者。ソノタメニハ貴方ノ協力ガ必要』


 そう言った後、真っ赤三つ編みの視線はじっとセインに向けられる。つーか、本当にこいつどうやってしゃべってんの? 弥間違いとかじゃなく、口全く動いてなかったんだけど。

 さっきは少し離れてたから見えなかったって可能性も微妙に残されてたんだけど、さすがにこんな至近距離で相手の口の動きが見えないほど目が悪くなった覚えはないし、やっぱりこいつ口を動かさずにしゃべってんだ。


「さっきも言ったはずです。お断りします、と。俺を、俺なんかを一人仲間に入れたところで貴方達の目的が達成される事はないと思いますよ」


 返される言葉もさっきと変わらず冷たいまま。でも、なんだろ。ちょっと今の発言には拒絶以外の響きも混ざってたような……?


『ソンナ事ハナイ。我々ガ見ツケタ彼ハ壊レテイル。我々ニハ壊レテイナイ貴方ガ必要。……貴方がいれば俺は元の身体にっ!』


 平坦だった口調に初めて揺らぎが生まれる。真っ赤三つ編みの笑ってんだか何だか良く分かんない表情には全く変化がないけど、声だけを聞くと、ずっと被ってた仮面が一瞬だけ外れたような、そんな印象を受けた。


「お、おしゃべりはそこまでです、サー=ヌート……!」


 ぎゅっと拳を握りしめた真っ赤三つ編みに、後ろから走って来た真っ白コートが大声で語りかけた。さらにその後ろをでっかいのが走ってる。

 あれ、なんかでっかいのの頭にたんこぶ一つ出来てない? 左手は使えないから右手を目の上にかざして、よーく見てみる。うん、やっぱそうだ。セインは頭には攻撃してないから、たぶん真っ白コートにでもはたかれたんだろ。なんとなくそう予想しとく。


「そ、それ以上は彼が我々ノ、ナ、仲間ニナると承諾してくれるまでは、話してはいけません」


 ぜいぜいと荒い息をつきながら真っ白コートが言う。膝に手をついてぜーはーやってて、意外とこいつ体力ないのかな? まぁ、でも袖から見えた手はかなり痩せててがりっがりだったからそこまで意外でもないのかも。


「人質だったリーオがこちらにいる以上、もう貴方達の話を聞く必要性がないと思うのですが?」

「はたして本当にそう言えるのかな?」


 取り付く島もないって感じのセインに、でっかいのがやけに不敵な声で反論してきた。さっき思いっ切り蹴っ飛ばされてたくせに。


「その少年が君の保護下にいるからといって、はたして彼の安全性が十分に保障されていると言えるのかな?」


 ゆっくりと一歩一歩大股で近付いてくるでっかいのの顔には、なんか見てるとちょっといらっとくるような気持ち悪い笑みが張り付いてた。なんでこいつこんなにも偉そうなの? 今までのやり取り見てっとこいつが一番下っ端な印象受けるんだけど。


「何が言いたいのかな?」


 心なしかセインの声にもいらついた響きが込められてるような気がした。


「サー=ミディやサー=ヌートのように私も自分の身体を改造してあってね。そのおかげでとある事が出来るのだよ」


 ん? 今ちょっと真っ赤三つ編みの顔が歪んだような……?


「サー=マーティンが命じる。手に持ったものを頭に押し付けてこっちに来い、少年」


 浮かんだ疑問は、でも、ぐるぐると頭ん中で渦巻くその声にかき消されちまった。すーっと染み込んできたその言葉に、頭ん中でかちっと何かがはまる音が聞こえた気がした。


 ……あぁ、そうだ。言われたとおりにしないと。

 ずっと左手に持ってたこれ、「けんじゅう」だっけ? をこめかみに押し当てて……って、ん? 何驚いた顔してんの、セイン? 僕なんか変な事してる?


「サー=ミディが聴覚を改造、強化しているように私は喉を改造、強化していてね、私の声を聞いているだけで本人も気付かないうちに催眠状態に陥れる事が出来る。その結果がこれという訳だよ」


 妙にぼんやりとしてる頭じゃマーティン様が何を言ってんのか良く分かんなかったけど、大きな手でぽんと頭を撫でられると、なんでか知んないけど嬉しいような邪魔くさいような、複雑な気持ちがした。


「間近で私の声を聞いていればいるほど深く催眠にかかる。出会って半日と経っていない相手に使うのは正直賭けだったのだが、なんとか上手くいったようだ」

「リーオ! リーオ、聞こえてないんですか? 何か返事をして下さい!」


 何、セイン? なんつってんの? よく聞こえないよ。

 あいつの口が激しく動いてんのは分かんのに、そこから放たれてる声を上手く声として認識出来ない。なんだか分厚いカーテンの向こうから話しかけられてるみたいだ。


「はっはっは、無駄な努力だ。今のこの少年にはお前の声は届かない。さぁ、どうする? こいつの命が惜しければ大人しく我々と共に来る事だ」


 マーティンが野太い声で笑う声がする。ちょっとうるさいなぁ。セインの声の方が静かで澄んでて、聞いてて気持ち良いや。


「リーオ、リーオ! 本当に聞こえてないんですかっ?」

「だからそう言っているだろう。無駄なあがきは止めたまえ……!」


 でっかいのの段々声にいらいらがはっきりとにじみ出してきた。イライラしてる声ってあんま好きじゃないなぁ。声量自体が元から大きいから怒鳴られると頭に響く。


「リーオ、さっき貴方が俺に助けを求めてくれて嬉しかったです。リーオの中でそこまで俺の存在が大きいものになってたんだって分かって嬉しかったんです。リーオはどうして俺に助けを求めようと思ったんですか?」

「だから、無駄だと何度言えば――」

『サー=マーティン』


 頭に響く怒鳴り声を遮って、平坦な、落ち着いた声が響く。


『少シ黙ッテイロ』

「なっ!?」

『黙レ』


 その言葉を言った瞬間、ちらっと真っ赤三つ編みがセインに目配せをしたような気がした。それに気付いたのかどうかは分かんないけど、あいつが僕の目をじっと見つめてくる。

 なんだろ、あいつの目を見てると、あいつの綺麗な蒼穹(ソラ)色の目を見てるとなんだか胸がドキドキしてくる。


「教えて下さい、リーオ。なんであの時俺の名前を呼んでくれたんですか? なんであの時、俺を選んでくれたんですか……!」


 あぁ、あいつの声が聞こえる。あいつとの間にあった分厚いカーテンが取り払われたみたいだ。あいつの声が聞こえる……!

 僕が助けを求める相手にセインを選んだ理由なんて、そんなの決まってる。そんなの、そんなの――!


「だぁぁあぁぁああああっ!!」


 まるでその場に縫い止められてたみたいにがっちがちに固まってた腕を無理矢理動かし、手に持ってた「けんじゅう」を地面へと叩きつける。


「セインッ!」


 一瞬大きく目を見開いた後、すぐにいつもの向日葵みたいにあったかい微笑みを浮かべる。僕は、その笑顔に向かって軽く助走をつけて思いっ切り飛び込んだ。


「くそっ、催眠を維持し続けるには仕込みが足りなかったか……!」

「サー=ヌート。貴方がサー=マーティンノ催眠ノ邪魔をしたようニ思えたノですが、私ノ気ノせいですか?」

『コレ以上ノ時間稼ギニ意味ハナイ。ソウ判断シタダケダ』

「それはいったい? ……あぁ、そういう事ですか」


 飛びついたセインの身体を、これでもかってくらいにきつく抱きしめる。


「ちょ、リーオ痛いですってば」

「うー、セインー。なんか良く分かんないけど怖かったー」


 抱きしめた胸におでこをぐりぐりと押しつけてやる。まぁ、怖かったってのは半分くらい嘘なんだけど。正直、さっきまで自分の体に何が起こってたのかなんて、僕の頭じゃよく分かんないし。

 でも、まぁ、何されてんのか分かんなくて怖かったってのはやっぱりあるよね。だから全部嘘って訳じゃない。


 そんな感じで抱き合ってるとこで、僕の耳がなんか変な音をとらえた。「きーん」とか「ひーん」とか、そんな感じの音がだんだん近付いてきて、「ごぉー」って感じの音に変わる。

 どうやらセインもその音に気付いてるみたいで、鋭い目つきで空を見上げてる。つられて僕も空を見上げたとこで「それ」はやってきた。

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