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銃声

 もう五分は過ぎただろうか、セインは差し出された手を見つめたまんまずーっと黙ってる。その目は悩んでるっつーよりも、なんかを待ってるみたいに見えた。


 なんでだろ、あいつが黙ってる間もずっと僕のこめかみには「けんじゅう」ってのが押し当てられてんのに、あいつが近くにいるってだけで怖さが薄れてく。あいつが近くにいてくれるだけで、なんとかなる、大丈夫って思えてくる。なんだか不思議な気分だ。


「私も気が長い方ではナいノですがネ。出来れば早く答えを聞かせてくれませんか?」


 明らかにイライラしてると分かる声色で真っ白コートが返事を催促する。でもセインはそんなのどこ吹く風で、じーっと押し黙ってる。

 イライラしてんのは僕を抱きかかえてるでっかいのもおんなじみたいで、さっきからずーっと貧乏ゆすりの小さな揺れが伝わって来てるし、ぶつぶつ文句言ってんのも聞こえてる。平然としてるように見えんのは真っ赤三つ編み一人だけだった。こいつは初めて見た時からずーっと目を細めてて、笑ってんだか何だか良く分かんない表情を維持し続けてる。


 イライラしながらもそれ以上の脅しを加えずにじっとセインの答えを待ってんのは、きっと僕という人質がいる今しかあいつと交渉すっ事は出来ないって思ってっからなんだろ。こいつらはセインの事を良く知ってるみたいな感じだったし。

 だからこいつらはどんなにじれったくても、僕に危害を加えてあいつに決断を迫る、みたいな方法をとらないんだ。


 セインがだんまりを決め込んで、さらに五分が過ぎた。なんでそんな風に時間が分かるのかっつーと、抱きかかえられた僕の丁度正面に来る位置に時計が壁から掛かってるから。

 壁に背を向けてるセインと真っ赤三つ編みの二人にはどれくらい時間が経ったかなんて正確には分かんないだろうけど、僕を含めた残りの三人にはよーく分かる。だからこそ、真っ白コートとでっかいのの二人は焦れてんのかもしんない。


 さらに五分が経過。このころになると、真っ白コートも手を差し伸べんのは止めて、じっとセインの顔を見つめるだけになった。僕も抱きかかえられてんのがちょっとつらくなってきたかも。脇の下辺りが痛い。


 そして、セインがだんまりを決め込んでからそろそろ二十分になろうってとこででっかいのの我慢に限界が来た。


「あー、ちくしょうがっ! さっさと答えやがれ!」


 大声を張り上げると、それまで僕のこめかみに押し当ててた物をセインに向かって突き付ける。


 「ばん」とも「だん」ともつかない、とにかく大きな音が響いた。突然の事で耳がキーンとする。


「バカ、余計ナ事を!」


 音を聞いて振り向いた真っ白コートが、しまったとでも言うように急いでセインの方へと視線を戻した。出来る限り早く反応したつもりだったんだろうけど、でも、それでもセインのスピードに比べたら遅すぎた。


 どこをどう移動したのかなんて全然分かんなかったし見えなかったけど、破裂音が響いた次の瞬間にはセインは僕の目の前にいた。

 でっかいのが右手に持ってた黒い変な物を奪い取ると、それを窓の外に投げ捨てると同時に空いてる方の手で僕を拘束してる腕を引き剥がし、ちょっと乱暴に、でも優しく抱き止めてくれた。そして、回転をかけた左足ででっかいのの腹を蹴り飛ばした。

 でっかいのが蹴られた勢いそのまんまに吹っ飛ばされたから、外に出る道が出来た。


「少し揺れますよ……!」


 それだけ言うと、セインは僕を前みたいに横抱きにして走り出した。


「待て! 待ちナさい!」


 後ろから声が聞こえてくるけど、走り出したセインは止まんない。むしろどんどん加速して、あっという間に家を囲む森を抜けて、まるで風みたいに花畑を駆け抜けてく。

 なんつーかもう歩幅が広すぎて、走ってるっつーよりは飛び跳ねてるっつった方がしっくりくるかも。たぶんこの間岩壁にジャンプした時とおんなじくらいの距離を一歩で跳んでる。


「それで、リーオ。あの人たちは一体誰だったんですか?」


 一部が見事に崩れ落ちた、見覚えのある階段の前まで来たとこでようやくセインが口を開いた。まぁ、ようやくっつっても走ってたのはほんの一分かそんくらいだけど。


「リーオが助けてと言っていたので、事情も良く分からず首突っ込んじゃいましたけど、あれで良かったんでしょうか?」


 走ってる最中ずっと抱きかかえてた僕を丁寧に降ろしながら、おずおずとセインが訊いてくる。


「良かったも何も、僕、助けてっつったじゃん。だから全然問題なし! あいつらが何者なのかは僕も良く知んないけど、とりあえず危険なヤツらってのは間違いないみたい」


 街の人に怪しげなことしてたし、と右手の親指を立てながら言葉を続けたとこで、『我々ノ名ハ「レヴェシオン」』って妙に平坦な声が聞こえてきた。

 声のした方に目を向ければ、僕達から五歩と離れてないとこに、いまだに見慣れない真っ赤な三つ編みを靡かせるヤツがいた。

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