来訪者
「予定よりもだいぶ早く木材を集め終わった俺達は、ついでに貯蓄の少なくなってきてた肉を狩って行こうっつー話になってだな、仲間の半分を荷物番において森のさらに奥へと分け入って行ったんだ」
当時の事を思い出して興奮してきたのか、おっちゃんの鼻息がちょっと荒い。目を光らせながら話すんのも良いけど、ちょっと落ち着いて。
「見つけた鹿やらランゾルやらを何頭か狩って、今日はそろそろ帰るかってなった時に俺達は運悪くアグダバに出くわしちまった! 本来この時期にアグダバが巣から遠く離れるなんて事ぁあり得ないんだが、それでも出くわしちまったもんは出くわしちまったんだ。そして、その場にいた全員が死を覚悟した時! あのお方達が現れたんだ!」
……おっちゃん、興奮してんのは分かったから指どけて。ほっぺたに刺さって痛い。
にしてもアグダバか。僕は実物を見た事ないけど、たしか普段は四本足だけど立ち上がると八フィルト近くまでいく超大型の肉食獣だっけ。森の奥の方に住んでて、こっちまで出てくる事はほとんどないって聞いてたんだけど。
「あのお方達はぶんぶん唸るいかつい獣に乗っててな。そいつを使って逃げるアグダバに追いすがり、変な武器を使ってあっという間にあの畜生を仕留めちまったんだよ!」
お、おっちゃん、唾飛んでる。本当ちょっと落ち着いて……!
「おぉ、すまねえな! ちょっと熱くなっちまったみたいだ」
わはは、と豪快に笑って、腰に提げた手拭いで僕の顔をこれまた豪快に拭く。興奮冷めやらぬって感じのおっちゃんだけど、なんとなく事情が掴めてきたかも。
つまり、その「あのお方達」ってヤツらはこの街が出来て以来初めての外から来た人間で、ついでにおっちゃん達の命の恩人、と。そりゃおっちゃんも敬意を込めて呼ぶよな。てことは、この人だかりは貴族階層に寝泊まりしてるそいつらを一目見ようと人達で作られてる訳だ。
「お、察しが良いな坊主。昼ごろからあのお方達が街の中を見て回るらしいから、その後をついて行こうとこうして皆集まってんのさ」
姿勢を元に戻したおっちゃんが「お、出てきたぞ!」と声を上げる。頭一つ飛び出てるおっちゃんには人ごみの向こうの様子も良く見えるみたいだ。う、羨ましいなんて思ってないぞ! っと、周りの人たちが動き始めた。奥から出てきたヤツらのために道を開けようとしてるみたいだな。
「人が邪魔で良く見えないだろ、坊主。俺が肩車してやろうか?」
「い、いいよ、そんなの! おっちゃんにそんなのされたら目立ちまくるじゃんか」
「はっはっは、遠慮すんなって!」
「わわっ、持ち上げんなってば!」
嫌がる僕の制止も無視して、ちょっとかがんでお腹に手を回したおっちゃんが僕の身体を軽々と持ち上げる。せめてもの抵抗にじたばたと手足を動かしてた僕だけど、おっちゃんはがっちりと僕の身体を押さえててびくともしない。
そうこうしてる間に人ごみの向こうに例の「あのお方達」らしい見慣れない男達がやってきたので、そこで抵抗をやめてそいつらを眺める事にした。
歩いてきたのは全部で五人。つっても、一番前とその後ろのヤツ二人は貴族とそのお付きだから(顔に見覚えあるし。名前は覚えてないけど)残りの三人がそうなんだろ。アグダバを狩ったって話だったからもっと大人数なのかなーって思ってたけど、全然そんな事ないな。
「見えるか、坊主? あのお付きのすぐ後ろにいんのがマーティン殿。その後ろがミディ殿とヌート殿だ」
ん、なんか見事に背の順になってんなー、あの三人。前が一番高くて、後ろが一番ちっちゃい。もしかすると、身長僕とおんなじくらいかも。一番後ろにいるヤツ。年もあんまいってない感じだし。背ぇ高いヤツはおっちゃんとおんなじくらいかもだけど。背丈も見た目も。真ん中のヤツはフードをすっぽり被ってて、顔も体型も良く分かんないなぁ。背の高さはセインとおんなじくらいかな?
「聞けい、皆の者!」
人ごみの丁度中心辺りまで来た貴族のおっさんが声を張り上げる。脂ぎったずんぐりむっくりのあんたの話なんて聞く気ねーよ。あんた今まで食べ物の話以外した事ないじゃん。
「皆知っているとは思うが、ここにおわすのはこの街創設以来初めてやって来た我らの客人であり、彼らはとあるものを探して色々な場所を旅をしておるのだそうだ」
僕自身は街の外になんてたいして興味ないから、ぽっちゃり貴族の話は右から左に聞き流して、その横に立ってる三人の姿をぼんやりと眺める。
一番背のでかいヤツ(マーティンだっけ?)は、僕のじいちゃんみたいに髪の毛が真っ白で、目つきがかなり鋭い。背も高いし筋肉むきむきだしいかついし、結構怖いかも。
「長く苦しい旅を続ける彼らのために、旅の途中であるにもかかわらず危険を冒して我らの同胞の危機を救ってくれた彼らのために、我らも微力ながら力を尽くそうではないか!」
ミディってヤツは頭の先から膝下辺りまですっぽりと真っ白いコートに覆われてて、この位置からだと顔が全く見えない。コートがだぼっとしてるから身体のラインも良く見えないし。さっきは他の二人に合わせて男っつっちゃったけど、ぱっと見だけだとどっちか全然分かんないな。
「という訳で、彼らの探しているものについてこのマーティン殿から話があるそうだ。皆の者、心して聞くように!」
三人目のヌートってヤツは、ちょっとびっくりした事に髪の毛の色が真っ赤だ。
この街には金色か黒かの二種類しかないから、外の人間は皆こいつらみたいにカラフルな髪の色してんのかなーってちょっと疑問だったりする。あとで直接聞いてみよう。
ちなみに僕の髪の色はちょっとくすんだ金色。まぁ、父さんと母さんは金色だけど、じいちゃんは昔黒かったらしいからその影響かなとは思ってる。どうせなら母さんみたいに綺麗な色が良かったけど……って、話が逸れた。
目を細めてて笑ってんだか何だか良く分かんない表情をしたこいつは、長い真紅の髪の毛を一房の三つ編みに束ねてて、半袖にハーフパンツでかなり身軽で動きやすい格好をしてる。
今一歩前に出てきたマーティンってヤツも袖無しの上着に身体にあった少し細身のズボンで動きやすさを重視してんのに、一人だけ見てるこっちが暑くなってくるぐらいに厚着してるミディってヤツは悪い意味で目立ってた。
「あー、皆さん。先程お話があった通り、我々三人はとあるものを探して世界中を旅しています。それを見つける事は我々の使命であり、悲願なのです。そのためにどうかあなた方のお力を貸していただきたい!」
いかつい見た目によく合った野太い声でマーティンってヤツが話を切り出す。つっても、こんな閉ざされた街でこいつらが探してるものが見つかるなんて事ないだろうけどさ。もしそんな凄いもんがあったら、貴族どもに事情を話した時点ですぐに分かんだろうし。
それなのにわざわざこうやって皆を集めてるって事は貴族どもに聞いても誰も知らなかったって事だ。貴族どもも知んないような事を僕らが知ってっとは思えない。
「しかし、何も皆さんに苦痛を強いるような真似をするつもりはありません。ただ、我々の質問に答えて頂きたい。それだけです」




