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別離

 そんなこんなで次の日の昼。僕達は四日前に僕が落ちてきた穴の下にいた。


「じゃ、また遊びにくっから」


 昨日のうちにセインが作ってた梯子に足をかけて、強度を確かめる。


「今度はちゃんと親に許可取って来てさ。すっごい怒られんだろうから、ちょっと時間かかるかもしんないけど」


 ん、問題なさそう。


「今度来る時は怪我しないで下さいね」

「それはもういいって。じゃ、またな」

「はい、またどうぞ。梯子はこのままにしておきますから」


 どちらともなくふっと笑って、僕は梯子を上りだした。下は見ない。今はさっさと帰んのが一番。


 梯子を登り終えた先は薄暗い闇の中。少しの間目をつぶってその暗さに慣らした後、回収した石灯の絞りを捩じって足元を照らし出す。最後にちらっと穴の下を覗いて、すぐに前向いて四日前に通った道を、今度は逆に辿り始めた。





 ぎぃ、とほんの少しだけ金属の床板を押し上げて、その隙間から外の様子をうかがう。見た感じ木箱の位置は僕が積んだ状態から変わってないみたいだし、僕があいつのとこにいた間もこの入口は誰にも発見されなかったみたいだ。

 ほっ、良かった。こんなに長くここの様子を確認してなかったのは初めてだったから、もしかしてって心配だったんだよね。床板を全開まで押し開けて、僕は通路から這い出す。

 つーか、考えてみたら(たぶん)今までこの通路の存在に誰も気付いてないんだし、そこまで心配するほどの事じゃなかったのかも。でも、一応いつも通り入口の上に木箱積み上げて隠しとくけどさ。


 作業を終わらせた僕はちゃんと周りを警戒しつつ、急いで階段まで急ぐ。ほら、今更返りが少し遅れた程度で何が変わるとも思えないけど、出来る事なら少しでも早く帰っておきたいじゃん。って、考えながら薄暗い青銀色の、まぁ今はただの鈍くくすんだ色にしか見えないけど、通路を歩いてたとこで、なんか大通りの方がやけに騒がしい事に気付いた。

 なんだ、貴族どもがまたなんか変な催し物でもやってんのか? この七層が人でにぎわうなんてその時くらいしかないし。


 べたーっと壁に身体をくっつけてなるべく通りを埋める人々に気付かれないようにしながら、顔をほんの少しだけ出してこっそりその様子をうかがう。貴族どもが何かやらかす時に付き物な甲高い笛の音がしないって事は、このにぎわいは貴族どもが原因じゃないんだな。じゃあ、なんだ? 僕がいない間になんかあったのか?


「ちぇっ、こっからだと人ごみで何も見えない……っと、おっちゃんだ。おっちゃんなら何か知ってるかも」


 人ごみの中に近所に住んでる知り合いの姿を見つけた僕は、がっしりとした体格でいつでも薄手のシャツ一枚羽織ってるだけの、人の良い彼んとこに駆け寄った。


「おっちゃん!」

「ん? おぉ、坊主! 今までどこほっつき歩いてやがった、お前の母ちゃん心配してたぞ!」


 駆け寄ってくる僕の姿に気付いたおっちゃんは、一瞬目を見開いた後すぐに眉間にしわを寄せて、ぐしゃぐしゃと乱暴に僕の頭を撫でてきた。一見すると怒ってるように見えるかもしんないけど、これがこのおっちゃんの愛情表現なのだ。


「わわっ! そ、それはおいといて、この騒ぎなんなの?」


 僕の顔なんて余裕で鷲掴み出来そうなくらい大きなそれをどけて、おっちゃんの顔を見上げる。おっちゃんは身長が六フィルトを軽く超えてるから、五フィルトちょいしかない僕だとどうしても見上げる形になっちまう。

 あーあ、早く身長伸びないかなぁ。なんか父さんもじいちゃんも大人になりたての頃くらいにグーンと身長伸びたらしいから、僕もそうなんじゃないかってちょっと、いやかなり期待してる。って、話が逸れた。


「なんだ坊主、知らないのか? って、そうかそうか。そういやお前さん、あのお方達がやって来た時いなかったんだっけな。どうせまた古ぼけた遺跡の探検でもしてたんだろ?」


 俺にゃああんなもんのどこが良いのかさっぱり分からんね、と顎ひげを撫でるおっちゃんのシャツを両手で掴んで食い付く。


「『あのお方達』? それって誰の事?」


 おっちゃんが誰かに敬意を払った呼び方をしてる場面なんて僕は今まで見た事ないし、聞いた事もない。貴族どもにだって面と向かって「おい、そこのあんた」なんて言うくらいだ。

 そんなおっちゃんの事を貴族どもは毛嫌いしてるみたいだけど、おっちゃんの持つ石灯作成技術は街一で、ヤツらもおいそれとは無下に出来ないらしい。僕の石灯を作ってくれたのもおっちゃんだ。


 そのおっちゃんが曲がりなりにも敬意を込めた呼び方をするなんて、その「あのお方達」ってのは何者なんだろう?


「どうやら本当に遺跡ん中をほっつき歩いてたらしいな。この街の外からやって来た初めての客人であるあのお方達を知らないって事は」


 うんうん、と勝手に納得して頷いた後、「よし、じゃあ俺が教えてやろう」って少し腰を落としたおっちゃんが僕に人差し指を突き付ける。目線を合わせてくれてるつもりなんだろうけど、それって結構傷付くんだ、おっちゃん……。


「あれは確か一昨日の話だな。俺達が木材を採りに森へ入った時の事だ」


 どうやら僕の目に浮かんだ涙におっちゃんは気付かなかったみたいで、そのまんまさっきと変わんない調子で話を進めてく。や、僕も続き気になってるから別に良いんだけどさ、でもわざわざ目線を合わせてんだからちょっと気付いて欲しかったなーなんて。うん、なんでもない。

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