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06

『こうして六人の戦士の尊い犠牲の元に、空から降って来た災厄は追い払われ、世界は救われたのだった』


 ぱたん、と読んでた本を閉じると、読み終わったそれをテーブルの上の本の山の一番上に乗せる。まぁ、今乗せたの入れてもたった三冊だから、山っつーほどのもんでもないんだけど。


「さて、そろそろお昼だなーっと」


 顔を上げて時間を確認すると、時計の長針は丁度真上を通り過ぎた辺りだった。とすると、本当に丁度お昼だな。昨日は呼ばれるまで気付かなかったから、今日はちょっと早めに行って驚かしてやろ。


 口元を、にぃ、と歪めて、僕は松葉杖を支えに立ち上がる。


 ここに来てから今日で四日。文字の読み方はもちろん、時計の見方も覚えたし、風呂沸かすのだって一人で出来るようになった。……風呂入るのはいつもあいつと一緒だけど。

 足の怪我はもう動かしても何ともないくらいにまで回復してて、今日はとりあえず様子見で杖を使ってるだけ。これも毎晩寝る前にあいつが注射してくれてた薬のおかげなんだろうなーと思う。つーわけで、明日には僕が落ちてきた穴からテルトクランに帰る。

 寂しくないっつったら嘘だけど、でもこれ以上親に心配かけらんないし一旦帰る事にした。もしかするとしばらく家から出してくんないかもだけど、そん時はそん時で。


「っと、明かり消しとかないと。昨日それであいつに注意されたからなぁ」


 ぱちん、とドアの脇のスイッチを押して明かりを消す。カーテンは元から開けてないから問題なし。テーブルの上に出しっ放しの本は寝る前にちゃんと片付けるって事で。


 二日目からはちゃんと客間の方で寝泊まりしてる。どうやらセインは毎晩充電っつって居間にいるみたいだから、そのまんま僕があいつのベッド使ってても良かったみたいなんだけど、僕の気分的な問題で客間で寝る事に頷かせた。

 ……あ、あいつのベッドで寝るのが寝心地悪かったとかそんなんじゃなくって、なんか、こう、胸がドキドキしてしょうがなかったから。一日目ん時は僕自身すっごい疲れてたから気になんなかったんだけど、二日目は、ね。


 なんてごちゃごちゃ考えつつ居間のドアを開けたら、丁度セインも台所のドアを開けたとこみたいだった。


「あ、リーオ。丁度良かった。今呼びに行こうと思ってたところだったんですよ」


 白いシャツの上に淡い水色のエプロンを羽織ったセインが、僕の姿に気付いて微笑む。


「じゃあご飯持ってきますから、リーオは座って待ってて下さい」


 それだけ言うと、また台所の奥へと戻ってった。言われたとおり、イスに座り木製の丸テーブルに頬杖つきながら待ってる事にする。このテーブルって二人分の食器を置くにはちょっと狭いんだよなぁ。なんか、今度僕が来る時までには一回りくらい大きいの作っときますっつってたけど。


「はい、お待たせしましたー」

「や、全然待ってないけどね」

「こういうのは気分なんですよ、気分」

「ふーん」


 にこやかな笑みを浮かべながらセインが持ってきたのはミルクをベースに作ったちょっと黄色がかったソースをあえたパスタだった。

 セインから粉チーズの入った容器とフォークを受け取り、パスタをフォークで真ん中から二つに分ける。んで、片っぽには粉チーズをどっさりと、もう片方にはなんもかけない。


 おとといの夕飯の時に初めて見た時には、細い紐みたいなのがぐるぐる絡まってて変なのって思ったけど、食べてみると結構美味しくて僕はすぐにこの料理が好きになった。

 ちなみに、これは昨日の昼ごはんの時に判明した事なんだけど、どうやら僕はグラタンとかチーズとかみたいにミルクを使って作った料理なり食べ物なりが好きみたいで、今日は朝から晩までミルクを使った料理にしてくれるらしい。セインはご飯を食べなくても平気……っつーか食べらんない、食べる必要がないっつー話なので僕の好みに合わせてくれるんだと。


 確かにこいつが何かを口にしてるとこを僕は見た事がない。普通なら陰でこっそり何か食べてんじゃないかって思うんだろうけど、つーか僕も最初そう思った訳なんだけど、今はそんな風に疑ったりはしてない。かといってちゃんと納得してる訳でもないんだけど、こいつはそういうヤツなんだって思う事でとりあえず放置してる。

 だって本当にものすっごく重いし、寝なくても平気みたいだし、僕とは根本的に身体のつくりが違うみたいだからさ。おまけにお腹んとこに「06」って数字彫られてるし、その反対側にはプラグぶっ差すための穴開いてたし。


 ん? 数字が掘られてんのはあんま関係なかったかな? 街の人でも身体に絵とかを彫り込んでる人がいない訳じゃないし。主に一層やら二層やらの住人だけど。


「どうしたんですか? どこか具合でも悪いんですか?」


 フォークを握ったまんまぼーっと考え事をしてた僕に、ちょっと心配そうな顔をしたセインが話しかけてきた。


「ん? あ、いや、別にそんな事ないけど。ただ、ちょっと考え事してただけ」


 僕は慌ててパスタを食べ始める。昨日セインに食べ方教えてもらったんだけど、どうもまだ上手くフォークに絡めらんない。力加減が分かんないっつーか、そんな感じ。パスタを巻き取るようにぐるぐる回してんだけど、いっつも大量のパスタが塊になっちゃうんだよね。

 塊になってるって事は、その分大量にソースも絡まってるって事だから、まぁ結果オーライなんだけどね。僕はパスタがっつーよりこのソース自体が好きだからさ。


「よし、ごちそうさまでした……!」


 布巾で口元を拭くと、テーブルの横に立て掛けといた杖をひっつかんで立ち上がる。んで、「お粗末さまでした」っていう声を背中に聞きながら再び書庫に戻る。

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