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 真っ暗な空間の中をふわふわと漂ってる。


 なんか遠くの方で沢山の光が瞬いてんのが見えるんだけど、身体に上手く力が入れらんなくてそっちの方へと行く事が出来ない。

 ぐるぐるぐるぐるその場で回り続けて、上も下も右も左も分かんなくなって。自分が自分じゃなくなるような、そんな錯覚に襲われて。真黒な世界ん中に溶けていく。


 自分って誰? 僕って何?


 そんな疑問が頭に浮かんだ瞬間、微かに声が聞こえた。


「――かった」


 それはとっても小さくて、こんな静かな場所じゃなかったら絶対聞き逃してるようなくらい弱々しい声で。


「……分かったよ、これが何なのか。俺は何故、ここにいるのか。全部、全部、分かったよ」


 でも何故だか、その声には溢れんばかりの喜びが込められてた。


「分かったよ。俺は今、生きている。生きて、いるんだ……!」


 魂の奥底から迸り出たような声。この声を聞いてる間だけは僕は僕を保てる。根拠もないのにそんな確信があった。この声の主を探して、僕はぐるぐる回る黒の中に視線を巡らす。それは、すぐに見つかった。


 ゆらゆらと糸の切れた人形みたいに漂うそれに向けて手を伸ばしたとこで――



 ――ぱちり、と目が覚めた。


 ぼんやりとした視界が徐々に焦点が合っていく。


「あれ、今どんな夢見てたんだっけ?」


 天井に向けて突き出された自分の手を見て、僕は首をひねる。でも、何故だか靄に包まれたみたいに全然思いだせない。うーん、なんだかすっきりしないなぁ。頭では分かってるのに上手く言葉に出来ない、そんな感じ。胸の奥がむずむずもやもやする。


「はぁ、変な時間に目が覚めちゃったな」


 窓の外に目をやれば、まだ薄暗くって朝日が顔を出すまでかなり時間があるっぽい事が分かった。かといって、もう一回寝ようにも気持ちとは裏腹に目はさえちゃってて、ぎゅっと目を閉じても一向に眠気がやってくる気配はない。


 つーか、寝る前もそう思ったけど、このベッド匂いがしない。まるで今まで誰も使った事無いみたいに。

 ごろんと寝返りを打って枕に顔をうずめたとこでそう思う。普通、毎日使ってたらその人の匂いとか移りそうなもんなのになぁ。もしかして、新しくおろしたばっかだったのかな? だとしたら悪い事したかも……って、ベッドの用意もしないで風呂に入ろうって言い出したあいつが悪いんだから、僕がしょげかえる必要はないのか。まったく、紛らわしい。


 その後もしばらくベッドの上でごろごろしてたけど、眠気は全くと言っていいほどやって来なかった。


 ……仕方ない。起きよ。なるべく怪我した足を動かさないようにしながらベッドから這い出し、ひやっと冷たい床に素足を下す。昨日は抱きかかえられてたから気にしてなかったけど、木の床に素足で立つのって結構冷たい。セインに靴下かなんか借りれば良かったかも。

 しっかし、居間とおんなじで家具の少ない部屋だよなぁ。ベッドの他にはテーブルと衣装タンスと本棚くらいしかない。広さ自体は僕の部屋よりちょっと広いくらいだけど、なんかがらんとしてる感じで微妙に寂しいなぁ。

 そんな、あんま生活感の感じらんないセインの部屋を壁伝いに移動して、廊下へと出る。


 うー、廊下の方が床冷たいー。

 とりあえず最初に隣の客間を覗いてみたんだけど、そこにセインの姿はなかった。

 もう起きてんのかな? トイレにもいないみたいだし。とすっと、いんのは居間だな。適当に当たりをつけてひょこひょこと移動を開始する。つーか、書庫の明かりついてなかったから、この薄暗い中で本読むのなんて無理だろって思っただけなんだけどさ。まぁ、居間にも明かりついてない訳だけど。でも、居間なら明かりなくてもそこまで困んないかな、とは思う。

 静かにドアノブを捻って、これまた静かにドアを開ける。左足に体重乗せてそーっと部屋ん中を覗き込む。


 ん、いた。

 なんかぼーっとしてる感じでイスに座って窓の外を眺めてる。眺めてるっつーか、偶然視線の先に窓があったってだけで本当はなんもはっきりとは目に映ってないって感じだな。これまた壁伝いにセインのとこまで移動して「おはよ」って声かけてみる。返事はなかった。


「あんたって結構早起きなんだな。僕、こんな時間に起きたのなんて初めてだよ」


 もう一度声かけてみたけど、これも反応なし。寝ぼけてんのかなー? って思って、今度はちょっと大きめにしてみる。


「なぁ、あんたって普段このくらいの時間に起きてんの」


 これまた反応なし。なんか無視されてるみたいでちょこっと、本当にちょこっとだけむかっとしたから、近付いて肩を掴む。


「なぁってば……! 訊いてんじゃんか!」


 ぐいっと振り向かせたとこで、半開きで生気のほとんど感じらんなかった瞳に光が宿った。


「あ、リーオ。おはようございます」


 まるで今のやり取りなんてなかったみたいにほがらかに挨拶してくるセイン。ちょっとぶすっとしながら「あぁ、うん。おはよ」って僕も挨拶し返した。


「あれ、もしかして怒ってます? 俺何かしました?」

「うっさいなぁ。何でも良いだろ……!」


 ぷいっとそっぽ向いた僕の様子を見て、セインはなんかに思い当ったみたいだった。


「あぁ、すみません。もしかしてスリープモード中に色々話しかけてたんですか? こんなに早くに起きてくるとは思ってませんでしたから、ちょっとゆっくりし過ぎてました。今充電を終わりにしますね」


 よいしょって立ち上がったセインは、シャツの裾から伸びてる真黒い管をぐいっと引っ張って服の下から引きずり出す。今まで暗くて気付かなかったけど、その管は僕の足元を通って壁へと繋がってるみたいだった。


「何、それ?」


 先端から細い棒みたいなのが二つ飛び出てるそれを指差して、セインに訊ねる。


「これはプラグです」

「ぷらぐ?」

「そうです。ここには発電設備がありませんからね、こうして一日一回電力を供給してるんです」

「はぁ」


 なんだかまた良く分かんない話だった。「でんりょく」とか「はつでん」とか言われても、そんなもん僕の知識の中にはない。出来れば、もうちょっと分かりやすい言葉で説明してほしいよなぁ。


「んで、その『じゅうでん』ってのをすると何がどうなんの?」

「ここにある機械が一日稼働するには十分な量の電力が得られます。これをしないと、毎日お風呂にも入れませんから夜俺自身の電力消費が抑えられている間にやっちゃうんです」


 ふーむ、また良く分かんないな。とりあえずこいつが大の風呂好きってのは分かったけど。


「そうだ。足の具合はどうです? 昨日よりは良くなりました?」

「え? あぁ、うん。昨日はなんもしてなくてもじんじん痛かったけど、今は無理に動かさない限りはそれほどでも」


 「そうですか、それは良かった」って相槌打ちながら、セインは管をぐるぐる巻きにして壁の中のスペースにしまった。それと同時に部屋の明かりが付いてちょっと眼が眩んだ。


「うわっ!?」

「あぁ、驚かせちゃいましたか。すみません。俺の場合は自動で感知される光量が抑えられますから、ついいつもの感覚でやっちゃいました」


 とっさに腕で顔を隠した僕にセインが近付いてきて、後ろでなんかがたがたやってる。と思ったら、膝の裏あたりにぐいっと何かが押しつけられる。


「さ、座って下さい。ずっと立ってるのは怪我に響くでしょうから」


 どうやら押しつけられたのはイスだったみたいなので、勧められた通りに座っておいた。目の方はもう慣れたから、首を巡らせて後ろにいるセインの顔を見上げる。

 どうかしたのかって感じで首をかしげたそいつに、僕は昨日やり残してた事を告げる。


「字、教えてくれる?」

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