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食事

 ことこととホワイトソースを煮込む音がする。なんか、かまどに火を起こした様子がなかったんだけど、なんで煮込めてんだ? まぁでも、台所に通じるドアが開け放たれてるっつっても、こっからだとセインの手元は良く見えないし、僕が気付いてない間に火をつけたのかな。


「なー、セインー。あとどれくらいかかりそうー?」


 寄りかかったイスをがたがたと揺らしながら、ドアの隙間から覗く後ろ姿に声をかける。日はもうだいぶ傾いてて、周りを木に囲まれてるこの家にはほとんど光が入ってこない。

 でも、天井にくっついてる細長い筒みたいなのがその代わりに発光してて、ひょっとすると昼間よりも明るいんじゃないかってくらいの状態になってる。これとおんなじのを遺跡でも何個も見かけてたんだけど、今初めてその使い方を知った。


「そうですねぇ。材料から作ってますからもう少し時間かかると思います」


 肘辺りまで袖を折り返した手に持ったお玉でくるくると鍋の中をかき回しながら、ふっと僕の方を振り返ったセインが微笑む。淡い水色のエプロンが白い上着に良く似合ってて、ちょっと見とれそうにな……あー、何でもない何でもない。


「んー、意外と時間かかるんだなぁ。普段家でごはん食べる時はそんな意識した事なかったけど」

「というか、まだ夕飯の支度始めてから十分と経ってませんよ? リーオは少し気が早過ぎるような気がします」


 眉間に小さくしわを寄せ、ホワイトソースのべったりと付いたお玉をかざして怒るセインに、


「あーもー、ソース零れてるー」


 と、イスに座った状態のまま教えてあげる。

 「わわっ、布巾布巾!」なんて慌ててるけど、普通予想出来んだろって思う。片足じゃあ、しゃがめないから手伝いも出来ないしなぁ。なんもする事ないって結構ヒマー。

 怪我してない左足をぶらぶらさせながら窓の外をぼーっと見て時間つぶしてたら、すっと目の前に小皿を差し出された。


「味見、お願いします」


 なんてにこやかに微笑まれちゃ断る理由もない訳で。

 小皿を受け取り、そのまま口へと運ぶ。ホワイトソースの味見なんてしたの初めてだけど、どろどろしてて意外と飲みにくい。普段はスプーンですくって飲んでるからなぁ。でも、我が家のホワイトソースはもうちょっと薄味で、そんでいてなめらかだ。

 それってつまり、水気を多くして引きのばしてるって事なのかな。まぁ、その代わりに量たっぷりだから文句ないけど。


「うん、良いんじゃない? 僕は別に平気だよ」

「そうですか。良かったです。自分が作った料理を誰かに食べてもらうというのは初めてなので、ちょっと緊張してたんですけど」


 ほっと安堵した様子で口元を緩めるセイン。

 そういや、誰かに料理作んのは初めてっつってたっけ。百年がどーのとかってのは嘘だろうけど。でも、そんなんは抜きにしても、相手が喜んでるとこっちまで嬉しくなってくんな。


「では、あとはこれと他の材料を合わせてオーブンで焼くだけですから、もう少しだけ待っていて下さいね」


 心なしか弾んだ足取りで台所に戻ってくセインの背中を見て、そんな事を思う。んじゃ、あいつの言葉を信じて、もう少しだけ空腹を我慢する事にすっか。





 結論から言えば、セインの作ったグラタンはとっても美味かった。

 表面にかかってた「ちいず」っていうのがちょっと焦げてて、でもとろっとしてて。ちっちゃい管みたいな「まかろに」っつーのも美味かった。それ自体に味はないんだけど、筒の中にホワイトソースが詰まってて、噛むとそれが口いっぱいに広がってさ。なんつーか、今まで食べたどのグラタンよりも美味かった。

 これからコルピコどっさり野菜ちょこっとなんていうグラタンが美味しく感じらんなくなるかも、なんて思っちゃうくらいに幸せ、今。


「じゃあ、俺はちょっと薬を取ってきますね」

「ん、何の薬?」

「怪我の治りを早くする薬ですよ。この間分けてもらったものを真空状態で保存してあるんです」


 たぶん今物凄く緩んだ顔してるであろう僕に、その食べっぷりをずっと見てたセインが話しかけてくる。つーか、こいつ自分が作った料理一切食べてないんだよな。もしかして、僕が食べたいっつったから作っただけで本当は好きじゃなかったのかな、グラタン? だとしたらちょっと悪い事したかも。

 部屋を出てくセインの背中を見送りながら、ふとそんな事を考える。


 でもさ、いくら嫌いだからっつっても一口も食べないってのはないんじゃね? ほら、一応一緒に食べてるやつがいる訳だし。

 スプーンでちょこっと表面をかき回しただけで、その後はずっと僕が美味い美味い言いながら食べてんのを見てるだけ。なんか言おうかとも思ったけど、文句言ってるみたいになっちまいそうだったからやめといた。せっかく作ってもらったんだから美味しく食べたいじゃん。


「取って来ましたよー」


 なんて事考えてるうちにセイン帰還。手にはなんか透明な袋に入った、これまた透明な筒状のものが。


「では、ズボンまくって下さい」


 ちっ、やっぱり取りに行ったのは僕用の薬だったか。もしかしたらセインが普段飲んでる薬なのかなー、とか淡い期待を抱いてたんだけど、それも儚く散りましたー。

 つーか、なんでズボン? 塗り薬なんだろうか。見た目水みたいだけど……って、あぁ、そうだよね。水っぽいのなんて飲むか塗るかしか用途ないよね。正直、飲み薬ってすっごく苦いのばっかであんますきじゃないから、塗り薬らしいってのはありがたい。

 セインに促されるまま、いそいそとズボンのすそをたくし上げる。ちょっと痛いけど我慢我慢。

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