日常3
「なんだか悲しくなってきた」
黒髪の整った顔をした、だけどどこか憂鬱そうな男がため息をついてベンチに座り込む。
それは漫画で描いてあればとても絵になるわんしーんだろうが、見慣れている自分にはその漏らした言葉の方が気になった。
「いや、いい加減いわせてもらうけど、おまえ何なの?!なんで飯食べただけで悲しくなるの?!食べなきゃいいじゃん!悲しくなるなら食べちゃだめじゃん」
斜め下にいる男に喚くが聞こえるはずもない。
こいつはまったく、毎度のことなのだ。
何かをしたらこの男は落ち込んで、何かしなくても落ち込む。
いわゆるめんどくさい男なんだ!
こいつは。
「はぁ」
溜め息をまたはいて遠くにいる雀をみつめるこの男。
をまた遠くからみつめる後輩の女子社員。
ぁあ~、だからいやなんだ。
なにが楽しくて少女漫画的な淡い恋愛を見守らなきゃならんのだ。
「お前、本当にそのうち覚えてろよな」
つぶやいた呪詛の言葉もこの男には聞こえないんだけどな。
「そうなの。あなたのご主人ってモテるのね」
帰ってからすぐにれいこさんに泣きつくと、れいこさんは意外そうに首を傾げた。
「なんか物憂げなところが素敵!なんだってさ」
「それはまた…皮肉なものね」
困ったように苦笑してれいこさんは下にいる男を見つめた。
「本当だよ。一番皮肉なのはあの面倒なのをいかさなきゃいけない自分自身だけどね!」
「確かにね。でも普通守護霊って貴方みたいにがんばるものなの?本人が望めば止めないっていう方もいるわよね?」
れいこさんの切れ長な目が不思議そうにこちらをみつめてくる。
「…そうだね。」
どうやら墓穴をほったらしい。
言葉にこまり曖昧に濁すとれいこさんは微笑みながら、大変ね、と言葉を続けた。
「あら、ご主人寝ちゃったみたい」
少し空気が変になったのを元に戻すかのように、れいこさんは話題を変えてくれた。
たしかに男は寝たみたいで幸せそうな寝息をたてている。
そんな寝顔がやっぱりなんかむかつく!
「いつか覚えてろよなー!」