日常1
「ついてない」
男は縄に首をかけだした。
せっかく現世に降り立てたのに、なんでこんな男の守護をしなきゃいけないのか。
「そりゃぁ、情だってあるけどさ」
思えば男が生まれたときから一方的に見守り、助けてきたのだ。
情もわく。
しかし、この男が不穏なことを考え出したころからこっちは苦労の連続だ。
「少しくらい痛い目みればいいんだ」
乱暴に縄を切ると男は尻を強打したのか悶絶しだした。
それはまるでコントみたいで腹を抱えて笑ってしまった。
「あなたのご主人また?」
音もなく現れた少し透けた女は、この部屋に元々いた霊らしい。
だからといってとりつくというわけではなく、ただいるだけでいいらしいのでたまに話し相手になってもらうのだ。まぁ、分かる人には分かるらしく、買い手がつかなくてどんどんこの部屋の値が下がったらしいけど。
「さっきお仕置きしたから、諦めるみたいだけどね」
「ふふ、大変ね」
いそいそと縄を片づけることにしたらしい男をみて霊子さんは笑った。
勝手に心の中で呼んでる名前だけど。
「大体あいつは感謝がない。こっちがどれだけ苦労してると思ってるんだ」
不穏なことを考え出したその日から、なんとかして気持ちが上を向くように努力してやったのに、車にはねられかけたときは諦めやがって!
挙げ句の果てには、はねられなかったのを残念がりやがった。
「ご主人はまったくといっていいほど霊感がないからね」
そうなのだ。
普通少しくらいの霊感があって俗にいう虫の知らせを使えたり、夢枕にたてればこいつに説教の一つもできるのに。
こいつはまったく霊感がないからそれもできない。
「まったく本当についてない」