表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
select my limb‏  作者: taka!!
1/1

失う物と受け継ぐ物

〈limb〉



俺は走っていた。

かたわらには女の子も一緒になって走っている。


「まだいけるか?」


「ええ、まだ大丈夫よ」


心配をした――つもりだが彼女もなかなかの精神力と運動力の持ち主らしく、涼しい顔で答える。

そのまましばらく走り続ける前方に分かれ道が見えた―――その瞬間、俺の目の前に俺にしか見えないカーソルが現れる。


『右へ行く―――10メートル進んだところにある赤外線センサー式の爆弾に見つかり二人とも爆死する


 左へ行く―――地面に多数仕掛けられた地雷で爆死する』


どうやら読んでたうちに分かれ道まで辿りついていたようだ。

彼女が心配そうな顔で見つめてくる。


「こっちだ!!」


俺は一瞬考えてから右に曲がる。

彼女も俺の選択に異議を唱えず素直についてくる。

10メートル進む前に辺りを見渡すと道端にごみ箱があり小さな穴が空いていた。


「そこから赤外線が出てて見つかると爆発するから気をつけろ」


「ふぇっ!?」


そのまま走り抜こうとしていた彼女がびっくりした声をあげて急ブレーキをかける。


「もぉっ、そういうのはもうちょっと早く言ってよね!!危うく死ぬところだったじゃない!!」


彼女からのきついお叱りをごめんごめんと手で制しながら俺達二人は不可視の赤外線を跨ぐ。

そして俺達はそのまま走り始めた―――刹那。


『そのまま進む―――鉄骨が落ちてきて二人とも潰される


 止まる―――敵に手榴弾を投げられ爆死』


何かが外れて落ちてくる音と目の前に新たなコマンドが表示されたのは一緒だった。


「ちっ――こうなる事を予想してたのか……」


よく考えてみると相手も能力者なのだ。

俺達がごみ箱の爆弾を回避することくらい充分想定できる範囲内だろう。

しかしこのままだと二人ともゲームオーバーだ。

俺は意を決して彼女を突き飛ばした。


「えっ…ちょっ!!」


戸惑う彼女の顔を見たのと鉄骨がぶつかったのは同時だった。

俺は痛みすら感じず意識を失った。





〈プロローグ〉



この世界は、選択肢で溢れている―――


ある選択肢を間違えると最悪の結果になる――そんなこともあるだろう。


しかし逆を言えば、良い方向に傾く――ということも有り得る。


そしてこの世の全ての生物は日々、数え切れない程の選択肢をかい潜り生き続けてきたやつばかりだ。


一歩間違えれば―――死。


もう生き返ることは二度とない。


だがそいつらはいきなり現れた。


選択肢を事前に予知し、最悪の結果を避けることが可能な能力を持つやから――――


はたしてそれは―――神の悪戯か……。


または―――人間の進化の果てなのか……。


そして人々は、そいつらのことをこう呼んだ―――――セレクター





〈失う物と受け継ぐ物〉



朱い―――


辺りはその付近だけは昼間のように明るい。


熱い―――


近くに寄るだけで裸が焼けそうだ―――いや、もう一部は火傷を負っているようだ。


何やらたくさんの人が俺の家に集まっている。

消防士の人達が家に水を撒いて火を消そうとしている。

しかしそんなことよりもっと大切なことがある。


「っ……可奈っ!!」


気付くとそう叫んでいた。

そうだ――まだ家の中には俺と血を分け合った、たった一人の妹がいる。

ツインテールでいつも明るい笑顔なのが取り柄の一度も喧嘩すらしたことのないくらい仲の良い関係だった九歳の妹が。


「今行くからなっ!!」


そう叫び終わらないうちに俺は炎の中に飛び込んでいた。

後ろから呼び止めるような声がしたが振り返らない。

もう熱さなんて気にならない。

頭の中にあるのは玄関から妹の部屋までの行き方ともう一度あの笑顔を見たいという感情のみ。

階段を駆け上がり二つ目の扉に勢いよく開ける。

するとそこにはベッドで力無く横たえる妹の姿があった。

慌てて近寄り心臓の上に耳をあてると弱々しいが、まだ確かに生きようと頑張っている音がした。

俺より年が二歳も低いこともあって、どうしていいか分からないまま、ずっと部屋で怯えていたのだろう。

その証拠に、シーツはおそらく涙であろうもので濡れていた。


「可奈っ!!」


俺は人生で出したことがあろうかどうかというくらい大きな声で妹の名前を呼んだ。

しかし反応は無い。

頭の中ではこれがどういう状態なのかわかっているつもりだ。

しかし認めたくないという気持ちの方が強く、妹を抱き抱えようとする。


「お、にい…ちゃん……」


そこで不意に苦しそうな妹の声が耳に届く。

急いで顔を覗き込むと目をうっすら開き苦しそうに呼吸をする姿があった。


「大丈夫かっ!!今助けてやるからな!!」


そのまま持ち上げようとするが彼女は首を横に振る。


「もう……いいの…。わたし………どうせ助からない…もん。お兄ちゃんが……来てくれた…それだけで……わたしは…幸せだよ………。」


そんな悲しいことを、苦しそうに、しかしそれを隠すよう無理に微笑みながら言う。


「何言ってんだよ!!お前は―――」


「ねぇ…お兄ちゃん……キセキ…って信じる?」


「何だよ…いきなり……」


こんな場面で、そんな突拍子もないことを聞いてくる。


「ねぇ…答えて……」


さっきまでより苦しそうだ。


「まぁ……信じてるけど……」


「そっかぁ………」


すると彼女は安堵したようだ。


「わたしは……失敗しちゃったけど、お兄ちゃん…なら、これを……使いこなせる………かも、ね」


そう言うと右手を俺の胸に当てた。


神界章典しんかいしょうてん99しょう15894せつ999こうのっとりここにめいず」


「おい、今はふざけてる場合じゃ………って、え!?」


可奈の手がほのかな温かさと共に光り始めたのだ。


「ど、どうなってるんだ……」


しかしいくら兄が質問しても微笑むだけで、ひたすらその呪文めいた言葉を続ける。


われ、キュラバスのもとにおいて血縁者けつえんしゃ木賀こが 琢磨たくま例外譲渡イレギュラーパスする」


妹は何を言っているのだろうか?

キュラバス?譲渡?

何のことだ………


例外譲渡イレギュラーパス開始かいしっ!!」


とたんに手から何かが流れ込んでくる。

熱い!!

炎などとは比べ物にならない!!

これは――――


「お兄ちゃん………後は…任せたよ……」


妹の裸が冷たくなっていく。


「おいっ、可奈!!しっかりしろ!!」


しかし俺も体が思ったように動かなくなっていた。


「……来てくれて………嬉しかったよ…………」


「……か…な」


「―――――ありがとう―――――」


それが最後に聞いた言葉だった。

最愛の妹は、最後の最後―――――太陽のような笑顔だった。





辺りには何もない。

太陽も地面も建物も―――――


「ここは………」


『おっ、気付きましたか――――』


不意に後からこの空間には似合わない随分と間の抜けた可愛い声―――いや、テレパシーに近いものが聞こえた。

振り向くとそこには、ショートカットの女の子の姿があった。

だが服装が妙だ。

全身が真っ黒の服装で足は足首から下まで、手に至っては全て隠れてしまっている。

よく見ると目の色が赤みを帯びている。


「あんたは……?」


『わたし、キュラバスと申します!!以後お見知りおきをっ』


キュラバスと名乗る女の子はビシッと敬礼のポーズをとったかと思うと今度はいきなり悲しそうな顔になる。


『あー…反応なしですかぁー……悲しいですなぁー、そういうの』


俺がポカンとしているとそんなことを言い始めた。

だが何だろう……この懐かしい感じ。


『前の宿主はもっと元気良かったのになぁー、まぁ今回は運が悪かったということで――――』


「ちょっと待った!!」


さっきから不思議だった懐かしい感じの理由はもしかして………いや、しかしそんなことが?


『もぉー何なんですかぁ、いきなり大声出したりして。あっ、もしかしてやっとテンション上がってきちゃったりしました!?』


キュラバスは打って変わってパァーと顔を明るくした。


「お前、今…『前の宿主』って言ったよな?」


『はい、言いましたが?』


彼女はキョトンとしている。


「もしかして………可奈…か?」


すると、どや顔になって得意げに言い放った。


『もちろんそうですよ。だって例外譲渡イレギュラーパスは血の繋がった親しい人のみに可能な技ですので』


――っ!!

いろいろ聞きたいことができたが、これだけは必ず聞いておきたかった。


「な、なぁ……可奈は無事なのか?」


するとさっきまでの顔付きと打って変わって真剣な表情になった。


『どちらでもありませんね。うーん…じゃあ、これからどんなことを聞いても自分を保っていられますね?』


それはこれから何が話されるかを物語っていた。


「……ああ、大丈夫だ」


俺は一つ間をおいて答えた。


『わかりました、話しましょう。今あなたが置かれている状況、私が何者か、そして可奈さんの状態を―――』


そしてキュラバスはゆっくり話し始めた。





「お前の力があれば俺は運命の選択肢を意図的に選ぶことができるだって!?」


話された内容は俺の理解を遥かに越えるものだった。


『ですがその力を発動するためには、私があなたの血を吸わなくてはいけません』


「ち、血を?」


『はい、わたし吸血鬼なんで、テヘッ』


テヘッって………


「吸われたら俺はどうなるんだよ?」


まさか…妹みたいに―――


『いえ、すこし疲れるだけで一日も経てば全快ですよぉー』


なら―――って……ん…何か矛盾していないか?

思考を巡らすとあっさり疑問にぶち当たる。


「じゃあなんで可奈は……」


『それはぁー………』


そこですこし間を空けたが渋々語り始めた。


『一日に2回以上ぉ…使ってぇー………』


「使って?」


だが困ったような顔になる。

それから今度は数テンポ遅れて―――


『過労したんじゃないですかねぇ?』


したんじゃないですかねぇ?…って疑問形だし!!

あまりにも信憑性しんぴょうせいに欠ける言葉に戸惑うしかない。

しかしそれは俺が聞きたかった言葉ではない。


「可奈は……死んだのか?」


そこでキュラバスは不適な笑みを浮かべた。


『死んでも生きてもないですね。まぁ……簡単に言ったら冬眠状態みたいなもんです』


冬眠……か。


「それはどれくらいの間だ?」


『さぁ?』


「さぁって………」


『何もしなければ一生目覚めない可能性が高いですよ――――』


目覚めない……その言葉は絶望がある反面、俺をつき動かす響きだった。


『―――助けたいですか?』


それはあまりにも魅惑的な響きだった。

俺は躊躇わず頷く。


『あなたは可奈さんを助ける力を得るでしょう。しかし代わりにたくさん大切な物を失うかもしれません――――構いませんか?』


「失うって何を?」


おずおず聞き返してしまう。


『それはあなた次第です。………残念ながらそれが何なのかは、わたしにもわかりません』


何を失うのかはわからない――――

それは下手をしたら命さえ失うかもしれないということだろう。

だが―――


「いいぜっ!!乗ってやるよ」


するとキュラバスは豆鉄砲でもくらったかのような顔になる。


『え…っと、命を失うかも知れないんですよ?』


だが、俺は堂々と言い放つ。


「妹が助かるなら命くらいくれてやるっ!!」


すると彼女は俯いて―――体が小刻みに震えていた。

感動でもしているのだろうか?


『…………ぷっ』


ぷっ?


『―――ぷははははは!!』


キュラバスは――――笑っていた。

しかも体型相応の幼艶な笑い方で………。

一通り笑い終えると、こっちに向き直る。

その顔は最初出会った時より格段に可愛いく不覚にも、どきっとしてしまった。


『思わず笑ってしまいましたよ~』


「何でだよ」


『いやぁ~、今度の宿主は思ったより逸材だったんじゃないかって』


「そ、そうか……」


どこか妹に褒められたようで嬉しくなるがすぐに気を引き締める。


『あっ、でも……可奈さんに会う前に死んじゃったらどうするんです?』


「そ、そんな死に方は御免だぁ~」


救えても会えないなんてひど過ぎる。

でも………助かるならそれも―――


『もし可奈さんが目覚めてもお兄さんがいなかったら悲しむでしょうねぇ~』


「ぐっ…………」


話を先読みするなんて小癪こしゃくな……。

そこでキュラバスはニコッと笑った。


『冗談ですよ、琢磨さんはわたしが死なせませんから』


「キュラバス………」


思わず感動してしまう。


「ってか何で俺の下の名前知ってんの!?」


『だって宿主譲渡の儀式で可奈さんが言ってたじゃないですかぁ~、ほら―――木賀こが 琢磨たくま例外譲渡イレギュラーパスする、って』


そういえばそうだった。

こいつにも聞こえてたのか。

そこで俺だけろくに自己紹介してないことに気付いた。


「じゃあ改めて――俺の名前は木賀こが 琢磨たくまだ。これからよろしくな、キュラバス」


すると彼女も微笑んで言った。


『では私も改めて――本名は人間には発することも聞くこともできない特殊な声を使わないと発音できないんで、キュラバスって呼んでもらって構いません』


「キュラバスが本名じゃなかった!?」


人間が発することも聞くこともできない声って何だ………

超音波でも使えるのだろうか。


『とにかくよろしくお願いしますね~』


そう言って、彼女は今までマントに隠れていた手を差し出してくる。

肌は雪のように白く透けていた。


「お、おう」


俺はやっと我に帰ってその手を握りしめた。

と――――握っている手がいきなり輝き出したではないか!!

次いで意識が遠のいていく。


「こ、れは……」


『あなたに力を与えました。もうじきこの空間と私ともしばらくおさらばです。力の使い方は自分で慣れていって下さいね~。もう少しお話したかったんですが…どうやら時間みたいです。じゃあ、ばいばぁーい!!また今度、会いましょうね』


キュラバスは意識の薄くなった俺に向かって手をぶんぶん振っている。

もし普通の女の子だったら現実で可奈と良い友達になれただろうに―――遠のく意識の中でふとそんなことを考えてしまう。

って今、私ともしばらくおさらばって言った!?

どういうことだ!!

そしていま彼女が向けてきている笑顔の中に、わずかだが悲しみの表情が混じっているのに気付く。

声にしようとするが体がいうことを効かない。

俺の意識は完全に無くなった。

はい………3作品目です。

何故こんな作品出したかって?

寝ようとしたら思い付いたんですよ。


ということでまぁ真面目にあとがきを書くとしましょう。

今回は主人公の過去&仮の力を受け継ぐという話でした。

次からは主人公が高校生モードで開始します。

3作品も出しているのでまぁ自動的に一つ一つの更新が遅くなるわけで………。

でも頑張っていこうと思いますので応援宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ