ギルド登録しよう
『さーて、やって来ましたウェストバリー!やっぱ異世界だね〜!皆さん実にファンタジックな格好です!』
報道よろしく道行く人並みを眺めながらぶつぶつ呟く。
え?誰にって?
もちろん自分にだよ♪
そういう自分も人のことを言えないのだが、目の前に広がる光景はまさにオンラインゲームさながらの世界だった。
まず、人の格好だが剣士や魔術士といった冒険者風情の方々に商人や村人といった服装の人もいる。
女性の剣士はいないのではないかと思ったが、そこまで男女差別はないのか剣士の格好をした女性もちらほらいたので一先ず安心である。
私の格好が好奇の視線に晒されることはないだろう。それに髪色や瞳の色も実に鮮やかで一般的な茶色、金髪の他に青や赤、緑に紫など、色えんぴつ全色あるんではないかってくらい彩色に溢れていた。
自分ほど漆黒というわけではないが少し焦茶に近い黒髪を何人かいるので、別段黒髪が珍しいわけではないようだ。
それにここにいる人たちの容貌は中世ヨーロッパを基準にしているためか、今の私と似たような外国人系の容貌の人たちがほとんどである。
しかもこの世界の美形基準は高いのか、それとも外国人(異世界人)だからそう見えるのか皆さんそれぞれ特徴のある美しさをもった美形さんばかりでした。
くそ!さすが異世界だぜ!
いつか私もこの世界で過ごすうちに美形慣れしてしまうんだろうなぁと思いながらギルドを探すこと数分。《冒険者ギルド》と書かれた大きな木の看板を見つけることができた。
表通りに面したそれはニ階建ての中くらいの大きさの建て物で腰まである木の扉の入り口から中の様子を見ることができ、キィ…と扉を押して中に入るとカウンターのお姉さんがにこやかに挨拶をしてくれた。
『こんにちは!こちらは冒険者ギルドです。お客様はこちらをご利用するのは初めてですよね?』
『こんにちは。私は遠い田舎からやってきた者でして、今回初めてギルドを利用したいと思うのですがどうすればいいでしょうか?』
私はにこやかに挨拶を返しながら、少し困った表情で無難な話をする。
要はギルドも何もない村からやってきた新米冒険者だよ〜設定である。
お姉さんは何の疑いもなくにこりと微笑むと『わかりました。大丈夫ですよ』と言ってくれた。
『まず初めに《冒険者ギルド》は冒険者が安全に路賃を稼ぐことができるよう結成された組織です。ここで一度登録をすればそれが身分証明書となり全世界どこでもギルドを利用する事ができます。またこの身分証明書は各国の王都に入るための身分証となりますので様々な国を旅することも可能です。依頼ではモンスター討伐や採取、護衛、配達など様々な依頼があり、難易度によって最高ランクからSS・S・A・B・C・D・Eランクとランク分けされています。初めての方は皆Eランクから始めていただきますのでそこはご了承ください。またEランクの方はその一つ上のDランクの依頼も受けることができ、その依頼の達成度と回数によりこちらで判断してランクを上に上げることができます。もちろん討伐や採取では依頼を受けていなくとも証拠品を見していただければその素材をこちらで買い取ることができますのでいつでもお申し付けください。また受けた依頼の無断放棄や失敗を繰り返しますとギルドの信頼度にも影響が出てきますので、そうなるとこちらの判断でランクの降格もしくは破棄となります。十分にご注意ください。依頼はそちらのランク別に分けてあるボードに依頼用紙が貼ってありますので、お好きな依頼を選んでこちらのカウンターに出していただければ私たちが確認をし依頼登録を行います。また、依頼の報酬に関しては、予め依頼主から金額を納めてもらっていますので、討伐・採取であればその証拠品を、護衛・配達であれば依頼用紙に書いてある人物にサインしていただいた依頼用紙をこちらに提出していだければ引き換えに報酬をお渡しいたします。
また、依頼された討伐・採取に関しては、依頼登録をしたギルドでしか換金できませんが護衛・配達に関しては行った先のギルドでも換金することが可能です。ここまでで何か質問はありますでしょうか?』
『いえ、大丈夫です。ご丁寧に説明してくださってありがとうございます。それじゃ早速ギルド登録お願いします』
随分親切に説明してくれたお姉さんにお礼を言うとお姉さんは一度微笑み『それでは少々お待ちください』とカウンターの奥に消えていく。
少しするとお姉さんが戻ってきてカウンターの上に羽の形をした銀細工のブローチを置いた。
羽の根元には茶色の楕円形の石が嵌め込まれている。
『これが冒険者ギルドの身分証明書となるブローチです。ここにはまっております石の色はランク事に違う色になります。Eランクは茶色、Dランクは黄色、Cランクは緑色、Bランクは青色、Aランクは赤色、Sランクは紫色、SSランクは羽がシルバーからゴールドへと変わります。今から身分登録を致しますのでお名前と年齢、役職名を言ってください』
…よかった。出身地とか聞かれなくて。
聞かれたらテンパるところだったよ。
名前はやっぱ外国風に答えるべきかな?
『…えーと、名前はルイ=キタモト。年齢は18歳。役職はー…魔法剣士…?』
役職は迷ったけど、魔法と剣両方使えるんだし魔法剣士でいいよね?
だってここ異世界だし、何でアリでしょってことで言ってみたのだが……、何故か知らないがお姉さんが『え?』って表情でこちらを見て固まってる。
え、な、何?私間違ったこと言ってないよね!?
私が困っているのが解ったのか、お姉さんは慌てて『すみませんでした』と謝った後、非常に申し訳なさそうな表情で口を開いた。
『あの〜、役職は剣士と魔術士しかないのですが……その、魔法剣士とはどういった役職でしょうか?』
その言葉に今度はこちらが驚く。
『え!?ここって魔法剣士ないんですか?…いや、ただ私が魔法と剣両方使えるのでそう言ってみただけなんですが……』
怪しまれると困るので残念そうに眉尻を下げ、何もしらない片田舎の無垢な少女を演じてみる。
だけど、内心はこれでもかってほどテンパっていた。
おいおいおいおい
魔法剣士つったら異世界の定番だろ!!
それともあれか?超エリート過ぎで一般の冒険者じゃいないってことか!?
『そうなんですか?それは凄いですね〜!普通でしたら魔力があって魔術の才能があったら魔術士、魔力が少ない方や無い方は剣術を学んで剣士となるんです。ルイさんみたいにどちらも才能がある方は始めて見ました』
本当に珍しいのか、嬉しそうに微笑みながら此方を見るお姉さん。
とりあえず、怪しい人物としては見られていないようだ。それにしても、魔法と剣がある世界なのに両方極めている者がいないとは意外である。
あんまり自分が両方使えることは大っぴらにしない方がいいのかもしれない。 ならば、格好は剣士ぽいし役職は剣士として登録していた方が無難だろう。
『そうですか。それじゃあ仕方ないですね。役職は剣士で登録お願いします』
『ごめんなさいね。それではルイ=キタモト、18歳役職 剣士。ここに登録します』
お姉さんが何やら呟いた後、ブローチをカウンターにはまっている丸い水晶の上にかざす。
すると、水晶が淡い光を放ち、ブローチの茶色い石の部分も同調するように淡く光った。
『これで登録完了です。登録内容はこちらで間違いないでしょうか?』
お姉さんが再び石にブローチをかざすと今度は石から緑の光る粒子が溢れ保険証のような形をしたカードを空中に形成する。
その光景に『おお!』と内心驚きながらそのカードを見つめた。
そこには自分の顔写真の他に名前と年齢、役職が書かれている。
うむ、間違いはないようだ。
『大丈夫です』
私がにこりと微笑むと、お姉さんも笑みを返しながらブローチをカウンターの上に置いた。
『ありがとうございます。それと冒険者ギルドでは銀行も併設しておりますのでお金を預けたり引き出したい場合はこのブローチをカウンターに出して金額を言ってください。預けたお金は身分証の右下に記載されます。また、身分証に関してはこの水晶を通してしか見ることができないのでたとえ盗まれたり落としたりしても他の者が悪用できない仕組みになっています。紛失してしまった場合はギルドに言っていただければ水晶に残された記録から再度発行することができます』
なるほど……
ギルドは銀行も兼ねているのか、なかなか便利だなぁ悪用の心配もなさそうだし、実に完璧なセキュリティである。
『わかりました。それで今更で申し訳ないんですけど、これって換金できませんかね』
私はついでとばかり、バックのなかからモンスターの角の入った巾着を取りだし、中身を見せる。
お姉さんは一瞬驚いた表情をすると、それをゆっくり手にとった。
『まあ!これはホーンウルフの角ですね?これはルイさんが討伐したんですか?』
『はい、さっきこの村に来る途中の平野で遭遇しまして…』
『凄い…一人で三頭もですか。実はホーンウルフはCランクのモンスターなんです。ある程度群れを成して攻撃してくることから本来であればパーティーを組んで討伐するのですが……。すみません、ちょっと待ってくださいね』
お姉さんはそう言うとホーンウルフの角を一本持ちそそくさとカウンターの奥へと消えていく。
何だ?また不味いことでもしちゃったかな?
と思った仕方がないのでお姉さんを待つことにした。




