救助をしよう
新たな登場人物がでます。
【訂正】町→村
午後1時頃、村に着いたルイは帰り際露店で売ってたホットドッグのような食べ物を買い、軽い昼食をとった。
うん、この食べ物パリッとジューシーなソーセージにマスタードが効いててかなり美味しい。
空腹を満たし、途中討ち取ったモンスターの素材はギルドで換金するとさっそく宿へと向かう。
室内にこもりウキウキ気分でダーランさんから貰った本――《魔導具の作り方・入門編》をバッグから出す。
緑色の分厚い背表紙で覆われた本は金字で題名が書かれていて、見た目はまさに魔術書っぽかった。
きっと高い本なんだろうな…なんて思いながら著者名を辿っていくと、そこには題名と同じ金字の文字で《ダーラン・ドイル》
とはっきりくっきり記されていた…。
――て、本人じゃん!!
思わずビシッと本に対しツッコミを入れるも、まぁ…あのじいさんだったら本を出していてもおかしくないかと思い直す。
ダーランさんのことだからびっしり小難しい文章が並んでるに違いないと失礼なことを考えながら本を開くと、なんとビックリとてもわかりやすく項目ごとに文が纏められていた。
《魔水晶について》
魔水晶とは魔術耐性があり、魔力の増幅・強化を促す作用のある水晶のことをいう。
アクセサリーやスタッフなど様々な魔道具に加工する事ができるため魔石よりも重宝されている。
魔水晶は一般的には無属性なため透明色をしているが、純度が高ければ高いほどその効力は高い。
さらに、属性付与をつけることが出来るため火・水・風・地・闇・光の魔水晶を作ることができ、それぞれその特性の色を持っている。
(例)火の魔水晶→赤色
属性付与された魔水晶はその属性以外の魔法を増幅・強化できなくなり、同じ属性の魔法であればその威力はさらに倍増する。
発掘場所としては鉱山地帯の岩や洞窟で入手できるが、ゴブリンやブラッドバッドなどのモンスターが棲息している場合もあるため発掘には注意が必要である。………
(以下略)
『おおー、学校の教科書より分かりやすぞ。さすが入門編!!つまり魔水晶は武器関連の魔導具を作るのに最も適した石ってことか。…それなら魔石よりもこっちのほうが《アレ》が作るのに適してるってことだよねー』
そう、私が魔道具を追及していた理由……
それは何を隠そう魔法剣士の代名詞――《魔剣》を作りたかったからである(でーん)!!
だって、魔法剣士って普通の剣ふるってたってソレっぽくないじゃん。
やっぱ、某アニメとかでありそうな剣の一振りで一面焼きつくしちゃうとかが良いでしょ。
…まぁ、そんな中二っぽい剣作っちゃったらただの凶器となりかねないけどね。
でも折角のセカンドライフ思う存分楽しみたいのさ♪
……というわけで、さっそく魔水晶を探しに雑貨屋さんを訪ねてみたが、魔石は売っていても魔水晶は一個も売っていなかった。
加工されてアクセサリーになっているものなら置いてあるらしいが、既に加工されてるものを買ったとしても意味がない。
どうやら原石は王都であれば売っているが、高価な代物なので自分で採取するか鉱山で有名な隣国に行って安価で手に入れる人がほとんどのようだ。
『ごめんよ、嬢ちゃん。嬢ちゃんがどのくらい腕がたつのか知らないが、一人で魔水晶を採取に行くのは危険だ。ゴブリンやブラッドバッドはとくに魔力の湧きやすい洞窟を好むからね。一番安全なのは隣国のハザード王国に行って買うことだよ』
『うーん、隣国ですか…。(魔剣を作るのはだいぶ先のことになりそうだな)とりあえず時間は沢山あるんでゆっくり考えることにします』
さすがにまだ隣国に行く予定はない。
ルイは苦笑いを浮かべて礼を言うと宿へと戻ることにした。
――その翌日、いつも通り起床し朝食を食べて軽い運動すると、仕事を貰いにギルドを訪ねた。
相変わらず笑顔の素敵なリーシャさんと挨拶をかわすと、依頼用紙の貼ってあるボードを暫しの間眺める。
今回は採取の仕事をしようと思ってやって来たのだ。せっかく薬草などの知識が備わっているのだから使ってみないと損である。
ボードと睨み合うこと数分。
一枚の依頼用紙を手に取るとリーシャさんのところへ持っていった。
『すみません。この依頼がしたいのですが…』
『ふむふむ。イーストウッドの森に生息しているコロロ草を20束、採取する依頼ね。ルイちゃんにしては珍しいの選ぶわね。はい、手続き完了!』
魔水晶に照らし合わせたブローチが一瞬光るとそれをルイに渡す。
『ありがとうございます。……て、そんなに私が採取するって珍しいですか?』
不思議に思い聞き返すと、リーシャは眉ねを寄せて考えるように顎に手を当てた。
『うーん、だって今までが討伐ばかりだったじゃない?なんかそっちの方がしっくりくるっていうか、ぶっちゃけお金にならない採取ってしないイメージなのよねぇ』
『どんだけ金銭欲が強いんですか私。まぁ確かにそうですけどせっかくだからいろんな仕事をしてみたいんですよ』
彼女の遠慮のないというか率直な返答には軽く頭痛を覚える。
すると、今度は首を傾げがらリーシャさんがこちらに問いかけてきた。
『それよりルイちゃんはいつまでこっちにいるのかしら?もうそろそろ旅立っちゃうんでしょ?』
『そうですね。だいぶ資金も貯まりましたし、明日この村を出ようと思います』
『そう…、ルイちゃんがいなくなると寂しくなるわね。もし王都に行くのであれば行商人の護衛をしながら行くと良いわよ。お金は入るし何より人数が多い方が安心だしね。そうだ!今朝この村に着いた行商人の団体がいてね。誰か王都まで護衛してくれる良い人材がいないかギルドを訪ねて来たのよ。人が良さそうだったし、よかったらやってみない?』
『ほんとですか!ぜひお願いします』
願ってもない話だ。
自分も王都に行くのに護衛依頼を探そうと思ってたので、彼女の申し出は実に有り難かった。
『じゃあ、今日の午後またここ(ギルド)に来るみたいだから話とくわね。採取終わったら立ち寄ってちょうだい』
『わかりました。ありがとうございます!』
行ってらっしゃーいと軽く手を降るリーシャさんにルイはそれじゃ!と手を上げるとギルドを後にする。
太陽もいつの間にか真上に上がり暖かい日差しが降り注ぐなか、『採取!採取!』と意気揚々にスキップをしながら一人の少女が森へと入って行くのだった。
今回、ルイが受けた依頼は一般的な回復薬に使われるコロロ草という薬草を採取することである。
ここでの回復薬とは、いわゆる活力剤ようなもので、回復魔法を使えない剣士が傷ついた身体や疲れた身体を癒すのに使っている。 といっても直ぐに傷が治ったり、疲れがとりたりするわけではなく、普通より早く回復能力を高めてくれる物らしい。
コロロ草はポピュラーな薬草であり、リンドウのような形の黄色い花が目印なので直ぐに発見できると思ったら、やはり…というか物事はそう上手くいかなかった。
『黄色い花、黄色い花…。あったー!これじゃない?……て、赤い斑点があるし。毒草か!!』
こんな感じである。
いかんせん、似たような草花(主に毒草)が多くて見分けに困るのだ。
今のところ手元にあるのは4本……。
一体どこがポピュラーだよ!と内心自分の知識に悪態をつきつつも、お昼には村に帰りたいので森の奥へと足を踏み入れていった。 『きっと人があまり入らないとこだったら薬草もたくさん生えてるよね』という自身の勝手な直感を元に……。
『おおー!生えてるじゃないかコロロ草♪やっぱここまで人が入って来ないんだね』
歩くこと数十分…。
その直感は見事的中した。
太陽の光があまり差し込まないうっそうとした場所まで来てみれば、あるわあるわ。
まるでレンゲ畑のように黄色い小さな花を咲かせたコロロ草が密集して咲いている。
これだけあれば20束なんてちょちょいのちょいである。
自分には薬草なんて必要がないので、余分には取らず依頼された分だけ取るとすぐに革袋の中へと納めた。
『さて…そろそろ村に戻るとします……《うわ!やめろッバカ!こっち来んな!》……て何だこの声?』
焦ったような男の叫び声。どうやら近くに誰かいるらしい。
嫌な予感がしたルイは急いで、叫び声がした方へと走っていくと――
グルルル……!!
いつぞや聞いたモンスターとは別の唸り声が聞こえてきた。
少し開けた場所にたどり着くと、何やら紫と黒の斑模様をしたモノが真っ先に視界に飛び込んでくる。
よくよく見てみると軽く3メートルは越える体躯の熊型モンスターと対峙するかのように立つ青年の姿があった。
青年は冒険者なのか剣士の格好をしており、ブロードソードのような太剣を構えている。
ルージュのように鮮やかな赤髪は汗で顔に張り付き、健康的に日焼けした肌は所々傷ができて血が滲み出ていた。
『くそっ!何でここ(Cランクエリア)にBランクのポイズンベアーがいるんだよ!』
青年は琥珀色の瞳に焦りと苛立ちを滲ませながら、目の前の獰猛なモンスターを睨みつける。
ポイズンベアーはそんな姿を嘲笑うかのように鋭い毒爪を備えた右手を振り上げた。
――来る!!
瞬時に悟った青年は太剣を構えるものの、モンスターの動きが素早く間に合わない。
踏ん張りをつける前に、まともに攻撃を受けた青年は太剣ごとそのまま横に投げ飛ばされた。
『――ぐ、はぁ!!』
太い幹に強かに身体を打ち付けるとずるずるとそのまま下に崩れ落ちる。
よほど強く打ったのか、うぐっ…と呻きながら身体を横たえる青年に、ゆっくりとポイズンベアーは近づいた。
青年の一歩手前で立ちどまると、とどめとばかりに再度右手を大きく振りかぶる。
《くそ…!俺はここで死ぬのか……》
と迫り来る毒爪に青年は諦めて瞳を伏せたとたん、少女の凛々しい声音がその場に響き渡った。
『ブレイズ〈火炎〉!!』
グガアァアァァァ!!
直後、ゴオオ!と火柱がたち真っ赤に燃え盛る火炎に包まれたポイズンベアーは恐ろしい断末魔をあげる。
火の魔法の上級魔法を放たれたポイズンベアーは瞬時に塵となり跡形もなく消え去っていった。
一瞬何が起こったのかわからず青年は唖然と目の前の焼け地を眺める。
――と、どこからともなくすっとんきょうな声が上がった。
『ほほぅ…あれがBランクのモンスターか。お、素材は前足の毒爪なんだね。お金になるかなぁ〜……て、青年大丈夫かい?』
今気づいたのかよ!!
――と内心突っ込むものの脇腹に激痛が走ったため、うぅ…と唸る青年。
やべ、こりゃアバラを何本かやったなと冷や汗をかいているといつの間にか少女が側にしゃがみ込み己の脇に手をかざしていた。
『今から治癒魔法かけるからそのままでいてね。――《ヒール(治癒)》』
習得するのが難しいと言われる省略呪文が聞こえ、少女の手から蒼白い光の粒が溢れ出し己の身体を包んでいく。
熱で火照った身体をひんやりと癒していくこの魔法は水魔法の類いだと思われるが、あれだけ激痛が走っていたあばら骨はいつの間にかすっかり痛みが取れていた。
『すげぇ…完璧に治ってる』
青年は上半身を起こすとペタペタと服の上から腹を触ってみる。
少女の高い魔術力に改めて感心し、お礼を言おうと顔を上げるとそこには剣士の格好をした黒髪の美しい少女が青空のような瞳を細め微笑んでいた。
出ました!赤髪の青年!
彼は後々主人公に関わってくる人物です(笑)
……たぶん




